奥様は高耶さん



第43


真夏とオレ

 
         
 

 

夏だ!!海だ!山だ!プールだ!!

オレの目の前にあるのは庭に置かれたビニールプールと可愛いシマシマの水着を着た俊介だ。

「水遊びだ!おー!」
「おー!」

暑くて茹りそうな日曜の今日、俊介が遊びに来た。
せっかく来たんだからお兄ちゃんと豪快に水遊びをしようってことになった。俊介も大賛成。まだ喋れないけど大賛成に違いない。
ついでにせっかくだからオレも水着に着替えて庭に出た。

お隣さんに貰ったお古のビニールプールに水を張って、冷たくないようにお湯も入れていざプールだ!

「本当に高耶さんも着替えたんですか……」
「おうよ!堂々と水遊びが出来るのは俊介が来た日くらいだからな!」

サンダルで庭に出てきた直江は軒下の日陰でしゃがんで見てた。
一緒に遊ぼうって言ったのに「遠慮します」と抜かしやがった。

「直パパは付き合い悪いな〜」
「な〜」

最近の俊介は喋ろうと頑張ってて言葉尻を真似したりする。可愛いなあ。

「付き合いが悪いとかそういう問題じゃないでしょう」
「よそんちのパパは付き合ってくれてるかもよ?」
「よ?」
「俊介さんまで……」

付き合いの悪い直パパを無視して水遊び用のオモチャと俊介をプールに入れた。
お風呂と違って晴れた外で水深の浅いプールに入るのはやっぱり楽しいらしくてキャーキャー言った。

「お兄ちゃんも入るぞ!」
「じょー!」

入って俊介が嫌がらない程度に水をパチャパチャかけて遊んだ。俊介もやり返してくる。さすがオレの弟。水だってへっちゃらだ。

「直パパにもかけろ!」

オレがやってみせると真似して何度も何度もしつこく直江に水をかけた。
ものすげー喜んでるし。

「ああもう!高耶さんがやるから真似するんですよ!」
「もっとやれ、俊介!!」

洒落にならないぐらいびしょ濡れになった直江はどうでも良くなったのかプールのそばまで寄ってきて、オレたちにバッシャバッシャかけた。手がでかいから水がたくさんかかる。

「やり返せ!」
「あー!」

直江も楽しくなってきたのかな〜と思ってよく顔を見たら全然笑ってない。逆に怒ってるっぽい。
これはマズイですよ、俊介さん。
でも俊介はやめない。直パパが怒ってるのがわかってない。

「ほら、もうやめろ。直パパはもうイヤなんだってさ」
「ぶー」

抱っこして膝に乗せて、オモチャで気を引いてやめさせた。そしたら直江はびしょ濡れのまんま家に入ってっちゃった。

「なあ、直パパ怒ってたぞ」
「うー」

言葉はもう理解してるらしく、「怒ってた」って言うと心配そうな顔をする。
直江は俊介とオレには甘いから怒鳴ったりすることはないけど、ちょっと頑固だから機嫌悪いかもしれないな。

「そろそろ出るか。直パパにごめんなさいしような?」

庭で俊介の水着を脱がせて出してあったバスタオルで拭いてリビングに戻した。直江に俊介の着替えを頼みたかったんだけど、不貞腐れてるらしくてリビングから出て行ったままで呼んでも来ない。
そんなに怒ってんのか?度量の狭い男だ。

「ここで待ってろ。兄ちゃんも体拭かなきゃいけないからな」

軽く体を拭いてから家に入って素っ裸になって、もう一回俊介をよく拭いてオムツして服を着せた。
あ、そういえばオレの服は寝室だ。水着着る時は寝室だったからな〜。

「兄ちゃんの服は二階なんだよ。一緒に行くか?」

床に転がってた俊介に言ったら寝てた。水遊びで疲れて服来たら気持ちよくなって眠くなったらしい。
しばらくは起きないからこのまま着替えに行こうっと。
素っ裸で階段を上って寝室に入ろうとしたところで、書斎にいたらしき直江が出てきた。
顔がまだ怒ってる……。

「えーと、あの、ごめんな?」
「…………」

無言だ。これちょっとヤバいくらい怒ってないか?
上目遣いに直江を見たら腕を掴まれて寝室に引き込まれた。超怒ってるよ〜。

「なお……」

もう一回謝ろうとしたらギューされた。怒ってないのかな?

