奥様は高耶さん |
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日曜日、直江と一緒にオレの実家に遊びに行った。直江の目的は俊介の子守だ。 「相変わらず可愛いですねえ。癒されます……」 抱っこしてスリスリして癒されるのか。それ、奥さんにもやってるけど癒されてはいないのか? 「オレは?オレは直江のこと癒してる?」 脇で父さんと母さんが「???」ってゆうマークを頭の上に飛ばして眉をひそめたけどなぜだろう? 「ところで義明くん」 父さんが直江に質問タイム。直江と父さんはまあまあ仲がいい。母さんと直江は上下関係バリバリだけど。 「お盆は特に。私もお盆休みで1週間学校がないので、今年は家でのんびりしようと思ってたんです」 家族旅行? 「うちと義明くんと高耶で。母さんが海へ行きたいって言うから、宮古島のホテルを取ってあるんだ。家族用のスイートが仕事関係のコネで取れたからみんなで行けると思ってな」 直江と沖縄行ったことある。楽しかったな〜。また行きたいって思ってたとこだったんだ! 「部屋代は安くしてもらってるからこちらで持つよ。飛行機のチケットはもう予約してしまったから、義明くんが高耶の分と二人分、新しく予約して自己負担してくれればいいから」 どんなボロなんだろう?と思ってパンフを見たらキレイなホテルだった。 「じゃあお言葉に甘えます。すみません、お義父さん」 威厳のカケラもない父さんだけど、今日だけは後光が差してる。
そんで直江と一緒に飛行機のチケットを買いに駅前の旅行代理店に。 「この日は……そうですね……国内線のファーストクラスでしたらお二人様空いてますが」 ファーストっつったらお金持ちしか乗れない席だ。セレブの中のセレブが乗るような。 「おっし!ファーストでいいや!」 国内線ファーストクラスの特典は、まず飛行場でラウンジの利用ができる。席が広々。1席ごとにテレビがついてる。 「チケット買えて良かったですね」 こんな時のためのへそくりだから使って上等だ。待ってろスイート!!
「……替わりなさいよ」 なんとオレたちの取ったチケットは父さんたちと同じ便だった。飛行場で鉢合わせしてさっそく母さんが無茶を言い出した。 「あんた、親よりもいい席に座るなんて49631年早いのよ!ファーストを引き渡しなさい!」 父さんたちはエコノミー。しかも母さんは俊介を抱っこして乗るから狭いったらありゃしないそうだ。 「まったく親不孝モノの息子ね!」 こんな家族と旅行なんて失敗したかも、と思って気が付いた。 「あれ?美弥は?」 父さんの乾いた笑い声が響いたような気がしたけど……なんだろう? で、飛行機に揺られて(?)宮古島へ。タクシーで目的のホテルに着いたんだけど。 「えーと、これはホテルとは言わないんじゃないでしょうか」 父さんが連れて来たのはパンフにあったホテルなんかじゃなくて、コンドミニアムってゆーマンションみたいなやつだった。 「あれ〜?間違えたかな〜?」 もう二度と絶対に信用しない!父さんなんか直江のツメの垢を煎じて飲めばいいのに!! 「ほら、行くぞ」 ブーブー文句を垂れてみたけど無駄だった。 「じゃ、父さんたちは5階だから。高耶たちはこの階な」 直江にベビーカーの俊介、オレにバッグを渡してエレベーターのドアが閉まった。閉まった刹那に「父さんたちは新婚気分を味わうからよろしく〜」って聞こえた。 「俊介さんの子守を押し付けられたってことですかね……」 ベビーカーの俊介は父さんと母さんがいなくなったわりに楽しそうで、バブバブと何か喋ってる。 「俊介!お兄ちゃんはおまえを愛情たっぷりに育ててやるからな!だからグレるなよ!」 色んな意味で泣きそうになりながらオレたちの部屋を探した。部屋は一応海側にあって、キレイな海が一望できる2LDKだった。 「まあまあいい部屋じゃないですか」 荷物を出して整理して、まずは俊介を涼しい部屋に寝かせた。 「最初の子育てが終わって、それからまた小さな赤ちゃんが生まれて……二人きりになる時間がたまには欲しいんですよ。私たちはいつも二人きりでしょう?だからこそ、高耶さんにもわかりますよね?」 だってこんなに可愛いのに!まだ赤ちゃんなのに! 「父さんたちヒドイよな!な、俊介?!」 笑ってる……そうか、俊介には日常茶飯事なのかもしれない。 