奥様は高耶さん |
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美弥がどうしても欲しいものがあるとかで、一緒に新宿に行った。 デパートに連れて行かれて女の子の服のフロアに行った。美弥が欲しいのは最近の流行らしき半袖のパーカーだった。 「高けえ……」 仕方なく5千円を出して服を買った。美弥もバイトぐらいしろってんだ。 「やったー!お兄ちゃんやっさしー!」 それから外に出て歩いてると家電製品の大きな店があったから、そういえば直江の電気シェーバーの網が弱ってきてたな、と気が付いてそれを買いに店に入ろうとした。 「え〜?ここ入るの〜?」 網を買う程度なら10分ぐらいありゃ大丈夫だろ、と思って買いに行った。 「おい、美弥」 オレをバカにしてるかのようなチャラ男の喋り方がものすごいイライラした。 「ナンバーワンになれるから働いてみない?」 妹のためだ、仕方がない。追い払わないとな。 「いい加減にしろ!こっちが大人しくしてりゃいい気になりやがって!」 とりあえず怒鳴ってみた。そしたらチャラ男は一目散に逃げ出してしまった。 「ちょっと怒鳴っただけなのに」 へー、とか言いながら尊敬の眼差しをされた。しかもお兄ちゃんを見直したとか言ってる。 「もういいだろ、帰ろうぜ〜」 電車に乗って美弥は家に、オレは自分の家に帰った。 「ただいま〜」 それで美弥をキャバクラにスカウトした男の話をした。そしたら直江は高校生と知ってもスカウトするなんて冗談じゃないって憤慨してた。 「直江?」 直江はクスクス笑いながらギューして「買ってあげますよ」だって。
そして来週の日曜日、要は今日、直江と新宿に来た。 「新宿はいつ来ても混雑してますね」 デパートでドレッシングを作る容器と、明太子と、あとオレのおねだりで直江とお揃いにしたいスニーカーを買った。 「じゃあパーラーに行きましょうか」 新宿には有名なパーラーがある。ちょっと高級な果物を使ったケーキやパフェが美味しいらしい。 「すいません、少しだけいいですか?」 なんかオレを見て感心したような表情だ。なんだよ、ジロジロ見るな。減るだろーが。 「キミさ、タレントになってみたくない?」 もらった名刺を見てみると、テレビ番組にたいして詳しくもないオレが知ってるほどの大きな会社だった。 「キミならデビューして2ヶ月ぐらいでドラマのレギュラー取れると思うよ!」 オレは直江の奥さんだし。芸能界なんか興味ないし。 「別にやりたくないから結構です」 ここまで食い下がってきてくれるのはいいんだけど、なんてゆうか……隣りにいる男の空気がメチャクチャ重くなってきてるんだよな。そろそろ本気で怒り出すかもしんない。 「いい加減にしてください。嫌だと言っているのが聞こえないんですか?」 やっぱ限界だったか。直江が怒ると怖いんだよな〜。 「あまりしつこいと警察を呼びますよ。すぐそこに交番もあることですし」 直江にビビりながらおじさんは人混みに消えていった。 「私の奥さんにそんな仕事をさせるだなんて100年早いですよね」 そーいや高校生の時に高坂クッキング教室で料理タレントになれってスカウトされたのを思い出した。 「直江の奥さんだけでいて欲しい?」 直江はちょっと涙目でオレを見て「うう」とか言ってた。ここでギューできないのが悔しいんだろうな。 「早くパーラー行こう」 パーラーが入ったビルのエレベーターで1回だけチューされた。直江の我慢は家に帰るまで続くんだろうな〜。 「……なんかエッチなこと考えてる?」 涼しい顔でエッチなこと考えてるなんて誰も気が付かないだろうな。学校でもたまにオレを思い出してエッチな気分になるって言ってたぐらいだ。 「帰るまで顔に出すなよ?」 けどこの視線を浴びながらケーキ食うのってちょっと拷問だよな。
次の週も直江と出かけた。また新宿だ。直江がやってる家庭菜園の道具が欲しいそうで。 「たぶんこのデパートにあるはずなんですが」 周りを見渡したらハンズってゆー看板があった。 「あれだよ、行こう」 ちょっと通路が狭くて先を歩く直江についていくのが大変だった。奥さんなのに並んで歩けない通路が憎い。 「ガーデニングはここのコーナーですね」 とうとう瓜にも手を出しやがったか。トマトとナスとピーマンじゃ飽き足りないのか〜。 「は〜満腹」 食べ終わって満腹になったから1駅歩いて帰ることにした。腹ごなしの散歩って感じ。 「待って!待ってください!」 男の人は金色の名刺を出して直江に押し付けた。そーいえばこの人……テレビで見たことあるかも。 「僕はホストクラブ『ミラージュ』の開崎といいます!あなた!ホストやってみませんか?!」 思い出した!深夜のテレビでたまに出るホストクラブのオーナーとかいう人だ! 「妻帯してたっていいじゃないですか!なんなら黙っていればいいだけです!高級車に高級時計にお小遣いを女性たちから貰えますよ!しかも広い家だって買えます!」 ……高級車?高級時計?お小遣い?広い家? 「高級車も、高級時計も、お小遣いも、広い家も、すでに持っていますからいりません」 オレの堪忍袋の緒が切れた。 「いい加減にしろ!!オレの旦那さんにホストなんかやらせるもんか!!」 直江の腕を取って渡さないぞとばかりに睨んでやった。 「え?旦那さんて?キミが、この人の……奥さん?」 そりゃそうだ!!男が好きなのに女の人たちをチヤホヤできるもんか!! 「済まなかったね。諦めるよ。旦那さんを大事にしなね?」 鼻息も荒くして追い払った。ふん!! 「高耶さん……もうこの場を離れませんか?周囲の視線が……」 腕をオレという男に掴まれて、さらに「オレの旦那さん」発言を大声で言って、自分が奥さんだってことを歌舞伎町の大勢の人混みの中で認めちゃったんだ。 「うう……」 顔を真っ赤にしながら直江より先に歌舞伎町を歩いた。道がわかんないけど歩いてればどうにかなるだろ!
そんで帰ってきてやっと顔の赤みが消えた。家の中なら直江と二人きりだし恥ずかしくない。 「新宿から帰ると必ず高耶さんとエッチしたくなるのはなんででしょうね?」 直江ってたぶんどんな場所でも、どんな事があっても、オレと結び合わせてエッチなこと考えてるからだと思うな。 「……そうゆう直江も大好き……」 エッチな直江も怖い直江も好きだ。でも優しい直江が一番好きかも。
END
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あとがき |
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