奥様は高耶さん



第46


占いとオレ

 
         
 

 

直江が担任してるクラスで占いが大流行してるらしい。
占い専門の雑誌があって、それを一人の女の子が学校に持ってきたのが始まりで、今では男子も興味を持ち、主に受験や恋愛の話を中心に盛り上がってるそうだ。

「クラスのみんなで私の占い結果を教えてくれたんです」

雑誌やインターネットで橘先生の星占いや姓名判断、あとは手相や顔の相を調べてくれたんだって言って茶封筒を出してきた。
その中に雑誌の切抜きやプリントアウトした占い結果が入ってるらしい。
相変わらず生徒からの人気はダントツであるんだな。

「もう見たのか?」
「帰ってから高耶さんと読もうと思って」
「そっか」
「着替えてきます」

しばらくして戻ってきた直江は封筒を開けてオレと一緒に見た。
中には手書きのものもあったりして本当に生徒みんなでやってくれたんだってのがわかった。

「どれどれ……橘先生の占い結果は、と」

色々あったけど当たってるな〜ってところは、適職が教師ってことと、金運がいいことと、パートナーを大事にするってところだ。
パートナーってのは奥さんのことだろう。確かにオレは大事にされてるよな。

でも気になる占い結果もあって。

「……異性との恋愛は奔放……?」

これはもしや直江の昔の所業のことじゃないのか……?

「何人もの異性と同時に付き合うことも少なくない……?」
「た、高耶さん、これはあくまでも占いで……それに異性とは何人もって書いてありますけど、高耶さんは同性ですから……こんなことには……」

異性とか同性とかいう問題じゃないはずだ。下半身がだらしないって意味に違いない。
今は浮気も何もしないけど、時間の問題なのかもしれないし。

「うう〜」
「べ、別のを見てみましょう!ほらこれなんかどうですか!」

直江が次に渡してきたのは日本の武将占いで、結果は「徳川家康」だった。
内容としては頭の回転が良くて、新しいものや流行してるものが好きで、誰とでも仲良くなれるとか書いてあった。
が。

「フラフラと中身のない異性に吸い寄せられてしまうこともあり……?」

恋愛占いになると絶対って言っていいほどこんな結果になる。
何かこう、運命がオレに嫌がらせをしてるんじゃないかって思えるほど。

「ひどい〜!!直江の浮気者〜!!」
「違いますよ!!浮気なんかしてませんよ!!」
「ひーん!」

武将占いの紙をビリビリに破いて資源ゴミのゴミ箱に突っ込んだ。
直江が悪いわけじゃないけど悪いんだ!

「高耶さん、こっちはどうですか?!奥さんとの相性占いもしてもらったんです!これです!」

そう言って渡してきた紙に書いてあったのは。

「……相性は最悪です……あなた(直江)からの気持ちは相手(オレ)には伝わりにくく、憎みあって一生を過ごすかもしれません……?」
「ええっ?!」
「やっぱりー!!」

いくら占いだからってオレと直江を引き裂くつもりか!!
やっぱりオレと直江は結ばれない運命なことろを強引に結んだってことなんだな!!
だからオレはお義母さんから嫌われて、直江は俊介の好きランキングで最下位なんだ!!

「離婚なんかヤダー!!」
「離婚しませんよ!占いごときで高耶さんと別れるなんてとんでもない!」
「絶対離婚しない?!」
「しません!」

旦那さんとギューして離婚はしないって約束をした。
ちょっと落ち着いたけど直江とそんなに相性が悪かったのかと知ったオレはなかなか立ち直れなかった。

 

 

「それで落ち込んでるのか?」
「やあね、占いなんかで〜」

今日は直江が社会科の先生たちと食事会だってゆーから千秋と門脇先生をウチに呼んで3人で夕飯。
カレーを食ってから占いの話をした。

「だってどの占い見てもそんな感じなんだもん……」
「あたしとしんたろうさんも占いでは相性悪いわよ?」
「でもまだ結婚してないじゃん……」

門脇先生がなかなか結婚しないのは、本当はしんたろうさんが「相性悪いな」って思ってるからかもしれないじゃん、て言ったら千秋は嬉しそうだったけど門脇先生はショックだったみたいでナヨナヨと床にへたりこんだ。
もう酒飲んでるからテンションがちょっとおかしくなってんのかな?

「そうかも……そうなのかも……あたし、しんたろうさんに心底愛されてないのかも……」
「ひゃっひゃっひゃ!」

千秋が意地悪そうに笑ったら門脇先生は本気で怒って脇腹にグーパンチした。

「仰木くんの気持ちわかっちゃったわ〜」
「だろ?ショックなんだよ!」

パンチされた千秋は腰を抑えて起き上がってからオレと門脇先生に「いい占いだけ信じればいいのに」と文句を垂れた。
それが出来たら落ち込んだりしないんだよ!!

