ザ☆夏休み!!
オレは毎日が夏休みだけど、直江がホントの夏休みなんだな。
今年も週に2〜3日の出勤だけでいいらしくて、ラブラブな毎日を送ってるわけだ。
夏休みってのはステキですなあ!
「直江、オレちょっとゴミ捨て行ってくる」
「車に気をつけて」
「は〜い」
庭で家庭菜園をやってる直江に声をかけて外に出た。
今、我が家では家庭菜園が流行してる。なんでかって?そりゃ節約のためだ。
オレが始めたんだけど、いつのまにか直江がハマって水やったり雑草抜いたりして世話をしてる。夏休みだから暇を持て余してるってのもあるんだろう。
で、オレは大きなゴミ袋を持って20メートル離れたゴミ置き場に向かった。
「あら、高耶くん、おはよう」
「おはよーございまーす」
近所の奥様たちがゴミ捨てついでにコミュニケーションしてるとこだった。
オレと直江はイトコ同士で住んでることになってて、こうして近所の奥さんたちとも仲良くしてる。
「今日は橘さんは?」
「庭いじりしてるよ」
「まあ、渋いわね〜」
直江は奥さんたちから人気がある。礼儀正しくて、ハンサムで、親切で。
ファンクラブも出来そうな勢いで奥さんたちはフィーバーしてる。ついでに言うとオレも人気者。マスコット的存在らしい。
「ねえ、高耶くん。橘さんて結婚しないの?」
「え?あ、うん。まだ考えてないみたい」
「本当?あんなに優しくてハンサムだったら浮気してもいいわ〜」
「ダメ!!」
もしかして奥さんたちもオレのライバルなのか?!旦那さんがいるくせに〜!!
「やーねー、ムキになっちゃって。高耶くんだってイトコのお兄さんには幸せになって欲しいんじゃないの?」
「じゅうぶん幸せなんだってさ!」
「じゃあよっぽど高耶くんと暮らしてるのが気に入ってるのね〜。ムフフ」
「そうだよ!」
いつもこうやってからかうんだから〜。みんなでニヤニヤしちゃってさ。
みんないい人なんだけど、直江のことになるとオレをからかうんだよな。
「高耶くんはどうなの?彼女いないの?」
「い……いるもん」
彼女じゃなくて旦那さんだけど、特定の相手がいるかってことだろ?直江がそうだよ!!
ああ、もう超バラしたい!!でもダメだ!!
「優しい彼女なんでしょ?」
「うん」
「親切で?」
「そう」
「礼儀正しいの?」
「正しいよ」
「背は高め?」
「……けっこう高い方」
「ふーん、ステキな彼女なんでしょうね〜」
「そうだよ」
みんなでムフフーって笑って解散しちゃった。なんなんだよ。まったくー!
ゴミをネットの下に入れて、家に戻る途中、千秋がアパートから出てきた。
なんか……金髪を連れてるんだけど……外国人かな?誰だ?
「おはよう、千秋」
「おっす。ゴミ捨てか?旦那は?」
「庭にいる。なあ、千秋、その外人さん誰?」
「ああ。トーマスな。友達なんだ。高校生の時にウチにホームステイしてて、今は日本に戻ってきて先生やってんだ」
先生?英語の、かな?
留学してたぐらいなんだから、日本語も話せるよな?オレ、英語はちょー苦手だ。
「オハヨウゴザイマース」
「トーマス、こいつはお向かいの高耶」
「タカヤ……サン?ドウゾよろしくー」
握手をして挨拶をした。トーマスは普通にハンサムで、直江と比べると……直江の方がちょっと上、かな。
直江よりハンサムな男がこの世にいてたまるかっての。
「よろしく〜。んで、何やってんの?」
「昨夜はウチに泊まったからさ、今から喫茶店でも行ってモーニング食おうかと……おまえ、朝飯は?」
「もう食ったよ」
「……余ったりしてない?パンとかご飯とか」
図々しい!!朝飯をたかる気でいやがったか!
超ボンボンのくせにケチだな!!
「ない!」
「……そんなに力んで言わなくても」
むむ〜。まったく千秋ってヤツは少し優しかったと思えばすぐコレだもんな。
油断はしちゃいけないな。
「ベリーキュート!!」
「へ?!」
何かがオレにぶつかった、と思ったら、トーマスに思いっきり抱きしめられてた。
いったい何が起きたんだ?!
「タカヤさん、超キュートですネ!!」
え?!もしかしてコレって危ない感じ?!
