トラブルシューター


エピソード8

活動停止!

 
         
 

オレが総長になって一ヶ月。うんざりだ。
毎日毎日ヤンキーが周りをウロウロしてる上に、元総長の兵頭がうるさく付きまとっていい迷惑。
しかも最近じゃすぐに「俺の総長」とか抜かしやがる。ハッキリ言うがオレはオレだ。「直江の高耶」ですらない。
百歩譲って「直江の高耶」だとしても、やっぱりオレは自由なわけで。
いや、その、理事長に奴隷みたく扱われてはいるけどな……。

そんなわけで兵頭とヤンキーのせいで最近のトラブルシューターに支障をきたすようになった。
護衛がついてるから仕事にもなりゃしない。
一回帰って護衛がいなくなるのを見届けてから学校に戻って理事長の話を聞いたりしなきゃなんない。
めんどくせー。

オレのせいで遅い時間に集合した三人のシューターの前で、理事長が次の仕事を依頼した。

「最近生徒の間で話題になっているという怪談を知っているか?」

夏だから怪談話もそこそこ出るだろうが、今回の怪談は理事長にとって広まって欲しくない噂だ。

「知ってる」
「そうか、だったら話が早い」

実にくだらないというか、それじゃ仕方ねーじゃん、と思うような噂だ。
それは用務員さんが用務員室から突然消えて、いつのまにか学校のあちこちに出没するってゆー噂。
あの用務員さんはもしかして幽霊かエスパーなんじゃないかって。

そりゃそうだ。
橘用務員は直江で、用務員室から秘密の通路を使って理事長室に行ってるんだもん。消えたように見えるのは当然の帰結なわけで。

「そもそも用務員が理事長直属のトラブルシューターってのが無理あるんだよ」
「高耶の言うとおりかも」

オレと譲の意見に理事長と直江は渋い顔をした。単純すぎなんだっつーの、理事長が用務員をシューターにしてるなんて筋書きは。

「じゃあどうしたらいいんだ」
「どうもこうも、直江を用務員じゃなくて、もっと普通のにすりゃ良かったんだ。理事長秘書とかさ」

元々は理事長がやってる会社の社長秘書なんだから、そのまま持ってくりゃ良かったんだよな。
そしたらいらない噂も立つわけないのに。

「………………」

理事長が押し黙ったのはオレに的を突かれたからだろう。「あ!そうか!」みたいな。
今頃気が付くってのもどうかと思うぞ。

「まあその話は置いておいて」

立ち直り早いな〜。

「どうしたら直江が消えずに済むかを考えてくれないか?」
「無理」
「マネキン飾っておくわけにも行かないんだよ、叔父さん。だったらもう用務員を別の人にして、直江さんを秘書として理事長室で働かせるしかないんじゃない?」

確かにそれが一番なんだけど。

「そんなことをしたら用務員室に作ったモニタールームが無駄になるだろう。いくらかかってると思ってるんだ。あのモニタールームは何億とかけて作ったんだぞ」

趣味でだろ。

「じゃあ直江をシューターから外すしかないじゃん。そうじゃなきゃ隠密活動がバレちまうってならさ〜」
「うーむ。そうかもしれんな。今は高耶の他に譲もいるわけだしな……直江を外さないまでも、用務員以外の時間で動いてもらうしかないか」
「そんな!理事長!私はこのまま高耶さんと続けますよ!」

その直江の発言に「俺は?」と睨んだ譲の顔が怖かった。
直江にとっちゃ譲はいてもいなくてもいい存在だろう。でも唯一の友達なわけだから、オレにとっちゃ譲の存在は大きい。

「まあ直江を外すのは私としても不安が大きいからな。しばらく全員活動停止だ」
「活動……停止……」
「1ヶ月もすりゃ噂は収まるだろう。それまで待て」
「はい……」

おお!久しぶりの自由だ!!

