トラブルシューター


エピソード6

直江んちにて

 
         
 

今日は土曜日。
学校も半日で終わって今から直江と家具を買いに行く。

マンションまで直江に迎えに来てもらって車で南船橋のオシャレ家具屋へ。

「ベッドを買いましょう!」

力んでそう言う直江の魂胆はミエミエだ。
オレの処女を奪うためにもすぐに臨戦態勢に入れるベッドが欲しいってことだろう。しかもダブルで。

「いらね」
「なんでですか!」
「オレは布団が好きなんだよ」

今回、オレが欲しいのはテレビ台だ。あの大量にあるアダルティーなビデオテープたちをしっかりと保管できるやつ。
テレビは中古のテレビデオだが、そのうち直江にプラズマテレビを買わせるつもり。

「テレビ台も買いますが、ベッドも……」
「だからいらないって。あ、新しい布団だったら欲しい」
「……ベッド……」
「いらね」

しょんぼりした直江を無視してかっこいいテレビ台を探した。
ついでに教科書を入れておく本棚も買ってもらおう。

でもこのオシャレ家具屋は持ち帰りが原則だから、今日は直江の車に載せられる組み立て式テレビ台と本棚でいっぱいいっぱいだな。
他にも箪笥とか欲しかったけど、今回は諦めよう。次だ、次。

「ベッドは……?」
「だからいらねっての」

とっとと会計まで行って直江に金を出させて外に出た。

「さっさと帰ろうぜ。んで組み立てしよう」
「……あの、今から私のマンションに来ませんか?」
「ん?」
「ベルギーチョコレートを買ってあるんです」
「行く!!」

生まれて初めて食べるベルギーのチョコ。ベルギーがどこにあるのか知らないが、直江が買うんだからうまいに決まってるはずだ。
ついでに言うと直江のマンション初訪問だ。どんな金持ちなのか見せてもらおうじゃんか。

そして車は直江が住んでいる町に。閑静な住宅街って感じのいい所だった。
オレが住んでるみすぼらしい町とは大違い。

「どうぞ」

マンションは当然の如くオートロック。外壁の重厚なレンガが豪華さを演出。
家賃はいくらなのかと聞いてみたら、すでに購入済みでローンもあと少ししか残ってないらしい。
超金持ち!!

部屋に入ると勝手に明かりがついたり、勝手に鍵がかかったり。すげえ。
スリッパもフカフカだし廊下にもカーペットが敷いてあってさらにモコモコ。

「ここに座って待っててください。お茶いれますから」

リビングには革張りのソファ、オレの手作りテーブルとは風合いが違う木製テーブル、でかいオーディオセット、畳一枚分はありそうな薄型テレビ、壁には風景画。
用務員のくせに金持ちすぎる!!

「なあ、中見て回っていい?」
「ええ、どうぞ」

直江が茶をいれてる間に探検だ。リビングの隣りは寝室らしい。覗いてみたらダブルベッドがデンとあった。
それから廊下に出てトイレ。勝手に便座が上がりやがった!そんででかい洗面台。朝シャンもできちまうシャワー付き。
風呂場は大理石で出来てた。

「儲かってまんな……」

つぶやきながら廊下に出て、目の前のドアを開けたら書斎。たくさん本が入る本棚に黒檀の机にパソコン。
仕事が出来る男です、とアピールしてるかのようだ。

それから廊下の奥の部屋に。透明なガラスっぽいドアノブを回したその中は!!

「なんだこりゃ〜〜〜!!」
「どうしたんですか?」

すぐに直江が来た。そして満面の笑みで自慢を始めた。

「ああ、この部屋ですか。ここは『高耶さん部屋』です」
「た……たかやさんべや……?」
「ええ、素晴らしいでしょう?」

そこにあるものをいちいち紹介したくはないけど、しなきゃ話は進まないから紹介しよう。
まず正面にあるのは大きな窓。窓はいい。問題はカーテンだ。「高耶」と染め抜いた文字の白いカーテン。

壁には一面のオレのポスター。普段の制服姿、体操服姿、調理実習のエプロン姿、私服、それぞれナイスなシチュエーションでナイスなアングルで撮られたポーズがポスターになってる。

