トラブルシューター


エピソード2

ヤンキー当て字

 
         
 

トラブルをシュートして1年、オレに相棒ができた。
相棒の名前は直江。いい年こいて高校生のトラブルを解決する奇特なハンサムナイスガイ。
普段はこの学園の用務員のおっちゃんだ。

出会ったその日に直江はオレに愛の告白をして、優しさに飢える赤子のようなオレを陥落してチューしやがった。
なんたってみなしごハッチなオレ。
年上の男にとことん弱い。
トラブルシューターなんかやってるのも渋くて優しい上杉理事長が頼んできたから、つい仕方なくうっかりと。
今では理事長はオレをコキ使うオッサンてだけの存在になりつつあって、そんな時に現れた優しくてかっこよくて頼りになる直江に父性を感じてヘロヘロ〜っとチューしてしまった。

いや、チューだけじゃないんだけどさ。
手でやらしーことされちゃってるんだけどさ。
まあ、それは忘れてくれ。こっぱずかしいったらありゃしねえ。

 

 

今日も今日とて上杉理事長からの呼び出しだ。
帰りのホームルーム前に携帯電話にメールが来た。

『シ≠ュウ、Чシ"干эウシノ〓⊃ィ』

なんなんだ、このギャル文字メールは!!
何が『至急、理事長室に来い』だ!!

って、読めちゃう自分もどうかと思うんだけど……。

理事長はこうして毎回おかしな文字でメールを寄越して呼び出すんだよ。参るっての。
最初は何のことやらわからなかったけど、最近じゃ全部読めるようになってきた。
オレ、毒されてねーか?

ホームルームが終わってから理事長室に行くと、オレの相棒、直江もいた。
直江は用務員室から直通の隠し階段でこの部屋に来たらしい。変装したままだった。

「まあ座れ」
「は〜い」

革張りのソファにどっかり座って理事長を見ると、ニヤニヤ笑ってた。

「おまえ、いじめられてるらしいじゃないか」
「え?!」
「直江から聞いたぞ。毎日机に『バカ』って紙が入ってるってな」

余計なこと言いやがって〜!!

「しかもそれがいじめだと気が付かなかったっていうから驚きだ。おまえはバカか」
「ああ、バカですよ!知ってるだろうが!」
「そりゃそうだ。それでだ。そのバカにバカと知らせてくれている有難い同級生に感謝の意を込めて、それはいじめだと教えてやらねばいかん」

このイヤミ理事長め!

「さっそく今日から始めてもらおうか」
「はいはい、わかりました」

直江がこのやりとりを見て笑いをこらえてるのがわかった。理事長も理事長だけど、直江も直江だ。
少しぐらい相棒のこと庇うなりすりゃいいのに。
あんなことまでしといてさ。

「それがですね、理事長。ちょっと問題があるんです」
「なんだ?」
「その……高耶さんにいじめをしているのは……ええと……」
「ハッキリ言わんか」

口ごもる直江に理事長が先を促した。直江、すっごい言いにくそう。

「……理事長の甥ごさんなんです」
「え?!あいつが?!まさか!そんなことするような子じゃないぞ?!」
「この目でハッキリ見ましたから間違いありません」

あいつ、理事長の甥だったのか!知らなかった!
まあ、知らなくてもいいようなことだったからな。関係ないし。って、オレ、いじめられてるんだっけ?

その理事長の甥とやらは成績優秀、男子からも女子からも人気の校内ナンバーワンの『いいやつ』だ。
本当にいいやつかどうかは確かめたことないから知らないけど、あの人当たりの良さとか、話し方とか見る限りじゃ人気があるのも頷ける。

「直江とオレで見たんだ。本当だよ。オレをいじめてるのは成田譲」
「……そうか……いくら甥とはいえ例外は許したくないな……よし、わかった!おまえたちに任せるからいじめをやめさせるんだ」
「まかせとけ」

そんなわけでオレと直江は理事長室から直通の隠し階段で用務員室に。

「成田くんは学校中が知っているほどの優しい子なんですけどね。どうして高耶さんにあんなことしてるんでしょう?」
「元々そーゆーヤツだったってことじゃねえの?」
「いえ、1年間見てきましたが、成田くんは真面目ないい生徒でしたよ?影で何かやってるなんて考えられないほど」
「とにかくオレの机に毎日入ってるんだよ。バカって書いた紙が。それを成田が入れてたってのを見たじゃねえか。ゆるぎない事実だろ」

