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奥様は高耶さん



第33


必殺チョップとオレ

 
         
 

 

今日も直江はかっこいい。
スーツの上からでもわかるたくましい体。超ハンサムな顔。キラキラな髪。
毎日見てても飽きないぐらいかっこいい。

「なんですか?」
「今日もかっこいいな~と思っただけ」

突然言い出したもんだから照れたらしく、ちょっと赤くなりながら困った顔をした。

「旦那さんをこんなに褒める奥さんはあまりいませんよ?」
「いいじゃん。ホントのことなんだから」

チューしてやったらもっと赤くなってオレの頭をグチャグチャしてから学校に行った。
やっぱかっこいいな。さすがオレの旦那さん。

なんで歴史の先生なのにあんなに逞しいかってゆーと、独身時代からスポーツクラブに通ってるからだ。
最低でも週に1回は行ってる。

ん?なんでいきなりそんな設定にしたかって?昔からそうゆう設定だったんだけど、管理人が出し忘れてたんだよ。
まあそんな裏話はいいとして、直江はスポーツクラブに通ってるんだ。
もちろん奥さんのオレも何度か一緒に行ったことはある。
けどオレは家事とバイトで忙しくてあんまり行かないから、今度直江と一緒に行ってもいいかな~なんて考えてるところだ。

 

 

そんな日曜日。

「直江、今日一緒にスポーツクラブ行こうよ」
「ええ、いいですよ。でも急にどうしたんですか?」
「正月太りってゆーのか?実家で食べ過ぎたみたい」
「そういうことですか。じゃあ今から行きますか?」
「うん」

かっこいいジャージを持って直江の車でスポーツクラブへ。
ジャスコと同じ建物に入ってるスポーツクラブだから
特に高級ってわけじゃないけど、新しいからけっこうキレイなところで、プールもスタジオもある。
今日はプールには入らないけどスタジオでちょっと面白そうなプログラムがあった。

「初心者ヨガだって。これやりたい」
「私はちょっと……」
「じゃあ直江はジムでランニングマシンでもしてれば?」
「そうですね……」

オレが手を振ってスタジオに入ったとき、スタジオの外から大きな声が。

「タカヤー!!」

発音のイマイチ良くないオレを呼ぶ声。もしかしたら!!

「トーマス!!」

ベッカムに似てるトーマスの登場だ。まさかこんなところで会うなんて!!

「タカヤもヨガやるノ?僕も通ってるんだヨ!」
「いやその……」
「近寄るな」

いつの間にか直江がスタジオの中に入ってきてて、オレをトーマスから守ってくれた。
もしかして直江って王子様?

「なんだ、橘先生もいたの?ま、いいか。タカヤ、僕の隣りでヨガやろうよ、ね?」

周りからジロジロ見られてるけどトーマスの勢いに飲まれて動くこともできない。そのうちインストラクターが入ってきてとうとうオレはトーマスと直江に挟まれてヨガをすることに!!
くうう、こんなことなら正月太りのままでいればよかった!!

狭いスタジオにギリギリまで人数を入れてるから、直江ともトーマスとも手を伸ばせば触ることができる距離。
何度かトーマスに手を触られたりして、それに気付いた直江が場所を変わってくれるまで集中できなかった。
しかもヨガのポーズって意外と筋力使うから、集中が切れるとプルプル震えちゃってうまくいかない。
震えるとトーマスが小さい声で「キュートね!」とか言うし、マジで泣きそうになった。

直江に場所を変わってもらってからはちょっと安心して集中できたからまあまあ楽しかったかな。

「高耶さん、もう帰りましょう!」
「せっかく来たのに~!」
「そうだヨ、帰ることないヨ!なんなら橘先生だけ帰れば?タカヤは僕とトレーニングするし?」
「そうはいくか!!」

怒った直江がオレを引っ張って更衣室に行こうとしたときだ。

「橘先生~ぇ!」

黄色い、いや、ショッキングピンクな声がした。誰だ、オレの旦那さんをそんな声で呼ぶのは!!
振り向いたらそこにオレのライバル、山田がいやがった。

「山田先生、どうしてここに?」
「だって橘先生がここに通ってるって前に聞いたから~」

なんでそんなこと教えるんだ、直江……。もしかしたら今までもこうして直江を待ち伏せしてたとか?
そんで奥さんのいない間に直江を誘惑してプールでベタベタ、マシンでイチャイチャ、スタジオで手取り足取りをする気だったんじゃ!!

