トラブルシューター |
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今日は土曜日。 マンションまで直江に迎えに来てもらって車で南船橋のオシャレ家具屋へ。 「ベッドを買いましょう!」 力んでそう言う直江の魂胆はミエミエだ。 「いらね」 今回、オレが欲しいのはテレビ台だ。あの大量にあるアダルティーなビデオテープたちをしっかりと保管できるやつ。 「テレビ台も買いますが、ベッドも……」 しょんぼりした直江を無視してかっこいいテレビ台を探した。 でもこのオシャレ家具屋は持ち帰りが原則だから、今日は直江の車に載せられる組み立て式テレビ台と本棚でいっぱいいっぱいだな。 「ベッドは……?」 とっとと会計まで行って直江に金を出させて外に出た。 「さっさと帰ろうぜ。んで組み立てしよう」 生まれて初めて食べるベルギーのチョコ。ベルギーがどこにあるのか知らないが、直江が買うんだからうまいに決まってるはずだ。 そして車は直江が住んでいる町に。閑静な住宅街って感じのいい所だった。 「どうぞ」 マンションは当然の如くオートロック。外壁の重厚なレンガが豪華さを演出。 部屋に入ると勝手に明かりがついたり、勝手に鍵がかかったり。すげえ。 「ここに座って待っててください。お茶いれますから」 リビングには革張りのソファ、オレの手作りテーブルとは風合いが違う木製テーブル、でかいオーディオセット、畳一枚分はありそうな薄型テレビ、壁には風景画。 「なあ、中見て回っていい?」 直江が茶をいれてる間に探検だ。リビングの隣りは寝室らしい。覗いてみたらダブルベッドがデンとあった。 「儲かってまんな……」 つぶやきながら廊下に出て、目の前のドアを開けたら書斎。たくさん本が入る本棚に黒檀の机にパソコン。 それから廊下の奥の部屋に。透明なガラスっぽいドアノブを回したその中は!! 「なんだこりゃ〜〜〜!!」 すぐに直江が来た。そして満面の笑みで自慢を始めた。 「ああ、この部屋ですか。ここは『高耶さん部屋』です」 そこにあるものをいちいち紹介したくはないけど、しなきゃ話は進まないから紹介しよう。 壁には一面のオレのポスター。普段の制服姿、体操服姿、調理実習のエプロン姿、私服、それぞれナイスなシチュエーションでナイスなアングルで撮られたポーズがポスターになってる。 棚の中にはオレの顔のレリーフと、実物そっくりのフィギュアと、棚の中を埋め尽くさんばかりの写真立て。 本棚の中には『高耶』アルバム、そして極めつけは本。どう考えても普通の本なのに、背表紙には『私の高耶さん』だの『高耶さんと賢者の石』だの『足長高耶さん』だの『高耶さん放浪記』だの『炎の高耶さん』だのとどこかで聞いたタイトルのパクりみたいな本がたくさん……。 ミニコンポの脇にはCDもあって、そこには『電話で高耶さん』『おやすみ高耶さん』『おはよう高耶さん』『高耶三兄弟』『高耶さん交響曲』『アイラブユー高耶さん』なんてものが。 そして良く見りゃカーペットの柄もオレの顔だ。どうやって織ったんだ。 「…………お、おま、これ……」 放火してえ!この部屋全部燃やしちまいてえ! 「なんですか、急に怒鳴ったりして」 いいいいいちねんまえだぁ?!金に物を言わせてこんなもの作って集めてこいつは変態か!! 「アニメやアイドルを好きな男の子と同じですよ。私の場合はグッズが売っていないので作っただけです」 こ、こ、こんなものにン百万……?!オレが必死でシューターやって毎月ピーピー言いながら生活費を稼いでた1年間をこんなものでン百万……?! 「好きで好きでしょうがなかったんですよ。この純情をわかってもらえませんか?」 部屋の中をメチャクチャにしてやろうと思って一歩前進したら直江に抱えられてしまった。 「絶対にこの部屋はこのままにしますから」 喚いてドアを壊そうとしたんだけど、またもやヒョイと抱え上げられて米俵みたくしてリビングに戻らされた。 「この変態野郎!!」 直江は無言で米俵になってるオレのケツをナデナデした。 「ひゃ!」 手がお尻から前に滑って気持ちいいところをモニモニした。 「あ、あん!」 米俵状態でモニモニされるとどこに力を入れて我慢すればいいかわからなくて、出したくなくても声が出る。 「やっ……やめ、直江……!」 ボヨンボヨンしたベッドに放り出されてすぐに直江に圧し掛かられる。水の上にいるみたいなベッドは逃げるのも難しい。 「なんだ、このベッド……!」 高耶さん部屋のことも忘れて直江のエロテクでメロメロになっちゃった。