「直江?」
「さっきまでどう言って叱ろうか考えてたんですが、そんな姿で現れたから怒る気もなくなりました」

あ、裸だからか。拍子抜けってやつかな?違うか?
なんて考えてたらチューされた。

「俊介さんも可愛いですけど、やっぱり高耶さんが一番可愛いです」

そう言いながらいつもみたいにお尻を触ってきた。でも今は裸だからエッチなことになる前に離れなきゃ。
子守中にエッチなんかして俊介に何かあったら大変だ。

「服着るから待ってろ。あとでチューたくさんするから」
「はい」
「……先に行ってろよ」
「じゃあせめてぱんつだけでも」

オレにぱんつを穿かせたいそうだ。今までも何度かされたけど、なんでぱんつだけは何度穿かされても恥ずかしいんだろうか。
脱がされる時はそうでもないのに。

「ヤダ」
「……どうして?」
「恥ずかしいから」
「それが楽しいんじゃないですか」

やっぱり直江は変態だ。変態のくせに水かけられて怒るなんて生意気だ。もう謝らねーぞ!

「いいから出てけ!!」

渋々出て行った変態の旦那さんが階段を下りるのを見届けてから、寝室の鍵を閉めて着替え。
直江は外見と普段の性格はいいくせに、オレに対してだけああやっておかしなこと言うんだよな。本人は「高耶さんを好きすぎて」って言ってたけど、てことはオレが直江の変態なところを引き出したってことになる。
オレとしては困るけど、奥さんとしては直江のおかしなところを他人が知ってなくて良かったと思う。

服を着てからリビングに戻ったら出しっぱなしだったタオルや水着がなくなってた。
それに俊介がお昼寝布団で寝てた。

「あ、片付けてくれたのか。ありがと」
「どういたしまして」

変態だけど優しい旦那さんだから超好きだ。隣りに座って抱きついてチューした。
怒らせたりして悪かったなあ……もう謝らないけど。
あとぱんつぐらい穿かされてやっても良かったなあ。いや、良くない良くない。

「俊介さん、ぐっすり寝てますよ。布団に寝かせる時に抱っこしても起きなかったし。幸せそうな寝顔です」
「はしゃぎすぎて疲れたんだよ」
「……今度は私も付き合いますよ。さすがに庭で水着は恥ずかしいから無理ですが」

俊介の寝顔を見たら、せっかく遊びに来たのに一緒に遊んでやらなかった上に、機嫌悪くして寂しい思いをさせたのを反省してるんだそうだ。
そんな直江に甘えてずっとチューしてたら隣りの奥さんが来た。
旦那さんも一緒に玄関に行ったら庭から俊介の声がしたから来たんだって言って小さい袋を渡された。中を覗き込んだら白地に青のてんとう虫の柄の布が入ってた。

「趣味で和裁教室に通ってるんだけどね、赤ちゃん用の浴衣を作ったから俊ちゃんにどうかと思って」
「ホント?!マジでもらっていいの?!」
「家庭菜園で獲れた野菜のお返しね」

直江が庭で育ててる野菜をいつもあげてるからそのお礼だって。
隣りの奥さん、超いい奥さんだ!!見習わないと!!

「ありがとう!俊介今お昼寝中だから、あとで着せて見せに行く!」
「じゃあ一緒に写真撮りましょうね」
「うん!」

小さくて可愛い浴衣だ。きっと似合うぞ〜。
寝てる俊介に乗せてみたらサイズはぴったりだった。もうちょっと大きくなってからも着られるように袖んとこが上げてある。

「あ、そういえば俊介さんの帯がないですね。ちょっと買って来ますよ」
「フワフワした可愛いやつな!」
「はい」

直江は駅前商店街にある呉服屋さんに行った。橘家のお寺でもお世話になってるお店だそうで、直江も小さい頃にそこで帯を買ってもらったらしい。

「俊介〜、直パパがおまえに帯買ってくれるってさ」

オレも俊介の隣りに寝転がったら、すごい眠くなってそのまま夢の中へ。

 

 

直江に起こされて目を開けたら俊介が浴衣姿で立ってた。新しい紺色の帯で男の子っぽい恰好で。
ついでに直江も浴衣を着てる。なんでだ。

「なんで直江まで?」
「なんとなく。高耶さんの浴衣も出してありますから、一緒に写真撮りましょう」
「あ、それいいな」

直江に浴衣を着せてもらってまず3人で撮影。親子でお揃いみたいな写真になった。
それからお隣さんに見せるために俊介を連れて行ったら、隣りの奥さんも浴衣を着てた。和裁教室で自分の浴衣も作ったんだって。

「女性の浴衣姿は華やかでいいですね。とてもお似合いです」

こういうところを見ると直江が昔は女ッたらしだったってのを思い出す。後でオレも褒めてもらわないとな。

んでお隣さんの庭で写真を撮った。オレと直江と俊介の3ショットも撮ってくれた。でもその写真に自分が写ってないのに超嬉しそうなのはなんでだ。
デジカメのモニターを見ながら「は〜、ステキ」とか言ってるし。直江ファンだからか?