とにかく離れようとしたんだけど、なんかホッペにムチューな感触が……。チューされた?!
「ギャ―――――――――!!!」
チューされたチューされたチューされたー!!オトコに、しかも外人にチューされたー!!
「可愛いデス!!一目惚れしましタ!!」
「たっ、助けて〜!!」
「高耶さん?!どうしたんですか?!って!!高耶さんに何をしている、この金髪は〜!!」
直江が庭から飛び出してきて、オレとトーマスを引き剥がした。
そんでオレは直江の腕の中に。オレがギューされてもいいのは直江だけなんだぞ!!
「オー、千秋、コノ人は?」
「ん〜?高耶の旦那さん。ハズバンド」
「……じゃあタカヤさんは女の子デスカ?」
「いや、男。ええと、一応結婚してるんだ。内緒でだけど」
ちょっと待って〜!何が起きたんだよ!いったいオレに何が!!
「おい、千秋!こいつは誰だ!なぜ高耶さんを抱きしめたりしてるんだ!」
「えーと……、とにかく俺んちか橘先生んちに入らない?近所の人たちが出てきちゃうからさ」
文句はたくさん言いたかったけど、とりあえずウチに入ることにした。
主婦の皆さんが窓や玄関から顔を出し始めたからな。内緒の結婚生活がバレたらダメだもん。
家に入っても直江はオレを離さずに肩を抱いてる状態。オレはトーマスが怖くて直江にしがみついてる状態。
千秋とトーマスがソファに座ったところで、オレたちも向かい側に座った。
「それで、どうして高耶さんを襲ったんだ」
「襲うって……そんな大袈裟なものじゃないだろ。ただのハグだ」
「チューされた!!」
「なんですって?!おい、千秋〜!!」
とにかく落ち着いて聞いてくれってゆって、お怒りモードの直江をどうにか宥めた千秋。
でも直江は興奮状態の犬みたいにウーウーだった。
「こいつは中学の英語教師のトーマス。俺んちにホームステイしたことがあって、それで今でも仲良くしてんだけど、ええとな、ゲイなんだ、こいつ」
「なんだって?!」
「そんで高耶に一目惚れだってさ」
「許さん!!」
「オレも許さ〜〜〜ん!」
自分で何を言ってるかわかんないけど、とにかくオレは直江のものだからダメ!!
「わかってるっつーの。だから今から説明するよ」
そんで千秋は英語と日本語と混ぜながらトーマスに説明した。
高耶は直江の奥さんで、内緒で結婚してて、でも戸籍はまだ全然変わってなくて、と、細かく。
「こんなにキュートなのに人の妻デスカ……」
「そう、そんで橘先生は超ヤキモチ妬きだから、高耶に触ったらユー!キル!になるから触るな」
「……デモ結婚は戸籍上ではしてないんですヨネ?」
「まー、そうだけど」
「じゃあタカヤが僕にラブになったらいいのカナ?僕の故郷は男同士の結婚もOKデスから」
今までガルルってなりながらも黙って聞いてた直江がもっっっのすごい顔して(般若?)トーマスを睨んだ。
やばい!このままじゃマジでユー!キル!!になっちまう!
オレがどうにかしなきゃ!!
「オレは!!直江だから結婚したんであって!!他の男に好かれても気持ち悪いだけなんだ!!」
「WHAT?」
なんでこうゆう時だけ日本語を理解できないんだよ!本当はわかってんじゃねえのか?!
「千秋、説明しろよ!!」
「わかったよ……まったく、おまえと橘先生を怒らせたら綾子にも親にも怒鳴られるんだからたまんねーよ」
「あ?なんだって?」
ブツブツ文句を言ってから、千秋がトーマスに英語で説明した。
ちゃんと伝わってんだろうな……。変なこと言ってないだろーな?
「は〜、そうデスカ……僕とタカヤだったらナイスカップルになると思ったんデスけどネ……」
「私と高耶さんの方がナイスカップルだが?まだわからんのか?」
「ダッテ橘先生より僕の方がイケメンでしょ?」
外人がイケメンなんて言葉を使うの初めて見た。こいつ変な言葉知ってるな〜。千秋か?
いや、そんなことじゃなく、もっと重大な疑問点があったじゃんか、オレ!
「トーマスより直江の方がハンサムだよ!」
「えっ?タカヤ、目が悪いノ?」
「はっ?トーマス、おまえこそ目が悪いの?」
どう見たって直江の方がハンサムじゃん。トーマスなんてベッカム程度だし。直江はベッカムより数倍かっこいいぞ?
