つい最近、新しい仲間が増えた。成田譲。
やる気マンマンで毎日毎日『仕事ないの?』ってメールが来る。ない。
ここんところの学園は平和そのもので、トラブルなんてまったくない。理事長も安心して会社に行ってるぐらいだ。
おかげであのエロ用務員とも関わらなくて済むし、成田には可哀想だけどオレにとってはまさに安穏としていられるいい時期だ。
と、思ってるわけなんだけど、譲だけじゃなくエロ用務員まで毎日オレにメールを寄越す。
どうもあいつは本気でオレのこと好きらしくて、メールにもそんなことが書いてあったりする。しかも絵文字を駆使して。
うぜえ。
どうにかオレんちに来ようとして『いい鯛があるから』とか『ウニは好きですか』とか『PS3を買いました』とか餌をチラつかせてメールしてくるんだけど、もうあんなエロいことされるのがイヤだから毎回無視。
物に釣られそうになる自分を諌めて毎度毎度我慢の連続だ。
そんな日々の放課後。下校中。
「高耶くんじゃないか?」
学園のすぐそばで呼び止められて振り返ったらエリートサラリーマン風のオッサンが。直江と同じくらいの年齢だ。
「えーと?」
「僕だよ。久しぶりすぎて忘れたかな?」
「……あ!開崎さん!」
開崎さんはよく理事長のお供で孤児院に来てたお兄さんだ。何人かいる秘書のうちのひとり。
メガネが冷たそうな雰囲気のわりに、中身はちょっとおっちょこちょいの面白い人。
「大きくなったね」
「背ばっかり大きくなって頭の中は空っぽだけどな」
「そんなことないだろう」
「んで、なんでここにいんの?」
「理事長が学園に忘れ物をしたから、取りに来たんだよ」
見れば手には紙袋が。中身は大量のスニッカーズだった。
あえてそれが忘れ物なのかは聞かないでおこう。
「今は一人暮らしなんだって?」
「うん、理事長に金出してもらってんだ。働き出したら返す約束で」
「そうか……じゃあ金欠だろう?」
「あはは。まあね」
「だったら今度夕飯でもご馳走するよ。今日と明日は会長のお供で出かけないといけないから……明後日なんかどうかな?土曜だし、なんなら昼間から買い物でもして」
こころなしか顔を赤らめて開崎さんはそう言った。
買い物……。オレが金欠だってのを知ってて誘ってるわけだから、洋服なんかも買ってもらえるかも?!
「マジで?!行く!なあなあ、ドリンクバーがあって飲み放題で、スープとご飯がセットでついてくるレストランにも連れてってくれる?!」
「あ、ああ、いいよ」
「やったー!」
直江は口ばっかりで連れてってくれないからな!
開崎さんサイコー!
そんなわけで開崎さんからアドレス入りの名刺をもらって帰った。
夜8時。マンションのドアフォンが鳴った。
「はい?」
『直江です』
……メールを無視してるからって家まで来やがったな……。
「なんの用だ」
『有名店のケーキを山ほど買ってきました。一緒に食べましょう?』
ゆ、有名店のケーキだと?!
オレが食ったことあんのはコンビニのやっすいケーキだけだ!!
こりゃ食わないと損だろう!!
「入れ」
ドアを開けて直江を入れるとニコニコしながらケーキの箱を渡された。
本当に山ほど。でかい箱が3個もある。一箱に8個入るとしたら24個。
3日間で食えば一日8個。直江に一個やるとしても一日7個は食える。ケーキだけで腹が膨れるぞ。ひゃっほー!
「うわ〜、すっげー!」
「好きなだけ食べてください」
「サンキュー!」
さっそく箱を開けてみるとうまそうなケーキがズラリと並んでた。
どれにしようかな、と目移りしてたら。
「……これ、なんですか?」
「どれ?」
直江が手にしてるのは開崎さんの名刺だった。テーブルに置きっぱなしにしてたの忘れてたな。
「どうして開崎の名刺があなたの家にあるんですか」
「あれ?開崎さんと知り合い?」
「ええ、秘書課の同期ですから」
そっか。直江も秘書課だったんだ。知らなかったな〜。
「学校の帰りに会ったんだ。よく孤児院に来てたから久しぶりで懐かしくて、明後日一緒に出かける約束したんだ」
「なんですって?!」
「洋服買ってもらって、夕飯食べさせてもらうんだ〜♪」
食べたいケーキを選んで箱から出したとたん、直江に腕を取られた。
おかげで危うく落とすとこだったんだ!もったいない!
