奥様は高耶さん



第42
話の番外

プレゼントと私

 
         
 

 

高耶さんの誕生日と結婚記念日はネズミ王国のホテルとレストランとキーホルダーで終了した。
しかしそれで済ませていいものか。
私は当日まで誕生日&結婚記念日を忘れていたのだ。それはもう奥さんがどれだけ悲しかったか。
なので高耶さんが欲しがりそうなプレゼントをもう一度渡そうと思う。何がいいか。

…………そうだ!アレだ!!

 

 

「高耶さん」
「ん〜?」

リビングで扇風機に当たりながらアイスを食べていた奥さんに質問してみた。

「旦那さんのR18写真集とイメージビデオのどっちが欲しいですか?」
「は?!」

アイスが床に落ちるほど驚かれた。そんなにおかしなことを言ったか?

「ですから」
「いらない!!どっちもいらない!!」

どうしてこんなに力強くいらないと言うのだろうか?
高耶さんはアイスを片付け床を拭いてから顔を赤くさせて私を見た。
そうか、恥ずかしがっているだけか。

「恥ずかしがらないでいいですよ。高耶さんからのプレゼントのお返しなんですから」
「いらないってゆってるだろ!」
「なぜ?」
「……キモいから」

え?今、なんて?
キモいから?
キモいから?
キモい……から?
よく聞く言葉だが、今言われている意味と同じ意味の「キモい」だろうか?いや、たぶん違うだろう。

「キモいってなんですか?」
「キモいはキモいだよ!気持ち悪いって意味!」

じゃあ高耶さんが兵頭に「キモい」と言ったあの言葉と同じということか?
なぜ私がそう言われないといけないんだ?

「どうして?」
「そんなの奥さんに渡す旦那さんなんかいないだろ!」
「でも高耶さんは作ったじゃないですか」
「それはオレが奥さんだからだ!」

何がどう違うというのだろう?奥さんイメージビデオがあるのなら、旦那さんイメージビデオもあって当然だ。

「なんかおかしくないですか?」
「おまえがおかしい!!」

どうしてだ。納得がいかない。

「ああいうビデオは可愛いとか、きれいとか、そうゆー事を言われてる人が作るもので!」
「旦那さんの体がキレイって言ったのは奥さんですよ?」
「そりゃキレイはキレイだけど、意味がまったく別であって!!」

どうも高耶さんとの会話がちぐはぐしている。

「えーと、じゃあ高耶さんは旦那さんのイメージビデオも写真集もいらない、と。こういうことですか?」
「さっきからそう言ってるだろ!そもそも直江のそんなもの見て、オレはどうしたらいいんだ?」
「どうって……一人エッチしたり、旦那さんと一緒に見て楽しんだり」

高耶さんは頭を抱えて悩みだした。どうしてそんなに悩むのか。

「たぶんオレの頭は女性化してきてるんだと思うんだ。専業主婦で、子育て中で、旦那さんのために色々やって。男だけど女がやることもたくさんやってるわけ。そこまではわかるか?」
「はい」
「そんな奥さんが旦那さんのイメージビデオを見て一人エッチなんてしないってゆうかそういう前に!!」
「前に?」
「そういうビデオを作ろうとする旦那さんの頭の中がどうかしてるんじゃないか、ってこと!」

だから何が悪いのかを聞きたいのだが。

「簡単に言わないとわからないのか……じゃあオレのイメージビデオは欲しいだろ?」
「はい」
「アレは可愛いオレだから楽しいわけであって、可愛くない直江のビデオじゃつまらないんだよ」
「そんなのやってみないとわからないでしょう?」
「やらなくても分かる時は分かるの!」

なぜだ。なぜ。
やってみないとわからないんですよ、世の中は。
やってみたから高耶さんと結婚できたのと同じように!
じゃあやるしかあるまい。

「やっぱり作ることにします」
「だーかーら!!」

座れと怒鳴られて床に正座した。奥さんはお説教をする時は必ず私を床に正座させる。
校内でこんなことをしたら体罰だといって大問題になるが、我が家の中では……というか私だけには必ず床に正座だ。
しかし奥さんを怒らせると後で怖いため仕方なく座っている。

「オレが自作の写真集やビデオを作るのはよその家からしたら『気持ち悪い』って言われることなんだ」
「私はそんなこと微塵も思いませんが」
「……じゃあ例えば……門脇先生がしんたろうさんのために写真集を作ったとする。どう思う?」

門脇先生が……しんたろうさんに……?