それでも納得いかないらしい。こんな相棒、面倒くせえな。

「何か裏があるかもしれませんね。少し慎重にいきましょう」
「どーすんの?」
「ここでは誰に聞かれてしまうかわかりませんね。今夜、高耶さんのマンションにお邪魔しますからその時にでも」
「……マンション?」
「何か不都合が?」

不都合も不都合、ついこの間、オレのマンションで直江にされたこと考えたらちょっとなあ。
あ、裏を見てないお姉さんたちにはわからないかも。
話についてこれないやつは置いて行くぞ。知りたかったら裏を読んでくれ。

裏がわからない人は管理人にメールで問い合わせるか、自力で探すか。
入り口がわかってるけど表示されない人は、ウィルスソフトとかのセキュリティレベルを下げるか有害サイト設定をどうにかすれば見られると思う。
でも未成年のお子さんがいる家ではそれは避けた方がいいと思うぞ。

「高耶さん?」
「あ、いや。えーとウチはちょっと困る」
「どうしてですか?」
「……どうしてって……自分で考えろ!」

そうですか〜……と残念そうにした直江。そんな顔したって騙されないからな!

「今日は一緒にスキヤキでも食べながら……と思ったんですけどねぇ……せっかくの松坂牛、一人で頂くとしますか」

なにぃ?!松坂牛だって?!
一回もそんなブランド肉食ったことねえぞ!その上スキヤキ?!未知の食い物じゃねえか!

「……そ、そんなに来たいんだったら来てもいいけどさ……」

ヨダレを我慢しながら言ってみた。
肉につられて、なんてバレたら恥ずかしいじゃん。

「いいんですか?」
「しょうがねえだろ。肉……じゃなかった、作戦練るんだから」
「わかりました。あとでうかがいますね」
「鍋……」
「は?」
「ウチにはスキヤキ鍋なんかないからなっ。自分で用意してこいよ。何でもかんでもオレに頼るんじゃねーってこった」
「はい」

それはそれはウットリさせられる笑顔を浮かべた直江。
やっぱ大人の男ってのはかっこいいもんだな〜。それが用務員の変装してるにしてもだ。

「あと」
「ん?」
「アイスも買って行きますよ。あ、ケーキの方がいいですか?」
「……アイスがいい……」
「じゃあ、今夜」

また大きな手で頬を包まれてあったかくていい気持ち。
そしたら予想どおりムチュッとされた。

「おまえな!オレたちは仕事の相棒なんだって何度言えばわかるんだよ!」
「今のはただのスキンシップですよ。用務員室なんですから」

よくわかんない理論だけどまあいいか。ただのスキンシップってんなら許そう。
…………なんか違うような気はするが。

 

 

 

「うわ〜!うまそう!」
「たくさん食べてくださいね」

カセットコンロからスキヤキ鍋から何から何まで持ってきた直江。オレんちに何もないのよくわかってるじゃねえか。
霜降りのスキヤキ肉をジュジューッと音をさせて焼いて、それから割り下を入れるってゆー作り方。
ジュジューッがまた旨そうなんだな!

「これがスキヤキか〜。生まれて初めてだ!」
「今まで食べたことなかったんですか?」
「孤児院でスキヤキなんか無理に決まってんだろ。食えて牛丼だぜ。しかも筋っぽい肉のな」

初めてのブランド肉を贅沢品の生卵にそっと浸して、スキヤキを堪能。
うめ〜!こんなうまいものが世の中にあったとは!生まれてきて良かった〜!

「ご飯もたくさん炊いてありますよ。魚沼産コシヒカリです」
「コシヒカリだろうがハラヒカリだろうが政府備蓄米しか食ったことねえから何でもいい!」
「……そうですか」

孤児院にいたオレを哀れむように優しい目をした直江。ほっぺにご飯をくっつけたままポーッと見とれてしまった。
でも哀れまれるほどひどい生活じゃなかったんだけどな。
月に一度はケーキが出たし、ほうじ茶も飲み放題だったし。

「これからは私が高耶さんに色んな美味しいものを食べさせてあげますからね」
「マジ?!じゃあ一回でいいからレストランに行ってみたい!」
「レストラン?どんなものが食べたいですか?フレンチ?イタリアン?」
「いや、そーゆーセコいんじゃなくて、ドリンクバーがあって飲み放題で、ご飯とスープがセットでついてくる豪勢なメニューがあるところ!」

目玉が飛び出るほど大きく目を瞠った直江。もしかしてとんでもなく贅沢なレストランを指定しちゃった?

