奥様は高耶さん



第30


母校とオレ

 
         
 

 

秋が来た。夏だと思ってたらいつのまにか秋になってた。
夏生まれのオレとしては過ごしやすくなった秋よりも、あちーあちー言いながら汗をたくさんかく夏の方が好きだ。
でも秋だ。秋は勝手にやってくる。

「今日栗ご飯にした」
「栗ご飯ですか。秋の味覚ですね」
「サンマも大安売りだったから焼いた」
「今年もサンマは大漁だったみたいですね」

そんな感じで秋の味覚満載の夕飯。明日はどんな秋の味覚にしようかと考えながらご飯を食べてたら、旦那さんが思い出したかのようにチケットを出してきた。

「なにこれ」
「今年の文化祭のチケットです」

オレが学校にいた頃はチケットなんかなくても入れたんだけど。

「チケット制になったのか?」
「ええ、最近は物騒ですから。特に学校っていう空間は狙われやすいですからね」
「ふーん。直江はまた歴史研究会とクラス展示?」
「ええ。今年のクラス展示は茶店だそうです。日本茶とお団子が出ますよ。歴史研究会の方は毎年変わらず普通に研究の展示です。今年は三国志が映画化するのでメインは三国志ですけど」

三国志って言われてもオレわかんねーんだっつーの。何度言えばわかるんだよ。

「そーいや去年は行かなかったな〜」
「去年は山本先生のことがあって間もなかったですからね。もう今年は大丈夫そうなので来てください」
「うん、じゃあ行く」

料理部の方も気になるな〜。オレがいたころ1年生だった子たちが今年は3年生か〜。早いな〜。
美弥のクラスは何をするのか教えてもらったら、メイド喫茶らしい。そんで美弥もメイドで出るそうだ。
あいつのことだから彼氏に見せるとかで張り切ってることだろう。

「私はクラスか研究会にいますから、探して来てください。1時間ぐらいなら一緒に回れますから」
「ホント?直江と回れるの?やったー!」
「卒業生と回ってたっておかしくないですからね。こういう時は先生と生徒で良かったと思いますよ」
「だな〜」

そーゆーわけで、オレは母校の文化祭に行くことになった。

 

 

「お兄ちゃ〜〜〜ん!!」
「うお!!」

久しぶりの母校に入ったとたん、目の前にメイドがいたと思ったら呼び込みチラシを配ってる美弥だった。
タックルされて倒れそうになって、周りからクスクス笑われた。なんつー妹だ。

「どう?美弥のメイド姿」
「うーん、まあ似合うんじゃねえの?」
「これで彼氏もイチコロ的な?」
「……彼氏がまともなヤツだったら微妙に引くかもな」

そう言ったら美弥の彼氏は美弥にゾッコンで(死語だな)どんな服装でも褒めてくれるから大丈夫とかなんとか抜かしやがった。
直江だってオレがどんな服装してたって褒めてくれるもん。美弥んとこより仲良しだもん。

「美弥のクラスも来て!お兄ちゃんだったら超歓迎だから!」
「あとでな〜」
「後でって、じゃあ最初はどこに行くのさ」
「最初は直江のクラスか、歴史研究会だ」
「やっぱり」

やっぱりって、旦那さんなんだから当然じゃねーか。直江のために来たようなもんなのに。

「じゃあ後でよしあ……じゃなくて、橘先生と来てよ」
「わかったわかった」

手を振って美弥と別れて、まずは直江のクラスへ。2年生の階に向かって行くと、女性客のキャーキャー言う声が聞こえた。

「さっきの人って先生だよね〜。すっごいかっこよくなかった?」
「あれが有名な橘先生だよ」
「あと千秋先生ってゆうかっこいい先生もいるんだよね」
「そうそう!」

橘先生?千秋先生?
直江がかっこいい先生だってのは認めるけど、だからって手出ししやがったらタダじゃおかねえぞ!
千秋はどうでもいいけど!!
とにかく急いで直江を保護しなきゃ!

「えーと2年2組……ここか」

入るとさっそくお茶とお団子の食券を買わされそうになった。

「いやあの、橘先生いる?」
「橘先生ですか?さっき出ていきましたけど……」

すっごい不審な顔をされた。アンタどこの誰よ?みたいな。
とっととこの場を去ろう。

「あ、だったらいいや。ありがとな」

そんでオレは歴史研究会の展示に行った。たぶんこっちにいるはずだ。
相変わらず地味な歴史研究会の展示場所。校舎の隅っこしか使えないなんて気の毒だけど、逆に目立たないから直江が女にたかられる心配もない。

「た……仰木くん!」
「橘先生〜♪」

いたいた!やっと会えた〜!
今朝玄関でチューして送り出してから4時間半、会いたくてたまらなかった橘先生に会えた〜!