ま〜外国人の目には直江のよさなんかわかんないかもしれないな。
「直江は世界一のハンサムじゃん。トーマスと比べたら月とすっぽん……じゃ、わからないか……ええと、そーだ!そのへんの石ころとダイヤモンドぐらい違うっつってんの」
「ストーンとダイヤ……デスか」
「そう!!」
脇で千秋が「やってらんね」って小さく呟いたのは聞かなかったことにして、直江がウルウルしながらオレをギューしてきたのはなんでだ?
オレ、当たり前のことしか言ってないのに。
「直江、なんだよ〜」
「私は高耶さんにとってダイヤモンドなんですね」
「そーだよ。てゆーか、直江以上にかっこよくて優しくていい旦那さんは世界中探してもいないんだから、ダイヤなんかに例えるのは間違ってるような気もするけどさ」
「ああ、私は本当に素晴らしい奥さんをもらいました!」
ギューされた次はおでことホッペにチューだ。直江にこうやって好き好きモードでいられるのって幸せだな〜。
こんなに仲良し夫婦なんだから、周りも放っておいてくれればいいんだよ。
「こーゆーわけだからさ、トーマス。高耶のことは諦めろ」
「……納得いかないデース」
「いやこれは納得とかできるもんじゃないし。俺だって毎日こいつらには疑問を抱えてるわけ。お互いしか見えてないバカップルなんだぞ?」
バカップルでもいいも〜ん。直江と仲良しでいるのがバカップル呼ばわりなら、こっちは堂々とバカップル宣言しちゃうもんね〜だ。
オレにとって一番大事なことは、直江と仲良くすることなんだから。
「僕の方がタカヤにピッタリなのにナ〜?」
「残念だな。高耶さんが選んだのは私なんだ。どこへなりとも行ってしまえ、この横恋慕男め」
「汚れん坊オトコ?僕汚れてないデスヨ?毎日お風呂も入ってるし……」
「あー!もういい!トーマス帰るぞ!」
最初からとっとと帰ればよかったんだ!迷惑かけやがって!
千秋がしっかりしてないからこーゆー面倒なことになったってのわかってんのかな?!
「そんな、タカヤと僕を引き裂くツモリ?!」
「元々くっついてねえだろーが!ほれ、行くぞ!!」
千秋がトーマスの首根っこを掴んで出ていった。やっと平和な橘家になったな。一安心。
旦那さんは大きく溜息をついてからもう一回ギューして、それからチューして、頭を撫でてくれた。
やっぱな、こーゆー甘やかしは直江以外の男には出来ないと思うわけ。だからオレは直江じゃないと好きになれないんだな〜。
「まあ、あの男が高耶さんに一目惚れしてしまう気持ちもわかりますけどね。なんたってこんなに可愛いんですから。だからって私の奥さんを横取りしようなんて、1万年早いってもんです」
「ホントだよな。でも1万年経ったってあいつは直江みたいなかっこいい男になれるわけねーけどな!」
「それは嬉しいお言葉ですね」
「10億年ぐらい使えば直江と同じぐらいにかっこよくなる可能性もちょっとはあるかも知れないけど」
「……100億年使ったって無駄ですよ。100億年の間に私は高耶さんにとって完璧な旦那さんになれるように努力するんですから」
今でも完璧な旦那さんなのに、これ以上どうやって完璧になるつもりなんだろう?
直江ってたまにわけわかんないこと言うよな〜。
「じゃあ奥さん。おかしな男も去ったことですし、夫婦で家庭菜園の収穫でもしませんか?今日はトマトとナスがいい感じに熟れてますから」
「うん、収穫しよう!そんでお昼ご飯はトマトとナスのスパゲッティにしよう!」
手を繋いで庭に出て、直江が丹精こめた家庭菜園の花壇畑で収穫した。
来週はキュウリとピーマンが採れそうだから、グリーンサラダをたくさん作ろうっと。
「けっこうたくさん獲れましたね。お隣にでもおすそ分けしましょうか」
「じゃあオレ行ってくる」
新聞紙に包んでお隣さんに持って行った。
お隣さんは親子4人家族。オレがこの家に引っ越してきた時(結婚した時か)挨拶に行ったら、奥さんがうちの庭の広さや家の大きさが羨ましいって話をして、それ以来家事のポイントなんかを教えてくれる仲良しになった。
サンルームも見たいって言ったから1回だけご招待して一緒にケーキを食ったこともある。
「こんちは〜。うちの庭で獲れた野菜。みんなで食って」
「あら、ありがとう〜」
「義明さんが育てたから美味しいと思うよ」
「そう、義明さんが〜」
お隣の奥さんも直江のファンだ。つーかこのへんみんな奥様がたは直江のファンだ。
学校でも近所でもモテモテで奥さんとしては不安になってばっかりだけど、旦那さんの愛はオレだけのものってわかってるから大丈夫。
「そういえば」
「ん?」
「ベッカムみたいな外人さんとケンカしてたみたいだけど大丈夫?」
「う、うん。大丈夫」
「それなら良かったわ。高耶くんと橘さんが別居になんてなったら私たちも寂しいもの」
……なんか言葉に違和感があるんだけど、なんだろう?
