トラブルシューター


エピソード1

コンビ誕生!

 
         
 

オレの名前は仰木高耶。
この学園のトラブルシューターだ。

孤児院で育ったオレは中学3年の時にバカをやって鑑別所に入れられた。

学校の友達と深夜の港で遊んでいた時に、駄菓子屋でくすねてきた一束の爆竹に(10発ぐらいか)火をつけて鳴らした。
「あ〜、面白いっ」って耳を塞いでた手をどけたらアッチの方でも爆竹の音が。
同じことやってんだな〜と思いながら行ってみたら、それは爆竹なんかじゃなくてヤクザの銃撃戦だった。

後から聞いた話によると、麻薬の取引をしてたヤクザと売る側の外国人が爆竹の音を襲撃だと勘違いして、お互いに「裏切ったな!」となって銃撃戦が始まったそうなんだ。

で、そこにパトカーがやってきて、オレは何もしてないのにその場にいたってだけで逮捕された。
そして鑑別所行き。

そんなオレを呆れずに拾ってくれた(?)のが孤児院のオーナーでこの学園の理事長の上杉さんだ。
でかいグループ企業を持ってる上杉さんは慈善事業で孤児院をやって、ちょっとした趣味で学校も経営してる。

上杉さんは

「私の部下になりなさい。その代わり一人暮らしをさせて高校大学就職まで面倒みてやる。ついでに妹も学費を持ってやるぞ」

つってオレに学園のトラブルシューターを押し付けた。
だってみなしごハッチなオレと妹が大学まで行けて就職だって世話してもらえるとなれば飛びつくだろ?
どんなキツい仕事が待ってようが3年間頑張ればいいわけなんだし。

と、ゆーわけでオレはトラブルシューターなのである。
なんでそんなものに任命したのかはわかんないけどな。

 

 

仕事内容は学園内で起きたトラブルを隠密裏に解決して回ることだ。
入学してからこの1年間でやった仕事といえば、こっくりさんをやってる女生徒がいるってゆーから色々仕掛けをして恐怖のどん底に落としてやめさせたり(その後色々噂が飛び交ったが)自転車盗難事件が続くから片時も離れず見張って犯人を捕まえたり(おかげで出席単位が足りなくて補習だった)まあそんな感じ。

当然のことながら正体がバレるとトラブルシューターはやっていけないから、普段はエセ優等生として周りからは見られてる。
『エセ』がつくのは成績は良くないけど真面目な生徒ってことだ。
だから髪型も普通、制服も標準、地味に過ごして地味に活動。銀縁メガネなんかもかけちゃってる。

で、今日から2学年の1学期。オレは理事長室に呼び出された。

「おまえの1年間の働きはまあまあといったところだな。しかし危なっかしくて見てられん。というわけで2年からはアシスタントをつけることにした」
「アシスタントなんかいらねーよ。これでも力つけてきただろーが」
「……私の命令だ」
「……わかったよ」

上杉理事長には逆らえない。だって生活のすべてを賄ってるのは理事長なんだもん。
住んでるマンションも、この学園の学費も、食堂の食券も、毎日配達される牛乳も、全部上杉さんが払ってくれてるわけで。
承諾するしかねーんだよな〜。

「アシスタントになる男も忙しい身でな。折をみておまえに接触すると言っている。まあ、うまくやりなさい」
「は〜い」

アシスタントなんか邪魔なだけなんだけどな〜。
オレはひとりで出来る子だっちゅーの。

 

 

エセ優等生のオレにはトラブルシューターの他にも仕事がある。地味な仕事だ。
例えば……

「おっちゃ〜ん、3階の廊下の蛍光灯が切れてたぜ〜」

こんな感じで用務員さんにお知らせに行ったりだな。

「ああ、そうかい。じゃあ取替えなきゃいかんなあ。悪いが仰木くん、手伝ってくれないかい?」
「いいよ〜」

用務員のおっちゃんは見た目40歳ぐらい。白髪交じりの頭にタオルを巻いて、黒縁メガネ。
毎日汚い灰色の作業服姿で背中を丸めて歩いてる。
地味なオレと地味なおっちゃんで歩いてると保護色みたいに誰にも気付かれない。