「……直江?」
「あ、はい。ええ、レストランですね……ええ、はい」
「ちょっと贅沢言い過ぎた?」
「と、とんでもない。そこでいいなら毎日でも連れて行ってあげますよ」
「ええ〜!おまえってそんなに金持ちだったのか?!毎日行ってたら贅沢すぎて通風になっちまわないか?!」
「そんなことは……ま、まあ、一回行ってみればいいじゃないですか」
「やったー!」

すげーな!直江ってエリート社員なのかも!お給料メチャクチャいいんじゃねえの?!

「お腹が膨れてきたところで計画ですが、どうします?」
「成田のこと?そうだな〜、直江が出た方がいいだろ。オレが出たら頭のいい成田のことだから勘付くかもしんねーし」
「そうですね。私なら変装も完璧ですから、直江の格好で出れば橘用務員だってことはわからないでしょう。高耶さんの机の中の紙を持って見せて、まずは成田くんに警告します」
「んで、しらばっくれたら別の日に現行犯逮捕?」
「その時は用務員の格好でね。そのまま理事長室に連れて行きますよ」

……あれ?じゃあオレの出番は?

「そしたら……オレ、何すればいいわけ?」
「あなたを理事長室に呼び出しをかけますから、地味生徒仰木くんとして来ればいいじゃないですか」
「……うーん、まあ、いいけど」

なんかイマイチ納得いかないけど、楽ができるんだからいいか。
相棒ってのも悪くはないな。

「そろそろアイスを出してきましょうね」
「てか、たったこれだけの計画だったらウチに来なくても良かったんじゃねえ?」
「たったこれだけでも誰にも聞かれてはいけない計画でしょう?だからこれでいいんです。スキヤキだって美味しかったでしょう?」
「まあ、な」

アイスを食って満腹満足でまったりしたオレ。直江にお風呂も沸かしてもらっていい気分で入浴タイム。

「ゆ〜げ〜が天井か〜ら、ポタリとせな〜かに〜、か」

機嫌よく歌なんか歌って浸かっていたら。

「背中流しますね」
「ええ?!」

真っ裸の直江が風呂場に入ってきた!
この展開わ!この展開わ〜!!

「来るな〜!」

お湯をバシャバシャかけて防御してみたが何の抵抗にもならなかった。
そしてオレは風呂場で直江に……。

だって優しかったんだもん!満腹にしてもらってレストランの約束もして!
バスタブでムッチュリチューをされたらウットリしちゃったんだもん!
しょうがないだろ、寂しいみなしごなんだから!

 

 

 

そして翌日、黒いスーツに身を包んだ直江が学校帰りの成田を呼び止めてあの紙を見せた。
オレは心配で物陰から見てたんだけど。

「これは何の真似ですか?」
「……さあ?僕、知りませんけど」
「しらばっくれても無駄ですよ」
「……あ、そ。じゃあ僕からも言わせてもらおうかな。仰木!どっかで見てるんだろ!」

へ?!なんでわかったんだ?!
なんでなんでなんで?

「仰木!出てこないと後で痛い目見るよ!いるならすぐに出て来いよ!」

直江も困惑してる。オレが出てっていいものか。
出てけばシューターやってることがバレるかもしれない。でも出てかなかったら本格的ないじめに発展するかも?!

『仰木〜、金出せよ〜』
『か、金なんかないよぅ』
『嘘こいてんじゃねえぞ!飛んでみろ、おい!』

その場でピョンピョン飛ばされてチャリンチャリンと小銭の音がすると……。

『おら、持ってんじゃねーかよ。有り金全部出せっつーの!』

なんて言われてボコボコに!?
貧乏なオレにとっちゃ10円だって大事なオゼゼ。やすやすと奪われるわけにはいかないんだ!
って、よく考えたらオレと成田じゃ体格も腕力も違うんだし勝てないわけがないのか。
じゃあこのまま隠れてようかな。

「……高耶さん、出てきた方がいいみたいですよ。成田くんの頭脳を侮ってはいけません」

くそ、直江め。余計なことを。

仕方なく電信柱の影から出て行くと、成田が勝利の笑みを浮かべやがった。

「やっぱりそうか。ようやく僕の罠に嵌まってくれたみたいだね。じゃあ一緒に理事長室に行こうか」
「理事長室?」
「そうだよ。直接伯父さんに会って話さないとね」

オレと直江は顔を見合わせて意気揚々と歩く成田の後をついて行った。
学校に戻り理事長室まで。成田は軽くノックをすると横柄な態度で理事長室に入って行った。

「伯父さん、僕の勝ちだよ」
「……譲……。どうして仰木くんたちとここへ来たんだ?」
「伯父さんが怪しい行動をしてるの、わからなかったとでも?」

そう言って成田は携帯を出して理事長に見せた。なんだろ?