ま、いいや。
「じゃあまた野菜とれたら持ってくるよ」
「よろしくね〜」
家に帰って直江と一緒にお昼ご飯。トマトとナスのスパゲッティを食いながら、今朝の奥さんたちの話とさっきのお隣の奥さんの話をした。
「お隣の奥さんにトーマスともめてたの見られてたよ」
「そうなんですか?まあ別に見られても小声でしたし大丈夫でしょう」
「んで、オレと直江が別居になったら寂しいって言ってた」
直江がスパゲッティを食ってた手を止めた。口から1本だけ出ててもかっこいいのは世界中のどこを探しても直江しかいないな。
「どした?」
「別居、って言ったんですか?」
「うん」
「……そうですか……なるほど」
何が「なるほど」なんだ?そんなにおかしいか?
「いえ、別に何でもありません。とても心遣いの素敵な奥さんですね。近所の奥さんたちも親切で」
「そうだよな。オレたちってご近所さんに恵まれてるよな」
「ええ、千秋だけを除いてね」
「だな」
トーマスなんぞを連れてきやがったあいつだけは親切とは言いがたいな。
もううちでメシ食わせてやんね。
「午後は何して過ごしましょうか」
「ん〜、直江に甘えて過ごす」
「それは大変いいアイデアです」
「ナハハ」
それから数日後、またもや奥さんたちとゴミ捨て場で会った。
「おはよー!」
「おはよう、高耶くん」
「あ、高耶くん。昨日の夕方ね、橘さんと道端で会ったのよ。本当にいいダン……じゃなくてイトコさんね〜。あんなにハンサムなのに嫌味がなくてねえ。丁寧に挨拶してくれて。うちの旦那にも見習わせたいわ」
へへー。直江を褒められるとオレまで嬉しくなるなー。
「あたしも一昨日の朝会ったのよ。そうしたら『暑いですけど体に気をつけて』なんて気遣ってくれて」
「うちのおばあちゃんもそんな話してたわ。信号で荷物持ってもらったって。手まで引いてもらって助かったみたい。おかげでもうおばあちゃんまで大ファンよ」
「うちの娘も遊んでたら走って転んでねえ。そうしたらおんぶして送ってくれたのよ」
な、なんか直江って……もしかして女ったらし?
いや、でもこの程度は『親切』の範囲だし。おばあちゃんに小さい女の子は直江の守備範囲じゃないし。
つーか直江の守備範囲はオレだけだし。
「高耶くんが羨ましいわ〜」
「「「ね〜、ホントにね〜」」」
大合唱だった。そんなに羨ましいかな?
「うちの旦那もあれぐらい紳士的だったらいいのに」
「同感!」
「高耶くんは幸せ者だわよ!橘さんを大事にしなさいね!」
「う、うん」
イトコを大事にしろってなんか変じゃないか?普通は変じゃないのかな?
「今日も橘さんは学校に行くの?夏休みなのに大変ね」
「お見送りしなくていいの?ホラ、高耶くんを待ってるんじゃないの?」
「あ、そうかも」
急いで帰って直江にチューしてお見送りした。まだまだ新婚みたいでいい夫婦だな、オレたちって。
外まで出て手を振ってたら、さっきの奥さんたちがまだいて、直江に「いってらっしゃ〜い」って手を振った。
その時に「素敵な旦那さんね〜」って聞こえた気がするけど気のせいだろう。
だってご近所にはオレの旦那さんだなんてバレてないし。
今日も元気で仕事してこい、直江!!奥さんは帰りを待ってるぞ!!
END |