いまだに信じられないんだけど、オレに彼氏が出来た。
相手はあのエロ用務員だ。
勝手にエロいことしてきたり、好きだ好きだとしつこいメールを送って寄越したり、うんざりしてたはずなのに、なんでか知らないけど好きになってた。
だからってラブラブ生活してるわけじゃなく、普段とあんまり変わらないってゆーか、ただエロいことされる回数が増えただけな気が……。
もうちょっと恋愛要素の多いお付き合いがしたかったんだけど。甘えたり、イチャイチャしたり。
もしかして遊ばれてるだけ……なはずはないだろうから、考えられることとしては直江はイチャイチャしたり甘えられたりすんのが好きじゃないってことかな?
それかただエロいことだけしたい、とか?
なんか……つまんねーなあ!!
そんなことばっかり考えてる今日このごろ。
午後のうららかな教室で数学の授業中。
「じゃあ成田くん。この問題を解いて。おい、仰木、ちゃんと授業聞いてるか?」
「聞いてます……」
数学教師は譲だけ「くん」をつける。なんでかって理事長の甥だから。
こーゆーところで差別をする教師をチクるのもオレの仕事なんだけど、それをいちいちやってたら学校の先生全員をチクらないといけなくなるから面倒でやってない。
別に「くん」をつけられたって態度は変わらないわけだし。
それよりオレは直江とこの先どんな付き合い方をしていけばいいのかが気になるっちゅーの。
放課後になってから恒例の携帯メールチェックをすると理事長から一件、直江から一件入ってた。
理事長は会社の仕事が多くてこのごろ学校には来てない。だから直江から仕事内容を聞いておけってメール。
もちろん仲間の譲にもこのメールは行ってるだろう。
直江のメールは、
『理事長から仕事を請けましたので本日6時に高耶さんの家に集合してください』
だった。
集合ってことは譲も来るのか。
じゃあ直江に「エロいことばっかりじゃヤダ」って言えないってことだよな?
まあそれは別の機会に言えばいいか。
女の子の媚びた声が聞こえたと思ったら、譲の取り巻きだった。
「ごめんね。今日は仰木くんに宿題を教える約束になってるんだ。カラオケはまた今度」
「え〜。そうなの〜?」
「じゃあ今度は絶対ね!」
いつオレが宿題を教えてくれって言ったんだよ。おお?
「仰木くん、帰ろうか」
「……そうだね、成田くん……」
激弱キャラを演じているオレとしてはなるべく小さい声で答えた。
これが中学生のころだったら「誰が宿題なんか!」と言ってるとこだが、正体を隠して生きる今となっては将来のため、妹の美弥のため、おとなしくしてなきゃいけない。
そんなこんなでおとなしい仰木くんは成田くんと帰宅いたしました。マル。
「へ〜、高耶んちって初めて来たけど、見事になんにもないね」
「まあな」
スリッパすらない我が家。一人暮らしで誰も客なんか来ないと思ってたから本気で何もない。
それを見て譲は信じられない態だった。
「直江さんが来るの、6時だよな?それまでヒマ潰ししようよ」
「ヒマ潰しつってもな〜……遊ぶもんなんかないしな〜」
オレがするヒマ潰しって言ったらベランダで育ててる小松菜の世話とテレビぐらいなもんか。
「あ、いいもの発見。見ていい?」
「どれ?」
譲が見つけたのはテレビの脇に置いてある紙袋。
このシリーズを読んでるお姉さま方は知ってると思うけど、中身はエロいビデオだ。
近所のゴミ捨て場に大量に捨ててあったのを頂いてきたんだ。
「おまえも好きだな〜。こんなに集めるなんてさ〜」
「ちげーよ。捨ててあったんだ。どっかの男が結婚するんで捨てたやつじゃねーかな」
「なるほどね。俺、こーゆーのあんまり見たことないからちょっと見せてよ」
「いいよ。好きなの見れば?」
優等生で女子に人気の優しい成田くんの正体はただのスケベ小僧だった。
好きなのを選んだ譲が手に持っていたのは巨乳と熟女。マザコン丸出しじゃねえか。
「うわ。こんなのもあるんだ?!」
「どれ?」
爆笑しながら譲が取り出したのは封が開いてないホモビデオ。
買ったヤツはきっと間違えたか、バーターで届いたビデオの中に紛れ込んだやつだったから開けすらしなかったんだろうな。
「高耶はこれ見なかったの」
「興味ねえし」
「ちょっと見ようぜ」
封を破いてテレビデオにセット。
ポップな曲が流れてうら若い男子がPV風に公園でポーズなんかとってる。
「キモッ!」
「ナル入ってるよな、こいつ」
話はどんどん進んで行って同じぐらいの年齢の男子に誘われて家の中へ。
んでそこでくんずほぐれつ……。直江がオレにしてるよーなことをしてた。
しかし!!
「ギャー!!」
「なんだこりゃあ!!」
素っ裸になった二人のうち、片方がもう片方のケツの穴に……!!
