トラブルシューター |
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オレが総長になって一ヶ月。うんざりだ。 そんなわけで兵頭とヤンキーのせいで最近のトラブルシューターに支障をきたすようになった。 オレのせいで遅い時間に集合した三人のシューターの前で、理事長が次の仕事を依頼した。 「最近生徒の間で話題になっているという怪談を知っているか?」 夏だから怪談話もそこそこ出るだろうが、今回の怪談は理事長にとって広まって欲しくない噂だ。 「知ってる」 実にくだらないというか、それじゃ仕方ねーじゃん、と思うような噂だ。 そりゃそうだ。 「そもそも用務員が理事長直属のトラブルシューターってのが無理あるんだよ」 オレと譲の意見に理事長と直江は渋い顔をした。単純すぎなんだっつーの、理事長が用務員をシューターにしてるなんて筋書きは。 「じゃあどうしたらいいんだ」 元々は理事長がやってる会社の社長秘書なんだから、そのまま持ってくりゃ良かったんだよな。 「………………」 理事長が押し黙ったのはオレに的を突かれたからだろう。「あ!そうか!」みたいな。 「まあその話は置いておいて」 立ち直り早いな〜。 「どうしたら直江が消えずに済むかを考えてくれないか?」 確かにそれが一番なんだけど。 「そんなことをしたら用務員室に作ったモニタールームが無駄になるだろう。いくらかかってると思ってるんだ。あのモニタールームは何億とかけて作ったんだぞ」 趣味でだろ。 「じゃあ直江をシューターから外すしかないじゃん。そうじゃなきゃ隠密活動がバレちまうってならさ〜」 その直江の発言に「俺は?」と睨んだ譲の顔が怖かった。 「まあ直江を外すのは私としても不安が大きいからな。しばらく全員活動停止だ」 おお!久しぶりの自由だ!!
その日の夜に直江がウチにやってきた。用務員ルックじゃなく、かっこいいスーツ姿の直江だった。 「どしたの、スーツなんか着て」 スーツを脱いでオレんちに置きっぱなし(故意に置いたらしき)の部屋着に着替えて茶の間に座った。 「主な仕事は理事長のスケジュール管理なんですが、たまに理事長に頼まれた物の管理もしてます」 直江の嫉妬モードが発動した。開崎さんと会ってないのは信じてもらえたけど、別のことで疑われてるとこなのを忘れてた。 「じゃああの兵頭とかいう3年生とは?」 そうなのだ。直江はオレと兵頭が一緒にいるところを何度も見てる。 「本当に何もないんでしょうね……?あなたは年上の男に弱いから……少し優しくされるとフラフラして……」 兵頭は「敬う」って感じの方が多い。 「……今日、ここに泊まってもいいですか?」 一瞬だけガーン!!みたいな顔をしたけど、持ち直して「わかりました」とだけ言った。
翌日から直江は用務員らしく掃除したり校舎の電灯を替えて回ったりしてた。 「いてて」 目の前にいたのは学校の生徒会長。風魔小太郎先輩だった。真面目で律儀でハンサムの、女子に人気の3年生だ。 「前を見て歩かないと危ないよ?」 眼鏡を拾ってくれた小太郎先輩の笑顔にちょっとドキュンとした。 「そのネクタイの色は2年生だね。名前は?」 その時、背後から殺気がした。恐る恐る振り返ってみると直江が睨みつけてた。わ〜、ヤバ〜。 「総長!!」 ヤバイと思ってすぐに、さらにヤバいことになった。兵頭だ。今日もオレの護衛をコッソリしてたみたいで飛び出してきた。 「てめえ、総長にぶつかっておいて笑ってんじゃねえ!」 猛ダッシュで兵頭の腕を引っ張って逃げた。階段を下りて校舎の裏に入って怒鳴った。 「人前で総長って呼ぶなっつってんだろうが!!つーかオレがいつおまえらの総長になるって認めたんだ!ええ?!」 小太郎先輩は普通の行動を取っただけだと思うんだけど。ぶつかって転んだ下級生に手を差し出しただけで。 「用務員といい、生徒会長といい、どうして総長はこんなに狙われるんですかね」 そのセリフ、直江が聞いたら三段回し蹴りされるぞ。 「総長には俺というれっきとした……」 オレにはれっきとした直江ってゆー彼氏がいるんだよ。兵頭なんか好きにならないってのに。
帰りのホームルームの時、校内放送で呼ばれた。 『2年H組の仰木くん。至急玄関まで来てください。忘れ物が届いています』 直江の声だった。 玄関の脇には用務員室。その入り口に橘用務員さんが立っていた。 「早く」 人に見られる前に用務員室に入って、奥の部屋のそのまた奥のモニタールームへ。 「聞きたいことは山ほどありますが、まずは兵頭の話からいきましょう」 兵頭には人前で総長って呼ぶなって話をしただけだってちゃんと話した。正確に全部セリフを交えて。 「じゃああの生徒会長の小太郎くんとは?」 してたと言えばこの場でお仕置き。してないと言えば嘘おっしゃいとか言ってこの場でお仕置き。 「えーと」 嫉妬モード全開。そこが直江の可愛いとこっちゃ可愛いとこなんだけど。 「ちょっとだけドキュンてした」 思ったとおりだ。 「お仕置きヤダ……直江がもっと優しくしてくれたらドキュンてなんないのにな……」 どうだ!!必殺・寂しがり高耶さんだ!! 「そ、そうだったんですか……すべて私のせいだったんですね……」 ムギューとされて、ムチューとされて、直江の機嫌はすっかり直った。 「直江……」 オレだって性欲真っ盛りの高校生。少しは期待しちゃってるわけで。 「ここで……あなたを食べてもいい?」 ちょっとだけ直江に食べさせた。アーンしてモグモグして、美味しそうにしてた。 「ん……なお……ああん」 直江の手も口も何もかも、小太郎先輩より優しくてやっぱり大好きだ。
それから一ヶ月、おかしな噂もなくなって全員シューター復帰。 直江との関係は良好なんだけど、一個問題が起きたんだな。 直江がいつものようにモニタールームで校内を監視してた時、偶然にも発見しちゃったんだって。 小太郎先輩が5枚セットの盗み撮り高耶写真を1万円出して買ってたらしい。どうやら写真部に発注かけたみたいだ。 「だから言ったじゃないですか!やっぱりあの生徒会長はあなたに魅了されちゃったんですよ!ああ、もう!また面倒なライバルが増えた!それもこれも高耶さんがあいつにポヤンとした顔を見せたから!あなたのその顔は男心を抉ってしまうほど魅力的なんですよ!」 シューター最中の夜の学園。 こんなんじゃまたシューター活動停止になるぞ、直江!!
END
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あとがき |
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