おっちゃんを手伝って新品の蛍光灯を持って3階へ。脚立を立てて蛍光灯を換えたおっちゃんの指示で、古い蛍光灯を箱の中にうんしょうんしょとしまってる時だった。

「仰木くん、これからヒマかい?」
「え〜?ヒマっちゃヒマだけど〜」
「用務員室に来ませんか?」
「来ませんかって、おっちゃん、そんな丁寧に。お誘いみたいじゃん」
「お誘いですよ」
「え?」

振り向くと、そこにはおっちゃんと同じ格好をした色男が立っていた。
身長約186センチ。髪の毛はサラサラの茶色で目もキラキラの茶色で、今まで見たことないぐらいの本物のハンサム。
年齢だってまだ30代行ってるか行ってないかぐらい。

「え?え?え?」
「どうしたんですか?」
「あんた誰?!」
「用務員のおっちゃんですよ」
「嘘だ〜〜!!」

だってだって!白髪もないし、背筋もまっすぐだし、おっちゃんとはまったく正反対の超色男で!!

「白髪は取り外しの簡単なエクステンションです。メガネも伊達です」
「だからって!」
「シーッ」

誰もいない廊下だからって騒ぐと見つかりますよ、つってオレの口を大きな手で塞いだ。
その手はさっきまでおっちゃんがしてた軍手のままで……じゃあ本当に用務員のおっちゃんか?!

「よろしくお願いしますね、トラブルシューター高耶さん」
「ううう」(えええ?)

てことはこいつがアシスタント?!
『忙しい身』って、用務員やってるから忙しいってことだったのか〜!!

「じゃあ行きましょうか」

そう言ってから数秒で色男は元のおっちゃんに戻った。んで背中を丸めて脚立を担いで歩いて行く。
なんなんだ、この学園は!!

 

 

「私の名前は直江です。上杉理事長のグループ会社の社員なんですが、今は出向という形で学園の用務員をしています。ここまではわかりましたか?」
「は……はあ」

その後、オレは用務員室でお茶を啜りながらおっちゃんと話していた。姿はおっちゃんだけど話し方は直江だ。

「高耶さんが入学してくるまでは私が学園のトラブルシューターをやっていたんですが、学生の方が動きやすいだろうということでお払い箱になりました。でも影ながら高耶さんを助けるという名目で用務員をしながら活動はしてたんですよ」
「マジかよ……」
「その証拠をお見せしましょう」

そう言って用務員室の奥の和室に連れて行かれた。ここは当直で泊まる部屋らしい。
そこの押入れを開けると階段があった。

「なにこれ……」
「上に行く階段は理事長室への直通階段です。この真上は理事長室でしょう?」
「そーいえば……」
「下ですよ、あなたに見せたいものがあるのは」

下への階段を降りて行くと、頑丈な金属のドアがあった。タッチキーになってて液晶パネルをピッピと触ってナンバーを入れるとドアが開いた。

「……なんじゃこりゃ……」
「モニター室です。大袈裟だとは思いますが、理事長の命令で学園のいたるところに監視カメラがついています。もちろん犯罪にはならない程度の範囲で。ここから高耶さんの1年間の活動を見守ると同時に、お手伝いもしました。こっくりさん事件の時は詰めが甘かったのでここから怪音をスピーカーに送ったり。あなたのシューターはまあまあと言ったところですね」

そんなことされてたのか……。知らなかった……。

見ればでかい部屋の壁3方がモニターになってて、そこには運動場やら各教室やら廊下が映ってた。
パソコンも何台も置いてあって、そこで色々操作できるらしい。怪音もコレのおかげってわけかよ。
それにしてもあの理事長、頭おかしーんじゃねえのか?

「ここで見ていると何年何組の○○くんと○○さんが放課後の教室でキスしてたとか、何年の○○くんが好きな女生徒のジャージの匂いを嗅いでたとか一目瞭然です」
「……変態かよ」

オレは直江を変態と言ったつもりだったんだけど、直江はジャージクンクンの生徒の事だと思ってスルーした。

「それはオマケといったところでしょう。まあそんな可愛いことはどうだっていいんです」

ジャージクンクンが可愛いことか?立派な変質者じゃねえのか?
こいつの頭の中、どうなってんの?