「ああ、ケーキが!」
「買い物して食事して、それから何をするつもりなんです!」
「へ?別にそれだけだけど」
「それだけで済むわけないでしょう!」
「おまえと開崎さんは違うんだよ!食い物で釣ってオレにエロいことするよーな人じゃないよ!」
だけど直江は言い張った。
「あなたは考えが甘すぎます!この男好きするふっくらした唇!あどけない瞳!抱きしめたくなる肩!引き寄せてみたくなる細い腰!あなたの体はあなたが思っている以上に男心をくすぐるんですよ!」
なんじゃ、そりゃ〜〜〜!!
「オレが開崎さんに狙われてるみたいな言い方すんな!開崎さんは真面目で面白いいいヤツなんだぞ!」
「絶対に違います!」
「ちがくない!!」
「こんなもの!」
直江は名刺をビリビリに破いて外に捨ててしまった。
「あ〜あ〜あ〜!!」
「約束なんてとんでもない!あなたは私のものだと何度言えばわかるんです!」
「おまえのじゃねーよ!」
「この……!!」
いきなり襲い掛かってきて床に押し倒されて、乱暴にキスされた。
ああ!ケーキが床に!!もったいね〜〜!!
「あいつが本気であなたを無事に帰すとでも思ってるんですか?考えていることは私以上に浅ましいかもしれないのに?初めての相手があんな薄らバカでいいんですか?」
「は、初めての相手……って、オレはちゃんと女の子と付き合って女の子と初体験するに決まってるだろうが!離せ!!」
直江にエッチなことされたのは「ついうっかり」ってやつだ!
本気でして欲しいなんて思ったわけじゃないんだ!
「おまえなんかと誰が付き合うか〜〜!!」
「……そうですか……ああ、そうですか。じゃあ勝手になさい。あなたが開崎にヤられても私は知りませんよ。何もわかってない自分の自業自得だと後で後悔するがいい」
「ふん!」
そんで直江は帰っていった。
開崎さんのアドレスはもう携帯電話に入ってるから名刺が破かれてもなんともない。ザマアミロ。
誰がいつ直江のものになんかなったんだよ。冗談じゃねえよ。
翌日の朝、携帯にメールが入ってた。理事長からだ。
『どうやら校内の男子生徒が美術の女教師と性的関係にあるらしい。事実関係を特定しなくてはならんが、今回は色恋沙汰なだけにおまえと譲の出番はない。直江に任せてあるので報告だけ受けろ』
だそうだ。教師とエッチなんてする学生がウチの学園にもいたんだな〜。
オトナだな〜。とっくの昔にドーテー捨ててるってことだろ?
「高耶」
「お。譲」
「叔父さんからメール来た?あの美術の先生と付き合ってる生徒って誰だろうね?」
お昼休みの屋上。人が少ないここはオレが昼飯を食う指定席だ。
それを知ってか譲は人目を避けて会いにきた。
「教師とエッチなんてオレには縁遠いものだけどな〜。想像もつかないよ」
「だよね。だけどあの先生って美人だからさ、しょっちゅう男子生徒食ってるらしいよ?」
「マジ?」
「噂だけどね」
今回はオレも譲もおとなしく直江からの報告を待つだけだ。
先生の相手が本当に生徒だったとしたら、先生はクビだけど生徒は不問になるかもしれない。
そんな話をしてたら直江からメールが入った。
『今日、美術教師から話を聞きだせそうです。結果報告は高耶さんのマンションまで行きます』
また来るのかよ。
「なあ、今日、譲もウチ来てくんない?」
「え、今日はダメなんだよ。予備校で模試があるからさ」
「ちぇ」
直江と二人っきりなんてヤダな〜。昨日のことがあっただけにさ。
その日の帰りは予備校まで時間を潰さなくちゃいけないってゆー譲に付き合って、予備校そばの繁華街にいた。
ゲーセン行ったりお茶したり、全部譲に金を出させて遊んだ。
「んじゃ、そろそろ行くよ。直江さんから報告受けたら俺にも教えて」
「おう、じゃーな」
予備校の手前の道で別れて駅の方角へ。
テクテク歩いてたら直江がいた。あの美術教師と。
「なんでだ?」
トラブルシューターの仕事の一環だとはわかるんだけど、どうして腕なんか組んで歩いてるわけ?
