トラブルシューター


エピソード7

学園制覇への道

 
         
 

久々に理事長に呼び出されて譲と一緒に行った。
直江がいなかったからどうしたのか聞いたら、今は用務員の仕事でどこかに行ってるらしい。

「今日はどんな話?」
「うちの学園にも不良と呼ばれる生徒がいるわけだが」

実はこの学園、譲みたいないいトコのボンボンもいればヤンキーもいる。
今どきヤンキーなんかいないと思うのは大間違い。かっとびバリバリロックンロールなヤンキーがいるんだ。
そいつらは不良と呼ばれる生徒の大半を占めるストリート系の奴らとは一線を画し、地道に暴走族やらケンカやらと正統派ヤンキーを貫いてる微妙におバカさんな人たちだ。

「そいつらが隣町の学校と一触即発状態にあってな、毎日のように追いかけっこしてるらしいと情報が入った」

駅前だの商店街だので顔を合わせればケンカになるってゆーアレだ。

「それで近々集団でのケンカがあるとタレコミが入ったんだ。警察に色々言われるのは面倒だし腹が立つから今のうちにそれを阻止したい。というわけでおまえら決闘の日を調べろ」
「え〜」
「めんど〜い」

やりたい奴らには勝手にやらせときゃいいのに〜。

「高耶、おまえそんなこと言っていいのか?ああこれで大学進学の夢がハイ消えた〜」
「うっ」

譲は断ろうがどうしようが進学もできりゃ就職もできる。つーかこーゆー事件に関わらない方がいいぐらいだけど、オレはそうもいかない。

「やるよ!やりますよ!」
「よし、いい返事だ。譲はどうするんだ?」
「パス」

なんて薄情なヤツだ……危険な仕事はパスしやがるんだから始末におえねえ。

「直江は?」
「直江にも当たらせる。おまえ一人じゃ心配だからな」

言っておくが、この「心配」ってのはオレの身が心配なわけじゃない。
失敗した時に警察にギャーギャー言われたりするのが心配っつー保身だ。

んなわけでオレはヤンキーたちの動向を探るべく動き出したのだった。

 

 

 

動向を探るにはヤンキーの仲間に入るのが一番いいんだけど、そんなのゴメンだ。
さてどうするかと考えてたら、運良くなのか悪くなのか、向こうさんから接触してきた。
ウチのクラスのヤンキー、田中くんだ。

「仰木〜。オメちょっとパン買ってこいや〜」

田中はいつも誰かをパシリにしてパンやらジュースやらを買いに行かせたり、たまにタバコも買ってこさせて自分はラクばっかしてるっつー典型的なヤンキーだ。
今日はいつもパシリしてるAKB系の羽原くんが休みだから、真面目っ子なバカのふりをしてるオレにお鉢が回ってきたらしい。

「早く行かねーとハムカツパンが売り切れちまうだろ〜。おら、行ってこいや」
「お……お金は……」
「ああ?テメーが出しとけ、バーカ」

オレにんな金あるわけねーだろ!!と怒鳴りたかったけど、仕事になるなら後で理事長に請求できるし、まあいいやと思ってダッシュでパンを買いに行った。
いくつか買って田中のことに持って行って、オズオズしながら(ふりだ)一緒に食べてもいいかと聞いてみた。

「ふざけんな、バカ」

やっぱダメか。うーん、じゃあやっぱり尾行&盗聴が一番かな〜?

下校の時に田中の後をコッソリ尾行してたら繁華街に着いた。そこで学校のヤンキー仲間と合流して道端で何やら会議をしてる。
決闘の話かと思いきや、そこらへんにいる真面目っ子を捕まえてカツアゲしようって相談らしく、中学生を見つけて路地裏に強制連行した。

中学生をカツアゲなんて最低だ!!
と、思って急いで後を追ってオレも路地裏に。やっぱし中学生を囲んでお金を巻き上げてるとこだった。
中学生だろうが誰だろうがオゼゼは大事な生きる糧!働かざる者食うべからずだ!