 

 

 

その日の夜に直江がウチにやってきた。用務員ルックじゃなく、かっこいいスーツ姿の直江だった。

「どしたの、スーツなんか着て」
「学校が終わってから会社に行ったんです。しばらく活動停止ですから、会社の方で少しやっておかないといけない仕事を済ませてきました」
「どんなことしてんの?」

スーツを脱いでオレんちに置きっぱなし(故意に置いたらしき)の部屋着に着替えて茶の間に座った。
直江が買ってきてくれたお茶っ葉で作ったお茶を出してやると、それを飲みながら教えてくれた。

「主な仕事は理事長のスケジュール管理なんですが、たまに理事長に頼まれた物の管理もしてます」
「ふーん。じゃあ開崎さんみたいな感じ?」
「……どうしてそこで開崎の名前が出るんですか……?もしかして……私に内緒で会ってたり……」
「してねえよ!アホか!」

直江の嫉妬モードが発動した。開崎さんと会ってないのは信じてもらえたけど、別のことで疑われてるとこなのを忘れてた。

「じゃああの兵頭とかいう3年生とは?」
「……あれは勝手にあいつがまとわりつくってゆーか……」

そうなのだ。直江はオレと兵頭が一緒にいるところを何度も見てる。
だからそれを見かけるたんびにウチに来て毎回質問攻め。

「本当に何もないんでしょうね……?あなたは年上の男に弱いから……少し優しくされるとフラフラして……」
「その前に兵頭に優しくされたことないっつーの。フラフラもない」

兵頭は「敬う」って感じの方が多い。
だってあいつはオレが年上の男に優しくされるのが弱いことなんか知らないし、ケンカで勝った強い仰木くんが、甘ったれだなんて思ってもみないし。

「……今日、ここに泊まってもいいですか?」
「ん、いいよ。明日は体育があるから何もしないなら」

一瞬だけガーン!!みたいな顔をしたけど、持ち直して「わかりました」とだけ言った。
そう毎日エッチするわけにはいかないの!直江と違って体を酷使するんだから!

 

 

 

翌日から直江は用務員らしく掃除したり校舎の電灯を替えて回ったりしてた。
よく直江のそんな姿を見かけるから、きっとオレの行動を監視……じゃなくて見守ってるんだと思う。
今日で4回目の直江の姿を確認して、横目でチラチラ見てたら前から来た人にぶつかって派手にコケた。

「いてて」
「大丈夫かい?」
「あ、はい……」

目の前にいたのは学校の生徒会長。風魔小太郎先輩だった。真面目で律儀でハンサムの、女子に人気の3年生だ。
手を差し出してオレが立ち上がろうとするのを助けてくれた。

「前を見て歩かないと危ないよ?」
「すみません」
「ああ、眼鏡が落ちてる。はい、どうぞ」

眼鏡を拾ってくれた小太郎先輩の笑顔にちょっとドキュンとした。
優しい……。オレなんかに優しくしてくれるなんて……いい人だ……。

「そのネクタイの色は2年生だね。名前は?」
「お、仰木……高耶……」
「仰木くんか」

その時、背後から殺気がした。恐る恐る振り返ってみると直江が睨みつけてた。わ〜、ヤバ〜。

「総長!!」

ヤバイと思ってすぐに、さらにヤバいことになった。兵頭だ。今日もオレの護衛をコッソリしてたみたいで飛び出してきた。

「てめえ、総長にぶつかっておいて笑ってんじゃねえ!」
「え?そうちょうって?」
「ああ!いや!オレのアダナで!!そーちょーって、えーと、えーと、早朝から新聞配達のバイトしてるもんで、それでそんなアダナがついただけです!じゃあ先輩、失礼します!!」

猛ダッシュで兵頭の腕を引っ張って逃げた。階段を下りて校舎の裏に入って怒鳴った。

「人前で総長って呼ぶなっつってんだろうが!!つーかオレがいつおまえらの総長になるって認めたんだ!ええ?!」
「なんと言われようが総長は総長です。それに……俺の総長にぶつかった上に手まで握るなんて……あの野郎……生徒会長のくせにエロい野郎だ……」

小太郎先輩は普通の行動を取っただけだと思うんだけど。ぶつかって転んだ下級生に手を差し出しただけで。

「用務員といい、生徒会長といい、どうして総長はこんなに狙われるんですかね」

そのセリフ、直江が聞いたら三段回し蹴りされるぞ。

「総長には俺というれっきとした……」
「れっきとした……なんだ?」
「いえ、なんでもありません」

オレにはれっきとした直江ってゆー彼氏がいるんだよ。兵頭なんか好きにならないってのに。
けどさっきの小太郎先輩にはちょーっとだけときめいちゃったけど。

 

 

 