怪しい……尾行するに決定だ。
コソコソあとをつけたらいかがわしい地域に入ってしまった。ピンク色の看板が目立つホテル街。
その一軒に二人はご入場。
「……直江……」
これって仕事の一環なんだよな?だからってなんでラブホなんかに?
あいつ、色恋営業してるのか?(ホスト用語をなぜ高耶さんが知ってるのかは謎)
オレのこと好きだ好きだって言っておきながら、仕事と性欲処理と混同してやがるのか?
なんでそんなこと出来るんだ?大人だからか?
「……関係ねーや」
だけどなんだかモヤモヤしっぱなし。電車に乗っても歩いていても。
その夜、直江がウチに報告に来たのは夜9時すぎ。
ラブホで一発抜いて、一度家に帰ってから来た、って感じの時間帯だ。
「報告に来ました」
「……迅速だな」
「お邪魔します」
マンションの中に入れて座らせた。オレは直江の向かいに座るのがイヤで立ったままだ。
「相手の生徒を特定できました。3年生ですね。彼を誘惑して関係を持ったのだと美術教師は言ってました」
「……どうやって口を割らせたんだ?」
「それは……まあ、色々と手を使って」
誤魔化してる。手じゃなくてチ×コ使ったくせに。
ヒーヒー言わせて、口を割らせたに違いないのに。
「言い逃れができないように録音しておきました」
「それ、聞かせろ」
「あ……それは……家に置いてきてしまって」
嘘だ。エッチしながらの声だから聞かせられないんだ。
「直接理事長に渡します」
「…………わかった。じゃあもう帰っていい」
「高耶さん」
「なんだ?」
「明日、本当に開崎と出かけるんですか?」
「……だからなんだ」
「やめてください」
今までにないぐらい、直江は真剣に言った。
「たとえ開崎に下心がないにしても、あなたがあの男とデートするなんて私には耐えられません」
「デートじゃねえよ。ただ出かけるだけだ」
「手篭めにされたらどうするんですか」
「手篭めにしたのはおまえだろ。本当は別にオレなんかじゃなくたっていいんじゃないのか?」
誰だっていいくせに。
「どういう意味です?」
「おまえにはいくらでも女が寄ってくるんだろ。オレなんか面白がって遊んでるだけだろう」
「違いますよ。本気で愛してるんです」
「……じゃあ、なんで女とラブホなんか行けるんだ」
直江が強張った。まさかオレに見られてたなんて予想もしなかっただろう。
「どうして知ってるんですか」
「見かけたんだよ、偶然。大人のおまえにはたいしたことじゃないかもしれないけど、オレはそーゆーの嫌いだ」
「…………そうですか……」
「もう帰れ」
無言で帰って行った。
これでもうオレはあいつにエロいことされなくて済むし、直江も大人しく言うこと聞くだろう。
これでいいんだ。
いいんだけど、なんかムカつく。
翌日土曜は開崎さんと出かけた。車で家まで迎えに来てくれて、お昼ごはんを食べにお台場まで。
そこのショッピングモールで服もいくつか買ってもらって、遊園地みたいなとこに連れてってもらってたくさん遊んだ。
夕飯はオレが行きたかったドリンクバーのあるレストラン。
「うわ〜、こーなってるんだ〜。ホントに飲み放題?」
「そうだよ。好きなだけ取ってきていいんだよ。食事もたくさん注文していいからね」
「やったぁ!」
メニューを見てみたら美味そうなものが写真つきでたくさん載ってた。
しかもそんなに高くない。
まあ、オレの小遣いじゃ月に一回来れるかどうかって感じの値段だけど。
直江が「毎日でも連れて行ってあげますよ」って言ってたのは、案外安かったからなんだな。
たくさん注文して、ドリンクバーも何度も往復した。
開崎さんは相変わらず優しくて天然なところが面白くて、会社でのドジ話も楽しかった。
「優秀な秘書がまだまだたくさんいるからね。僕なんか使いッ走りみたいなもんだよ」
「そーなの?優秀な秘書って例えばどんなことやってんの?」
「うーん、僕も知らないんだけど、会長の命令で出向して色々やってるみたいだな。同期で直江ってヤツがいるんだけど、今はそいつが一番優秀かな。どこかに派遣されて会社にはほとんど来ないけどね」
直江……?