エロいことが終わって気が付けば全裸にされてた。 「愛してます愛してます大好きです大好きです」 こー言われながらスリスリされてナデナデされると許したくなるのがオレの特徴だ。 「直江、チョコ食べたい」 ここで食うとなると、直江のことだから何かしたがるに違いないから服は着ることにしよう。 「そうですか?じゃあこれを」 柔らかいタオル地のバスローブを渡されてそれを強制的に着せられた。まあいいや。一応「服」だ。 「テレビ見ていい?」 リモコンで電源を入れてみたが、こんな複雑なリモコンを触ったことがないからどこを押していいやらわからなくて、適当に押してみた。 『ん……なおえ……もうちょっといろよ……』 パッと画面に映ったのはオレと直江のキスシーン。オレのマンションの玄関。直江が帰るとこらしい。 「うわああああ!!」 そーゆー問題じゃなくて!! 「こ、これじゃ数学の松田と変わんねーじゃんよ!!」 畳一枚の大きさのテレビ画面には直江に抱きついて甘えるオレが目一杯映ってて、どこぞのドラマみたいな仕上がりだ。 「消せ!」 急に直江が悲しそうな顔をしたもんだから、意識がテレビ画面から離れて直江に釘付け。 「松田先生の時もそうでしたけど、あなたは本当に私のことが好きなんですか?ちょっとハンサムな年上男だったら誰でもいいような気がしてきたんですけど、間違ってますか?」 うん、違う。オレが好きなのは直江だけ。 「こうやって録画したものを見たり、録音した声を聞いたり、自作の小説で夢をみたり、そうでもしないと不安が渦を巻いて頭がおかしくなりそうなんですよ。本当は高耶さんは私なんか好きじゃないんじゃないかって」 それでも直江は信用できなさそうな顔してオレと画面を交互に見てる。 「いまだに合体もさせてくれないし」 別れる……?直江と?てことは?優しくしてくれる人がいなくなる。 「やだ……」 半泣きで直江に縋り付いた。だって別れるなんてそんなの無理だ。直江がいい! 「直江じゃなきゃヤダよ〜!もうポヤンとしないから〜!変態部屋もあのままでいいから〜!合体もしていいから〜!」 は!もしかしてオレ、とんでもないこと口走った?! 「言質頂きました。高耶さん部屋もあのまま、合体もOK。そういうことですね?」 離れようとしたけど直江の逞しい腕でガッチリ抱かれて離れられない。 「じゃあいつ?約束してください」 モニュ、とお尻を掴まれた。それから撫でられてチューされて……。 「いつですか?」 なんだか直江の手の平の上だ。だからって今更「別にいいよ」なんて言えるほど強気になれない。 「じゃあいつですか?」 ああ、またとんでもないこと言っちゃった。来週オレは直江とエッチ……そして合体……。 「ひーん」 泣かないでつったって泣けてくるんだから仕方がない。 「じゃあこうしましょう。今から高耶さんに気持ちいいことをしてあげる。きっと怖くなくなりますよ?」 どんな練習かはわかんないけど、少しでも怖くなくなるならしとこう。 「練習する」 直江が不敵に笑った気がしたけど、見なかったことにして風呂場に行った。
「……どうでした?練習は」 なんとオレは練習だってのに何度も発射してしまった。あんなところが気持ちいいなんて、恥ずかしくてたまんねー。 「きっと合体したら高耶さんにもっと優しくなれると思います」 ベッドの上で直江にギュギュギュと抱かれてご満悦だ。 「合体すれば高耶さんの浮気癖も直るでしょうし」 不安だ。どれだけのテクニックがあるのかわからないけど、この笑顔が不安だ。 「来週、楽しみにしてますよ。ふっふっふ」 オレ、早まったか?早まったな。完全に早まった!!
END
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あとがき |
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