奥様は高耶さん



第39


おっぱいとオレ

 
         
 

 

もう俊介も1歳半になって、立ったかと思えば今じゃ歩いたり、マネをして喋ってみたりするようになった。
まだ喋るのはほとんど「あー」とか「まんま」とか「ねー」とか、短いやつばっかりだけど、ひとつオレに自慢できることが喋れるようになった。

「にーに」

なんとオレをお兄ちゃんと認識して「にーに」と呼ぶようになったんだ!!
いい子だ!なんていい子なんだ!!
さすがオレの教育の元で育っただけある!!

他にも美弥が「ねーね」で、母さんが「かー」で、父さんが「とと」だ。



「なぜ私だけ呼ばれないんでしょうか……?」

にーにと呼ばれたことを夕飯の後に話してみた。そしたら直江だけ俊介に呼ばれたことがないから、どんよりした目でオレを見る。

「直パパって呼ぶの難しいんじゃねえの?」
「そうでしょうか……?一番コミュニケーションがうまく行ってないからじゃないですか?」
「あー、どうだろうな〜」

そんなどんよりした直江に電話がかかってきた。橘のお義母さんからだ。

「はい、橘です」
『あら、いたの?』

相変わらずこのババア……オレだけ目の仇にしてやがる。

「義明いるかしら?」
『変わります』

ちょっと前に俊介の立っちしてちょっと歩いたムービーを録画したやつを、直江が編集して仰木家と橘家にDVDを渡した。その感想の電話らしく、直江とお義母さんは俊介の話題で盛り上がってた。

で、電話を切る直前、直江がまたどんよりした。
なんだろう?

「お義母さん、なんだって?」
「……ばーばと呼ばれたそうでとっても喜んでいました……」

橘のお義母さんは俊介をけっこう可愛がってて、オレのいない時間に実家に行って俊介と遊んでるんだ。
たまにお義父さんも連れて行ってるから、直江より橘のお義父さんとお義母さんの方がたくさん会ってる。
それでいつの間にかお義母さんを「ばーば」と、お義父さんを「じーじ」と呼んでいるらしい。

「どうして私だけ……」

寂しそうに背中を丸めて泣きそうになってる。せっかくのかっこいい旦那さんなのにこんな惨めな背中しちゃって。
確かに直江と俊介は月に2回か3回会うだけで、さらに「直パパ」なんて赤ちゃんには難しい発音を要求してるんだからまだ無理ってもんだろ。

「そう落ち込むことないって。もうちょっと大きくなったら発音できるようになるんだし」
「もうちょっと大きくって、もしその時に俊介さんが私を嫌いになっていたら呼ばれないじゃないですか!」
「大丈夫だろ〜。そんなことないって」
「高耶さんのように毎日会って、すごく好かれてる人にはわかりませんよ、私の気持ちなんて!!」

あーあ、これじゃ直江が子供じゃんか。アホくさー。

「でも直江にはオレがいるじゃん?オレに好かれるのと俊介に好かれるのとじゃどっちがいい?」
「そりゃあ……高耶さんに好かれてる方が嬉しいですけど……俊介さんにも好かれたいです……」
「俊介のお兄ちゃんであるオレが保証してやるよ、直江は俊介に嫌われないって」

実の兄弟であるオレと俊介だ。たぶん男の好みも一緒だ。
でも直江は俊介にも渡さないけど。

「本当にそう思いますか?」
「うん」
「……いつか直パパって呼んでくれると思いますか?」
「なるなる」
「うう……私は本当にいい奥さんをもらいました……」

オレをガッチリ抱きしめて直江は感激中だ。まったくもう、大人のくせに。

「また俊介のDVD見ようぜ」
「はいっ」

俊介DVDはもう50枚ぐらいある。実家で録画したやつも、ウチで録画したやつも、外出して録画してきたものも。
懐かしいやつを見ようと思って選んでみた。まだ生まれて3ヶ月ぐらいのときの。
やっと首の据わった俊介を抱っこしながら哺乳瓶でミルクを飲ませてるオレ。
勢いよくミルクを飲んでる俊介のアップを母さんが録画した。

「ちょっと前まではあんなに小さかったのにな〜。もうでかいよな〜」
「なんだかこれ、高耶さんがお母さんみたいな絵ですよね」
「そうか?」

オレがお母さんか……そしたらこのDVDもオレのおっぱいを吸ってる俊介になる……のかな?
でもオレ、おっぱいないしなあ……。

「おっぱいあるってどんな感じなのかなあ?」
「は?」
「こう……乳がボーンてあるんだろ?オレ、触ったことないから重さとかあるのかどうかもわからないよ」
「……えーと」

直江がいきなり考え込んだ。なんだ?

