奥様は高耶さん |
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ショックなことがあった。 「ただいま」 玄関に走って行って帰ってきた直江に抱きついてみた。 「どうしたんですか?!」 オレは今日のショックな出来事を半泣きで説明した。
それは今日の昼間だ。 「にーに!」 キッチンにいるオレの足にしがみついて早く食わせろと言ってる。歳が離れた弟ってのはなんて可愛いんだ。これが歳の離れた妹だったらオレは妹を嫁に出さないと思うな。 「もうちょっとだから待てって」 大きいおにぎりだと持った時にボロボロこぼすから、子供用に小さく作るんだけどなかなか難しい。 「なんだよ、まだ終わってないのに〜。誰だ〜」 手を洗って足に纏わりついてた俊介を抱っこして、インターフォンのスイッチを入れてモニターを見てみたら直江のお母さんだった。 「ばーば!」 モニターを見た俊介が指を差して「ばーば」と嬉しそうに言った。 「はいはい」 いたのね、じゃねえよ!!いつもいるだろうがよ!! こめかみに血管を浮かばせながら玄関まで行って、ドアを開けるといつもの不機嫌な顔を一瞬したけど、俊介を見たらいきなり豹変した。 「あら、俊ちゃん来てたの〜?」 どこかの優しそうなおばあちゃんみたいな顔だ。なんでオレだけ目の仇なんだろうって思うぐらいに。 「どうぞ入ってください……」 そう言って上がってきて、オレから俊介を奪うようにして抱っこした。 「高耶くん、お昼はまだなの?」 それを狙って来たくせに!! キッチンに戻ってお義母さんのぶんのおにぎりも作って、朝飯の時に多めに作っておいた味噌汁をあっためて完成だ。 「まあ、なに?おにぎり?粗食なのか手抜きなのかわからないわねぇ」 簡単な単語ならけっこう言えるようになってきた俊介の最近覚えた言葉が「好き」だ。 「じゃあいただきますしましょうね〜。はい、いただきます」 小さいおにぎりを俊介に渡して、お義母さんと3人で食った。あー、憂鬱。 「ばーば」 皿から小さいおにぎりを取って俊介がお義母さんに渡した。「あげる」らしい。 「あら、ありがとう」 それを食って泣かれてしまえ……ヒッヒッヒ。 「じゃあばーばが食べるわね〜」 そうとも知らずに俊介用の小さいおにぎりを食べた。多めに作ってあるから1個ぐらいはなくなっても大丈夫。 なんでだ……。 それから俊介は小さいおにぎりをちゃんと全部食べて、お義母さんに味噌汁を飲ませてもらって上機嫌だ。 そんなオレに気がついたのか、お義母さんはニヤリと笑ってからこう言った。 「俊ちゃん、ばーばのこと好きよねえ?」 ガーン。 どうして毎日のように世話してるオレよりお義母さんなんだ……。
「なるほど。それで落ち込んでたわけですか」 オレからの話を聞いた直江は可哀想に、とオレを抱きしめた。 「私は高耶さんが一番ですから、それでいいでしょう?」 オレの旦那さんのくせにわかってない。 「いいか?俊介がオレよりお義母さんの方が好きってことは、直江は俊介の好きランキングで最下位ってことかもしれないんだぞ」 ようやく事の重大さがわかってきたようだ。 「……それは許せませんね……どうにかして私たちのランクを上げなければ……」 俊介にもっと好きになってもらうキャンペーン実施中だ!
