トラブルシューター


エピソード10

酔っ払いがやってきた

 
         
 

明日は日曜で学校が休みだから、夜更かししてまった〜り過ごそうと決めたオレ。
ここんところはシューターの仕事も期末テストの勉強でやらなくていいから、今のうちに骨休めだ。

直江はこの時期を会社の方の仕事にあてて、毎日午前中が学校、午後が会社で忙しいみたいで、オレんちにも来ないし、デートに誘われたりもしない。
退屈かと言えばそうでもない。
直江がいない隙にやっちまいたいことがあるし。例えば……やっぱり勉強か。

オレは勉強は苦手っつーか大嫌い。
でもやらないと進級できない。シューターやってるからって成績悪いのを見逃してくれるよーな理事長でもないからな。
それとこれとは話が別なんだってさ〜。勝手なもんだ。

直江がいると勉強できないから今のうちにやっておこうと決めて、今週はずっと家に帰るとテスト勉強だった。
だからせめて今夜だけはまったりしたかったんだ。

でも……。
くそ、なんでこうなるんだ。

夜11時を過ぎてテレビ番組を見ながらホットミルクを飲んだ。牛乳はオレにとっては贅沢品で、しかもホットなんて電子レンジの電気代までかかるからさらに贅沢。
ついでに砂糖をちょっと入れるからもっと贅沢。

ウマ〜と思って微妙な幸せを噛み締めてたら玄関のピンポンが鳴った。
こんな時間に来るのはヤツしかいない。

「はいはいはいはい」

玄関のドアを開けるとやっぱり直江。スーツ姿が少し乱れてる。
ついでに言えば土産がない。
酒を飲んでるらしくて目が虚ろ。

「どした?入れよ」

まあ今日ぐらいは土産がなくても入れてやろう。30回に1回ぐらいは許してやる。

「たかやさ〜ん」
「おま、なん……なんか、すっげー酒臭いんだけど!」

玄関に入ってきた直江が酒臭かった。スーツもタバコの臭いが染みてるし。
呂律も怪しい。顔がちょっと赤い。こりゃ相当飲んでるぞ。

「どうしたんだよ」
「同期会がありまして……ウイ〜、毎回恒例の開崎と飲み比べしたんれす」

れす、って……。

「今回も私の勝ちれす」
「あ、ああそう、良かったな」
「それれ……ちょっと酔いすぎまして……家に帰るより高耶さんちの方が近かったので、少し休ませてくらさい」

なんだか日本語も怪しいぞ。こんなんでよくここまで来れたなあ。
休ませるか。

「まあいいから靴脱いで入れって。いつまでも玄関にいたら風邪引くから」
「優しいれすね」
「優しいれすよ、オレは」

だけど直江ってば靴も一人で脱げなくて、仕方ないから座らせてオレが脱がせることに。
用務員じゃない直江の服や靴はいつも上等な品で、きちんと手入れがされてる。今日の靴もピッカピカだ。
紐を解いて足から抜いてる間、直江は大人しく座ってた。他人の靴を脱がせるのって案外大変だな。

「よし、脱げた。じゃあ立って」
「……はあ」

立とうとしたけど全然ダメ。腰が抜けたんじゃないかって思うぐらい立てない。

「ダメれすね……一回座ってしまうと立てません」
「も〜。じゃあ引きずって行くけど、いいな?」
「はい。お願いします」

なんでオレが一回りもでかい大人の男を引きずらないといけないんだ。つーかなんで高校生が酔っ払いの世話してんの?
もうすぐテストだってのに。

後ろに回って両脇に手を突っ込んで直江を引っ張った。どこかに引っ掛けてスーツが破れるかもしれないけど、どうせ直江の金で直すんだからいいや。知〜らねっと。

茶の間に引っ張ってくのが限界で、手を離したらダラーンと寝てしまった。

「なあ、大丈夫なのか?」
「らいじょうぶれす……フワフワしてて気持ちいいれすよ」
「こっちはゼーゼー言って気持ち悪いっての」
「お水をくらさい」
「水?……待ってろ」

酔っ払いの介抱ってすっげー面倒くせえ。
言ってることは支離滅裂だし、自分勝手だし、臭いし。
直江じゃなかったら絶対に放り出してるな。

「ほら、水。寝たまま飲む気か?」
「ちゃんと座りますよ〜ぉ」

よっこらしょ、とか言いながら胡坐で座った。オッサンなんだな〜。20代って実はもうオッサンなんだ〜。
若く見えても中身はオヤジか〜。そんなのと付き合ってるオレっていったい……。

