奥様は高耶さん |
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譲と旅行することになった。9月の中頃まで夏休みだから行かないかって。 「……成田くんの他には誰が行くんですか……?」 今年の夏休みは受験の対策だの補習授業とかで、直江はいつもと変わりなく学校に行ってて、旅行できなかったからせめて譲とは行きたいわけだ。 「どこの海ですか……?」 なんか直江の顔が怒ってるように見えるんだけど違うかな?でも声が静かだから怒ってないのかな? 「その2泊の間、旦那さんは一人で留守番して家事して、学校にも行かないといけないわけですか」 なんだろう?このやけに粘っこい質疑応答みたいなのは。たぶん旅行に反対してるんだろうな。 「奥さんが友達と旅行するの反対なの?」 オレが家事やってるとはいえ、直江だって掃除も洗濯もできるし、下手だけど料理も出来る。 「なんなら実家帰ってお義母さんにベタベタされておけばいいじゃん」 末っ子で可愛がられて育ったから直江はお義母さんに対しては弱い。一番弱いのは奥さんだけど、奥さんの次にお義母さんに弱くて、オレの見てないところでヘコヘコしてんのは知ってるんだ。 「違います」 本人が違うって言ってるなら違うってことにしてやろう。直江は追い詰めると狂犬になるからな。 「旦那さんが反対じゃないなら行ってもいいよな?」 譲と旅行か〜。楽しみだな〜。
旅行の日が明日にせまった。なのに外は雨。さらに肌寒い。超不安なオレ。 「これじゃあ海どころじゃないですね」 直江はなんだか嬉しそうだ。一人で留守番したくないのと、オレがいなくて寂しいのと、自分は旅行について行けないから悔しいのと、それが全部なくなるって考えて嬉しくなってるみたいだ。 「そんなに奥さんが旅行中止のピンチで嬉しいのか?」 顔がそう言ってるんだ!!顔が!! 「高耶さんは台風苦手で旦那さんがいない時は毛布にくるまってるぐらいなんですから、気の毒とは思ってても嬉しいなんて全然思ってません」 嘘だ!!旅行が中止になりそうで嬉しいくせに!! 直江を睨んでたら電話が鳴った。家の電話だ。 「はい、橘です」 カレンダーを見た。宿代が安くなる旅館は平日が狙い目だってことだから来週かな?なんて考えてたら受話器を直江に取られた。 「あっ!」 勝手に決めてる!!奥さんに相談もなしで勝手に!! 「え?どうしてですか?なんで嫌なんですか?」 おお!譲が反対したらしい!!頼むぞ、譲!!旦那さんと3人で行くなんて有り得ないよな!! 「そんなことありませんよ。きっと楽しいです。部屋は3人部屋にすればいいわけですし。……どうしてそれが嫌なんです?男同士3人で気兼ねなく楽しく……なんでつまらなくなるなんて言うんですか」 譲は可愛い顔してキツイこと平気で言うからな〜。直江にも遠慮なく「嫌だ」「つまらないから」とか言ってんのか。 「……じゃあどんな条件なら私も行っていいんですか」 え〜、そこまで食い下がるの?直江って心超狭いんだな。 『とにかく俺は橘先生とは旅行したくないって言ってんの!!』 オレにまで聞こえる大きな声で譲が叫んだ。これ以上ないぐらいのキッパリした断り方だ。 「そうですか……高耶さんと二人で行きたいんですか……私とは絶対に行きたくないんですか」 泣きそうな声でそう言ってからオレに受話器を返してヨロヨロとソファに戻っていった。 『橘先生ってバカなの?』 電話を切って直江のとこに行った。まだダメージ受けてる。 「直江とは土日で旅行すればいいじゃん」 オレだって直江の出張だとか学校の修学旅行とかでいないのを我慢してるってゆーのに。 「行ったきりで帰ってこないなんてことないですよね?!」 直江は安心したらしくオレにチューしてから大きな溜息をついた。オレも直江がいないと寂しくて悲しくなるから気持ちはわからないでもないけど、いい歳した大人がなんで奥さんの旅行程度であんなにブーブー文句言えるのかって話だよ。 