で、土曜の昼過ぎに俊介が来た。直江はまだ学校で仕事中。 「なあ、俊介。おまえ兄ちゃんよりばーばの方が好きなのか?」 やっぱり。ちょっとこれは詳しくリサーチした方が良さそうだ。 「なんでばーばの方が好きなんだ?」 ダメか。まだこういう質問には答えられないか。 「じゃあ母さんと父さんと美弥と兄ちゃんだったら誰が一番好き?」 これは仕方ないよな。なんたって俊介を産んで育ててるわけだから。じゃあ父さんと美弥とオレは?って聞いたらねーねと来た。美弥か。 「姉ちゃんとばーばだったら?」 1位が母さん、2位が美弥、3位が直江母。 「うーん、おまえどんな基準でそういうランキングになるんだよ〜」 ギューしてたら直江が帰ってきた。 「直パパ帰ってきたぞ」 オレから離れて直江を玄関に迎えに行った。直江もとりあえず好かれてるんだよな。とりあえず。 「いらっしゃい、俊介さん」 オレにカバンを渡してチューして、俊介を抱っこして階段を上って寝室まで。直江が着替えるのを俊介がお手伝いしたいらしい。 「お手伝いえらいですね」 イイコイイコって頭を撫でると俊介がニヘーって笑う。本当にいい子なんだけど、なんでオレよりばーばが好きなのかはわからない。 「さっき俊介にリサーチしてみたらな、1位と2位は母さんと美弥で、3位がお義母さんらしいんだ」 着替え終わった直江が俊介を抱っこして階段を下りてリビングに。 「俊介さんは直パパとじーじとお父さんでは誰が一番好きですか?」 うお、直江が最下位になる可能性50%になった。 「直パパとじーじは……?」 一気に落ち込んだ直江を慰めると俊介が意味もわからず直江の頭を撫でた。こういうところにまた可愛さを感じるんだが、今の直江には逆効果みたいだった。 「うう……」 物で気を引くのはちょっとどうかと思うけど、直江がオレと同じぐらい俊介を好きで可愛がってるのはわかるから、たまにはコレもありだろう。 直江が抱っこしながら回って、最終的には電車のオモチャが気に入ったみたいだった。 「キャー!可愛い!仰木くんの弟ってこの子?!」 言葉にはならないけどこんにちはって言った。「んーにわー」って感じ。 「抱っこさせて?」 直江が門脇先生に俊介を渡した。俊介は人見知りしないから泣くこともなく門脇先生におとなしく抱っこされた。 「は〜、可愛い〜。仰木くんの弟には見えないぐらい可愛い」 門脇先生に抱っこされてる俊介はなんか嬉しそうだった。超ニコニコだ。 「わー、チューされた〜」 腕が疲れた門脇先生は直江に俊介を返した。そしたら。 「ぶー」 直江の腕の中でぶーたれた。門脇先生がいいみたいで手を差し出して抱っこ抱っこって言ってる。 「抱っこ疲れちゃったんだって。いいだろ、もう」 機嫌悪いし……こいつワガママだな。オレより。
家に帰ってから夕飯の準備をした。その間に直江は買ったばかりの電車のオモチャを出して俊介と遊んでた。 「俊介」 コクンと頷いて、オレを見てキョトーンとしてる。 「さっきのお姉さんと兄ちゃんとどっちが好きだ?」 ………………勘違いじゃなかった……。 「え?高耶さん、なんですか?なんで門脇先生なんですか?」 女であれば誰だって、男より好きってことだ。まだバブバブ言ってるくせに女と男はキッチリ分けるのか! 「生まれつきのスケコマシで決定だな……」 オレも直江も立ち直れずにその夜はしんみりとベッドに入った。
後日、子守をしに行った実家で母さんに話したら意外な答えが帰ってきた。 「あんたも子供の頃は女好きで大変だったのよ」 じゃあ証拠を見せるっつって母さんは一枚の絵を出してきた。 「だからあんたが義明くんと結婚したいって言った時に驚いたのよね〜」 どうやらオレは幼稚園で女の子たくさんに結婚しようとか言ってコマしてたらしい。 「だから俊介のことはあんたには言えないのよ。ね〜、俊ちゃん?」 ガーン。
「というわけで、俊介が女好きなのは遺伝らしい。父さんも母さんも幼稚園のころまでコマしまくってたんだって。そーいや美弥が今でもそんなタイプだよな」 なんかいきなり真剣な顔になった。 「あなたは何人に結婚しようって言ったんですか……?」 ヤバイ!!俊介の話だったのがいつの間にかオレがコマしてた話になってた!! 「もしかしたら今後、あなたと結婚の約束をしたって女性が出てくるかもしれないのに」 超おっかない顔で迫られて、いくら言い訳しても聞く耳持ってくれなかった。 「もし出てきたとしても直江以外とは結婚しないから!!」 それを証明しなさいって言われて結局エッチになった。 「なあ、俊介の女好きをどうこう言える立場にないのは、直江もだよなあ?」 今度は怯えた犬みたいになった旦那さん。
END
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あとがき |
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