「いたらきます。あとで10円払います」
「おう」

うちの水が有料ってことは酔ってても覚えてるらしい。そのへんは偉いぞ。

「ごちそうさまれす」
「はいはい」

そしたらコテンと寝てしまった。しかも普段聞くことのないイビキまでかいて。

「マジで?ここで寝るのか?オレのまったりタイムは?」
「んが〜」
「おいおいおい……なんだよ、もう。せっかくの休日前が台無しじゃねえか……」

うちには布団が一組しかないから直江に掛けてやったらオレのがなくなる。風邪なんてテスト前に引くわけにいかないんだから勘弁して欲しい。
どうしようか考えて、とりあえずウチにあるバスタオル全部と夏用のタオルケットをかけた。これでどうにかなるだろう。

「イビキがうるさくてテレビも見れやしねーな……」

しばらくしたら直江が苦しそうに呻いた。起こそうとしたけど全然起きない。
酒飲んで寝ると起きないもんなのか?ああ面倒くせえ!!

「スーツのまま寝るから苦しいんだろうが!脱げ!」

仕方なく支えてやりながらスーツもネクタイもシャツも脱がせた。下着のTシャツとパンツだけになって寒そうにしたから、押入れから直江のジャージを出して(置きパジャマみたいなもんだ)どうにかこうにか着せてみた。

「おっと、靴下脱がせてないや」

このままでもいいような気はするけど、靴下はちゃんと脱がせておかないと臭くなるから。
酒臭さにオヤジの臭さが加わったらオレが我慢できない。

「これでいいな?ああ、オレってなんて優しいんだろ。さすが孤児院育ちだよな〜。面倒見いいよな〜」

誰も聞いてないけど自画自賛。そうでもしないとやってらんねえ。
明日は絶対に介抱してやったことを強調して話して、たぶん蒼白になるだろう直江に冷たくしてビビらせて、今後はこういうことのないように強く言い聞かせてから、丸一日空腹感をまったく感じないぐらいにメシだのオヤツだの貢がせて、ついでに新しい服を買わせて家の中の掃除もやらせて、試験勉強の家庭教師やらせて、奴隷のように扱ってやるぞ!

なんか楽しみになってきたかも。

 

 

んで翌朝。
普段と同じ時間に起きたオレは直江のいる茶の間に行って様子を見てみた。
直江はまだ寝てて、バスタオルとタオルケットに包まって丸くなってた。やっぱ寒かったのか。

起こすつもりは全然なくて、とりあえず観察。
寒くないように暖房だけつけてじーっと見てた。

「う……う〜」

唸ってから起床。予想よりも早くに起きたな。

「……んん……?ここは……?……高耶さんの……?」

直江の背後に座ってたからオレの存在に気が付かないみたいで、小声で独り言を言ってる。
ボサボサの頭に手を突っ込んでボリボリ掻いたり。

「ジャージ……?どうしてここに……。確か昨日は同期会で飲んで……その後は……?」

どうやら昨夜のことは酔っ払ってて覚えてないらしい。うーん、直江ってこういうとこもあったのか〜。
ダメなところがあるってゆーのもいいもんだ。

「おはよー」
「え?!高耶さん?!」
「ったりまえだろ。ここはオレんちなんだから。昨夜のこと覚えてないのか?」
「……すみません……」

お、ちょっとこれは面白そうだ。からかってやろーかなー。

「酔っ払ってここに来て、泣きながら『高耶さんがいなかったら生きていけません』つって抱きついてきて、いくらでも浮気していいって言ったんだぞ」
「え?!私が?!そんなことを?!」
「そう。浮気してもいいし、2号さんだろうが3号さんだろうがいいから、とにかく別れないでくれって」
「…………まさかそんなこと言うわけ……」

考え込みだした。ははは、ザマーミロ。

「直江の変態部屋もなくすって約束したんだからな。ちゃんと守れよな」
「そんなはずは……」
「言ったの。ついでに迷惑かけたから洋服買ってメシとオヤツをご馳走して、それからこの部屋の掃除とオレの家庭教師やるって約束してた」
「嘘でしょう?」

う!寝起きのくせになんて勘のいい!
頭もボサボサでジャージもグチャグチャなくせに!
中身はシャッキリしてやがる!