「微妙に気持ち悪いですね」
「だろ?!それなんだよ!」
「でも高耶さんの写真集を貰っても気持ち悪いなんて思ってませんよ、私は」
「……う〜」

頭を両手でボリボリ掻いて苛立たしさを表現した奥さん。お行儀が悪いですよと言ったらグーを作って私を殴ろうとした。
しかし拳は上がったままで、私の顔には命中しなかった。

「じゃあ写真集を作るために裸になってエロいポーズしてる自分を想像しろ」
「はあ……」

高耶さんがくれたR18写真集を思い出し、それを自分の姿に変換して想像した。
制服姿で下半身丸出しの高耶さん。スーツ姿で下半身を丸出しの私。
片手でアレを握りながら自分の指を舐める高耶さん。片手でアレを握りながら自分の指を舐める私。
教材を使ったお尻をカメラに向ける高耶さん。教材を使ったお尻をカメラに向ける私。

「気持ち悪いですね」
「やっとわかったか!」
「でもポーズや教材の使い方次第では気持ち悪くないと思います」
「うがー!!」

ここまで拒否されているということは、高耶さんは本当に旦那さんR18写真集は欲しくないということで。
旦那さんのR18写真集を欲しくないということは、私は高耶さんにそこまで愛されていないということで。
高耶さんに……愛されていない……。

「ううっ」

高耶さんに愛されていないと知った私は涙をボロボロ零しながら床に突っ伏して泣いた。

「え?直江?!どうして泣くんだ?!」
「愛されていないなんて!愛されていないのに調子に乗ってしまって!」
「いや、その、愛してるけど」
「でも写真集はいらないんでしょう?!いらないってことは私の姿も見たくないということでしょう?!今まで高耶さんはボランティアで私と付き合っていたってことですよね!」

涙はなかなか止まらない。高耶さんを失ったら生きていけない。廃人先生まっしぐらだ。

「愛してることと写真集はまったく別だ!」
「同じです!!私には同じことなんです!!」
「あーくそー!わかった!直江には同じことなら旦那さんの写真集貰うから!その代わりイメージビデオじゃなくて写真集だぞ!R18じゃなくていいから旦那さんの写真集が超欲しいよ!!」
「本当ですか?!」
「本当だ!!」

ああ!高耶さんは私の天使だ!太陽だ!神だ!!
愛されているのだ、私は!!

 

 

高耶さんの頼みでR18写真集ではなく、普段の旦那さんとして写った写真集になった。
普段の私がたくさん入ったSDカードを渡してパソコンで見てもらうと高耶さんはとても嬉しそうな顔をした。
ありがとうな、と言って書斎の椅子の上でキスをして抱き合って、いつまでも愛しているの変わらないと約束してくれた。

「でもいいんですか?R18じゃなくて」
「い、いいんだ。オレはエッチな直江も好きだけど、普段優しくしてくれる直江の方が……えーと、えーと、見てて安心するってゆうか、普通の直江で満足ってゆうか……」
「そうなんですね、高耶さん!ああ!私の奥さんでいてくれてありがとうございます!」

でも私の体がまだ衰えないうちにR18写真集とイメージビデオを作ってプレゼントしよう。
普段の私を好きでいてくれるなら、ちょっとセクシーな私はもっと好きになってくれるだろう。
来年あたり自作してプレゼントしてみよう。


END

 

 
   

あとがき

短くてアホくさい話で
大変恐縮ですが、
書いてて超楽しかったし
すっきりしました。

   
   
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