「触ってみたい、ということですか?」
「まー、触ってはみたいけど、でも触らせてくれるようなそんな奇特な人はいないだろ?」
「そうですけど……」

そーいえば……直江はたくさんの女の乳を揉んだことがあるんだっけな。オレにはない。
もしかしてエッチしてる時って不満なんじゃないのかな?

「なんです、私の顔に何かついてますか?」
「直江はおっぱい触ったことあるだろ?」
「え?!」

直江がいきなり額に汗をかき始めた。浮気がバレたような夫の顔しやがった。
昔の女のことをけっこう気にしてるオレが言うからビクビクしてる。

「さ、触ったことは、あああ、ありますが……」

そりゃそうだよな……。
直江が女の人のおっぱい触ったり、揉んだり、他にも色々されてそうなことを想像しちゃった……。
自分で勝手に想像しておいて超落ち込みそうなんだけど!

「うう〜」
「どうしたんですか?!何か想像しちゃったんですか?!」
「した〜!」

オレが想像してることが何なのか直江も気が付いたらしく、焦りながら言い訳をした。

「私が愛しているのは高耶さんだけですから!もう二度とおっぱいは触りません!高耶さんのだけです!」
「おっぱいがないと物足りないって思ったことあるだろ?!」
「ありません!」
「ボヨヨンってしないのがイラつくとかあるんだろ?!」
「だからありません!」
「嘘だ!!だってたまにオレの乳揉むじゃん!!」

今日までは全然なんとも思わなかったけど、直江はエッチする時にオレの乳を揉むような感じで手を動かす。
これは絶対に昔の女とやってた時の名残なわけで!
つい奥さんにもやっちゃうわけで!!

「オレの平べったい乳なんか揉んだって揉めないだろうが!」
「もし揉んだとしてもそれは高耶さんが可愛いから撫でる手に力が入るだけです!!」
「お尻は普通に揉むくせに!!」
「高耶さんのお尻が可愛いせいです!それと同じ気持ちで胸を揉んでいるように触ってるんです!」
「うわーん!!」

クッションで直江をバフバフ殴った。もうオレ嫉妬で狂い死にしそう!!

「た、高耶さん!やめてください!」
「わーん!」
「高耶さん!!」

クッションを上げた隙に直江がギューしてきた。タックルみたいに。

「高耶さんだけしか愛してませんから!高耶さんにおっぱいなくても全然平気です!むしろもう高耶さん以外は触りたくもありません!!」
「なおえ〜」
「いい子だから落ち着いて。高耶さんを昔の女と比べることなんて出来ませんよ。あなた以外の感触はもうすっかり記憶から抹消されていますから」
「ホントに?」
「はい」

真剣な顔をしてチューしてきたから、たぶん本当なんだろうな、とは思う。
直江の人生の中で一番たくさんエッチしてるのオレだし。変態なこともオレにしかしてないみたいだし。

「泣き止んでくれましたか?」
「うん……」
「仲直りしたことですし、一緒にお風呂入りましょう?出たらすぐ寝室に行きますよ」
「うん」

これから直江とエッチだ。
もう絶対誰の感触も思い出さないようにたくさんオレがするんだ!!

 

 

 

それからしばらくして、朝、直江を送り出した後に母さんから電話がきて、おつかいを頼まれた。
父さんが役所に持って行く書類を忘れたから渡しに行って、って。
母さんからの電話の向こうでは俊介がビービー泣いてるから、出るに出られない状況なんだろう、仕方ねーなと思って実家に行った。

そしたら俊介が泣いてたのは風邪を引いたからだった。これから医者に連れて行くから高耶はお父さんの書類を、というわけで。

通勤時間に電車に乗るのは2回目か3回目。
すごい混んでる電車がイヤで家から自転車で行ける高校を選んだぐらいオレは満員電車が苦手だ。

「は〜、行く前に疲れちゃいそう……」

父さんの書類が入った封筒を持って満員電車に乗った。30分以上こんな状態で立ってなきゃいけないってなんなんだよ、もう。
しばらく乗ってると乗り換えの主要駅についた。オレはこのまま電車に乗っていくけど、別方面に行く人は降りて、その代わりさらに多い人数がドドドと乗ってくる。
ギューギューになった状態から少し体をずらして楽な姿勢を探してみたけど無駄のようで、オレの両手は書類を抱えて自分の腹と他人の腹の間に挟まれて動かなくなってしまった。

苦しい……。

どうにかならないもんかともがいていたら、電車の揺れと一緒に少しだけ隙間があいた。ラッキー。片腕だけでも腹から抜ければ苦しくならないで済む。

と、思ってたら、そのオレ手を導く何かが。

「え?」

ギュウギュウだからどう言っていいかわからないけど、位置的にはオレの斜め前に横を向いて立ってる女の人がいて、背が少し小さいから顔が見えないけどとにかく女だった。
そいつの手がオレの手を導いて、自分の乳に。

は?え?なにこれ?どうゆうこと?