「高耶さんがいなかったら生きていけないのは確かでしょうが、浮気してもいいなんて絶対に言いません。心にもないことを言うわけがない。ましてや私が2号さんや3号さんになんかなるわけないでしょう。私は常に高耶さんの1号さんでないと気が済みません。1号さんでいるためなら殺人だってします」

こ、こえ〜……。殺人て……。それってオレか浮気相手を殺すって言ってるのと同じなんだけど。
ああ、こんなヤバい男と付き合ってんのか、オレ……。

「洋服もご飯もオヤツも掃除も家庭教師も喜んでやります。でも浮気だけは絶対に許しません。というわけで」
「というわけで?」
「嘘つきな高耶さんにはオシオキが必要ですね」
「ひえ!」
「さあ、こっちにいらっしゃい!」

直江に腰を抱かれて引き寄せられて倒されて、バスタオルとタオルケットの上でズボンを下ろされた。
お尻が丸見えになったところでペンペンされた。

「い!」
「嘘をつく子にはお尻ペンペン10回です」
「うわ〜!ヤダヤダヤダ〜!痛い〜!」
「浮気したら100回叩きます」

そんな!それって百叩きってやつじゃないのか?!
なんてひどい男だ!
って、マジで痛いんだけど〜!

「直江の鬼〜!人でなし〜!」
「反省しないとあと10回追加ですよ」
「反省する〜!するからもうやめろ〜!」

かろうじて10回で終わった。追加されたらお尻が腫れ上がるっつーの。
本気で叩きやがって……ちくしょう。

「じゃあ次は気持ちいいことをしましょうね?」
「へ?」
「せっかくお尻が出ていることですし」

うつぶせになってたのをクルンと裏返されて、オレの危険地帯が丸見えに。
もしかして朝からエッチなことを?!寝起きなのに?!

「浮気しないように大満足させてあげますから」
「ひー!」

抵抗してはみたものの、意思の弱いみなしごハッチなオレは最終的に直江に「食べて」って言ってしまい、食べられたり、食べ返したりしてしまった。

「んん!も、ダメ……!早く、して……!」
「1号さんは私だけで、2号さん以下は必要ないって約束してくれるならしてあげますよ?」
「約束、するからぁ……!」
「じゃあ、ほら」
「ああん!!」

直江のわけわかんない強引さはどうかと思うけど、気持ちよさに負ける自分もどうかと思う。
まあいいや。直江、優しいし。

 

 

「ハックション!」

洋服買ってもらって、メシとオヤツをゴチしてもらって、家に帰って勉強してる間に掃除してもらって、掃除が終わったら家庭教師してもらって。
そんで夜になったら直江が大きなクシャミをした。

「誰かに噂されてんじゃねえの?」
「そうでしょうか……ハ、ハ、ハックション!!」

立て続けに4回もクシャミが出て、ようやく風邪じゃないかって結論に達した。
うーん、風邪としか考えられないな。
酒が入ってるのにバスタオルとタオルケットしかかけてない状態で一晩寝て、それから寒い外に出て買い物して、んで風呂場から台所から隅から隅まで掃除して体力使ってりゃな。
つーか一番の原因は寒がって寝てたすぐ後に、真っ裸になってエッチしてたからだな。
オレ?オレは若いから平気。

「うう……ゾクゾクしてきました……」
「熱あるかもな。体温計あるから計ってみな」

おでこくっつけて熱ある?ってやって欲しそうだった直江を無視して体温計を渡した。
今日のオレはテスト勉強しなきゃいけないからサービスしてやれないのだ!

「38度……」
「あ〜あ、そりゃマジで風邪だ。帰って寝ろ」
「泊めて看病するって言ってくれないんですか?」
「だってテスト勉強中だもん。風邪うつったら大変だから帰れよ」
「……ひどい……」

酔っ払って押しかけたり、オレのお尻を叩いたりしたばちが当たったんだ。
はっはっはー。自業自得というやつだー。

「高耶さん……」
「ダメ!帰れ!そんな子犬みたいな顔したってダメ!」
「高耶さ〜ん!」
「か・え・れ」

しょんぼりして直江は帰った。これで快適に勉強が出来るってもんよ。
家庭教師は失ったけど風邪ッ引きにうつされるよりゃマシだ。

「さ〜!頑張るぞ〜!待ってろ、美弥!お兄ちゃんはしっかり卒業して大学も入っていいとこに就職して、おまえを迎えに行くからな〜!」

バリバリ勉強できていい調子。これなら今度のテストでは赤点なしだ。
理事長を見返してやろーじゃねえか!

で、無事にテストは終わり、赤点も追試もなくのんびりと冬休みを過ごせることとなった。
シューターの仕事も休めるし幸せ♪

 

 

 

でもオレは知らなかった。
風邪が治った用務員さんが冬休みずーっとオレんちに居座るつもりなんて予想もしなかった。
当然ながらその用務員は冬休みの間、毎日エッチなことする予定も組んでた。
オレがそれを知るのはまだまだ後の話。

 

END

 

 
   

あとがき

裏行きにするつもりが
エロくできなくて表仕様に。
酔っ払いには困ったもんです。

   
         
   
   
         
   
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