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奥様は高耶さん



第50


母の日とオレ

 
         
 

 

すっかり忘れてたけど、ザ☆母の日だ。
土曜の夜は直江といっぱいエッチしたから、日曜は朝寝坊をしようと二人で決めてスヤスヤ寝てたらオレのケータイに電話があった。

「う~、誰だ、こんな朝早くから~」

ベッドサイドにあるオレのケータイをまだ半分睡眠状態の直江が取ってくれた。
ディスプレイには『実家』の文字が。

「母さんか……。くそ、オレの睡眠を妨げやがって……」

通話ボタンを押して耳にあてるとテンションの高い母さんの声がした。

「……なんだよ」
『今日はなんの日でしょう!』
「知らない」
『親不孝者!母の日でしょ!』

あ、そうか。忘れてた。

『あとでプレゼント持って来なさい!』

ブチッ。ツーツーツー。
え~!言うだけ言って切りやがった!

「誰ですか?」
「母さん。母の日だから何かくれって」
「……ああ、そういえば」

母さんは誕生日やクリスマスはもちろんのこと、○○の日、みたいな記念日にプレゼントをあげないと嫌味を言ったり嫌がらせをしたりする。
だから母の日にも美弥と一緒に何かしらプレゼントをしてた。
結婚してからも直江とオレでお菓子や花を贈ってたけど、今回はなぜか忘れてたんだな。
たぶん不景気でテレビでもあんまり母の日特集がやってなかったせいだと思う。

「どうします?」
「後でジャスコ行って何か買うか」
「そうしましょう」

目が覚めたついでに起きて朝ごはんを食べることにした。
日曜の朝は毎回寝坊するって決まってるからトーストとハムエッグしか作らない。
奥さんだって日曜ぐらいは手抜きしたいんだよ。世の中の奥さんも旦那さんに気を使って日曜の朝まで頑張ることないんだぞ。
結婚直後から教育して日曜の手抜き朝ごはんは普通だってことを教えるべきだ。

「たまには私がしましょうか?」
「何を?」
「朝ごはんの準備を」
「なんで突然そんなこと言うんだよ」
「母の日ですから。高耶さんは俊介さんのもう一人のお母さんみたいなものでしょう」

確かに。
父の日や母の日はあるのに『お兄ちゃんの日』はないもんな。

「じゃあ頼む」
「はい。せっかくですから今日は私が全部しますよ」
「マジで?う~、直江超好き!」

抱きついてチューしてから手を繋いで1階へ。
直江がキッチンに立ってるところをリビングで牛乳飲みながら見てた。
旦那さんは何をしててもかっこいいなぁ。ああ、惚れ惚れする。

オレの視線に気が付いた直江が振り返ってちょっと顔を赤くしながら言った。

「そんなに見ないでください」
「え~、かっこいいのに~」
「気恥ずかしいからテレビでも見ててくださいよ」
「はーい」

またに直江の方をチラチラ見ながらテレビ番組を見た。テレビより旦那さんを見てる方が絶対楽しいのに。
超ガン見したい~。
直江だってオレが作ってるとこよく見てるじゃんか~。

そうこうしてるうちに朝ごはんが完成した。
直江に呼ばれてテーブルに行くとうまそうなハムエッグが出来てた。半熟でジューシーなハムエッグ。

「料理上手くなったな」
「高耶さんに教えてもらったおかげです」
「エヘヘヘ」

食べる前にもチューしてからいただきますだ。
橘夫妻は今日もラブラブ。

「いただきまーす」

直江はハムエッグに塩と胡椒を少しかける。オレはしょうゆをひとさし。

「前から思ってたんですけど、ハムエッグにしょうゆってしょっぱくないんですか?」
「ちょっとしょっぱいけどうまいよ。直江もやってみたら?」
「……いえ、私は……」

そう言った時の直江の顔が嫌悪感を表したような感じだった。奥さんにそんな顔するってどうなんだ?

「なんだよ。言いたいことがあるならハッキリ言え」
「ありませんよ」

オレの勘違いだったらしい。奥さんが好きなハムエッグしょうゆ味を旦那さんがイヤがるわけがないよな。
いつもオレの料理をおいしいって言ってたくさん食う旦那さんがそんなわけないか。

「直江のハムエッグ超おいしい♪」
「ありがとうございます」

ニコニコしながら朝ごはんを食べた。

 

 

満腹になって少し食休みしてから車でジャスコへ。
婦人服売り場でセールになってた春用ストールの水色を選んでみた。2500円也。

「どう?これでいいと思う?」
「ええ、高耶さんのお母さんは水色似合いますしね」
「じゃあレジ行こう」
「あ、待ってください。うちの母にも何か買いますから」

あの姑に贈り物か……オレの点数を上げるためにもこれはいい作戦だ。

「高耶さんのお母さんと色違いのものにしましょうか」
「まあ、それが無難だよな。同じものなら後で文句言われないだろうし」

母さんと橘のお母さんはよく会ってるみたいだから、母の日のプレゼントで差がついたらオレにまた意地悪をするかもしれないからな!いや、かもしれないじゃなく、絶対するに決まってる!

