奥様は高耶さん |
||||
夕方のニュースで特集がやってた。 母の日は直江が家事やってくれたり欲しかった携帯ストラップ買ってくれたりした。 ……でもオレ、直江に何か買ってやる小遣いがもうない。 6月は連休もないし、誰かの誕生日もないし、友達と宴会やるイベントもなかったし……なんて思ってたから漫画を大人買いして、夏に向けての服も買っちゃった。 「う〜、どうしよう……」 家事はいつもオレがやってるから家事交替なんか意味ないし、直江の代わりに何かやれることがあるとすれば洗車ぐらいしかない。 直江が喜ぶもの……最近貰って喜んでたのは何だろう……。 全然思いつかないまま翌日の土曜になった。 「何描いてんだ?」 青いクレヨンでグシャグシャに描かれてるのがオレだそうだ。 「そうだ!俊介、おまえ直パパ描けよ!」 新しい画用紙を渡すと黄土色のクレヨンでグチャグチャ描き出した。 俊介の絵で直江をいい気分にさせて、そこですかさずオレが100円ショップで買った靴下詰め合わせ300円ぶんをラッピングしたやつを渡す! 「俊介はいい子だな〜」 そうと決まったら帰りは100円ショップに寄って行くか!!
100円ショップにて計400円で靴下とラッピングセットを買ってプレゼントっぽくした。 見られないようにベッドの下に入れて階段を下りたら直江がちょうど帰ってきた。 「おかえり〜」 チューしてからくっついていつものように直江の匂いをクンクンした。 「今から夕飯作りですか?」 さっき降りてきた階段をまた上がって、旦那さんの着替えを持って脱衣所に置いた。 夕飯が出来上がらないうちに直江が風呂から出てきた。 「まだ出来てないからもうちょっと待ってて。ビールでも飲めば?」 自分で冷蔵庫を開けてビールを用意して、それから録画しておいた歴史番組をテレビで見始めた。 まあ大人しくテレビを見てくれればこっちも助かる。 「直江、ご飯出来たよ」 こういう直江は宇宙人に見えてくる。 「……じゃあリビングで食うか?」 ダイニングテーブルに乗った完成品をリビングのローテーブルまで運んで夕飯になった。 「いつも歴史探訪はイヤだって言いますけど、付き合う前には毎月行ってくれたのはなんだったんですか?」 食べてる間に歴史番組が終わって、食後のお茶を飲みながらソファでイチャイチャした。 「オレもそろそろ風呂入ってくる」 今は夜の8時半。 「エロ教師」 チューしてからオレはお風呂。
次の日は日曜だから朝10時に起きた。 だから直江もオレも今朝は体がだるいけど気分は晴れ晴れしてて、ベッドの中でしばらくイチャイチャしながらいろんな話をしてた。 「学校は高耶さんが卒業してからはやっぱり何か物足りないんですよね」 こんな話ばっかりで30分ぐらい。それでもオレたちは幸せでしょうがない。 「そういえば俊介さんは元気なんですか?」 何がなんだかわからない直江を置いて一人で着替えてキッチンに。 「ごちそうさまでした。高耶さんのハムエッグは本当にいつもおいしいですね」 よしよし、直江の機嫌は超いいぞ。今がチャンスだ。 「今日は直江が作ったミルクティーが飲みたいな〜」 直江が作ってる間に自分の部屋から靴下と俊介の絵を出してリビングに戻った。 「なあ、今日なんの日か知ってるか?」 先に絵を渡して超浮かれるところに靴下を出す。いい作戦だ。 「なんですか?」 お菓子屋さんのリボンを解いて直江が絵を広げた。あの黄土色の。 「なんの絵だと思う?」 直江って本当に俊介のこと息子のように思ってるんだな〜。嬉しそうだ〜。 「そうですか、直パパの絵なんですか……私に父の日が来るなんて思ってなかっただけに嬉しいですね」 絵を見ながら目をウルウルさせて感激してる。 「俊介さんは今日は家にいるんですか?」 ラッピングを解いて靴下3足を見た。 「ありがとうございます」 嬉しそうな顔でチューをしてくれた。 俊介の絵はいつでも目に入るリビングの壁に貼った。きっと直江はこれを見るたんびにウルウルするのかも。
父さんと俊介が帰ってきたって連絡が母さんから来て、直江と2人で実家に行った。 「俊介さん、直パパの絵を描いてくれてありがとう。上手に描けてて直パパは嬉しかったです」 ギュッと抱いて頭を撫でる。 「ついでだから夕飯も食べて行けば?」 日曜なのに珍しく美弥もいた。彼氏は今日は大学野球の練習試合で他県に行ったから会えないとかで。 「美弥もお父さんにプレゼントしたんだよ」 そう言って父さんは焼酎のビンをテーブルの上に自慢げに出した。 「探すのに苦労したんだからね。ちゃんと飲んでよね」 父さんと直江が飲みだした。直江も飲んでみたかった焼酎らしく嬉しそうだ。 「お母さんからもちゃんとお父さんにプレゼントあるわよ」 たま〜にデパートに行くと直江が買おうか買いまいかいつも悩んでるやつだ。 「美弥が焼酎をあげるって言うから、じゃあおつまみにカラスミをと思って〜」 みんな見てるのに父さんと母さんはチューをした。珍しい光景じゃないけど直江は見慣れないからビックリしてる。 「高耶からはないのか?」 父さんはオレにだけカラスミをくれなかった。高級な食べ物だから食ってみたかったのに〜!ケチ!!
「おいしかったですねぇ、焼酎もカラスミも」 帰り道を歩いてたら、ちょっと酔った直江が笑いながら言った。 「高耶さんのお父さんは家族みんなの人気者なんですね」 オレの父さんのようになるってことは、超オープンで超フリーダムなアホな男になるってことだぞ? 「奥さんからも娘からもあんなに慕われて……お父さんが欲しかったものをちゃんと憶えてもらえてて、しかもそれをプレゼントされるなんて、幸せですよねぇ……」 なんとなく不穏な空気が流れてるように感じるのはオレの気のせいだろうか? 家に着いて直江は壁に飾った俊介の絵を見て、それからリビングに置いてあったオレからの靴下を見た。 「高耶さん」 もう小遣い400円しか残ってないからなんも買えないぞ。 「何が欲しいんだよ」 エッチ券?!なんだそりゃ!! 「そんなの貰わなくてもちゃんとエッチしてるだろ!」 全力で断ったら床に座って拗ね始めた。 「高耶さんの愛は100円ショップの靴下3足程度のものなんですね……」 げ!100円ショップってバレてる!なんでわかったんだろう! 「愛は金額ではありませんけど、なんだか悲しいですよ。……エッチ券ならお金もかからないし、愛情満載でステキなプレゼントだと思ったんですが……そうですか、ダメですか……」 くそ〜!なんかうまく丸め込まれてるような気がするけど反論が出来ない!! 「わかった!エッチ券だな!待ってろ!すぐ作ってやる!」 家電話のそばにあったメモ帳が残り20枚ぐらいだったからそれに全部『エッチ券』とペンで書いて直江に渡した。 「ありがとうございます」 ニヤリと笑った顔を見て気が付いた。 「愛してますよ、高耶さん」 それでも直江しか旦那さんになる人はいないけど! 「来年からは父の日やんない!」 やんない!!
END
|
||||
あとがき |
||||
ブラウザでお戻りください |
||||