奥様は高耶さん



第48


お花見とオレ

 
         
 

 

正月もバレンタインもホワイトデーも素っ飛ばして春になった。
いつのまにか春になってるなんて時間が進むのは早いもんだな〜。

そんなオレに春ならではの連絡が来た!

『俺と森野さんで高校んときの友達だけでお花見しようって話になったんだけど高耶も来ない?』

オレの親友、ザ☆成田譲から電話でお花見に誘われた。行くに決まってんじゃん!

「他に誰が来るんだ?」

仲が良かった男子6人と女子4人だそうだ。詳しく聞いてみたら森野が譲にメールして企画したそうだ。
まだ譲のこと好きなのか。鈍い譲のことだから何度アプローチしてもわかってないんだろうな。可哀想に。

『さくら公園の桜並木だからね。着いたら俺に電話して。森野さんと場所取りしておくから』
「うん、わかった」

そんなわけで今度の日曜日は朝からお花見になった。
電話を切ったら聞き耳を立ててた旦那さんが聞いてきた。

「日曜日、どこか行くんですか?」
「うん、お花見。譲とか森野とか新発田とかと」
「……橘先生は誘ってもらえないんですか?」
「また〜」

直江はオレの外出にすぐ着いてきたがる。それが学校がらみだと元担任なんだからいいじゃないか、ってしつこく食い下がる。
今回もメンバーが誰かを聞いてきて、全員が橘学級だと知ったらネチネチとしつこかった。

「去年譲にハッキリ言われただろ。橘先生と出かけるのは嫌だって」
「それは旅行の話でしょう?お花見だったらいいじゃないですか。高校の時の先生とお花見なんてそうそう経験できませんよ?」
「若者の中に中年が一人なんて、直江だって楽しくないじゃんか」
「高耶さんがいればどこだって楽しいですよ」

そう言われるのは嬉しいけど、だからって同級生とのお花見に直江を連れて行けるわけがない。
直江が参加していいのはクラス会と同窓会だけだ。

「とにかくダメ。もう人数も決まってるし」
「……そうですか……」

素直に諦めたかと思ったら、顔が悪人みたいになってた。

「乱入するつもりじゃないだろうな……?そんなことしたら家庭内別居だからな」
「……諦めますよ」
「まったくもう」

オレの旦那さんは奥さん大好きでいい旦那さんなんだけど、変なところが子供で困る。

 

 

お花見当日、持ち寄りのお弁当を作ってバスに乗って桜の名所、さくら公園まで。
電話で聞いた場所を探して、花見客のにぎやかな宴会を見ながら歩いて到着したら。

「あれ?高耶くんじゃないか!」

森野の背後に照弘お義兄さんが。

「……な、なんで?」
「場所が隣りなんて偶然だねえ!」

みんながオレに「誰?」と聞いてくる。誰ってオレの旦那さんのお兄さんだけど……。

「親の知り合いなんだ。ね、おに……照弘さん!」
「ん?ああ、そうだそうだそうだ」

なんで3回も言うのかわからないけど合わせてくれてるらしいから大丈夫。たぶん。
でもお兄さんがいるってことは……?
もしやあのうるさい姑のババアがいるのかと目で探してみたけどいなかった。
来てないってことかな?

「照弘さん、ええと、あの、お、おばさんは?」
「うちの母さんか?来ないよ。今日は友達だけで花見に来てるから」
「そっか……良かった……」

とりあえず同級生には何も聞かれなくて、お兄さんも気遣ってくれて挨拶しただけで済んだんだけど、みんなで楽しく食ったり飲んだり喋ったりしてるとたまに会話が止まったりする。
なんでいきなり黙るんだろうと思ったら、みんなチラチラと隣りの場所で飲んでるお兄さんを見る。
不思議に思ってたら一人がこう言った。

「あの人の声さ、橘先生にそっくりじゃないか?」
「へ?」
「聞こえてくるとつい橘先生じゃないかと思って見ちゃうね〜」

そうか!!そうだった!!
お兄さんと直江の声は超似てるんだった!オレが間違えて電話でエッチな話をしちゃったぐらい似てるんだ!
冷や冷やしてたら譲がこっそり耳打ちした。

「もしかして橘先生の家族?」
「……お兄さんだよ……」
「あー、よく見ると顔も似てるね……」

まだバレそうにないし、お兄さんもこっちに割り込んで来ないから大丈夫なんだけど……なんか怖い。
だからって今さら場所を変えるわけにはいかないし、オレが取り繕ったりしたら逆に怪しまれるし、どうしたらいいんだろう?

