奥様は高耶さん |
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こう毎日寒いと洗濯や掃除が面倒になってくる。 「は〜い」 受話器を取って出てみたら何やら声が聞こえるが、ハッキリ聞こえない。モニターにも誰も映ってない。 「はいはい、どちらさま〜」 玄関にいたのは小さい男の子だった。4歳か5歳ぐらいか? 「はい、なんですか?」 ……橘義明。それは直江の本名で、確かにうちの直江だ。 「え、え、え……あのさ、ホントにパパの名前は橘義明?」 そんなー!直江に隠し子がいたなんて!これが晴天の辟易ってやつか?晴天の霹靂だっけ?! 「……ママの名前は?」 オレの悪い頭で考えた。 「ママはどうしたの?」 要は捨てられたってことかよ……直江に隠し子がいたのもショックだが、子供を捨てる母親がいることがムカついた。 「えっと、今はパパがいないから……外は寒いから家に入ってパパの帰りを待とうか」 礼儀正しいところは直江に似てる。でも顔つきや髪の毛の色は似てない。 とりあえずよしひさを家に入れて、ホットカルピスを飲ませた。 『直江の隠し子らしき子供が家に来た。どうゆうこった』 今のオレは怒り80%、よしひさに同情20%で構成されている。 そしたらしばらくして直江からのメールが。 『隠し子なんかいません!どこかの誰かと間違えたんじゃないですか?とりあえず今日は早退します!』 早退までするなんてよっぽど焦ってるんだな。まー、焦らない男がいたら見てみたいが。 「ただいま!!」 直江を見てパパと言いながら一目散に走って抱きついた。こりゃマジで隠し子かも。 「な、名前はなんていうんですか?」 直江に腕を引っ張られて2階の寝室に。 「隠し子なんか本当にいませんよ!!」 直江のことは信じたいし、信じてるけど、でも可能性は100%じゃないわけで!! 「とにかく私は今から昔の彼女たちに連絡を取ってみます。そしてもし本当に私の子供だったら責任を取ります」 ああ、涙が一気に溢れてきた!! 「うあ〜」 ギューされてチューされて背中ポンポンされてやっと落ち着いた。 そんで直江はよしひさが4歳か5歳だからそのあたりの頃の彼女を重点的に連絡を取り始めた。 よしひさが言うにはママは会社のOLさんで、よしひさは保育園に行ってるそうだ。 「そっか〜。でもパパはもうお兄ちゃんと結婚しちゃってるんだよ?」 赤ちゃん、てのはもしかして俊介のことかな?たまたま見て間違えたんだろうか? 「お兄ちゃん、僕お腹がすいたよ」 親子3人分のオムライスを作った。よしひさのオムライスにはケチャップでクマさんを描いてやった。 「おいしそう!」 2階の書斎に入って直江を呼んだ。 「パパ、お昼ご飯ができたよ」 ほとんどの元カノに電話したらしいけど全員直江との子供なんかいないってことだ。 「あとで鮎川に頼んで調べてもらいますよ」 3人でオムライスを食べて、よしひさから手がかりを聞き出そうとしてみた。 「お部屋は何階にあるんですか?」 こりゃそうとうの年収がないと無理なマンションだぞ。 「ママのお仕事って?」 満腹になったよしひさはお昼寝をしてしまった。寝てる子供は天使だよな。 「うーん、もしホントに直江の子だったらオレ、育ててもいいよ?」 今度は直江が泣いた。たぶん自分の子供じゃないだろうけど、そんなふうに考えてくれる奥さんが自分の奥さんだなんて、優しさにも慈悲深さにも感動しましたって。 「でも先にママを探してやんないとな」 よしひさが昼寝をしてる間に鮎川さんに電話をして、直江と付き合ってた女で今は証券会社に勤めてる女の人をしらないか聞いてみた。 『春日じゃないか?』 納得。すげー納得。鮎川さんの情報網と推理力は半端ねえ!! 『俺、春日の携帯知ってるからあとでかけてみるわ。連絡ついたら直江に電話するから、それまでよしひさくんを預かっておいてくれ。ただ春日じゃなかったらまた別の人を探すしかないがな』 不安は残るけど、まあ今は親子ごっこしておくかー!