「橘先生、一緒にウォーキングマシンやろっ、ね?」

そう言ってオレを無視して直江の腕に手を回しやがった。
直江はオレのもんなのに~!!

「いえ、私たちは今から……」
「オー!橘先生モテモテね~!じゃあ先生はそちらのレディと、僕はタカヤとトレーニングするヨ!」
「えっ」

山田はオレと直江の関係を知らないから、どうやって山田をかわしていいかわからなくなった直江は、なんと掴んでいたオレの腕を離してしまったのだ!!
いくら山田に誤解されないためとはいえ、奥さんの腕を離すなんて酷すぎる!

「……トーマス、行こ。橘先生はミス山田とトレーニングだってさ」
「ちょ、高耶さん!」
「大丈夫だよ、橘先生。奥さんには言いつけないから山田先生と楽しくトレーニングしたら?」

山田に腕を取られた直江はそれを無理矢理引き離すわけにもいかず、オレがトーマスとマシンのある方に行ったのに追い駆けてもこなかった。
そりゃ先生って立場もわかるけど……ひどい。

「冷たいハズバンドだね」
「あいつは体裁が一番大事なんだよ」
「テイサイ?」
「自分が一番大事ってこと」

そんでトーマスになんじゃかんじゃと触られそうになりながら10分ぐらいマシンをやってたんだけど、遠くに山田と直江が並んでウォーキングマシンをやってるのが見えて不愉快極まりなくて、つまんないから一人で更衣室に行って着替えた。

「タカヤ~?」
「帰る」
「じゃあ僕も帰るよ。送って行くヨ。ジャストモーメント」

5分もかからずにトーマスは着替えてきて、一緒にスポーツクラブを出た。
このまま帰っても一人で家の中で落ち込むだけなのか、と思って、トーマス相手だけどどこかに寄ることにした。

「……暇つぶししたい」
「じゃあジャスコにシアターもあるからムービーでも見る?」
「映画か……いいよ」

オレを優先させてくれて超人気作品のアクション映画を見ることにした。
チケットもポップコーンもコーラも買ってくれた。
本当はトーマスっていいヤツなのかも。

でも暗い映画館で手を握られたりお触りされたらたまんないから、トーマスとオレの間に1席空けて荷物を置いた。
なんか残念そうな顔をしてたけど、カップルじゃないんだから当たり前だ。

 

 

「次はどこ行く?」

トーマスにそう聞かれたけどどこも行きたくない。
映画は面白かったし、ポップコーンも美味しかったけど、直江のことばっかり気になって寂しかった。
映画館を出て携帯を見てみたら、直江からの留守番電話が5件と、メールが10件入ってて、オレを探してるっぽい。

「橘先生からメール来てたの?」
「うん……でも……まだ会いたくない……」

奥さんよりも山田を取ったんだもん。そんな旦那さん許せるわけないじゃん。

「うーん、じゃあ僕の知り合いのパティスリーでケーキでも食べる?」
「そうしよっかな……」

トーマスの車でケーキ屋に行くことに。
ジャスコから15分ぐらいで着いたケーキ屋は本格的なパティスリーで、ケーキを食べるスペースが屋内と中庭にあって、値段も洒落にならないいいお値段だった。

「こんなとこあったんだ~。へ~」
「パティシエが僕の友達なんだヨ」

せっかくだから中庭で食べようってことになった。中庭は冬の間はサンルームになるから寒くないんだって。
ウチも冬のサンルームはあったかくて気持ちいいんだよな~。

小難しい名前のフルーツたくさんのケーキを食べて、ブランドものの紅茶を飲んで、少しだけ気分が良くなった。
たまにはこういう気分転換もいいかもしれない。

「そろそろ帰る?」
「……うーん」
「橘先生が心配してるよ?」
「……なんでトーマスがそんな心配すんだよ」
「僕はね、好きな人が悲しそうな顔をしてるのを見たくないんだ」

……いいヤツ……トーマス、さすがベッカムに似てるだけあって紳士だ。

「僕が送って行くから帰ろうか」
「うん、ありがとう」

直江め。今回はトーマスに免じて許してやるぞ。
車に乗る時にトーマスがニヤリと笑ったような気がするけど、ま、いいか。

 

 

「ただいま」
「たっ、高耶さ~~ん!!どこに行って……!!!」

玄関に一緒に入ってきたトーマスを見て直江が止まった。まるで石になったかのように。
まあわかるけど。

「直江、あのな」
「タカヤは今日から僕のものだから!橘先生ありがとネ~!」
「え?!」

ト、トーマス?!いったい何を言い出すんだ?!
オレは直江がオレより体裁を選んだのを許してやって、直江にごめんなさいを言わせて、仲直りして、いつもの橘夫妻に戻る予定なんだけど?!