「橘先生も大変だな〜、こんなガキっぽい奥さんなんてさ〜」
「直江だって気にしてたからオアイコじゃん」
「……あのさ、前から聞きたかったんだけど、なんで橘先生を『直江』って呼んでんだ?」
「実家のばあさんだかじいさんだかの都合で改姓したから元々は『直江』ってゆー苗字だったらしい」
「じゃあその名前でもう一回占ってみたらいいじゃんか」

そうか。橘は相性が悪いけど、直江なら相性いいかもしんない。
そんなことに気付かなかったなんて奥さん失格になるところだった。

「橘先生が帰ってきたら一緒に調べたらいいんじゃねえの?」
「そーする!」

門脇先生はまだ落ち込んでるけど、オレは光明が見えたから立ち直れた。
早く旦那さんが帰ってこないかな〜。

 

 

夜遅くになって旦那さんが帰って来た。ちょっと酔っ払ってる。

「ただいま!高耶さん!」
「おかえり〜」

落ち込んで悪酔いした門脇先生は千秋が連れて帰ったから、酔っ払っていつもと違う直江を合わせなくて済んだ。
学校でからかわれちゃうからな。

「やっぱり高耶さんは世界一可愛いです!」
「は?」
「奥さんになってくれてありがとう!」

けっこう酔っ払ってるな。千秋たちがいなくてマジで良かった。
抱きついてきた直江を引きずるようにしてリビングへ。水を飲ませてネクタイを緩めた。

「着替えさせてください」
「ん、待ってろ」

もうパジャマ着せちゃえ。この調子じゃ風呂には入れないだろうからな。
寝室からパジャマを持ってきて全部脱がせた。いつもは直江がオレを脱がせるんだけど今日は反対。
しかも酔っ払ってるから脱がせる間に寄りかかってきたり酒臭いチューしてきたりして超大変だ。

「もー、重たいな〜」
「すみません」
「じっとしてろ」

ようやく着替え終わって、なんでそんなに酔っ払ってるのか聞いたら食事会で奥さんのことを聞かれたらしい。
それで昨日の占いの話をしたら先生たちは声には出さなかったものの、橘先生が一人の奥さんと長く続けられるとは思えない、みたいな顔をされたらしい。

「占い結果を聞いた山田先生が『わたしもそう思いますぅ』って追い討ちをかけたものですから全員でうんうんと頷いて……」
「山田……?あいつ社会科の先生じゃないじゃんか……」
「なぜかいたんです……」

それでみんなからやいのやいの言われて、自分は奥さんと相性が悪いのが世界の定説みたいに思っちゃったそうだ。
で、酔っ払うまで飲んだと。

「今日な、千秋に言われたんだけど、橘で占うからダメで、直江で占えばいいかもしれないってさ」
「……直江で?なるほど、そうですね」
「明日、本買ってやってみる」
「そうしましょう」

安心したのかそのままソファで眠り出した。
起こしても起きないから和室から布団を出して掛けてやって、そのうちオレも眠くなって寝室に行って寝た。
夜中に起きたら直江が同じベッドで寝てたから、抱きついてやったらギューしてくれて、やっぱり最高の旦那さんだな〜と思った。

 

 

次の日、駅前の本屋で姓名判断の本を買って調べてみた。
直江だろうが橘だろうがオレとの相性は悪かった。

「高耶さん、ただいま」
「直江〜!!」

帰って来た旦那さんに玄関で抱きついて泣いたら何も言わなくてもわかってくれたっぽかった。

「悪かったんですね……」
「占いなんか大っ嫌いだ!」
「それでも私の愛は変わりませんから」
「直江〜」

抱きついたままリビングでチューして、占いなんかじゃわかりゃしないさ、オレと直江の本気の愛は!と
半分ヤケクソでチューしまくった。
カーテン開けっ放しでも、玄関ドアの鍵が掛かってなくても、そんなの関係ないさ〜オレたちの愛は〜!
お隣さんから丸見えでも関係ないさ〜!

「私、橘義明は!私の奥さんである仰木高耶さんしか愛せません!」
「オレ、仰木高耶はオレのだんなさんである橘義明しか愛しません!」
「高耶さ〜ん!」
「直江〜!!」

まだ夕方だけど橘家のご夫婦はリビングの床で燃え上がってる真っ最中。
テンションおかしくなってる夫婦は今からリビングでエッチします!!覗けるもんなら覗いてみろ〜!
どんなに占いの相性が悪くたって、オレと旦那さんは超超超超超超超愛し合ってんだから怖かねえ!!