「クラスにも行ったんですか?」
「うん。橘先生は?って聞いたら不審がられたけど」
「うちのクラスの子たちは高耶さんの顔を知りませんからね。3年生ならわかると思うんですけど」
「別に平気だけどな。なあ、一緒に回れる?」
「ええ、行きましょう」

研究会の部員に一声かけて橘先生は展示室から出てきた。
そんでまずはお昼ご飯を食べに料理部のハヤシライスのお店に。行ったら門脇先生がいた。

「あら、橘先生と仰木くん。なあに?お昼ごはん?」
「うん」
「席空いてるから適当に座っていいわよ」
「はーい」

空いてる席に座って待ってたら、料理部の3年生女子が何人か来た。

「仰木せんぱ〜い!!」
「おー、久しぶり〜!元気だったか〜?」
「元気ですよ!仰木先輩も元気そう。それになんか、数倍かっこよくなってないですか?!」
「ホントにかっこよくなってる!橘先生と座ってても仰木先輩の方がキラキラしてるよね〜!」
「え〜、そんなことないって〜。橘先生と比べたらオレなんかダメダメ〜」

たぶん直江がそこで「そんなことないですよ」とか「仰木くんは可愛いですからね」とか言ってくれることを予想してたんだが、直江はまったく喋らなかった。つーかなぜか不機嫌。
オレと比べられて不愉快だった……とかかな?

なんとなく気まずい感じだったけど、後輩とちょっと喋ってたら店が女性客で賑わい出した。
もう入り口で列を作ってるほどに。

「おい、おまえらそろそろ戻らないと忙しくなってきたんじゃねえの?」
「あ、いけない!じゃあね、仰木先輩!」
「また学校に遊びに来てくださいね!」

後輩が去ってから直江にどうしたのか聞いてみた。

「どうもしませんよ」
「だって機嫌悪いじゃん」
「……高耶さんがモテるのを見るのは、旦那さんとして複雑です。褒められて嬉しいとは思いますよ。でも高耶さんに悪い虫がついてしまうかもしれないでしょう。あの年代の女の子は積極的ですから、高耶さんを誘惑しようとしてるんじゃないかと勘繰ってしまうんです」
「なんだ、そんなことか。大丈夫。オレは旦那さんしか見えないから」
「……高耶さん……」
「へへへ〜」

二人でちょっと照れて赤くなってたらハヤシライスが来た。相変わらずうまそう。料理部伝統の味だ。
直江もこのハヤシライスが好きで、家でも何度か作ったことあるぐらいだ。

「うまいな〜」
「でも高耶さんが作ったハヤシライスの方が数倍美味しいですよ」
「イヒヒ」
「奥さんの手料理はなんでも最高です」

うう、照れる。学校ってこんなに照れる場所だったのか。生徒だったころにもっと満喫しておけば良かったよ。
放課後のチューとか、お昼休みの進路指導室でのイチャイチャだとか、準備室でのじゃれあいとか。
いろんな場所でエッチもすれば楽しかったかも。卒業式の日に準備室でエッチした1回しかないもんな〜。
もったいねーことしたー!

「お昼食べ終わったら美弥さんのクラスに行きますか?」
「そうだった。さっき玄関で会って行く約束しちゃったんだ。あいつメイド服だったぞ」
「美弥さんなら可愛いでしょうね。なんたって高耶さんの妹さんですから、メイド服も似合いますよ」
「……ん?」
「高耶さんのメイド服姿も可憐なんでしょうねえ……」

モヤモヤモヤーンと妄想してるっぽかった。なんでオレがメイド服なんだ?
直江ってたまにオレにおかしな服装をして欲しがるんだけど、それってある意味変態だよな。
だってオレ男なのにメイド服っておかしくねえか?

「そろそろ行くか」
「はい」

門脇先生に挨拶してから今度は美弥のクラスへ。メイド喫茶でコーヒーとパウンドケーキが出るそうだ。
これはなかなか楽しみだ。
橘先生と並んで歩くと女生徒や女性客の視線がガンガン向いてくるのがわかるけど、橘先生はオレの旦那さんだから嫉妬しつつも優越感がある。
このかっこいい先生はオレの旦那さんだもんね!!

