奥様は高耶さん |
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お客さんが来た。 普段あんまり会わないからたまには嫁同士でお昼ご飯でも食べようってことになって、3人で駅前のレストランランチをしてから我が家に呼んだ。 「いつ見てもステキな家よね〜」 照弘さんのお嫁さんの嫁子(仮名)さんと、義弘さんのお嫁さんの嫁美(仮名)さんはリビングの中を色々見て回ってステキステキと繰り返した。 「でもウチが一番狭いじゃん。お義姉さんたちの家は家も庭も広いし、もっと豪華な感じなのに」 嫁子さんがオレの方を見て言った。 「うちは広いけど建ててから20年近いからちょっと時代遅れな感じなのよね」 それから嫁美さんが。 「うちはお寺の敷地内だから私の憧れの洋風な家は無理なのよ」 ふーん、そんなもんなのか。 「義明くんていい旦那さんね〜」 それから俊介の写真やオレの実家の写真を見て、最後に直江の実家で撮った写真を見た。 「そういえば高耶くんはお義母さんとの写真がないのね」 あのババアとの写真なんかあるわけねーじゃん!! 「お義姉さんたちはあんの?」 そうか。普通はそんなもんか。 「もしかして高耶くんとお義母さんて仲が悪いの?」 オレと直江母が全面戦争をしてるのをお義姉さんたちは知らなかったらしい。 それからオレは今までされた嫁イビリをすべてお義姉さんたちに訴えた。 「お義姉さんたちもされただろ?」 てことはオレだけ……? 「なんでオレだけ嫁イビリされてんの?!男だから?!」 お義母さんがどれだけ直江ラブだったかを教えてくれた。 朝はお義母さんが起こし、お義母さんが寝癖を直し、着替えを全部用意し、毎朝玄関の外まで見送りをし、直江が財布をテーブルに置くとお義母さんが黙ってお小遣いを入れ、直江がお義父さんに怒られると逆ギレしてまで庇い、女の子から電話がかかって来ると直江に替わらずに根掘り葉掘り質問をする。 「当たり前のようにやってもらってたわよ。マザコンかと思ってた」 嫁美さんが嫁に来た時は大学生だったらしい。 「大学生だから必要でしょって言って、お義母さんの貯金で車買ってもらってたし、携帯電話の料金も払ってもらってたし、家庭教師と塾講師のバイトで帰りが遅くなるとうちの旦那に車出させて迎えに行ったり、あと極めつけはアレよね、アレ」 げげー!!超キモチワルイんですけど!! 「まあ義明くんはそんなお義母さんから離れたくて一人暮らしを始めたようなものだから、それは断固拒否してたけど。ずっとマザコンだと思ってたから一人暮らしを始めた時はわたしも嫁美さんも安心したわよね?」 そんな母親に育てられてたのか……直江は……。 「だから高耶くんが嫁イビリされるのは当然かもしれないねえ」 ちょっと落ち込んだオレに嫁子さんが提案をした。 「もうすぐ結婚記念日と誕生日でしょ?わたしたちがお膳立てしてあげるからこの家にお義母さんを招待して一緒にお祝いしたらどう?」 というわけでオレと直江の結婚記念日&オレ誕生日はプチパーティーすることになった。
学校から帰って来た直江と夕飯を食べながら今日のお義姉さんたちの提案を話してみた。 「オレだって少しはお義母さんと仲良くなりたいし」 でもなんだか今日は直江を信用できない。 「絶対大丈夫?」 過去の出来事を奥さんから言われた旦那さんはご飯を喉に詰まらせてむせた。 「……お義姉さんたちですね……高耶さんに余計なことを……」 なんか頼りないなあ……。 「鋭意努力します……」 オレを大事にしてくれるいい旦那さんだからな。信用してみよう。 「じゃあ結婚記念パーティーのお膳立てはお義姉さんたちに任せよう。オレも話し合って色々準備するから」 ちょっと不安だ……。
で、とうとう7月23日だ。 直江が昼のうちに誕生日ケーキとシャンパンを買いに行って、オレは家でお義姉さんたちと料理の準備。 「今日の主役は高耶くんだけど、その主役がお義母さんのためにお料理を作ったりプレゼントをあげて、普段から感謝してますってことを表現すればイチコロよ!」 だそうだ。 全部の準備が終わるころに直江両親が来た。 「こんばんは、高耶くん!招待ありがとう」 第一声はお義父さんだ。 「来てくれてありがとうございます!えーと、夕飯出来てるからどうぞ!」 今日もお義父さんはいい人だ。 「お、お義母さんもどうぞ」 今日もお義母さんは無愛想だ。 「今日は来ていただいてありがとうございます!」 お義父さんはにこやかに「楽しみだなあ!」って言ったけど、お義母さんは無言。 「じゃあオレ、料理持ってきます」 キッチンに行ってお義姉さんたちと作った超うまそうな料理をお盆に載せた。 「お義母さん、やっぱりよそよそしいわね?」 テーブルの準備が出来て、ケーキが出てきて、まずはみんなでオレの誕生日祝い。 「義明たちは結婚してもう何年になるんだ?」 直江がニヤけて言ったこの一言にお義母さんが超反応した。 「それはまだ嫁に落ち着きがないからじゃないかしら?」 ほら、やっぱり。お義姉さんたちにドン引きされるよりも、嫁イビリを優先させやがった。 「……そんなことはありません」 く〜!くそ〜!でも今日はめげないぞ!! 「いやあ、お義母さんの言うとおりだよ!オレまだ全然半人前で!!」 今日こそ仲良く!一歩だけでも仲良く!! 「ま、そうでしょうね」 クソババア……!! それから直江やお義父さんや嫁子さんたちの必死のフォローとオレの我慢な笑顔でどうにか雰囲気良く保ち、最後にサプライズとして直江両親に逆プレゼントを。 「高耶さんが結婚記念日を感謝したいと言ってくれたので」 本当はお義姉さんたちが考えた逆プレゼントだけど、オレが考えたってことにして渡した。 「開けてみてください!気に入ってくれるかわかんないけど……」 お義父さんは草履を見るとちょっと涙ぐみながら「ありがとうな!」と言ってくれた。実の息子からのプレゼントよりも嬉しいそうだ。 「あら、ステキな帯止めね。ありがとう、義明」 オレに言えよ!!ババア!! それで誕生日&結婚記念日パーティーは終了。敷地内同居の嫁美さんが直江両親と嫁子さんを車に乗せて帰ることになった。 またオレだけに聞こえるように嫌味を言うんだろうな、と思ったら。 「ありがとう」 小さい声でオレだけに聞こえるように言った。 「え……」 びっくりして固まってるうちに車は発車。闇夜に消えていった。 「じゃあ一緒に片付けましょうか、高耶さん」 玄関外だってのに直江に抱きついた。 「どうしたんですか?!」 直江も嬉しそうな顔をしてオレを抱きかかえながら玄関の中へ。ドアを閉めてチューした。 「いい誕生日祝いになりましたか?」 それからしばらくリビングでチュー。片付けは後でいいや。 「じゃあ今からは旦那さんとラブでメロウな記念日を祝いましょう」 もっとチューしてから片付けて、その後は仲良く寝室にゴーした。
次の日、報告を兼ねたお礼をお義姉さんたちにメールした。 直江と昼ご飯食べてたらお義母さんが来た。 「あ、昨日はありがとうございました!」 どうやらオレと姑の戦争は終わってないらしい。 このクソババア!!
END
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あとがき |
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