「キミたち、やめたまえ!」

おお〜、オレ、優等生みた〜い。

「ああ?なんだテメエ」
「仰木じゃんか。俺のクラスの真面目バカだよ、こいつ」
「よってたかって中学生からカツアゲかい?学生としてあるまじき行為だ!」
「ウゼッ」

今時番長なんかいるとは思わなかったんだけど、田中のヤンキーグループにはいるらしく、中でも一番偉そうなのがオレに向かって近寄ってきて、胸倉を掴まれた。

「真面目バカは黙ってろよ。いっちょまえに正義感振りかざしやがってアホか」
「いっちょまえとは何だ!ボカァ、卑劣な行為が許せないだけだ!」

いったいいつの高校生だよ、オレ。1970年代かっての。
けどまあ真面目なふりしなきゃいけないしなあ。

「こいつボコっていい?田中」
「どうぞ」

殴りかかってきたからやり返した。
空手2段、柔道初段、剣道3段、モンゴル相撲4段のオレがこんな奴らに負けるわけないっつーの。
メガネを外してまずは番長くんをボッコボコに。
それからビックリして大勢でかかってきた全員をボッコボコに。みんな路地裏でぶっ倒れた。
中学生は恐れをなして逃げ出した。助けてやったのにお礼もなく。薄情者め。100円ぐらい置いてけよ。

「イテテテ……」
「真面目っ子だからってナメんなよ。あ〜、久しぶりにいい運動になったなあ」

ケンカに勝つってなんて爽快なんだろう!!

「……仰木って……おまえ、もしかして仰木高耶か……?」

ぶっ倒れてた中の一人、同じ学年のヒョロいヤツがオレの顔をまじまじと見てから言った。

「あ?そーだけど?」
「鑑別所の不良全員をたった10分で制したあのバクチク事件の仰木かよ……?」
「おお、よく知ってんな」

どうやらそいつのお兄さんがあの鑑別所にいたらしい。んでオレに制されたらしいのだ。

「な……なんでうちの学園で真面目なふりしてんだよ……」
「まあ色々あってな」

制服についた汚れをパンパンはたいてたら番長らしきやつがオレに土下座をした。

「総長!!」

へ?総長?

「負けたからには総長の座を譲る!こんなに強いなら誰も敵わねえ!今日からアンタが俺たちの総長だ!」
「え、いや、ちょっとそれは……」
「いいな!おまえら!今日から仰木さんが総長だ!」
「おお!!」

あれやこれやと戸惑ってるうちに、なんでかオレが学園の総長に祭り上げられてしまった。
断っても断っても、ヤンキーでおバカさんな連中は嬉しそうに「これで無敵だ〜」とか言いながら、オレの話なんか聞かずに勝手に決めた。

 

 

その日、オレはそのまま喫茶店へ連れて行かれてヤンキーどもからいつ決闘があるかを聞き出せた。
つーかあいつらが勝手に話し出して、仰木さんがいてくれるならこの町の学校全部制覇ですよ、とか言って浮かれまくりだ。

これから女のとこに繰り出してトルエンでもやりましょうと言われたんだけど、生憎オレはこんな連中に興味はないし、女はちょっと気になるけどトルエンなんか絶対にやりたくないから、喫茶店でオムライスだけゴチになって逃げた。

その夜、ウチに来るって約束してた直江が来た。

「こんばんは」
「直江〜」

直江が来るのはちょっと久しぶりで、3日と2時間ぶりだ。

「どうしたんです、急に甘えて」
「ちょっと大変なことになっちゃった」

今日起きた出来事を全部話して、上杉学園ヤンキー連中の総長になったと言った。

「そ、総長?あなたが?」
「うん……ケンカに勝ったら総長になっちゃった……決闘の日はわかったからさっき理事長にメールしておいたけど……これからどうしたらいい?」
「どうって……ヤンキーの総長なんですよね?だったらこのままヤンキーたちを統率して、平和な学園を目指せばいいと思うんですが」
「そっか。あったまいい〜直江!」

手作りのテーブルとテレビデオしかない部屋でチューした。やっぱ直江はかっこいいし頭もいいな〜。

「総長……ですか……。ねえ、高耶さん?」
「ん?」
「学園の総長が用務員さんにエッチなことされてるなんて子分に知れたらどう思われますかね?」
「え?」

直江の手が不穏に動いてオレの服の中に忍び込んできた。

「あ、や……」
「もう合体も済ませた仲じゃないですか。恥ずかしがってないで、体を開いて……」
「ん……なおえ……」

言われるままに体を預けて服を脱がされた。股間に直江の手が。

「あ、ああん」
「こんなに可愛らしい総長だから、きっと奴らも欲情しちゃいますね……」
「バカ……」

寝室に連れ込まれて、せんべい布団を敷いてエッチ。
寝室には今や布団だけじゃなく、エッチ用のグッズが入ったブリキ缶も増えたんだ。
どんどん家具(?)が増えていくオレの家。なんかいいな〜。

