トラブルシューター |
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明日は日曜で学校が休みだから、夜更かししてまった〜り過ごそうと決めたオレ。 直江はこの時期を会社の方の仕事にあてて、毎日午前中が学校、午後が会社で忙しいみたいで、オレんちにも来ないし、デートに誘われたりもしない。 オレは勉強は苦手っつーか大嫌い。 直江がいると勉強できないから今のうちにやっておこうと決めて、今週はずっと家に帰るとテスト勉強だった。 でも……。 夜11時を過ぎてテレビ番組を見ながらホットミルクを飲んだ。牛乳はオレにとっては贅沢品で、しかもホットなんて電子レンジの電気代までかかるからさらに贅沢。 ウマ〜と思って微妙な幸せを噛み締めてたら玄関のピンポンが鳴った。 「はいはいはいはい」 玄関のドアを開けるとやっぱり直江。スーツ姿が少し乱れてる。 「どした?入れよ」 まあ今日ぐらいは土産がなくても入れてやろう。30回に1回ぐらいは許してやる。 「たかやさ〜ん」 玄関に入ってきた直江が酒臭かった。スーツもタバコの臭いが染みてるし。 「どうしたんだよ」 れす、って……。 「今回も私の勝ちれす」 なんだか日本語も怪しいぞ。こんなんでよくここまで来れたなあ。 「まあいいから靴脱いで入れって。いつまでも玄関にいたら風邪引くから」 だけど直江ってば靴も一人で脱げなくて、仕方ないから座らせてオレが脱がせることに。 「よし、脱げた。じゃあ立って」 立とうとしたけど全然ダメ。腰が抜けたんじゃないかって思うぐらい立てない。 「ダメれすね……一回座ってしまうと立てません」 なんでオレが一回りもでかい大人の男を引きずらないといけないんだ。つーかなんで高校生が酔っ払いの世話してんの? 後ろに回って両脇に手を突っ込んで直江を引っ張った。どこかに引っ掛けてスーツが破れるかもしれないけど、どうせ直江の金で直すんだからいいや。知〜らねっと。 茶の間に引っ張ってくのが限界で、手を離したらダラーンと寝てしまった。 「なあ、大丈夫なのか?」 酔っ払いの介抱ってすっげー面倒くせえ。 「ほら、水。寝たまま飲む気か?」 よっこらしょ、とか言いながら胡坐で座った。オッサンなんだな〜。20代って実はもうオッサンなんだ〜。 「いたらきます。あとで10円払います」 うちの水が有料ってことは酔ってても覚えてるらしい。そのへんは偉いぞ。 「ごちそうさまれす」 そしたらコテンと寝てしまった。しかも普段聞くことのないイビキまでかいて。 「マジで?ここで寝るのか?オレのまったりタイムは?」 うちには布団が一組しかないから直江に掛けてやったらオレのがなくなる。風邪なんてテスト前に引くわけにいかないんだから勘弁して欲しい。 「イビキがうるさくてテレビも見れやしねーな……」 しばらくしたら直江が苦しそうに呻いた。起こそうとしたけど全然起きない。 「スーツのまま寝るから苦しいんだろうが!脱げ!」 仕方なく支えてやりながらスーツもネクタイもシャツも脱がせた。下着のTシャツとパンツだけになって寒そうにしたから、押入れから直江のジャージを出して(置きパジャマみたいなもんだ)どうにかこうにか着せてみた。 「おっと、靴下脱がせてないや」 このままでもいいような気はするけど、靴下はちゃんと脱がせておかないと臭くなるから。 「これでいいな?ああ、オレってなんて優しいんだろ。さすが孤児院育ちだよな〜。面倒見いいよな〜」 誰も聞いてないけど自画自賛。そうでもしないとやってらんねえ。 なんか楽しみになってきたかも。
んで翌朝。 起こすつもりは全然なくて、とりあえず観察。 「う……う〜」 唸ってから起床。予想よりも早くに起きたな。 「……んん……?ここは……?……高耶さんの……?」 直江の背後に座ってたからオレの存在に気が付かないみたいで、小声で独り言を言ってる。 「ジャージ……?どうしてここに……。確か昨日は同期会で飲んで……その後は……?」 どうやら昨夜のことは酔っ払ってて覚えてないらしい。うーん、直江ってこういうとこもあったのか〜。 「おはよー」 お、ちょっとこれは面白そうだ。からかってやろーかなー。 「酔っ払ってここに来て、泣きながら『高耶さんがいなかったら生きていけません』つって抱きついてきて、いくらでも浮気していいって言ったんだぞ」 考え込みだした。ははは、ザマーミロ。 「直江の変態部屋もなくすって約束したんだからな。ちゃんと守れよな」 う!寝起きのくせになんて勘のいい! 「高耶さんがいなかったら生きていけないのは確かでしょうが、浮気してもいいなんて絶対に言いません。心にもないことを言うわけがない。ましてや私が2号さんや3号さんになんかなるわけないでしょう。私は常に高耶さんの1号さんでないと気が済みません。1号さんでいるためなら殺人だってします」 こ、こえ〜……。殺人て……。それってオレか浮気相手を殺すって言ってるのと同じなんだけど。 「洋服もご飯もオヤツも掃除も家庭教師も喜んでやります。でも浮気だけは絶対に許しません。というわけで」 直江に腰を抱かれて引き寄せられて倒されて、バスタオルとタオルケットの上でズボンを下ろされた。 「い!」 そんな!それって百叩きってやつじゃないのか?! 「直江の鬼〜!人でなし〜!」 かろうじて10回で終わった。追加されたらお尻が腫れ上がるっつーの。 「じゃあ次は気持ちいいことをしましょうね?」 うつぶせになってたのをクルンと裏返されて、オレの危険地帯が丸見えに。 「浮気しないように大満足させてあげますから」 抵抗してはみたものの、意思の弱いみなしごハッチなオレは最終的に直江に「食べて」って言ってしまい、食べられたり、食べ返したりしてしまった。 「んん!も、ダメ……!早く、して……!」 直江のわけわかんない強引さはどうかと思うけど、気持ちよさに負ける自分もどうかと思う。
「ハックション!」 洋服買ってもらって、メシとオヤツをゴチしてもらって、家に帰って勉強してる間に掃除してもらって、掃除が終わったら家庭教師してもらって。 「誰かに噂されてんじゃねえの?」 立て続けに4回もクシャミが出て、ようやく風邪じゃないかって結論に達した。 「うう……ゾクゾクしてきました……」 おでこくっつけて熱ある?ってやって欲しそうだった直江を無視して体温計を渡した。 「38度……」 酔っ払って押しかけたり、オレのお尻を叩いたりしたばちが当たったんだ。 「高耶さん……」 しょんぼりして直江は帰った。これで快適に勉強が出来るってもんよ。 「さ〜!頑張るぞ〜!待ってろ、美弥!お兄ちゃんはしっかり卒業して大学も入っていいとこに就職して、おまえを迎えに行くからな〜!」 バリバリ勉強できていい調子。これなら今度のテストでは赤点なしだ。 で、無事にテストは終わり、赤点も追試もなくのんびりと冬休みを過ごせることとなった。
でもオレは知らなかった。
END
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あとがき |
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