「おかえりなさいませ、旦那様〜!」
「おおう、メイドだ」

美弥のクラスは本格的なメイド喫茶だった。美弥の言うことにゃ、クラスにメイド喫茶大好きで何度も通ってる男がいるんだそうだ。そいつがプロデューサーになってこのメイド喫茶を作り上げたらしい。
だからけっこう凝ってるみたい。

「あ、お兄ちゃん、おかえりなさいませ、旦那様〜」
「へー、こういうのがメイド喫茶なのか〜」
「そうだよ。橘先生もおかえりなさい〜」
「はあ……」

直江のせいだと思うけど、メイドさんたちの大半がオレたちのテーブルで接客してくれた。美弥だけでいいんだけど。
やっぱ橘先生ファンの女って多いんだな。

「美弥ちゃんのお兄ちゃん?」
「うそ、超かっこいいじゃん!」
「さすが美弥ちゃんのお兄ちゃんなだけあって、橘先生と並んでも見劣りしないね〜」
「絵になるね〜」

そんな声が聞こえた。そ、そうかな?直江と並んでても見劣りしないかな?なんか嬉しいな〜。
今まで直江と並んでてそう言われたことないからさ。旦那さんにふさわしい奥さんになれたってことかな?

「ここでも高耶さん人気が湧いてきた……」
「でも直江と並んでて絵になるなんて言われると嬉しいよ」
「……私の高耶さんですからね。誘惑には負けちゃダメですよ?」
「わかってるって」

コーヒーとケーキが運ばれてくるころにはメイド喫茶が混雑してきた。でもメイド喫茶なのに女性客ばっかり。
今の時代、メイド喫茶は女の人に人気なんだろうか?

「盛況だなあ」
「食べ終わったら出ましょうか。こんなに女が追いかけてくるなんて思わなかったな……」
「え?何?最後のほう聞こえなかった」
「いえ、なんでもありません」

全然落ち着いて食べられなかったけど、パウンドケーキはうまかったから帰り際に美弥の頭を撫でてやった。
我が妹にしてはなかなかやるな。
キャーとか一瞬聞こえた気がしなくもないけど、まあいいか。

メイド喫茶を出てすぐに、山本先生と鉢合わせた。そーいや美弥のクラスの担任だったっけ。

「あ、あら、仰木くん……元気?」
「う、うん元気」
「橘先生と回ってるのね。羨ましいわ……」
「えーと、その……」

そんなギクシャクしたオレと山本先生の間に割って入ったのが強敵山田先生だ。

「あら〜、高耶くんじゃない。久しぶり。わたしのこと覚えてる?」
「……覚えてるけど……」

忘れるわけがねー!!直江に猫なで声出して誘惑した女をオレが忘れるわけがねー!!

「山本先生、ご存知ですか〜?彼、高耶くんて言って、橘先生のイトコなんですよ〜」
「え?イトコ?ああ、そうなのね……。あのね、山田先生、彼はこの学校の卒業生でもあるのよ」
「へ〜、そうなんですかぁ〜。じゃあ山本先生も知ってるんですね〜」
「ええ、そうなの……」

なんとなく人間関係が見えてきた。
橘先生人気は相変わらず、山本先生はまだ直江のことが好き、でも橘先生が不幸になるようなことはしない。
山田は直江のことが好きで奥さんがいても諦めるつもりはない。橘先生の幸せは考えてない。
そんな山田を気に入らないのは山本先生。直江にちょっかい出したり色目を使ってる若い新任教師が嫌い。
山田の方は気にしてないっぽい。たぶん若さゆえ、だ。

「お、仰木くん。わたしたちはそろそろ退散するわ。橘先生と仲良く見て回ってね」
「は〜い」
「さ、行きましょう、山田先生」
「え〜、わたしも橘先生たちと回りたいなぁ」

なんだとぅ?!このブリブリ教師がぁ!オレと直江の邪魔をしようなんざ400年早いんだよ!!

「……断る」
「ええ?なんでぇ?」

なんでも何もあるもんか!!オレは直江を誘惑しようとする女は全員嫌いなんだ!!

「だって山田先生の喋り方が嫌いなんだもん。あと香水も臭くてクシャミが出ちゃうもん。それに」

そこまで言ったら直江がハラハラしながら止めようとしてきた。でもいいところでいいヤツが登場したんだ。
美弥だ。
たぶん教室の中からやりとりをニヤニヤしながら見てたんだろう。もっと早く出てこいっつーの。

「ちょっと、山田先生、また橘先生にちょっかい出してんの?もうさぁ、その頭の悪い女みたいな喋り方とかきつい香水とかやめなよ。先生なんだから自覚したらどう?生徒に迷惑だってのよ」
「な、なんですって」
「仰木さんの言う通りよ。山田先生。香水の件は何度も注意されてるでしょ?それに話し方も直しなさい。教育者として当然のことですよ」

ここで山田山本戦争が始まったようだ。いいぞいいぞ〜。どっちも負けるな〜。そんで潰しあうが良いぞ〜。
この間に美弥に目配せでサンキューってゆって直江と逃げた。

「ハラハラさせないでくださいよ」
「だって直江がモテるのが悪いんだろうが。オレが牽制したって奥さんなんだからいいじゃんか」
「だったら私も言わせてもらいますけどね、高耶さんがあちこちでキャーキャー言われて私がどれだけ我慢してるかわかってますか?」
「はあ?なにそれ?オレはキャーキャーなんか言われてないよ」
「言われてたんです」
「ない!」
「あります!」
「む〜」

ケンカになりそうなところで橘先生に呼び出しがかかった。研究会の方で何かあったらしい。
しょうがねえ。ケンカは一時お預けだ。帰ったら思いっきりツッコミ入れてやるからな!