棚の中にはオレの顔のレリーフと、実物そっくりのフィギュアと、棚の中を埋め尽くさんばかりの写真立て。
カレンダーもオレの写真で作ってあって、しかも海外の背景と合成してあってまるでオレがそこにいたかのような臨場感。
小さめのテレビとビデオも置いてあって、そのテレビ台にはビデオテープとDVDがあるんだが、そのタイトルのすべてに『高耶』って文字が見える。

本棚の中には『高耶』アルバム、そして極めつけは本。どう考えても普通の本なのに、背表紙には『私の高耶さん』だの『高耶さんと賢者の石』だの『足長高耶さん』だの『高耶さん放浪記』だの『炎の高耶さん』だのとどこかで聞いたタイトルのパクりみたいな本がたくさん……。

ミニコンポの脇にはCDもあって、そこには『電話で高耶さん』『おやすみ高耶さん』『おはよう高耶さん』『高耶三兄弟』『高耶さん交響曲』『アイラブユー高耶さん』なんてものが。

そして良く見りゃカーペットの柄もオレの顔だ。どうやって織ったんだ。

「…………お、おま、これ……」
「一生懸命コレクションしたんです。特注で作ってもらったものや、私の手作りもあるんですよ。あのフィギュアは海洋堂に発注したオリジナル製作なんです。小説は私が書いて印刷製本を工場にお願いしたんですけどいい出来でしょう?今度は高耶さんハートっていうゲームも作ってもらおうかと知り合いのゲームクリエーターに打診してい……」
「死ね〜〜〜!!!」

放火してえ!この部屋全部燃やしちまいてえ!

「なんですか、急に怒鳴ったりして」
「いつのまにこんなもの作りやがった!!なんなんだ、このCDは!!いつの間に写真盗み撮りしやがった!!」
「え?ああ、CDはあなたの声を録音したものを自分で編集、リミックスしました。テクノの高耶さんミックスなんかヒットチャートに上れるほどの出来栄えで、リビングのステレオで聴くと格別な味わいです」
「そーじゃねえ!いったいいつこんなものを!!」
「1年前から集めたんです」

いいいいいちねんまえだぁ?!金に物を言わせてこんなもの作って集めてこいつは変態か!!

「アニメやアイドルを好きな男の子と同じですよ。私の場合はグッズが売っていないので作っただけです」
「売ってるわけあるか〜!!」
「素敵な部屋に仕上がったと思ったんですけど……」
「今すぐ燃やせ!全部燃やせ!とことん燃やせ!!」
「嫌ですよ。総額ン百万のコレクションなんですから」

こ、こ、こんなものにン百万……?!オレが必死でシューターやって毎月ピーピー言いながら生活費を稼いでた1年間をこんなものでン百万……?!

「好きで好きでしょうがなかったんですよ。この純情をわかってもらえませんか?」
「わかりたくねえ!!」
「そんな……ひどい……」
「全部処分しろ!」
「嫌です。絶対に嫌です。何がなんでも嫌です」

部屋の中をメチャクチャにしてやろうと思って一歩前進したら直江に抱えられてしまった。
ヒョイと部屋から出されて鍵を閉めた。

「絶対にこの部屋はこのままにしますから」
「ああああ!!このキ○○イ!!」
「ここは私の家です。あなたの部屋でのお茶が有料なように、私の部屋に何があろうが私のものですから」
「訴えてやる!」
「古いギャグですね」

喚いてドアを壊そうとしたんだけど、またもやヒョイと抱え上げられて米俵みたくしてリビングに戻らされた。

「この変態野郎!!」
「………………」

直江は無言で米俵になってるオレのケツをナデナデした。

「ひゃ!」
「私にお尻を撫でられて気持ち良くなってるあなたが変態呼ばわりできるんですか?」
「うッ……」
「前も触ってあげましょうか?」
「バカー!!離せー!!」