「タカヤよりテイサイなんかを大事にしてる橘先生なんかもうイラナイって!というわけで僕が今日からタカヤのハズバンドになるからね!さあタカヤ!荷物をまとめて引越ししようネ!」
「え、ちょ、トーマス……」
「タカヤと僕のハニーライフの始まりダヨ!!」

そういうことか!!
オレがトーマスと帰ってくりゃ直江は誤解するに決まってる。ちょうどケンカしてる橘夫妻だからこれはある意味離婚の決定打になるかもしれない。
それを狙ってやがったか、トーマスめ!!紳士だと思ったオレがバカだった~!!

「おい、トー」
「ユー!キル!!」

オレがトーマスを怒鳴る前に、直江がキレてしまった。
とうとうユー!キル!の発動で、トーマスに飛び掛って殴ろうとした。が、トーマスは軽くヒョイとかわして狂犬になった直江の顎に見事なアッパーを食らわした。

「僕はハイスクールでボクシングやってたんだヨ!そんなヘナチョコパンチ当たるわけナッシング!」
「直江~~!!」

直江は玄関でぶっ倒れ、星とヒヨコをクルクル回して伸びてしまった。

「直江、直江!!」
「タカヤ、もうそんなハズバンド捨てて僕のとこおいでヨ」
「この野郎~~~!!オレの直江を~~~!!」

ボクシングがなんだってんだ!!オレは小さい頃から父さんとおかずの取り合いで鍛えた必殺チョップがあるんだぞ!

「てぇい!!」

人中(人間の体の急所で、鼻の下だ!)めがけて必殺チョップを入れたら、今度はトーマスがうずくまった。
よくやった、オレ!!急所にクリーンヒットだ!!

「オレの直江をぶん殴るなんて100万年早いんだよ!!出てけ!!」

うずくまってるトーマスを玄関から蹴り出して、ドアには鍵とチェーンをかけた。
伸びた旦那さんに駆け寄ってほっぺをピタピタ叩いたら目を覚ました。

「大丈夫か?!」
「高耶さん……私はいったい……」
「トーマスにアッパー喰らって伸びちゃったんだよ。痛い?大丈夫?」
「ええ……イテテテ」

とりあえず旦那さんに肩を貸してリビングのソファまで。氷と水をビニールに入れてタオルで包んで顎に当ててやった。

「あの野郎、ぜってー許せねえ」
「……いえ、これは天罰みたいなものですから……体裁を気にして高耶さんを離してしまった私が悪いんです」
「だからって!」
「いいんですよ。こうして私がいかにバカだったかを教えてもらったってことで」

うう……直江こそ紳士だ。さっきは狂犬だったけど今は紳士だ。
そんな直江が大好きだ!!

「直江!!ちょー愛してる!!」
「高耶さん……」

チューしようとしたら顎がゴツンと当たって直江が「いー!!」って叫んだ。

「あ、ごめん」
「顎が当たらないようにキスしてください」
「うん」

気をつけながらチューして仲直り。
やっぱ橘夫妻はこうじゃないとな。

 

 

「で、私が探している間にトーマスと何をしてたんです?」
「映画見てケーキ食った」
「……デートですねえ」

デートになるのか?あんなもんで。

「直江こそ山田といつまでイチャイチャしてたんだよ」
「30分ほどですね。高耶さんと引き離された恨みをたっぷり言っておきました」
「恨み?」
「ええ。奥さんとのノロケ話を30分間ずーっと聞いてもらいました」
「ザマアミロ、山田め!!」

次の日、顎に湿布を張って出かけた橘先生は、学校でヒソヒソ噂されたそうだ。
奥さんとケンカして殴られたに違いないって。

「オレ、そんな奥さんじゃないぞ」
「もちろん。高耶さんは優しくて可愛い奥さんですよ」

……オレがトーマスに必殺チョップをしたのは直江には一生内緒にしておかなくちゃ……。

 

END

 

 
   

あとがき

久々トーマスの登場。
直江とトーマスは
まさに犬猿の仲です。

   
   
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