「じゃあ母さんに渡したらそのまま直江の実家に行こう」
「いいんですか?」
「嫁として点数稼いでおかないと!」
「なるほど」

一緒にレジに並ぼうとしたら直江がトイレに行きたいから駐車場で待ち合わせしようって言ってきた。
お金を直江にもらってレジに行き、ラッピングしてもらってから駐車場へ。
直江も後から合流して、そのままオレの実家に行った。

インターフォンで開けてもらって玄関に入ると俊介が飛び出してきた。
なんかおめかししてるような気が。

「にーにもいく?」
「何に?」
「どうぶつえん」

それでおめかししてるのか。

「兄ちゃんは行かないよ」

母さんの待つリビングに行って直江と一緒にプレゼントを渡した。
セールのストールなのに喜んでくれたから一安心だ。セール品だってことがバレバレだったらまた何かを請求してくるからな!

「これから動物園なんだろ?それ持って行けば帰りに寒くなっても平気だと思うけど」
「そうね。せっかくだからそうしようかしら。ありがとね、高耶、義明くん」
「どういたしまして」

出かける準備が整ったから一緒に玄関を出て、動物園まで送って行くことにした。30分もあれば到着するんだからこのぐらいの孝行はしてやってもいい。
チャイルドシートも完備してるから大丈夫だ。

「母の日に家族で行くとお母さんのぶんの入場料がタダなんですってよ」
「それで行くのか。俊介は何が見たいんだ?パンダか?」
「ぞうさん!!」

一瞬空気が凍り付いてから父さんと母さんで大爆笑した。
それから聞かなくてもいいのに父さんが俊介に聞いた。

「俊介、象さんのお鼻はどれぐらいあるんだっけ?」
「このぐらい!」

さらに大爆笑だ。オレと直江は耳まで真っ赤になってるっつーのに!

「その話はやめろ!やめないとここで降ろすぞ!!」
「すまんすまん」

全然すまんなんて思ってないくせに!!ムキー!!
たまに思い出して父さんと母さんがプッと吹き出して、そのたんびにオレが振り向いて威嚇してを繰り返して動物園に着いた。
その間ずっと直江は無言だ。

「じゃあ象さん見てくるからな!見送りありがとうな!」
「早く行け!!」

二人きりになった車内で直江は情けない顔をして泣きそうになってた。

「気にしちゃいけませんよね……」
「うん……」

気を取り直せないまま今度は橘家に。
どうか象さんの件は直江母が知りませんように……。

「おかえりなさい、義明!」
「お母さん、おかえりなさいじゃないでしょう。もう別世帯なんですよ」
「そんな寂しいこと言わないでちょうだい」
「お義母さん、こんにちは」
「……あら、いたの?」

またこれだ!!このババアは毎回これ言わなきゃ気が済まないのか!!

「当たり前です。私と高耶さんは夫婦なんですから」

お義母さんの嫌味を普通に返した旦那さん。たぶんこれが嫌味だってのがわかってないから普通に返事するんだろうが、オレにとっては大問題だってことを少しは頭に浮かべて欲しい。

「入ってちょうだい」
「お邪魔します」

オレもお邪魔しますって言ってから入ったんだけど、直江に聞かれないように「本当に邪魔ね!」って耳元で囁かれた。
くっそ~、ババアいつか覚えてろ!!

法事が終わって休憩してるお義父さんのいる居間に入って挨拶をしてからプレゼントを渡した。

「私と高耶さんからです。母の日の贈り物ですよ」
「まぁありがとう、義明!開けてもいい?」
「ええ」

オレにもありがとうって言えよ!!

開けて出てきた薄紫のストールを嬉しそうに肩にかけて「似合うかしら?」と言った。

「似合いますよ。ね、高耶さん」
「はい」
「大事にするわね、義明」

だからオレにも言えっつーの!!

上辺だけ和やかに話してたら直江が、

「俊介さんのもう一人のお母さんということで、今日は高耶さんにも母の日を味わってもらってるんですよ」

と、言った。
余計なことを!

