トラブルシューター |
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1ヶ月に2回ぐらい、高耶さんはは孤児院に戻って妹の美弥さんと会う。 今の所美弥さんに悪い虫がついてる気配はない。高耶さんにはつきまくりだが。 本人はまったくそのつもりがないそうなのだが、完全にあれは浮気者だ。 本社での用事があって朝から出勤していた日、秘書室の端っこで同僚の開崎が何やら電話で手配している。 「開崎」 開崎とは高耶さんを巡って一戦交えた時からなんとなく気まずくなっている。どちらかと言うと開崎が避けていて、私は普通にしているつもりなんだが威嚇しているふうにも見える。 「寄付のダンボールはいつ持って行くんだ?」 今週の日曜……確か昨日、こんな会話が私と高耶さんの間であった。 『じゃあ今度の日曜は妹さんに会いに?』 日曜は高耶さんが孤児院に里帰りする。ということは開崎も孤児院に行くのだから高耶さんと会うわけか。 「俺が代わりに行ってやろうか」 こちらには色々な切り札があるのだ。早食い大会だって運動会だってテニス大会だってゴルフ大会だって夏休みのクワガタ取り大会だって、常に開崎より私の方が上位で1位を競り合っているのだ。 「今まで2位に甘んじてたおまえが1位だぞ。さあ、どうする?」 そんなわけで私も日曜には孤児院に行くことになった。
我が社のボーナスは査定によって変動する。 半年間に一度も古着の寄付をしなかった者はボーナス大幅カットになる。 ……上杉会長に毒されている気がしなくもないが。 そして集まった服を孤児院の院生に渡すのだが、たった20人しかいない孤児院に年間数千着以上もの古着が送られるのだから余りまくるに決まっている。 そうやって運営しているのだから秘書の開崎に任されているのは当然だ。なんと言っても秘書たちは会長の奴隷と言うか手下なのだから、大事な雑用をやって当然なわけだ。 それで私は今日、ライトバンに荷物を積んで孤児院にやってきた。 「こんにちは。上杉グループの直江です。古着をお持ちしました」 出てきたのは40代の女性。よく本社会議で顔を合わせる上杉会長の奥さんだった。 「あらまあ、直江さん?開崎さんは?」 よく奥様が会議に出席しているなあ、と思っていたのだが、まさか孤児院の経営者が奥様だったとは! 「院生たちには内緒にしててくださいね。じゃあ、古着を出してしまいましょうか」 よくよく話をしてみると、奥様は筆頭株主でもあり顧問でもあるそうだ。経営にはあまり口を挟まないが孤児院の経営と会社の業績が関係していることもあるので会議には出席しなくてはならない。 「そのための出席だったんですね」 某部長やら某副社長やらが、趣味で孤児院を経営している会長を批判するために孤児院の閉鎖を説くことがある。 「わたくしのことは上杉グループの社員ということになっているから。もし院生の子供たちに何か聞かれても黙っていてね?」 確かに孤児院の院長が上杉会長の奥様だなんて知ったら院生を動揺させてしまうかもしれないな。 「……直江!!」 高耶さんの背後に何かいた。後ろに隠れるようにしている。 「妹さんですか?」 ようやく高耶さんの後ろから出てきた女の子はまだ中学生ながらも可愛らしくて美人だった。 「美弥です」 それで妹さんは納得してくれたらしい。でも高耶さんの機嫌がすごぶる悪い。 「お兄ちゃんをよろしくお願いします」 とても礼儀正しい妹さんだ。高耶さんとは顔は似ているが中身が少々……いや、だいぶ違うようだ。 「素晴らしい妹さんですね」 それから美弥さんは服を物色し始めた。上杉グループの人間からの寄付だからそれなりにセンスのいい服がある。 「お兄ちゃん、これどうかな?」 傍から見た2人はとてもいい兄妹だった。仲の良さはもちろんのこと、美男美女とでも言うべきか。 私も中に入って院生たちと話してみた。どの子も素直で変にひねくれていない。 「あら、直江さんも溶け込んじゃって」 私が子供たちと話していたのを見た奥様……院長がにこやかに話しかけてきた。 「やっぱり直江さんは女の子たちに人気ねえ。会社でもモテるでしょう?」 5歳から17歳までの女の子たちに服を選んであげて、一緒にオヤツを食べた。 帰らなければいけないと言うと、みんな残念そうにしてくれた。なかなかこれも心地いい。女の子にモテるというのは私にとって栄養剤のようなものだ。しかし今はそれよりも何よりも、高耶さんが栄養剤になってくれている。 「高耶さん、そろそろ帰りますよ。良かったら車で送ります」 男の子たちを引き連れて宿舎に戻った高耶さんを車に乗せた。
高耶さんを送ってマンションの前まで。 「……ウチ、寄ってかないのか?」 どうしたことか高耶さんがとても寂しそうな顔をしている。孤児院に戻って里心がついたのか。 「わかりました。またあとで」 会社に自分の車が置いてあるから、ライトバンを返したらそのまま高耶さんの家に行こう。 1時間ほどして高耶さんのマンションに戻った。 「入れ、早く」 なんだか忙しなく部屋に上げられ、ドーナツを喜ぶ姿も見せずに茶の間に座らせられた。 「あの、これドーナツ……」 なんとドーナツを「どうでもいい」と言って抱きついてきた。 「直江はオレの彼氏だよな?」 高耶さんの目が潤んで、じんわりと涙が浮かんだ。 「ずるい〜」 孤児院に行けば行ったで怒って、美弥さんに挨拶しただけで機嫌悪くしていたくせに、ちょっと私が女性と交流があると聞いただけでこんなにヤキモチを妬くなんて。 「高耶さんとはランチじゃなくても何でもしてるでしょう?そんな顔しないで」 珍しく高耶さんの方からキスをしてきた。そこまで妬いてくれたのか。 「もうモテたらダメ」 押し倒されてシャツを脱がされた。襲われているのか?私が?高耶さんに? 「浮気すんなよ」 スラックスの上から彼の手が股間を刺激する。これは相当嫉妬していると捉えていいのだろうか。 「こーゆーこと、オレ以外のヤツとしたらぶち殺すからな」 私も高耶さんのジーンズの上から、少し力を入れて撫でた。彼のものはすぐに大きくなる。 「んん……っ、そこ……」 イマイチ信憑性がないが、ゆっくりと言い聞かせてやろう。この状況を利用して。 「ちょっとでもポヤンとしようものなら、してあげませんよ?」 じっくりと理解してくださいね。
それから高耶さんの浮気癖が直ったかというと、そんな気配はまったく見えず、会長の用事で学園に来た開崎に頭を撫でられポヤンとし、朝の校門で生徒会の小次郎くんに肩を叩かれてニッコリされたらポヤンとし、兵頭に「カバンを持ちますよ」と笑顔で言われたらうっかりカバンを渡していた。 「高耶さん!!」 いったいいつになったら私は安心できるのか。
END
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あとがき |
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