 

 

 

「美弥が思うに」

翌日、なぜか大人しくお上品にウチにやってきた美弥。ケーキと紅茶でハイソな午後をサンルームで過ごしている。

「美弥は占い信じない方だからお兄ちゃんと義明さんの相性なんか知ったこっちゃねえよと思ってるんだけど」
「そうもいかないんだよ……なにをやっても相性最悪なんだもん」
「教えてあげようか?どうして悉く相性が悪い占い結果になる理由を」
「お、教えてくれ!」
「見料1000円でございます〜」

美弥に1000円渡して教えてもらったところ。

「世間一般の恋愛占いは『オトコとオンナ』だからだよ〜」
「ええっ」

そうか!オレと直江はオトコ同士だ!!

「星占いとかで出る相性は性別も関係してくるからね〜。お兄ちゃんが女の子になりきって占うか〜、または霊感占いやタロット占いでやってもらえば本当のことがわかるかもよ〜?」

さすが美弥!!恋愛に関してはマエストロだ!!強い味方がいたもんだ!!

「セッティングもお任せならさらに1000円だよ。い〜い占い師揃えてますぜえ」
「頼む!!」

いい妹を持ったもんだ。すぐに有名占い師に電話して予約を取ってくれた。
直江が帰ってきてすぐに「占いしに行こう!」ってことになって、美弥の案内で占いの館へ。

「美弥のオススメの占い師さんはこの人なの!」

男性の占い師で、ちょっと派手な恰好をした手品師のような感じだ。

「当たるのか?」
「当たるって有名だよ」

それで直江と2人で入ってみたら、顔を見ただけで「あら、ご夫婦なのね」と言われた。
ここはもしかしてオカマの占い師ってことか?

「うちはねえ、姓名判断や生年月日なんか関係なく、あなたたちの根っこの部分で相性を占うから、今まで試した占いのことはぜ〜〜〜〜〜んぶ忘れてちょうだいねっ」
「はい!!」

タロットカードで占うらしく、カードをまぜまぜしてからサッサッサと配置してそれでもう終了らしい。
タロットカードなんて初めて見た。こんなんでわかるのかな〜?

「これ!コインのキング!これが旦那さんね!それと〜、これ!カップの女王!こっち奥さん!」
「……相性は……?」
「悪くないわねえ。コインのキングはお金持ちの男性、お金に関して強い男性。で、カップの女王は母性のある幸運を運んでくる人!もうこれだけでご夫婦は幸せよ!しっかりした旦那さんが稼いできて、優しい奥さんが旦那さんに幸運を運んでくるんだもの!それにほら、見て〜」

周りにあるカードには「赤ちゃん」だの「直江のお父さん」だの「口煩いけどいい友達」だの「愛情満載の家族」だののカードがオレと直江を取り囲んでるらしい。

「てゆうことは?」
「今の私たちが結婚しているのは当たり前、ってことでは?」
「まー、旦那さんが言った通りね。他では相性が悪くても、こうして霊感や宇宙の力を使って占うと逆に相性が最高になるときもあるのよ〜。すごいでしょ〜」

すげー!!
怪しい占い師だけど言ってることは全部当たってるからすごい!!

「本やらネットやらの占いってのはね、全部『確率』なの。だから基本的には当たるんだけど、足りないわけ。そこでタロットの出番なのよ。何が足りないのかを補填するの」
「オレたちは何が足りなかったの?」
「男同士って部分が足りなかったのよぅ」

なーんだ、やっぱそうかー!!

「相性いいって、直江!!」
「そうでしょう、私と高耶さんなんですから」
「良かったわね〜。じゃあ見料5000円」

5000円で幸せが買えたんだったらアリだよな!直江、出しておいて!

「はい5000円です」
「毎度アリ」

やっと!やっとオレと直江の相性が最高だってゆう占い結果が出た!!
やっぱ奥さんは橘先生とじゃないと幸せになれないんだな〜。しみじみ。

「お祝いのお酒飲んでエッチしましょうね」
「うん!!」

美弥にもプラス1000円のお小遣いを渡して帰らせた。
オレと直江はちょっとオシャレなダイニングバーというところで夕飯&お酒。
たくさん食ってちょっとだけ飲んで、直江と一緒に帰宅。

「脱いでいい?」
「ええ、美味しい奥さんをください」
「もー、直江はエッチだな〜」

すんごい楽しい夜になった。占いの先生ありがとう!!

 

 

「よしあ……橘先生!これ見て!」
「なんですか?新聞?……この逮捕された人って……この前の占いの……」
「詐欺師だったみたい……」
「高耶さんには黙っていましょうね……」
「うん……」


END

 

 
   

あとがき

占いなんか気にするなー!
奥さんと旦那さんは一生
仲良しのままだー!

   
   
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