「朝は私がハムエッグ作ったんです。けっこう上手く焼けました」
「ほう、義明も料理が出来るようになったのか」
「高耶さんが少しずつ教えてくれたので」
「夫婦円満で何よりだ」

お義父さんはこう言ってくれるけど、その横にいるババ……お義母さんは苦虫を噛み潰したような顔をしてる。
どうせ「旦那様に作らせるなんて!」とか言いたいんだろ。

「毎日外で働いている旦那様に作らせるなんて嫁として失格ですよ、高耶くん。いくら旦那様がそれでいいと言ってもやらせるものではありません」
「いいんですよ、私がしたかったんですから」
「そういうことじゃないのよ、義明」

じゃあどうゆうことだ!!

「高耶さんにもたまには家事を休んでもらいたいんですよ」
「でもねえ……」
「いいじゃないか、義明がやりたいと言ってるんだから。ハムエッグが作れるなんて義明も進歩したもんだな」
「はい」

それからお義父さんがハムエッグ論を話し出した。
半分ぐらいはハムの味で食べて、あとの半分はしょうゆを垂らして半熟な黄身を食べるのがいい、と。

「オレもしょうゆかけます」
「おお、そうか。あの微妙な量が難しいんだよな」
「そうそう!」

お義父さんとは気が合うな~って嬉しくなったら……

「わたくしはおしょうゆのハムエッグなんて嫌いだわ。せっかくの卵の味が消えてしまうじゃないの」
「何言ってるんだ。卵としょうゆは相性がいいんだぞ」
「それはお父さんだけですよ。うちの子供たちはみんな塩コショウじゃないの。義明もおしょうゆのハムエッグは嫌いだったわよね?」

……おいおいおいおい。
初耳だぞ、それは。
じゃあ今朝のあの嫌悪感な顔も本当だったってことだよな。

「幼稚園のころだったわよね。お父さんが義明のハムエッグにおしょうゆかけたら嫌いって言って泣いたぐらいですものねえ」

泣くほど嫌いだったのか……じゃあオレがしょうゆで食ってたのを気持ち悪いと思ってたんだな……?

「お、お母さん!!」
「旦那様の好みも把握していないお嫁さんなんてダメねえ」

それを言うなら自分はどうなんだ!お義父さんはしょうゆで食うって言ってるのに!
自分のことは棚に上げやがって!!
くそー!!

「うう……」
「帰りましょう、高耶さん!もう渡すものは渡したんですから!」
「ううう~……」

やっと直江も気が付いて、お義父さんに送り出されて車に乗った。お義父さんはオレに何度も謝ってたけどババアはまったく反省の色なしだ。

「うあ~!」

半泣きのオレを宥めながら運転して家に。
玄関でチューしてギューしてくれたけど、なかなかお義母さんの嫌味に気付いてくれなかった旦那さんの胸をポコポコ叩いて怒った。

「直江だってしょうゆハムエッグのオレをダメって思ってたくせに~!」
「思ってませんよ!人それぞれなんですからいいじゃないですか!」
「嘘だ~!直江はオレより塩コショウのお義母さんが大事なんだ~!」
「高耶さんが一番に決まってるでしょう!」

しばらくそんな感じで泣いたり怒ったりしてた。その間も直江はチューしたり愛してますからって言ってくれたりして、どうにかオレも泣きやんだ。

「本当にしょうゆでもいい?」
「いいですよ。今度は私もやってみます。奥さんが好きなら私も頑張って好きになります」
「なおえ~」

リビングでギューして落ち着いたら直江がポケットから何か出した。

「うちの可愛い奥さんへ母の日のプレゼントです」

小さい包み。ストールを包んだのと同じのジャスコの包装紙だ。

「なに?」
「開けてください」

開けてみるとオレが欲しがってた銀製ストラップ。ジャスコの映画館で売ってる限定グッズだ。
高いから買えなくて諦めてたやつ。
でも同じのが2個入ってた。

「なんで2個?」
「旦那さんとおそろいですよ。1個は高耶さんから私にプレゼントしてください」
「そっか」

嬉しくてまた抱きついてチューした。
旦那さんが嫌いなしょうゆハムエッグを食う奥さんに、こんなに優しくしてくれるなんて……

「直江、超大好き!!」
「私も大好きです」
「超だぞ?!」
「超ですよ」

一緒に携帯電話につけてラブラブな時間を過ごした。
今日は直江がずっと優しくしてくれるんだな~。母の日っていいな~。

でも夕飯にもハムエッグが出てきた。朝も夜もハムエッグって……?

「しょうゆで食べます!」
「…………超ラブだ!!!」


END

 

 
   

あとがき

しょうゆもうまいが
塩コショウもうまい。

   
   
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