「痛そう!!」
「そりゃいてえだろ!あんなモン入れられた日にゃあ!」
「高耶!もうやめよう!俺、こんなの見たら夢に出るよ!」
「そーしよう!」
そこで停止ボタンを押して上映会終了。
「な……なんか……自分が犯された気分だよ……」
「だな……二度と見るまい……」
ビデオを取り出して元のパッケージに戻した。
それから気を取り直して巨乳ビデオを。これはオレも何度も見てるから安心だ。
「た……高耶……なんかヤバくなってきちゃった」
「トイレ貸すけど」
「いや!でも!」
「なんだったら持って帰って見ていいぞ。部屋にビデオぐらいあるんだろ?」
「う、うん、まあね。じゃあ2、3本借りてくよ……」
そろそろ6時ってこともあって譲はビデオを3本ほどカバンに入れた。嬉しそうに。
そうこうしてるうちに直江が来た。
「こんばんは」
「おう、入れ」
手作りのテーブルを囲んで本日のシューター会議。
「理事長からの依頼はですね、最近サッカー部のクラブハウスで夜な夜な声がする、というものです。警備員が聞いているそうなんですよ。しかし中に入ると誰もいない。新手のイタズラか、それとも幽霊か……というものなんです」
「幽霊なんかいるわけないじゃん。誰か部室にいるんだろ。んで警備員が来ると隠れるって寸法だろ」
「俺も高耶の意見に賛成」
「まあ私もそう思ってましたけどね。理事長は幽霊ネタ大好きだから」
まず調査をしようってことで、学校の人気者・譲が友達のサッカー部員に話を聞くことに。
んでサッカー部でその噂が出てるのならオレと直江が夜間調査に出る。
「なんで俺は夜間調査に参加できないんだよ」
「譲は門限があるだろ。オレと直江はないもん」
「そっか……残念」
「調査が終わって問題があるようでしたら譲さんにも手伝ってもらいますから、そう気を落とさないでください」
「絶対に俺にも報告してよ?」
「しますよ」
そんな話が1時間ほど続いて譲の門限ギリギリになった。ちなみに門限は夜8時だ。
このマンションから譲の家まで1時間弱だから今のうちに帰らせないとまずい。
「直江さん、送ってよ」
「すいません。高耶さんと調査方法を考えるので……」
「あ〜あ、一人暮らしはいいな〜」
愚痴を垂れて譲は帰って行った。
ちょうどオレも直江に話したいことあったし、素直に帰ってくれてよかった。
テーブルの前に戻って座ると、さっそく直江がキスしてきた。
「やめろよ」
「どうして?高耶さんはキスしたくなかった?」
「じゃなくてさ〜。おまえ、こーゆーことしか頭にないわけ?」
「他にもありますよ。高耶さんは可愛いなあ、とか、今日も眼鏡が似合ってたなあ、とか」
ダメだ。
「調査方法を考えるんだろ?」
「張り込みでいいじゃないですか。私と高耶さんで寄り添いながら張り込みなんてステキですね」
「真面目にやれっての」
「真面目ですよ?これでも」
そんでまたキスしてきた。嫌いじゃないけどキスするとすぐにエッチなことになるんだよな。
ほら、もうケツ触ってきたし!
「ダメ!」
「……どうしてですか」
「おまえ、オレとエロいことしたいだけで好きだって言ったんじゃないだろうな?だとしたら今すぐ別れるぞ」
「そんなことありませんよ!私は本気で高耶さんが好きで……!」
「だからってエロいことしかしないなんて、オレはヤダ」
直江の腕の中から抜けて台所へ。腹が減ったからラーメンでも食うことにした。
「直江も食うか?」
「ええ、いただきます……」
特売で買ったインスタントラーメンを鍋で2人分作った。あとで直江にラーメン代を請求しなきゃ。
どんぶりによそおうとしたら、直江がなぜかニヤニヤしながら来た。んでオレにくっついて話す。
「わかりましたよ。あなたがそんなにイヤがるわけが」
「んだよ」
「あのビデオ見て、怖くなったんでしょう?」
あのビデオ??
あのビデオ……?……あれか!!ホモビデオ!わざわざ見たのか!
そーにゅーしーんで止めたから勘違いしやがったな!
