奥様は高耶さん



第35


歴チョコとオレ

 
         
 

 

「手作り〜チョッコ〜♪旦那さんに手作り〜チョッコ〜♪」

今年のオレは一味違う!今までのバレンタインはことごとく失敗に終わったが、今年はそんな失敗はしねえ!
名付けて「愛のラブラブジュッテーム直江のハート抉りまくりチョコ」を考案したからだ!

直江の愛してるものは一番がオレ、二番が俊介、三番が歴史という歴史マニアだから、今年は歴史チョコ、略して歴チョコをあげることにしたんだ。
しかも店では売ってなさそうな直江専用の歴チョコだ!

橘不動産でのバイト代で材料を買い求め、オレはこの決戦の場であるキッチンに立った。
さながらナントカ島の戦いの如く!なんだっけ?川中島だっけ?
まあいいや。

まず市販の赤いパッケージのチョコレート8枚を湯煎で溶かした。ちょっとコクと柔らかさを与えるために生クリームを少々追加でグルグルしながら湯煎で溶かしまくった!!
8枚も溶かすのは時間がかかったけど、これも愛する旦那さんのため!

そしてそれを大きな四角いバットに入れて、冷蔵庫で一晩固めた。
どうせ直江はビールを出す以外に冷蔵庫を開けないから見つかりっこない。安心安心。

翌日は固まったチョコを出して、クッキングペーパーに描いたデザインを竹串を使って精密にチョコに写す。
このデザインてのが難しくてうまく出来なかったから、父さんに写真を渡してパソコンで作ってもらった。
いつもはアホな父さんだけど、パソコンでのデザインはお手の物。オレの目の前で10分ぐらいで作ってくれた。
デザイン会社の社長ってのはすげーもんだな。

こんなものどうするんだ?って聞かれたから今回の計画を話したら感心してた。いいアイデアだなって。
ちょっとニヤニヤ笑って。もしかしてオレをデザイン会社にスカウトしたいとか?!
やっぱオレってアイデアマン向きなのかもしれない。でも一生直江の奥さんでいたいから会社員になんかなんないけど。

そのデザインをクッキングペーパーにボールペンで写して、チョコ用ペーパーの出来上がりってわけだ。

慎重に慎重に竹串でそのデザインをうまく固まったチョコに写していって、ここからがオレの腕の見せ所。
この日のために買った彫刻刀の出番だ!!

デザインにそって立体的に削りとったり(削ったチョコはオレが食う!)、線を入れたりした。
ちょっと失敗したところはご愛嬌ってことで許してもらって、オレは直江が学校に行ってから帰ってくる夕方まで彫刻に励んだ。

直江が帰ってくる前にまた冷蔵庫にしまって知らん顔。

「今年のバレンタイン、また高耶さんがチョコなんですか?」
「アホか!」

前にトリュフを作ったんだけど、あまりのうまさにオレが全部食ってしまった。
その後は旦那さんにオレをチョコに見立てて食われてしまった経験がある。今年はそんな恥ずかしいバレンタインにはしないんだ!!

「じゃあ今年はちゃんとしたチョコを貰えるんですか?」
「まあ待ってろよ。今年はしっかりあげるから」
「そうします」

楽しみにしてる直江はきっと今度の土曜、学校から帰ったら嬉しい悲鳴を上げるに違いない。
ふっふっふ。

 

 

そんでまた翌日。今日が土曜のバレンタイン。直江が学校に行ってから彫刻の再開だ。
どうにか形になったのが昼で、ここからデコレーションを始める。
ホワイトチョコを湯煎で溶かして、デコレーションするためのニュルニュル出てくる袋に入れた。
これの名前を知ってる人がいたら管理人に教えてやってくれ。あいつはお菓子作りが出来ないんだ。

英語で言うとラブ、日本語で言うと愛。

彫刻したチョコの上にそれを書いて、また冷蔵庫で冷やして完成だ。ラッピングはしないまま、大きめの皿に乗っけて夕飯の後に出して驚かせるんだ〜。
直江に渡すのが楽しみだな〜。

なーんて思いながら夕飯を作ってたら愛しの旦那さんのお帰りだ。

「ただいま、高耶さん!」
「おかえり!!」

玄関でチューしてギューしてスリスリして。
でもまた直江は紙袋にたくさんのチョコを貰って帰ってきた。当然オレが預かってホワイトデー抹殺リストを作る。
この直江のモテモテ加減は毎回ちょっと不愉快だけど、今年は直江への愛が満載で、インパクトの強いオレのチョコには誰も敵うまい!!
ざまあみやがれ、直江の奥さんはオレだ!!