帰りのホームルームの時、校内放送で呼ばれた。

『2年H組の仰木くん。至急玄関まで来てください。忘れ物が届いています』

直江の声だった。
忘れ物なんか絶対嘘で、さっきの様子をつぶさに聞きたいに違いない。
行くか……。

玄関の脇には用務員室。その入り口に橘用務員さんが立っていた。

「早く」

人に見られる前に用務員室に入って、奥の部屋のそのまた奥のモニタールームへ。

「聞きたいことは山ほどありますが、まずは兵頭の話からいきましょう」
「……やっぱり……」

兵頭には人前で総長って呼ぶなって話をしただけだってちゃんと話した。正確に全部セリフを交えて。
そしたらそっちは信用してくれたんだけど。

「じゃああの生徒会長の小太郎くんとは?」
「転んだのを助けてくれただけだろ。見てたじゃんか」
「ちょっとドキュンとしてませんでした……?」
「う」

してたと言えばこの場でお仕置き。してないと言えば嘘おっしゃいとか言ってこの場でお仕置き。
どっちのお仕置きがより軽いのかを考えた。……どっちも同じだ。
困った。

「えーと」
「高耶さん?」

嫉妬モード全開。そこが直江の可愛いとこっちゃ可愛いとこなんだけど。
あ、そーだ。だったら。

「ちょっとだけドキュンてした」
「な……!やっぱり!!」
「だって優しかったんだもん。転んだの起こしてくれたし、眼鏡も拾ってくれたし。さすが生徒会長だよな」
「私だって高耶さんが転べば起こして抱っこしてどこへだって連れていきますよ!眼鏡なんか何個だって買ってあげますよ!たかがそのぐらいでドキュンとなる、そんな浮気性なあなたにはお仕置きが必要ですね」

思ったとおりだ。

「お仕置きヤダ……直江がもっと優しくしてくれたらドキュンてなんないのにな……」
「た……高耶さん……」
「オレは優しい直江だから付き合ってるのに……兵頭なんかより、小太郎先輩より、直江が優しかったらドキュンてなんないよ……直江ってば最近ずっとオレのこと監視してるみたいに疑っててさ……寂しかったんだ……」

どうだ!!必殺・寂しがり高耶さんだ!!

「そ、そうだったんですか……すべて私のせいだったんですね……」
「直江が一番好きなのに……」
「ええ、ええ、よくわかってます……ごめんなさい、高耶さん」

ムギューとされて、ムチューとされて、直江の機嫌はすっかり直った。
これでお仕置きはなくなったわけだが。

「直江……」

オレだって性欲真っ盛りの高校生。少しは期待しちゃってるわけで。

「ここで……あなたを食べてもいい?」
「少しだけな……残りはオレんちでしよ……?」

ちょっとだけ直江に食べさせた。アーンしてモグモグして、美味しそうにしてた。

「ん……なお……ああん」
「美味しいですよ……あなたの可愛いコレ……」
「あっ、も……ダメ……」

直江の手も口も何もかも、小太郎先輩より優しくてやっぱり大好きだ。

 

 

 

それから一ヶ月、おかしな噂もなくなって全員シューター復帰。
オレは相変わらず兵頭に付きまとわれて「俺の総長」って言われてる。

直江との関係は良好なんだけど、一個問題が起きたんだな。

直江がいつものようにモニタールームで校内を監視してた時、偶然にも発見しちゃったんだって。
写真部が裏取引してるのを。
それはどんな写真かってゆーと、オレの写真だ。

小太郎先輩が5枚セットの盗み撮り高耶写真を1万円出して買ってたらしい。どうやら写真部に発注かけたみたいだ。

「だから言ったじゃないですか!やっぱりあの生徒会長はあなたに魅了されちゃったんですよ!ああ、もう!また面倒なライバルが増えた!それもこれも高耶さんがあいつにポヤンとした顔を見せたから!あなたのその顔は男心を抉ってしまうほど魅力的なんですよ!」
「そ、そんなこと言われても……」
「あなたは私のものなのに!」
「そりゃオレだって……あ、直江……!ちょっと、待って……こんなとこじゃ……!ああん!」
「ここが校舎裏だろうがどこだろうが関係ありません!」
「ダメ……触ったら……大きく……ああ……なっちゃうからァ……!」

シューター最中の夜の学園。
夜に勝手にプールに入ってる犯人を捕まえるために二人で突入したはいいものの……。
直江に突入されちゃったオレ。

こんなんじゃまたシューター活動停止になるぞ、直江!!

 

 

 

END

 

 
   

あとがき

写真部は地味な仰木くんの
写真を発注した生徒会長を
気の毒そうな目で見ていました。
「生徒会長ってホモだったのか」
「しかも趣味悪いよな。あんな地味な2年なんて」
こんな感じ。

   
         
   
   
         
   
ブラウザでお戻りください