「大事なことは学園内でのいじめや犯罪や大きなトラブルを解決するためのモニターであるということですよ」
「そりゃそうだろうけどさ」

ためしに、と言って直江はパソコンを使ってオレの教室を大画面に呼び出した。

「あなたがまだまだ未熟なのはこんなところですね」
「未熟?」
「いいから見てなさい」

そこに映りこんできた怪しい影。見たことある髪型だ。クラスでも人気者の男子生徒だった。
手に持ってるのは紙。

「なんだ、あの紙」
「ズームしましょう」

カメラがズームして(こんなことも出来るのか!)手元を映した。
「バカ」って書いた紙……。もしやこれは……。

「これ、毎日オレの机の中に入ってるやつ!!」
「誰の仕業かわからなかったでしょう?彼が毎日やってるんですよ。自分がやられてるのに犯人がわからないなんて、だからあなたは未熟なんです」
「……あの紙……毎日捨ててるのに戻ってきてるな〜とは思ってたんだ……」

直江はちょっと笑ってこう言った。

「…………こういうの、いじめって言うんですけど、知ってます?」
「知りませんでした!!」

そうか、これがいじめなのか〜!!気付かなかった!!
とっちめてやる!!

「じゃあまずはこの事件を二人で解決しましょうか」
「オレ一人で叩きのめすからいい!」
「いじめられてる本人が正体見せちゃダメでしょう?」
「む〜、そうか……」

直江は変装をといてオレに向き直った。
それがまたなんとも様になっててかっこいいんだ。まるでヒーローもののテレビ番組で出てくる役者みたい。

「こういう小さい事件は今まで私が行ってお説教してやめさせてたんですよ。用務員でも学校関係者に見つかれば怖くなってやめてしまうものなのでね」
「ふーん……じゃあオレなんか必要ないじゃん……アンタとモニターさえあればいいわけだろ……」

ちょっとガックリ。1年間頑張って来たのにさ。

「あなたにはあなたが出来る仕事があるから任命されたんですよ」

優しい笑顔で頭を撫でられてなんかいい気持ちになった。
そーいやオレって大昔から年上の男に弱いんだよな。親父がいないせいか?

「これからは二人で頑張りましょう?高耶さんのアシスタント、一生懸命やりますから」
「う、うん……」
「……いつもモニターで見てましたけど、高耶さんは本当に可愛いですよね」
「は?」

そっと腰を引き寄せられて、なんだ?と思った瞬間にチューされた。

「うわ!」
「ずっと好きでした」
「何が!誰を!誰に!なんでだ!」

パニック状態で直江の腕の中から逃れようとしたんだけど無駄な抵抗だ。
用務員のくせに力が強い……って当たり前か。トラブルシューターは鍛えてるもんなんだ。オレと同じで。

「高耶さん」
「……う」

耳に囁かれてオレの腰は砕けそう。直江の野郎の手が腰の敏感なところを撫でてるからってのもある。

「これからよろしくお願いしますね」
「……んん」

股間をスリスリされて気持ちよくなっちゃったオレは二回目のチューも許してしまった。

「大好きです」
「……直江……」
「仕事もプライベートでも、私が守ってあげるから」

優しい言葉とエッチな手に翻弄されたオレは思わずコクンと頷いた。

 

 

 

そんな感じで始まったオレと直江のトラブルシューターコンビ。
明日からオレのいじめを解決するために行動開始だ。

「ちゅ、チューしたからっておまえと付き合うつもりはないからな!」
「手でもしたじゃないですか」
「てっ!手でしてもだ!あくまでも仕事のコンビだ!いいな!」
「はいはい」

余裕で笑ってるとこがムカつく!
アシスタントなんだからコキ使ってやる!覚えてろ!

 

 

 

END

 

 
   

あとがき

ちょっとエッチな話に
したいので裏も作ります。
今回笑えるとこがありませんね。
次回からもう少し笑えるように
します。たぶん。
裏アリマス。

   
         
   
   
         
   
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