「知らん振りしてなよ」
「そうする……」

みんながちょっと酔ってきたら会話が止まることも少なくなってやっと安心した。
このまま押し切るのがいいと思う。
と、思ってた所にオレの可愛い弟の声が。

「にーに!」
「しゅ、俊介!何してんだ?!」

オレに抱きついてきたからどうしたのか顔を上げると実家の母さんと父さんがいた。背後のお兄さんに挨拶してるとこだった。
ビックリしてたら父さんが気が付いて友達にも挨拶した。どうやら3人で桜見物に来たらしい。
偶然が重なりすぎじゃないか?

「もしかして仰木くんの弟さん?!」

みんなが興味津々で俊介を見てる。特に女子が。

「う、うん」
「可愛い〜!!」

女の子大好きな俊介は可愛い可愛いって言われてデレデレしてる。
森野に抱っこされそうになったけど、そんなことしたら俊介は絶対離れないからダメだ。すっぽんも真っ青なぐらい離れない。

「ほら、俊介。母さんとこに戻れよ」
「ちゅんちゃん、にーにとお菓子食べるの」
「今度な、今度。今は母さんとこ行ってろ」

まだお兄さんと立ち話してる母さんに俊介を押し付けた。お兄さんが直江と兄弟なのがバレない限りはオレの家族がいても大丈夫なんだけど、うっかりってこともあるだろ?
だから早めに立ち去って欲しい。

「兄ちゃんはお友達と一緒だから俊介はまた今度な?」
「ぶ〜」

両親と俊介が去って安心したけど、こういう時は偶然が重なるもので……。
次に来るとしたら旦那さんが来そうな予感。
いやいや、そんなに都合よく旦那さんが登場するわけないか。でもこれから登場するのがお義母さんだったり、直江の家族とも交友がある千秋だったりしたら取り繕えないぞ。
もう誰も来ませんように……!!

ドキドキしてたら新発田がほっぺをほんのりピンクにしてオレの隣りに来た。

「仰木くんはお酒飲まないの?」
「あ、うん、苦手だからウーロン茶で」
「少しだけでもダメなの?」
「うーん、まあ少しなら……」

缶のチューハイを渡されて少しだけ飲んだ。まあこのぐらいなら酔わないからいいかな。
せっかくのお花見なんだから楽しまないと!!余計な心配してたらせっかくの桜がもったいないよな!!

「じゃあちょっとだけ」

直江に『お兄さんと席が隣りだから絶対来るな』ってメールをしてから飲んだ。返事は『わかりました』だったから、ピンチと紙一重なのを理解してくれたらしかった。
これで心置きなく飲める……ような気がする。

 

 

 

「た……高耶、もうやめなよ」
「なんれ?」
「呂律が回らなくなってるじゃんか」

2缶目のチューハイで気持ちよくなって、それからなんとなーく歯止めが利かなくなってきて、今は日本酒が目の前にある。
それほど酔ってないのに譲は心配性だな〜。

「だから脱ぐなっての!」
「え〜?だって暑いじゃん。上着ぐらいならいいだろ」
「それ上着じゃないし!シャツだし!」
「む〜」

せっかく楽しくなってきたっていうのに!!譲め!!

「ごめん、仰木くん、本当にお酒ダメだったんだね。ごめん!」
「新発田が謝ることないぞ〜。オレはお酒全然飲めるから大丈夫!」
「……成田くん、どうしよう……」

何がどうしようなんだ?オレは酔ってないぞ!!チクショウめ!!
それから日本酒ワンカップを飲んでもっといい気持ちになった頃。

「仰木くん、大丈夫ですか?」

目の前にいたのは愛しい旦那さんだった。

「……なんで先生がいんの?」
「偶然通っただけです。そんなに酔ったら一人で帰れないでしょう?」
「う〜ん、帰れないかも」
「じゃあ先生が送ります」

えーと、今日は友達とお花見で、隣りの場所にはお兄さんがいて、直江はいないはずで……。

「さあさあ、帰りましょう」
「高耶、またな〜。ちゃんと先生の言うこと聞いて帰るんだぞ」
「うーい」

なんだかわからないうちに公園の外に停まってた直江の車に乗せられて家に到着した。

「人前ではお酒はほどほどにって言ったでしょう」
「うるさーい!オレが飲んで何が悪いってんだ!」
「はいはい、飲んでも悪くないですよ。じゃあちょっと休んでください」
「……チューは?」
「後でしますよ」

寝室に連れて行かれて寝かされた。なんで寝なくちゃいけないんだ。
オレはまだ眠くないぞ!!