「俊介さんも大好きなお兄さんといられて楽しそうですし、こうなったら出来る範囲で楽しみましょう」 で、直江が提案してきたのがレンタカーでドライブ、浜辺の散歩、ショッピング。 「これなら俊介さんと一緒に楽しめるでしょう?」 んでその日はレンタカーでドライブして名所なんかを見た。 夕方にコンドミニアムに戻って俊介を寝かせて、今度はオレの番だ。 「なおえ〜」 直江からは甘ったるい匂いがした。俊介の匂いが移ったんだな。それすらも悔しい。 「じゃあ高耶さんにも思う存分甘えてもらいますか。旦那さんとしては奥さんが一番大事ですからね」 しばらくくっついてイチャイチャしてたのに、俊介が起きてぐずりだしたから仕方なく離れた。 「貸して。オレがあやすから」 抱っこして部屋の中をウロウロ歩き回って話しかけたら機嫌が良くなってきた。 「やっぱりお兄ちゃんが好きなんですね」 けど何かを思い出したみたいにたまに泣きそうになる。うーん、これはオレじゃなくて母さんがいいってことか。 「携帯に電話してお義母さんに引き取ってもらった方が良くないですか?」 電話してみたんだけど、今は父さんと二人でクルーズ中の海の上だそうだ。 「まったくもう!母親の自覚あるのか!」 オモチャやミルクで気を引いて、どうにか俊介は立ち直った。 2時間後、満足そうな顔をした両親がオレたちの部屋に来た。 「おかげさんで楽しいひと時を過ごさせてもらったぞ。すまんなあ」 おおおい!!なんだそのオレたちを見下した態度は! 「はー、高耶はダメだなあ」 暴れそうになったオレを直江が取り押さえて、早く戻ってくださいっつって父さんたちを逃がした。 「暴れたって虚しいだけですよ。まあ油断はできませんが、これで子守はしなくて良くなったようですし、私たちは夕飯にでも出かけましょう」 今度はオレの機嫌が悪くなったから、直江がおいしい夕飯で釣ろうとした。 「ちょっと待っててくださいね」 デザートのシャーベットを直江のぶんも貰って食ってたら、直江がレストランを出ていった。 「……なにこれ……」 本物のスイート!! 「無駄遣いって怒られるかと思いましたけど、明日も明後日もベビーシッターさせられるなら、逃げてしまった方がいいでしょう?お義父さんたちは明日からは俊介さんの面倒を見るなんて言ってましたけど、たぶん嘘ですから。子守は1日で充分ですよ。このまま最終日まで逃亡して二人で楽しみましょう」 俊介の面倒を見ないなんて親として失格だからな!親子3人で楽しまないと俊介がかわいそうだ! 「じゃあ私はコンドミニアムに戻って荷物を持ってきます。高耶さんは部屋でゆっくりしててください」 1人で部屋に行くと本物のスイートで、寝室も2部屋あるし、お風呂も立派なのがあるし、リビングにはウェルカムフルーツがおいてあるし、冷蔵庫にはワインやビールがきっちり入ってる。 「ふは〜。ソファも最高だ〜」 フルーツを食いながらワインを出して、オレンジジュースで薄めて飲んだ。ワインは甘いジュースで薄めると美味しいってのを発見したな。オレって頭いい〜。
「高耶さん、荷物持ってきましたよ。運んで…………。どうしたんですか……?」 テーブルの上にあるワインボトルを見て直江が溜息をついた。 「それで酔っ払って、ホンワカしてしまって、裸になってるんですか」 お酒を飲んだらまた全身がホンワカしてきて(特に下半身が)つい裸に。 「しょうがないですねえ……」 そこから先はご想像通りだ。
『あんたたちどこにいるのよ〜!!!!』 母さんからお怒りの電話がかかってきたけど居場所は教えなかった。 「俊介が可哀想だろ!オレたちにベビーシッターさせんな!オレたちはオレたちで楽しむから俊介といてやれ!」 どうだ、正論だろう!文句は言わせないぞ! 『親不孝モノ!』 怒り狂った母親を無視して電話を切って、ついでに電源も切った。 「じゃあそろそろビーチでシュノーケリングでもしましょうか。プライベートビーチですからお義母さんたちも入ってこられないですし、見つかりませんよね」 オレたち夫婦も満足、俊介も母さんといられて満足、これでいい旅行になるぞ〜。
END
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あとがき |
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