 

 

で、決闘の日を理事長にチクったおかげで対決場所の空き地を上杉グループの不動産部門が買い取って、有刺鉄線張って入れないようにしちまった。
いくら警察が嫌いでもやることが大袈裟すぎだ。

決闘場所に入れなかったヤンキーたちは場所と日にちを変えようってことになった。
オレも一応総長だからその場にいたんだけど、オレがいる時点でいつまで経っても決闘なんか出来るはずがない。
場所と日にちを変えるたんびに上杉グループで土地の買取やら工事やらしちまうんだから。
直江に指示出していろんな手続きや連絡をしてもらって決闘場所を潰してたわけ。
最終的にはなんで決闘するのかわかんなくなった双方が「もうどうでもいいや」とばかりに和解した。

和解の影にオレの働きがあったことは言うまでもない。

そして現在。
相変わらずオレは総長なんだけど、おおっぴらにされるのは困るからやめろって命令していまだに真面目なメガネっ子だ。
でもヤンキーは誰もオレに逆らわないし、影でこっそり警護までしてるらしい。

「仰木くん」
「あ、用務員さ〜ん」

たまに校内で直江に会うと嬉しくなって話し込むんだけど、最近は何やら視線を感じる。

「見られてるようですね」
「うん、たぶん警護のヤンキーだと思うけど……」

チラっと見てみたら、前の総長だった3年生の男の姿が。今でも表面上は総長、でも内情ではオレの右腕ってことになったらしい。
勝手に右腕になんかなるな!

「……あれは……」
「直江も知ってるヤツ?」
「ええ、3年生の兵頭くんでしょう?……なんだか嫉妬の混ざった視線のような気が……」
「嫉妬は気のせいだろ」

気をつけてくださいね、って言いながら肩をポンと叩いた直江。そしたら兵頭が飛び出してきた。

「おう、この用務員!俺の総長に気安く触るな!」
「え?!」
「な!!」

そのままオレは連れ去られ、体育館裏で元総長から「用務員は怪しい男だから気を許すな」と進言された。
怪しいって……オレのパートナーで彼氏なんだけど……。
つーかおまえらにとってオレが一番怪しい存在なんだけど。

「俺が総長を守りますから!」
「えーと……」
「総長は俺の大事な……、いや、俺たちの大事な人ですから!!」

……この先、どうなっちゃうんだろう?
責任とってくれよ、理事長!!

 

 

 

直江が理事長から伝言を言付かってきた。
もうオレはヤンキーに囲まれてうんざりしてぐったりだ。総長引退したいよ〜。

「理事長の意見としてはそのまま総長に納まっておけとのことです。ついでにストリート系の不良も締めて、学園の裏番長になってくれると有難いとの仰せなんですが」
「ヤダ」
「…………まあそこは理事長と話し合ってください」
「あ、そうだ」

んで今日、体育館裏で兵頭に言われたことを直江に話した。怪しい用務員の話と「俺の大事な総長」の話を。

「やっぱり」
「なんだ?」
「あの男、高耶さんに惚れましたね、確実に」

直江が言うにはラブだそうで。尊敬ではなくラブだそうで。

「……なんでオレってホモにモテるんだろ……」
「あいつが高耶さんに張り付くなら、私もあいつに張り付かねば。……高耶さん!」
「は、はいぃぃ!」
「年上のちょっとハンサムな男だからって兵頭なんかにポヤンとしないでくださいね!」
「う、うんっ」

年上たってたった1歳じゃんか。そんなのオレの範囲外だ。確かにハンサムではあるけどさ。

「あなたの貞操は私が守ってみせます!」
「よ、よろしく……」
「ああ、高耶さん!!」

ギュギュギュと抱きしめられてチューされて、腰を押し付けられて貞操の危機を感じた。
けど直江だからいいのか。もう直江にはとっくに貞操なんか奪われてんだし。

「ああん、なおえぇ」
「あなたは私のものだ!」

仰木高耶、弱冠16歳。もうすぐ17歳。
世間の荒波に揉まれて、直江に股間を揉まれて学園生活を過ごしてる。

ああ、これからどうなるんだろ?!

 

 

END

 

 
   

あとがき

どうやって兵頭を出すか
考えて、ようやくこんな形に。
総長の高耶さんをゲットしようと
頑張るとは思いますが
出番は少ないです。

   
         
   
   
         
   
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