オレの手の上から女の人の手が押さえ込んでモミモミされてるんだけど……しかもこの感触ってノーブラだと思うんだけど……。

わー!ヤバイ!変な女の人だ!!痴女ってやつだ!!いくらなんでもコレはヤバい!
下手したらオレが痴漢になっちゃう!!
痴漢で逮捕されて直江に離婚されちゃったらどうしよう!!それはダメだー!!

必死で手を抜こうとしたんだけど、満員のせいでなかなか抜けない。ようやく次の駅で停まる寸前で抜けたからいいものの、このままずっと触らせられてたら大変なことになる!!

でもおっぱい触っちゃった……。超柔らかかった。これがそうなのか……。

 

 

 

「ただいま、高耶さん」
「おかえり〜」

直江を玄関でお迎えしてチューしてギューした。
今日の旦那さんもカッコイイな〜。

直江の着替えを手伝うために一緒に寝室に。そんで今朝のことを話した。

「痴女ですか?」
「うん。女の痴漢だった」
「それで高耶さんは……おっぱいを揉まされたわけですか……?」
「そう。びっくりしたけど柔らかいのは覚えてる」
「………………」

着替え途中の旦那さんが半裸でオレに迫ってきた。そんでオレの右手を股間に。

「な、何?」
「その右手で触ったんですよね?まだ感触があるんですよね?そんなの旦那さんが許すわけないでしょう」
「え、だからって……」
「私のを触って、そんな痴女の感触なんて忘れてください」

直江の股間を触らせられて、その手の上から旦那さんの手でモミモミされた。
オレと同じで直江も嫉妬してるのか。そりゃそうか。仲良し夫婦だもんな。

「あ、硬くなってきた」
「しばらく揉んでてください。おっぱいを忘れるまで」
「……もう忘れたよ。大好きな旦那さんのと変な女のおっぱいじゃ、旦那さんの方が触れて嬉しいもん」

ちょっとだけ旦那さんと触りあいながらチューしたら、夕飯も忘れてエッチに突入。
直江はやっぱりオレの平べったい胸を揉んだけど、大事にされてるのがわかったからヨシとしよう。
でもウチの旦那さんはオレの胸よりはお尻の方が好きみたいで超さわりまくってた。

オレは痴女より直江の感触の方が好きだから、おっぱいのことなんかどうでもよくなった。
直江も同じように思ってるはずだ。
そうじゃなきゃ許さないけどな……。

 

 

そんなある日曜日、すっかり風邪が治った俊介が遊びにきた。にーに、にーに、とうるさかったからだって。
風邪引いてたから会えなかったもんなあ。

「お兄ちゃんに会いたかったのか〜!いい子だな、俊介は!!」

抱っこしてやると楽しそうに笑った。いい笑顔だ。可愛いなあ。

「にーに」
「なんだ?」
「なーぱ」
「なーぱ?」

…………もしかして。

「直江、なーぱって直江のことじゃないか?」
「え?!本当ですか?!」
「いいから抱っこしてみろ、ほら」

直江が抱っこしたら顔を見ながら「なーぱ」って言った。本当に言った。

「俊介さん!!!」

よっぽど嬉しかったのか俊介のホッペに何回もチューしやがった。オレ以外のヤツとチューした!!

「ダメ!チューはオレとしかしちゃダメ!!」
「にーに」
「直パパはお兄ちゃんのもんだからな!チューはダメ!!」

直江から俊介を取り上げたら直江が笑ってた。なんでだ。

「じゃあ高耶さん、私にキスしてください。そうしたら俊介さんのホッペの感触を忘れますから」
「んんー!チューする!!」

俊介を抱っこしながらチューした。そのうち俊介にもにーにとなーぱが結婚してるってのがわかるだろう。
絶対直江はオレのもの!!



END

 

 
   

あとがき

おっぱいバ●ーの
名称から浮かんだネタでした。

   
   
ブラウザでお戻りください