手がお尻から前に滑って気持ちいいところをモニモニした。

「あ、あん!」
「ほら、すぐにいい声出して」

米俵状態でモニモニされるとどこに力を入れて我慢すればいいかわからなくて、出したくなくても声が出る。

「やっ……やめ、直江……!」
「このまま寝室行きましょう」
「んん!ヤダ……!」
「たくさん出していいですから」

ボヨンボヨンしたベッドに放り出されてすぐに直江に圧し掛かられる。水の上にいるみたいなベッドは逃げるのも難しい。

「なんだ、このベッド……!」
「ウォーターベッドですよ。ここでエッチすると格段にいい気持ちらしいですよ?」
「やだっ、まだ、ダメ!!」
「……じゃあいつもの」
「ん……」

高耶さん部屋のことも忘れて直江のエロテクでメロメロになっちゃった。
ダメだな〜、オレって。みなしごハッチはこれだから……。

 

 

エロいことが終わって気が付けば全裸にされてた。
直江はいつものよーにオレを抱いて頬ずりしまくってる。

「愛してます愛してます大好きです大好きです」

こー言われながらスリスリされてナデナデされると許したくなるのがオレの特徴だ。
とりあえずあの変態部屋のことは後で考えるとしよう。

「直江、チョコ食べたい」
「あ、そうでしたね。ここに持って来ましょうか」
「……服着てリビングがいい」

ここで食うとなると、直江のことだから何かしたがるに違いないから服は着ることにしよう。

「そうですか?じゃあこれを」

柔らかいタオル地のバスローブを渡されてそれを強制的に着せられた。まあいいや。一応「服」だ。
手を繋いでリビングへ行くと、すぐに直江はお茶とチョコを用意した。

「テレビ見ていい?」
「ええ、どうぞ」

リモコンで電源を入れてみたが、こんな複雑なリモコンを触ったことがないからどこを押していいやらわからなくて、適当に押してみた。
そしたら。

『ん……なおえ……もうちょっといろよ……』

パッと画面に映ったのはオレと直江のキスシーン。オレのマンションの玄関。直江が帰るとこらしい。

「うわああああ!!」
「あ」
「なんでこんなものが〜!!」
「ちょっと撮らせてもらいました。大丈夫ですよ、流出なんかしませんから」

そーゆー問題じゃなくて!!

「こ、これじゃ数学の松田と変わんねーじゃんよ!!」
「でも私はキスシーンしか録画してませんよ?」
「そうだとしても!!」

畳一枚の大きさのテレビ画面には直江に抱きついて甘えるオレが目一杯映ってて、どこぞのドラマみたいな仕上がりだ。
こんなもの冷静に見られる直江は絶対におかしい!

「消せ!」
「だから何度も言わせないでください。これは私のものですから私の自由にします」
「消さなきゃ別れる!」
「……別れるとか、嫌いになるとか、あなたいつも言いますね」
「え……」

急に直江が悲しそうな顔をしたもんだから、意識がテレビ画面から離れて直江に釘付け。

「松田先生の時もそうでしたけど、あなたは本当に私のことが好きなんですか?ちょっとハンサムな年上男だったら誰でもいいような気がしてきたんですけど、間違ってますか?」
「違う……よ?」

うん、違う。オレが好きなのは直江だけ。
松田先生や開崎さんにポヤンとなるのは……ちょっぴり優しくされたからってだけで……好きってゆーわけじゃない。
と、思う……。

「こうやって録画したものを見たり、録音した声を聞いたり、自作の小説で夢をみたり、そうでもしないと不安が渦を巻いて頭がおかしくなりそうなんですよ。本当は高耶さんは私なんか好きじゃないんじゃないかって」
「……えーと……」
「即答できないのは、好きじゃないから……ですか?」
「好きだってば」

それでも直江は信用できなさそうな顔してオレと画面を交互に見てる。

「いまだに合体もさせてくれないし」
「それは……なんつーか……怖いから……」
「やっぱり一回別れましょう。高耶さんはそれで私とのことを考えてみてください。そうでもしないと仕事に影響が出てしまいそうです」

別れる……?直江と?てことは?優しくしてくれる人がいなくなる。
開崎さんは……好きって感じじゃないから優しくされて嬉しいけど、ちょっと違う。
理事長と譲は問題外。
松田先生みたいなド変態はお断り。

「やだ……」
「でもあなたの浮気癖を見てる私としては苦しいんですよ。だったらキッパリ別れて、あなたの本音を聞かせてもらった方がマシです」
「……ヤダ」
「チョコレート、持って帰っていいですから。服を着たら帰ってください」
「ヤダ」
「あの部屋も封印しておきますから」
「ヤダ!」
「さあ、早く服を着て。マンションまで送ります。仕事以外では会うのやめましょう」
「嫌だ!!」

半泣きで直江に縋り付いた。だって別れるなんてそんなの無理だ。直江がいい!