そっか、直江って優秀な秘書だったんだ……。
そりゃそうだろう。仕事のためなら手段を選ばないんだから、あいつは。
「どうしたの?」
「ん、いや、なんでもない」
「そろそろ帰ろうか。送って行くよ」
夜10時。楽しかったお出かけは終わって、マンションまで送ってもらった。
「あ、ごめん。トイレ借りていいかな?」
「いいよ」
マンションの部屋に上げてトイレを貸した。
ついでだからもうちょっといていいよって言って、特売で大量に買ったほうじ茶を出した。
「あ、ケーキもあるんだ。食べる?」
「ケーキ?わざわざ用意してくれたのかい?」
「まさか。そんな金ないよ。もらい物」
開崎さんはちょっとガッカリしながらも笑って「じゃあ頂こうかな」って言った。
冷蔵庫からケーキを出して、近所のバザーで10円で買った皿に乗せてテーブルに置いた。
「高耶くんは彼女いないの?」
「うん、いない」
「……好きな人は?」
好きな人?
……違う!あんなやつじゃない!断じて違う!なんであいつの顔が浮かぶんだ!
「いねーよ」
「そうか……あの、ぼ、僕じゃ、ダメかな……?」
「へ?」
それって……それって、えーと……?
「君が好きなんだ。ずっと前から」
「はぁ?!」
「高耶くん!」
真剣に言われて手を握られた。年上の男の優しい手。ちょっとポヤンとしそうになった。
「僕と付き合ってくれないか?」
「……開崎……さん……」
「高耶くん……」
メガネを外しながら開崎さんの顔が迫ってくる。ああ、チューされちまうかも。
チューは何度も直江にされてる。いまさら開崎さんにされたって……。
「……ヤダ……」
「え?」
「ごめん、無理」
「そ、そっか……」
諦めて笑った開崎さんがなんだか可哀想で、チューぐらいならしても良かったんじゃないかなって思った。
「本当は好きな人がいるんだろう?」
「……うん」
「ごめんね。ちょっとだけいい?」
「ん?」
ギューって抱きしめられた。これで諦めるから許してくれって言いながら。
大人しく腕の中に収まって、やっぱオレはどうも年上の男に弱いと自覚した。
「キスだけ、お願いだから」
「え?!ダメ!ダメだってば!それはダメ!」
「頼むよ!」
「ダメー!!」
離れようとしたらバタンと大きな音がしてドアが開いた。
「高耶さん!!」
「なっ、直江!」
「開崎、貴様〜〜〜!!」
土足のまま直江が入ってきて、開崎さんをオレから引き離すとグーで顔をぶん殴った。いたそー!