 

 

旦那さんが帰ってきたのは午後8時。後夜祭の管理があったからちょっと遅くなったそうだ。
帰ってきたとたんに文句言われた。

「うちのクラスで橘先生を探してた男の人がかっこいいって話題になってましたよ。誰なのか聞かれて卒業生だって話したら、会いたい会いたいってしつこく女子に言われて。こんなことなら文化祭に呼ぶんじゃなかった」
「それはこっちのセリフだ。直江は相変わらず生徒にも教師にもモッテモテで、オレがいないからって学校じゃいい顔してんだろ?みんなに優しくしてるからモテちゃうんだよ!」
「高耶さんこそ美弥さんのクラスや料理部でニコニコして愛想を振りまいてたじゃないですか!」
「振りまいてなんかねえ!」

夕飯も食べずにケンカしてたら玄関から声がした。鍵が開いてたからって美弥が勝手に入ってきた。

「なんだよ!」
「やだ、ケンカしてんの?仲良し夫婦なんじゃないの?」
「たまにはケンカもするんだよ!なんの用だ!用事がないなら帰れよ!」
「美弥は届け物に来ただけだよ。はい、義明さんに頼まれたやつね。あとこれ、お兄ちゃんあてのラブレターとプレゼント」

美弥が大きな紙袋を直江に渡して、それの半分ぐらいの紙袋をオレに渡した。
ラブレターとプレゼントって、なんでどうして??

「美弥のクラスの女子の大半がお兄ちゃんにメロメロになっちゃったんだ。すっごいかっこいいって。ま、美弥のお兄ちゃんなんだから当然だけどね。それで今度一緒にカラオケとかしたいからってみんなで手紙書いて、パウンドケーキの残りを全部お兄ちゃんに貢ぎますってさ」

この紙袋はその手紙とケーキらしい。てか、オレとカラオケ?

「ほら!こんなにモテてるじゃないですか!高耶さんの魅力に気付いた女子がこんなにたくさん!」
「直江の方がずっとモテてるくせに!」
「私なんかたかが知れてますよ!高耶さんのようにこんなにたくさん一気に手紙を貰ったことなんかありません!」
「バレンタインチョコは山ほど貰ってただろ!」

ギャーギャー騒いでケンカしてたら視界の端っこに嫌なものが見えた。
美弥が携帯でムービー撮ってる……。

「やめろ!撮るな!」
「美弥さん!それを渡しなさい!」
「だってバカなんだも〜ん。しっかり録画したからね。お父さんとお母さんと一緒に見て笑わせてもらうね。じゃあさようなら〜」
「美弥〜〜〜!!」

大爆笑しながらオレのムカつく妹は帰っていった。アレを実家で鑑賞されちゃうのかよ!!

「直江、どうしよう!」
「諦めましょう……美弥さんには誰も勝てませんよ……」
「ひーん」

で、なんか知らないうちに仲直りして、夕飯を一緒に食べて、オレへの手紙を直江が読んでから廃棄処分にされた。
パウンドケーキは二人で食ったけど。

「そーいえば美弥が持ってきた直江の頼まれものって何?」
「ああ、それですか。あとでわかりますよ」
「今教えてよ」
「じゃあ見ますか?」

紙袋に入ってたのはメイド服だった。美弥のクラスで一番背の高い女の子が着たメイド服。

「……もしかして……」
「はい♪」
「変態!!」

そこから先は皆さんの想像どおりだ。
こんな変態なのに学校じゃモテモテ先生なんだから、みんな見る目がないよな。
こーゆー変態教師はオレしか扱えないってことで、あんまり心配しなくてもいいような気がしてきた。
それと同時にその変態教師を許してる奥さんも、女の子にカラオケに誘われても心配ないってことが直江にも
わかったようだった。

だからオレたちは今日も仲良し夫婦だ。

「奥さんの写真集、私が勝手に作っていいですか?」
「ダメ!!」

 

END

 

 
   

あとがき

高耶さんはメイド姿を
直江に撮られたようです。
そしてこのメイド服は
クリーニングに出されて
衣装レンタルに返された・・・

   
   
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