「直江じゃなきゃヤダよ〜!もうポヤンとしないから〜!変態部屋もあのままでいいから〜!合体もしていいから〜!」
「……本当ですね?」
「本当だよ〜!だから別れるなんてヤダ〜!」
「ふふふ」

は!もしかしてオレ、とんでもないこと口走った?!

「言質頂きました。高耶さん部屋もあのまま、合体もOK。そういうことですね?」
「いいいいや、あの、その、へ、部屋はかろうじていいけど……合体はまだ……」

離れようとしたけど直江の逞しい腕でガッチリ抱かれて離れられない。

「じゃあいつ?約束してください」
「え、えーと……えーと……」

モニュ、とお尻を掴まれた。それから撫でられてチューされて……。

「いつですか?」
「……い、一年後……?」
「どうでしょうねえ。一年後には別れてるかもしれませんねえ……」
「嫌だ〜!」
「一年後には高耶さんには開崎、私には美しくて淫乱な女。そういうカップルが出来上がっててもおかしくはないですよね?」
「ダメ〜!」

なんだか直江の手の平の上だ。だからって今更「別にいいよ」なんて言えるほど強気になれない。
オレはもう直江なしじゃ生きていけないんだもん。直江の優しさは特別だ。

「じゃあいつですか?」
「ら、来週……」
「来週……まあ、いいでしょう。本当は今日と言いたいところですが、心の準備も必要ですし」

ああ、またとんでもないこと言っちゃった。来週オレは直江とエッチ……そして合体……。
あのでかい直江の棒が、オレのお尻に……?

「ひーん」
「高耶さん?」
「怖いよ〜」
「大丈夫、優しくしますから……泣かないで」

泣かないでつったって泣けてくるんだから仕方がない。
オレの処女は来週までの期限付きになっちまった。

「じゃあこうしましょう。今から高耶さんに気持ちいいことをしてあげる。きっと怖くなくなりますよ?」
「ホント……?」
「ええ、一緒にお風呂に入って、ちゃんと準備して、合体する前の練習しましょう」

どんな練習かはわかんないけど、少しでも怖くなくなるならしとこう。

「練習する」
「いい子ですね」

直江が不敵に笑った気がしたけど、見なかったことにして風呂場に行った。

 

 

 

「……どうでした?練習は」
「聞くな!」

なんとオレは練習だってのに何度も発射してしまった。あんなところが気持ちいいなんて、恥ずかしくてたまんねー。
どうなってんだ、男の体ってのは。

「きっと合体したら高耶さんにもっと優しくなれると思います」
「……ホント?」
「ええ。大事に大事にしてあげます。なんたって大好きな高耶さんが私のものになるんですから」
「うーん……それなら……怖くない……かも」

ベッドの上で直江にギュギュギュと抱かれてご満悦だ。
今以上に優しくしてくれるんなら合体したっていいや。

「合体すれば高耶さんの浮気癖も直るでしょうし」
「なんで?」
「それだけの自信があります」
「自信?」
「ベッドテクの」

不安だ。どれだけのテクニックがあるのかわからないけど、この笑顔が不安だ。
オレの浮気癖が直るほどのテクニックか……。
期待していいやら、怖がった方がいいやら。

「来週、楽しみにしてますよ。ふっふっふ」
「やっぱ怖いよ〜!」

オレ、早まったか?早まったな。完全に早まった!!
来るな、来週!!

 

 

END

 

 
   

あとがき

本当に約束は守られるのか?
それは次回に持ち越しです。
それにしても変態部屋は
最悪の趣味ですな。

   
         
   
   
         
   
ブラウザでお戻りください