「俺の高耶さんに何をする!」
「う……」
急所に当たったらしく直江のことも判別できないらしかった。クラクラする頭を抱えながらやっと持ち直したところにまた直江のグーが飛んだ。
「やめろ!直江!違うんだ!」
「だから言ったじゃないですか!手篭めにされてからじゃ遅いんですよ!私が尾行してなかったら今頃あなたは!」
「聞け!違うんだ!」
「年上の男だったら誰でもいいって言うんですか?!」
「うるせえ!聞け!!」
興奮状態の直江のシャツを掴んでキスした。ムッチュゥゥゥっと、いつもされるようなやつを。
「……高耶さん?」
「バカッ。落ち着け」
「……あの」
かわいそうに開崎さんは直江のグーをまともに食らってノビてしまった。
まあいいや。ノビててもらってた方がオレとしても言いやすい。
「確かに開崎さんには下心があった。でも乱暴はされてない。ちょっとチューを迫られただけで、無理矢理手篭めにするなんて考えてなかったんだよ」
「だけど」
「……オレ、わかったことあるんだ」
「……なんですか」
「今度はおまえとレストラン行きたい」
それだけじゃわからないのか、直江は首を傾げてオレを見る。右に左に。
「だから〜!も〜!鈍いなあ!」
イライラしてきてまた直江にチューした。さっきより熱烈なやつをムッチューと。
「好きみたい、オレ、おまえのこと」
「……本当ですか?!」
「うん」
「高耶さん!!」
年上の男に弱いのはオレの性だ。だけど相手は誰でもいいわけじゃない。
直江がいい。
いつもオレを手篭めにするときのように、直江は色っぽいキスをたくさんしてきた。
開崎さんがノビててくれてホントに良かったと思うぐらい。
「ん……直江……」
「このまま寝室に直行しちゃっていいですか?」
「ダメだろ。開崎さんを起こして帰してからだ」
「ち」
残念そうにオレから離れた直江は開崎さんを羽交い絞めにして背中に膝を当ててグッと押した。
目を覚ました開崎さんはボーっとした顔でオレと直江を交互に見てから、肩を落として落胆した。
「またおまえか……直江」
「悪かったな」
「おまえにはいつも欲しいものを持っていかれる……優秀な秘書の座も、社内早食いチャンピオンの座も、食堂で最後に残ったカニクリームコロッケも……。とうとう好きな人も、か」
「…………」
早食いチャンピオン?
「早食いチャンピオンの座だろうが、カニクリームコロッケだろうが貴様にくれてやるが、高耶さんだけは渡せないぞ」
「わかってるよ……。高耶くん、ごめんな?」
「う、うん。いい。大丈夫。全然気にしなくていいから」
最後に開崎さんに頭を撫でられた。またもやちょっとポヤンとした。
うーん、直江と開崎さんだったら絶対に開崎さんのほうがまともだ。
だけど好きなのは直江なんだよな〜。なんだ、この矛盾は。
「じゃあ、帰るから」
「ん、またな。バイバイ」
寂しそうな笑顔を向けて殴られた顔を抑えながら、開崎さんは帰って行った。
「……高耶さん、本当に何もされてないんですか?」
「されてないよ」
「じゃあ、寝室に……」
「待て。その前に聞きたいことがある。尾行してたのはいいとしよう。土足で部屋に入ったのも許す。だけど、なんで美術教師とエッチしたのか聞かせろ」
「う」
別に付き合ってたわけじゃないけど、浮気みたいなもんにしかオレには感じないから聞かないと気が済まない。
「仕事ではよくこの手を使っていたので……ただの手段なんですけど……高耶さんはイヤ、ですよね?」
「当たり前だ」
「すいません……でも、別に性欲がどうとかじゃないんです。本当に義務的にやっていただけで!」
「オレにもか?」
「高耶さんには心のこもったエッチをしたいと思ってます!」
うーん……なんかイマイチ納得できないところもあるけど、今回はしょうがないか。
これからが問題だもんな。
「もうああいう手段使うなよ?」
「はい!」
「エッチなことは全部禁止。キスもオレ以外の人間とはしちゃダメ。わかったか?」
「はい!」
「約束破ったらおまえはトラブルシュータークビだ。それとオレの半径10メートル以内に入るのも禁止」
「わかりました!」
晴れやかな直江の笑顔。愛しそうにオレを見つめる目。優しい手。
「チューしろ」
「はいっ!」
直江が好きだ。
「ん……ダメ……入れたら……ダメ、まだ……」
「じゃあ高耶さん……手で、してください……」
「……なおえ……」
あれから直江と寝室へ。
エッチはまだ無理だけど、ちょっとだけ進歩したオレたち。
「高耶さん……愛してます……」
「あん、なおえぇ……オレも……」
相棒が彼氏に進化した。
理事長と譲には内緒にしておかないとな〜。
END |