「この写真、近所の奥さんたちにあげてもいい?」
「いいけど、そんな3ショットあげても嬉しくないんじゃないの?」
「そんなことないわよ。みんな欲しがるわよ〜」

それもそうだな。俊介は近所のアイドルだし、直江ファンも多いことだし。
でもオレと直江が一緒に写ってるのを学校の人たちに見られるのは困るから、絶対にネット流出&誰かに見せたりはしないでくれって頼んでおいた。
そしたら「もちろんよ!」と力強く言われた。なんかちょっと興奮気味に見えるのはオレの気のせいだろうか?

んでせっかくだから俊介に浴衣を着せたまま実家に帰しに行った。
オレたちは浴衣姿で出歩くと目立つから車に乗って実家まで。

「あら俊ちゃん可愛いじゃない!」
「かーた!」

自分がどのぐらい可愛いのかをわかってるみたいに自慢げに母さんに見せてる。みんなに可愛い可愛いって言われて有頂天になってるように見えなくもないけど、実際に可愛いんだからいいんだ。

「お隣さんが和裁教室で作ったのをくれたんだ」
「そうなの?良かったわね〜俊ちゃん。高耶、あんたちゃんとお隣さんにお礼しなさいよ?」
「わかってるよ」

いつもだったらもっと俊介といたいってゆって直江が寂しそうな顔をするんだけど、なぜか今日は全然そんな素振りはなかった。
父さんが直江を見て晩酌の相手をして欲しそうな顔をしてるのに気付かない。いや、気付かないフリだ。

「じゃあ帰ります」

俊介が直江と別れるのを惜しんでまとわり付いても、頭を撫でて「また来てくださいね」つって終わりだ。
珍しいこともあるもんだ。
まあとりあえず帰ろう。

家に着いてからすぐに直江にギューされた。なんなんだ?さっきからおかしいぞ。

「我慢できそうにないんですが」
「何が?」
「奥さんの浴衣姿が色っぽくて」

ああ、そういうことか。

「今日は奥さんが水着になったり裸になったり浴衣になったりで……」

もう我慢が出来ないってことでカーテン閉めてその場でゴーだ。
浴衣姿の奥さんは格別に色っぽいから、自分以外の男の前では着てほしくないとか、女の人にも見せたくないとか、でも自分の前ではぱんつ無しで浴衣を着てみて欲しいとか、次回は奥さんから浴衣で誘ってくださいとか、そんなワガママを言われながらエッチされた。

まあ、たまには誘ってやってもよくなくなくない。

 

 

数日後、オレは浴衣と写真のお礼として、美味しいと評判のケーキ屋さんの焼き菓子をお隣に持って行った。
いつもの野菜のお礼なんだから気にしなくていいのに〜って言われたけど、そういうわけにも行かないよって言って渡した。
なんかこういうの直江の奥さんを真面目にやってるみたいでいいな〜って思った。

「そういえば俊ちゃんと撮った写真を他の奥さんに見せたらやっぱり欲しいって言われてプリントして渡したのよ」

オレと直江と俊介の3ショットの話だ。
本当に欲しい人がいるなんて。
直江と俊介は人気者だな〜。

「あの写真なんだか親子って感じだったわ〜」
「そう?なんかおかしな組み合わせっぽいと思うんだけど。イトコとオレとオレの弟だろ?写真見ただけじゃ誰と誰が兄弟でイトコなのかわかんないじゃん」
「そんなことないわよ。3人とも男前でステキよぅ」

んー、まあステキって言われるんだからそれでいいのか。悪い気はしないもんな。

帰って直江にその話をしたら「ああ、やっぱり」って言った。

「何がやっぱりなんだ?」
「いえ別に。俊介さんが人気者で私も嬉しいな、と思ったんです」
「オレも直江が人気者で嬉しい。けど奥さんを一番大事にしてくれないとダメだからな」
「もちろんです」

たくさん愛してるって言ってチューしてくれたから今夜はご褒美に浴衣で誘ってみよう。
ぱんつは穿いてた方がいいのかな?穿かない方がエロい気がするけど……。

「直江はぱんつ穿いてるオレと穿いてないオレとどっちが好き?」
「……どっちも好きです」
「浴衣にはどっち?」

ちょっと考えてから直江が真面目な顔して耳打ちした。
ヒソヒソ。

「じゃあそれで」
「お願いします。可愛い奥さん」

直江がなんてリクエストしたのかは想像に任せる。


END

 

 
   

あとがき

高耶さんのお着替えが
直江のツボに嵌まるらしく。
ぱんつに関しては変態です。

   
   
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