「ちがっ……!」
「とうとう高耶さんも女の裸よりも男の裸の方がよくなった?」
「バカか!」
菜箸で直江の頭をゴツゴツ叩いた。
おでこに箸の二本線が何重にもクッキリついたところで折檻は終了。
「ふざけんな!食わないんだったらオレが2人分食うからな!」
ラーメンが入ったどんぶりをテーブルに持って行って置くと、涙目の直江もどんぶりを持ってやってきた。
やっぱし食べるらしい。
「一杯100円な。ラーメン代と手間賃」
「……彼氏からお金を取るんですか?」
「それとこれとは話が別なんだよ。貧乏高校生の食料を食ってるんだから払え」
「はい……」
黙ってズルズルラーメンを食ってると、直江が話の続きを始めた。
「高耶さんが言いたかったのは……その、彼氏に何を求めてるかってことでしょうか?」
「そうだ」
「私は一緒にいて楽しく過ごせるならそれでいいと思ったんですけど。楽しくなかったんですか?」
「オレはエッチなことしたいわけじゃないんだよ。それはオマケでいいんだ」
「じゃあ……デートしたり、食事をしたり?」
甘えたりイチャイチャしたり。もちろんそんなこと恥ずかしくてじかに言えないけどさ。
でもみなしごハッチなオレは優しさに飢えてるっつーか、誰かに甘えたいっつーか、直江に大事大事されたいっつーか。
「デートも食事もしたいけど……」
「なんでしょう?」
「もういい……。それ食ったら帰ってくんねえ?」
「え?」
「話すだけ無駄みたいだからな」
ちょっとひどい言い方したかもしれないけど、直江には落ち込むぐらい考えて欲しかった。
当然、落ち込みながらもラーメンは完食して帰って行った。
最後に不意打ちでキスされたけど。
譲がサッカー部員から聞いた話によると、サッカー部でも噂にはなってるらしい。
夜な夜な、っつっても午後9時ぐらいだったそうだ。
んでオレは直江と調査に出たわけ。
警備員みたいに懐中電灯を持って行くとバレるから、こっそりと先に部室の屋根に登って張っていた。
「赤外線スコープとか欲しいとこだな」
「真っ暗で何も見えませんね……足元、気をつけてくださいね」
「おう」
そして8時半。部室のドアが開いて誰かが入ったみたいだった。
やっぱり幽霊なんかじゃない。んなわけあるかっての。
盗聴器を改造して作った(工作は理事長の趣味だ)マイクを窓際に垂らして部室の音を拾った。
オレと直江はイヤホンを片方ずつつけて聞いてる。
『寂しかったよ〜』
『悪かったって言ってんじゃねえか。しょうがないだろ、試合だったんだから』
『でもさ……最近時間なくて甘えさせてくれないし、おまえ学校来ても人気者だから全然接点ないし』
男子2人の話し声だ。これを聞く限りじゃモーホーの関係……ってことだよな?
『今度の日曜だって試合なんだろ?イチャイチャできる時間、どんどんなくなってく』
『俺がユースなんかに選ばれたばっかりに、おまえに寂しい思いさせてるんだな……』
ユース?ユースって、サッカー日本代表ユース、アンダー20だよな?
てことは……サッカー部でユースつったら……同学年の楢崎!!あいつだ!!んじゃ相手は……?!
ああ!もしかして!1年の卯太郎!!サッカー部のマネージャー!!
『こうやって部室でエッチするぐらいなんて……寂しいよ』
『でも、部室でエッチするぐらいしか時間も場所もないだろ?』
『ん……そうだけど……あん……警備員にだってそろそろ見つかるよ……』
『大丈夫だ。あいつらまさかロッカーの中まで調べないから』
それから2人のエッチしてるらしき声が続いた。
「どうします?高耶さん」
「……ほっといてやろっか」
「え?いいんですか?」
「だって、エッチする場所もないし、時間もなかなか取れないんだったら……仕方ないじゃん」
「でも学校で不純同性交遊なんて」
「……どこの誰がそんな言葉を言えるんだ」
直江を黙らせて2人のエッチが終わるまで屋上にいた。
え?その間何やってたかって?
そりゃ……エロい声が聞こえてきたんだから出来立てホヤホヤカップルのオレたちだって……くっついて手でしたさ。
「もしかして、高耶さん……卯太郎くんのように甘えたりイチャイチャたくさんしたかったんですか?」
「ん……そ……だよ……。なんで……ああん……今頃気付いた……んだよ……あっ、もっと……」
「これからは高耶さんの好きなだけ甘えさせてあげますよ……すいません、気が付かなくて」
「なおえぇ……」
「愛してます……」
部室の屋根、直江の膝の上で発射した。
譲にはとりあえず正直に申告した。楢崎はユースだし問題あったら困るから。
変な顔をしてたけど、まあ愛し合ってる二人が落ち着くまでは放っておいてやろうってことに。
理事長には「わかりませんでした」と報告。
どーせあの理事長のこったから実害がなければ忘れるだろう。
困ったのが警備員で、こっちは毎日の見回りしなきゃいけないから大変だ。
でもオレがこっそりと警備員の巡回ルートと巡回時間(サッカー部の部室限定だけど)を怪文書として楢崎の机の中に入れておいたら、その時間を避けるようになったらしくて警備員からの報告もパッタリなくなったそうだ。
これで一件落着!!
直江は甘えさせてくれるようになったし、イチャイチャもしてくれるし、エッチなことは減らないけどいい彼氏になってくれた。
が。
「そうか……楢崎くんと卯太郎くんは合体済みか……」
なんか嫌な予感……。大丈夫か、オレ?!
END |