んで夕方、鮎川さんから電話があった。 「はい、橘です」 鮎川のヤツめ、余計なこと言ったな、とブツブツ文句を言いながら直江が出た。 「そうか、春日さんとは連絡取れず仕舞いか……」 と、ゆーわけで、直江の隠し子じゃないことがわかって一応安心はしたんだが、春日さんの勝手な行動にオレと直江は超憤慨。 「よしひさ、今日はここにお泊りだぞ」 純粋にパパと会えて嬉しいと思ってる子供に、直江はパパじゃないんだと教えなきゃいけないこの辛さ! そんで夜になってよしひさが一人じゃ眠れないってことで、和室に布団を敷いて直江と3人で川の字になって寝た。 「そのうち俊介さんともこうやって寝ましょうね」 直江はよしひさを起こさないようにそっとオレにチューした。
次の日の朝5時、何度もよしひさの寝相の悪さに蹴られたりして起こされて、睡眠不足の橘夫妻の家のインターフォンが鳴った。 「ええと……どなたですか?」 おいおいおい!直江に何度もアタックしたのに覚えられてないなんて気の毒な人だな!! 「……私があなたを妊娠させてよしひさくんを産ませたそうですが、どういうことですか?」 げげ。直江、怒りMAXだ!!こんな直江はそう見られないぞ!! 「と、とにかく玄関先じゃなんだから、中に入ってもらおうよ!」 どうどうと直江の怒りを鎮めながらリビングへ。オレがパジャマでお茶を入れてる間に直江は出勤用のワイシャツとスラックスに着替えてきた。 「あなたは一体どんな教育をしてるんですか。聞けば証券会社のキャリアウーマンだそうじゃないですか。それが子供を騙して、さらには他人の家の前に置き去りにするなんて、そんな人間は信用できませんよ?!」 ごめんなさい……と、言うところなんだろうがこの人は違った。 「たった1日冗談で預けただけで何言ってるのよ。それでも教師?!」 なるほど。直江が手を出さなかったのがよーくわかる。 「ママ!!」 怒鳴りあいに気が付いてよしひさがリビングに入ってきた。 「パパとケンカしないで!」 うわーん!と泣き出したところをオレが和室に戻らせて、パパは別の人で調べればすぐにわかるんだよって教えてあげた。きっとよしひさの本当のパパは、直江よりずっと優しくていい人だから大丈夫って。 「でもな、よしひさ。これからはよしひさがママをしっかり守ってあげないとダメだ。いつまでも甘えてたらママはまた嘘をついてよしひさをこうして知らない人のお家に預けちゃうから。強くなってママを守れ」 おお、男らしいじゃねえか!!これなら安心かもしれないな!! その間に直江が鉄壁の理論をかましてたらしく、二度とこのようなまねはしませんと念書を書かせていた。 「ではさようなら。二度と来るな」 どっちがだー!!! ようやく二人きりになったリビングで直江は大きな溜息をついた。昔の自分を反省してるんだそうだ。 「でも今の直江は奥さん一筋のいい旦那さんだよ。よしひさにも優しかったし、いいパパになりそうだった」 機嫌が直った直江はオレの朝食で怒りも少し収まって、いつもみたくかっこいい旦那さんとして学校に出かけた。 お茶を入れなおして一息ついてたらまたインターフォンが。 「は〜い」 うちは託児所じゃねえ!と言い掛けたが、今回は可愛い可愛い弟だ。 「物を投げちゃいけません!」 普段は甘やかしてくれる直パパに叱られたもんだから大泣きしちゃった。 「直江、パパ失格。もっと勉強しろ」
END
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あとがき |
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