「しまった〜!!」

いつもの理事長らしくない叫び声。成田が笑いながらオレに見せたものは。

『死窮、裏慈蝶疾弐虎威』

シキュウ、リジチョウシツニコイ。あのわけわかんないメールだった。
しかもそれは数週間前に貰ったものだ。

「同報メールってゆうんだよね、こういうの。俺、わけわかんなくてなんだろうって思ってたらさ、仰木にも送られてたわけ。仰木なんて地味な生徒がなんで直接理事長に呼ばれるかわからなくて、しばらくの間、仰木を観察してたんだ。そしたらどうも行動が怪しい。用務員室に入るとしばらく出てこない。おかしいなって思って中に入ってみたら用務員さん共々消えてたってわけ」

そうだったのか……恐るべし、ヤンキー当て字を解する成田!つーか理事長が間抜けなんだ。

「けっこう前にね、うちの父さんが怪しい電話してるのを聞いてたことがあったんだ。校内を影で取り締まるとか何とかってゆう……。だから仰木がソレなんじゃないかと思ったんだ。用務員さんも含めて」

すげー。いい勘してる!
推理力も抜群じゃねえか!直江よりよっぽど頼りになりそう!

「なんで仰木なわけ?俺の方が甥っ子なんだし使いやすいだろ?やらせてよ!」
「そこまでバレたのなら仕方ない。その通りだ。しかしなあ……」
「成績だって下げないし、頭だって仰木よりいいんだよ!」
「……しかし……おまえはいかんせん運動神経がメタクソに悪いじゃないか」
「あ……!」

そーいや成田ってマラソンはいつもビリ。跳び箱は飛べない。サッカーじゃボールに乗り上げて転んじゃう。
確かに体力が必要不可欠なシューターには向いてないな。

「だからダメなんだ」
「うう……そんな〜!やらせてよ〜!伯父さ〜ん!」

駄々をこね始めた成田。これが校内人気ナンバー1の生徒か?
子供丸出しじゃねーか。

「じゃあこうしませんか?高耶さんがリーダーで活動班、成田くんは頭脳班。私は全般を補佐するってことで」
「なんで俺がリーダーじゃないんだよ!やるからにはリーダーになる!」
「いえ、元々は高耶さんがやっていた仕事ですから、慣れているのも高耶さんでしょう。それに頭脳よりも体力勝負な仕事ですからね。高耶さんがリーダーを下ろされるなら私も下りますし」

直江……そんなにオレのこと買ってくれてたんだ……。直江ぇ……。

「オレはそれでもいいけど、理事長が判断するこったからな。どーすんの?」
「仕方がないだろう。バレてしまったからには身内に取り込むしかない。譲、それでいいならシューターをやりなさい」
「わかった。それでいいよ。でも仰木を奉る気はないからね」
「オレだってそんなの結構だ。まあ、仲良くやろうぜ」
「うん」

握手をして成田がメンバーに入った。これで3人か。まあ成田だったら頭いいから使えるし、人気者としての立場を使って色々探れたりもするだろう。
ヨシとすっか。

「じゃあよろしくね、高耶」
「……おう」

高耶……オレを名前で呼ぶ友達なんか初めてかもしんない。ちょっと嬉しいかも……。

「ゆ……譲……」
「へえ、案外笑うと可愛いんだね、高耶って。教室じゃ仲良くできないけど、うまくやれそうな気がする」
「う、うん。オレも」

と、いうわけでトラブルシューターは3人。
本物の優等生で校内の人気者の譲。
地味な用務員のおっちゃん。
さらに地味なエセ優等生のオレ。

さ〜、明るい人生目指してキツイ仕事も頑張るぞ〜!

 

 

「そんなに高耶って呼ばれて嬉しかったんですか?」
「あ……なお……何、言って……んん」
「私にこんなことされるよりも嬉しかったんですか?教えてくださいよ」
「やだ……ああん……」

その日の夜、直江はまたマンションにやってきてオレにエッチなことをした。
つまりは譲に嫉妬したってわけだ。
だからってこんなことしなくたっていいじゃねえか!!エロ用務員!!

 

 

 

END

 

 
   

あとがき

少しだけギャグになって
参りました。
これが基本なのでもっと
笑えるようにしたいと
思っています。

   
         
   
   
         
   
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