で、その夜。深夜になってから徐々に台風がやってきた。 「起きろよ。なあ、直江」 超眠そうにしながらギューしてくれたんだけど、直江はすぐに寝ちゃって腕の力が抜けてオレを離す。 「う〜」 抱きついてみたけど起きる気配はない。ムカつく。 「直江〜!起きてくれよ〜!起きろよ〜!起きないと離婚だぞ〜!」 やっと起きた!と、思ったら、寝言だった。 大事な奥さんが台風怖くて起こしてるってのになんでまだ夢の中なんだ!! 「起きろー!!」 よくマンガで「ガバッ」と起きるシーンがあるじゃないか。あれとまったく同じふうに起き上がった。 「高耶さん!!どうして出ていくんですか!!なんで離婚なんですか?!」 自分の周りをキョロキョロ見回して、夢の中のシーンと同じじゃないことに気がついたようだ。 「は〜、良かった、夢で……」 もう一回周りを見回して、それから雨戸が入った窓を見て納得したらしい。 「すみません……」 台風が怖くないようにおまじないをしましょう、とか言ってチューとギューされた。 「チューしてると怖くない」 うう、旦那さん、超優しい。オレのためにずっとしててくれるなんて、こんな旦那さんはどこを探してもいないな。 「う〜」 嬉しくて抱きついたらお尻を触られた。いつものことだけど……今はなんだか指先がエロい動きだ。 「…………仰木くん、先生とエッチしませんか?」 もう直江はその気で、チューしながら右手はお尻、左手はパジャマの中だ。 「する」 そんなわけでエッチしたんだけど、いや〜、まったく人間てのはある意味すごいね。
それから数日後に譲と旅行した。 海は女の子に逆ナンされて一緒に遊んだけど、これは直江には内緒だ。ビーチボールで一緒に遊んで、昼飯をみんなで食っただけだから、たいしたことじゃないけど大騒ぎしそうな直江には言えない。 温泉には入れるし、海で日焼けも出来たし、ご飯はうまいし、また譲と一緒に行きたいな〜。 3日目は温泉ホテルを出てちょっと観光した。熱海城って知ってるか?エロい博物館みたいなやつ。 今日は直江にご飯作ってやんなきゃな!せっかく旅行させてくれたんだし! 「ただいま!高耶さん!いるんですか?!」 玄関でお出迎えしたらソッコーでギューされた。寂しくって子犬のようになってました、だって。 「でも次は私と行ってください。熱海城に」 直江の中では城よりエロが勝つらしい。 「また今週台風だそうですよ」 どうしよう……台風なのに一人ぼっち……。 「直江と出張行く!!ついてく!!」 直江は嬉しそうにニンマリして、もしそうなったら一緒に行きましょう、って言った。 「台風か……フフフ」 さてはなんか変なこと考えてるな……?怪しいぞ、直江。
そして天気予報で言ってた台風がまた来た。1個終わったらすぐまた1個だ。 「ひーん」 リビングで毛布に包まって直江の帰りを待った。今日はずーっと台風が居座って、朝から晩まで暴風雨だそうだ。 「高耶さん、ただいま。大丈夫ですか?」 学校も授業は昼までで終わったそうだ。先生たちも帰ることが決まって直江も早い時間に帰ってきた。 「これじゃあ台風の日は高耶さんを一人ぼっちにさせられないですね」 じゃあおまじないを、と行って直江がチューをした。そうだ。こうしてもらうと怖くない。 「もっと怖くないようにしてあげましょうか?」 ……ああそうか。この前の台風んときにエッチしたら怖くなかったんだっけ。 「する」 旦那さんの股間ももう暴風雨らしい。
それから。 台風は相変わらず怖いけど、直江がいない間にエッチな気分になったらどうしよう。 「直江ー!早く帰ってこいー!!奥さんは我慢できないからなー!」
END
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あとがき |
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