「眠くない!」
「……もう家ですから好きにしてください」
「じゃあチューだ!」

直江に抱きついてチューしたら、なんかホンワカしてきてシャツが邪魔で脱いだ。ジーンズも邪魔だ。
ぱんつも邪魔。

「なんで外で裸になっちゃいけないんだよ?」
「そういう法律なんですよ。日本は」
「だからなんでだ?」
「……高耶さんが色っぽくなりすぎて襲われるからです」

股間がホンワカしちゃったオレとベッドでムニャムニャなことになった。
今日はキレイな桜も見れて、旦那さんのエロい顔も見れて満足満足。

 

 

目が覚めると家の寝室だった。

「なんで裸なんだ……?それにこのお尻の異物感は……」

エッチした後としか思えないこの感覚。いつ帰ってきていつ直江とエッチになったんだか憶えてない。
とりあえず服を着て直江がいるであろうリビングに行ってみたら直江のお兄さんがいた。

「お邪魔してるよ」
「えっと……?」

確かお義兄さんは公園のお花見でオレたちの隣りにいて……。

「お花見は?もう終わったんですか?」
「明日は仕事だからね。夕方前には解散したんだよ。高耶くんこそあんなに酔ってたけど大丈夫?」
「うん」

あんなに酔ってた、ってどのぐらい酔ってたんだかわからないけど、直江とエッチできるぐらいなんだから大丈夫だったに違いない。

「でももう人前で飲まない方がいいよ」
「え?なんで?」
「女の子が困ってたじゃないか。肩組んだりして。新発田さんとか言ったっけ?」
「……ええー!!そんなことしたの、オレ!!」
「記憶がないのか。これはちょっと危険だな」

隣りに座ってる直江の視線が痛い。ヤバイよ、マジで。後で超怒られるよ。

「今度からは義明がいる時だけ飲むようにね」
「うん……」
「あとお酒飲んだら脱ぐ癖も直さないと」
「…………はい……」

見られてたのか……なんでオレはお酒飲むと脱いじゃうんだろう?
これも直江に怒られるんだろうなあ……。

お義兄さんはオレにウコンのサプリをくれてから帰って行った。
心配かけちゃって申し訳ない。今度、お義兄さんにお礼しなきゃ。

「高耶さん?」
「う」
「新発田さんと肩組んだんですか?」
「さあ……?憶えてないし……」
「こっちにいらっしゃい」

いつもだったらオレが直江に正座させて叱るんだけど、今日は逆だ。二人で床に正座してお説教だ。

「外でのお酒はほどほどに、って前から言ってますよね?自分に脱ぎ癖があるのも知ってますよね?それなのになんで記憶がなくなるまで飲むんですか」
「……だってせっかくのお花見だったから……」
「その気持ちはわかりますけど、酔わない程度にしておかないとダメでしょう?」
「う〜」
「女の子と肩を組むなんて浮気されたようで悲しいですよ」
「浮気はしないもん」

だってオレは直江一筋なんだから。旦那さんしかラブじゃないし、エッチだってしたくないし。

「私が酔って山本先生と肩組んでたらどう思いますか?」
「ダメ!直江はオレしか触っちゃダメだ!」
「そうでしょう?もう二度と女の子と飲まないでください」
「わかった……」

やっとお説教が終わってチューしてくれた。

「直江〜」

甘えて抱きついたらギューしてくれて、オレたちがラブなのを確かめあった。
もう二度と直江を悲しませないぞ。

「あのさ、オレ、みんなの前で脱いだってどのぐらい脱いだのかな?」
「成田くんが言うにはシャツを脱ごうとしたところで止めたそうですよ。もし本当に脱いでたら昨日の夜に旦那さんにつけられたキスマークが見られるところでしたね」
「そっか!それヤバいよな!気をつけなきゃ!!」
「これからは旦那さんと二人の時しか飲まないんですから気をつけなくてもいいですよ」
「うーん、じゃあ……」

もう一回チューして言ってやった。

「夕飯の後で一緒に飲む?」
「……はい!!ぜひ!!」

今日は酔って記憶がないままエッチになったみたいだからなんかもったいなくて、もう一回したい。
夕飯の後の晩酌は記憶がある程度に抑えないと。

「直江、大好き」
「私もです、高耶さん!!」

今日は色々あったけど最終的にはいい日だな♪

 

 

それからエッチが終わった後で、お花見したメンバーの友達からオレと新発田が肩組んで仲良く写ってる写メが送られてきて、直江がそれを見ちゃったもんだから大変だった。
オシオキです、って言われて腰が痛くなるまでエッチが続いた。
もう二度と人前で酒は飲まないぞ!!
……でもたぶん飲んじゃいそう。

 


END

 

 
   

あとがき

久しぶりなので
バカップルの感覚が
なんか変な気が・・・
奥さん酒乱ぽいです。

   
   
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