「着替えて夕飯にしよう?」
「ええ。すぐ着替えてきます」

旦那さんが着替えてる間に夕飯をテーブルに並べてウキウキ待ってた。
早くチョコあげたいな〜。
なんて思ってたら旦那さんが着替えてダイニングテーブルにやってきた。

「今日は銀鱈ですか。油が乗ってておいしそうですね」
「安かったからさ〜。たまにはいいだろ、銀鱈も」

美味しい美味しいって夕飯をたくさん食べてくれた。直江は和食が好きだからオレも自然と和食が得意になる。
こうやって夫婦って出来上がっていくんだな〜。
オレって幸せだよな〜。

そして直江が待ちに待ったチョコレートだ。

「高耶さん、早くチョコレートくださいよ」
「へへーん、見て驚け。今年のチョコは力作な上に愛も満載、ビックリするほど嬉しいはずだ!」

冷蔵庫からレースの紙ナプキンがかかったチョコを出した。

「お、大きいんですね……今年のチョコは……」
「ウチにある皿でも2番目に大きな皿だからな!」

部屋の明かりを消して、スタンドの明かりとリビングのローテーブルに置かれたキャンドルだけになった。

「どうぞ、旦那さん。開けてみて」
「はい♪」

直江が大事そうにフワッとナプキンを外すと、そこにはオレの努力と愛の結晶のチョコレートが!!

「おおおおお!!これは!!高耶さん、ありがとうございます!!素晴らしい!!」
「どうだ!こんなにすごいチョコは他にはないぞ!」
「高耶さんの手作りなんですか?!」
「うん!」
「なんてステキな奥さんなんでしょう!!私はあなたに一生の愛を捧げます!!」

ほらな!!オレの作戦どーり旦那さんは大喜びだ!!!

「愛が満載なのもよ〜〜〜くわかりました!!すごいです!!これをバレンタインに旦那さんに渡すなんて天使のような高耶さんぐらいしかいませんよ!!」
「なおえ〜!!」

超抱き合ってチューしまくって、直江にたくさん愛してるって言われて橘夫妻は爆裂に幸せだ。
オレ、直江のいい奥さんまっしぐら!!

なんとオレが作ったのは大河ドラマでやってる直江の兜を彫刻して、ホワイトチョコででっかく「愛」って書いたんだ!
今は橘だけど昔の苗字が直江だからってことで!!

「なんか……こう……高耶さんの愛がひしひしと伝わってきますね……なんて幸せなんでしょう、私は」
「ちょー嬉しい?!」
「嬉しいです!すごく!あの、写真撮ってもいいですか?」
「もちろん!」

直江は素晴らしい作品ですと言って何枚も写真を撮った。
きっと学校の先生たちや友達や家族に見せびらかすんだろうな〜。ウヒヒー。

「一緒に食おう。愛のホワイトチョコは直江が全部食べていいからな」
「はい」
「生クリームも入ってるから兜の部分も柔らかくて食べやすいはずだよ」
「では、いただきます」

味はすっごく良かったみたいで、食べた瞬間直江の顔がパッと輝いた。

「美味しいです!」
「よかった〜」

ナイフで切りながら兜も食べてくれた。二人でチョコまみれになってチューもした。
もうこのインパクトと味で直江の心は鷲掴み〜♪

 

「ダハハハハ!なんだこりゃ!!大河ドラマの直江の兜じゃんか!!」
「仰木くんのセンスを疑うわ……」

直江は学校で千秋と門脇先生に写真を見せたらしい。もちろん自慢のつもりで。
でもその反応は最悪で、オレの兜チョコは単なるギャグで終わったそうだ。
でも直江は奥さんの手作りの力作チョコがそんな評価だとは思えなくて、どうしても誰かに羨ましがってほしくて写メールで実家のお兄さんにも、オレの母さんにも鮎川さんや友達にも送ったそうだ。

ところが……オレの兜チョコはいろんな意味で都市伝説になって、見知らぬ人にも写メで送られて回ったらしい。
ついでに見知らぬ人がブログや動画配信に面白おかしくネットで広めたり。

オレがそんな話を知ったのは譲から来たメールだった。
『こんなチョコ作った人がいるんだって〜(笑)根性は認めるけど変だよな。バレンタインなのにセンスねーな』
なんてゆーメールが巡り巡ってオレのケータイにやってきた。

オレ、なんか……バレンタインには縁がないんだな……。うう。

「くそ〜」
「でも私と二人でたくさん食べたじゃないですか。高耶さんの愛情が伝わってきましたよ」
「ホント?」
「ええ。それに私の奥さんのチョコが全国の人に見てもらえたと思えば逆に嬉しくなりますよ。私とあなたの愛が……世界中に出回ったってことですから。愛してますよ、高耶さん」
「直江〜。オレもちよー愛してる〜」

歴チョコ作戦は成功したのか失敗したのかイマイチ自分でもわからないけど、直江が喜んでくれたならヨシとしよう!
でも来年は普通のチョコにしよっと。歴チョコは世界中のいい笑いものになったんだから。
せっかく上手にできたのにな〜……歴チョコの何が悪いんだー!

 

 

END

 

 
   

あとがき

遅ればせながら
バレンタインでした。
歴チョコ流行しねーかな。

   
   
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