トラブルシューター


エピソード13

生徒会長

 
         
 

真面目なだけが取り得のバカな仰木くん(世を忍ぶ仮の姿だ)も進級が決まって一安心だ。
進級できなかったらダブってシューターを余計に1年やらなきゃいけないからもう必死。
こんなに勉強したのは受験の時以来だ。

「ふわ〜、あとは春休みになるのを待つだけか〜」

うちの学園は試験休みなんてものがなくて、授業が最後の最後まである。単位がどうとかいう問題が起きたからだって。
つーか、単位って何だって感じなんだけどね。バカだから細かいとこわかんないんだよな。

お昼休みはいつも孤独に屋上で食うことにしてる。だって教室で食えるようなステキなお昼ご飯じゃないんだよ。
なんたって毎日塩だけのおにぎりか、購買で一番安いゾウパンだから。
ゾウパンてのはバカみたいにでかいバサバサのコッペパンだと思ってくれればいい。甘さも何もない素パン。
それを牛乳かお茶で喉に詰まらないように流し込むように食うわけ。
こんな昼飯の生徒はオレ以外にはいない。

今日も今日とて寒さに打ちひしがれながら、さらに喉に詰まらせながらゾウパンを食ってたら。

「仰木くん」
「……あ、生徒会長……」

オレが隠れて食ってる屋上階段室の裏側、超日陰になってるところになぜ生徒会長が。

「こんなところで1人で昼食かい?」
「はあ、まあ……」

生徒会長はなぜかオレの隣りに座った。なんで?何しにきたんだ?

「どうしてここで1人で食べてるの?」
「ええと、僕、あんまり人とうまく付き合えないから……」

うまく人と付き合えないのは理事長のせいだ。できるだけ友達作っちゃダメって言うんだもん。
シューターの仕事に私情を挟むな、だと。

「そうか。僕から見たらそんなことないんだけどね」
「生徒会長こそなんでここに?」
「……小太郎って呼んでくれないか?」
「こたろお……?小太郎先輩?で、いいんですか?」
「うん」

なんでだ?オレに名前で呼ばせて何があるっちゅーんだ?

「僕は仰木くんに会いに来たんだ」
「へ?」
「きみのクラスに行ったら、仰木くんはいつも屋上でひとり寂しく食べてますって、ええと、誰だったかな……吹奏楽部の……成田くんだっけ?彼が教えてくれたんだよ」

譲め……食ってる場所を教えるのはまだいいが、『ひとり寂しく』ってなんなんだよ。
失礼にも程がある。

「そんで、なんでオ……僕に?」
「そろそろ卒業だろう?」
「ああ、そうですね、小太郎先輩は3年生だから」
「だから後悔しないようにさ」
「はあ……?」

眼鏡越しに見る小太郎先輩のニッコリ笑顔を見たらちょっとポヤンとしてしまった。寒空がいきなり春空だ。
優しい年上男に弱いのはみなしごハッチの性だから見逃してくれ。

「いきなりで驚くだろうから、少しだけ覚悟して聞いてくれるかな?」
「う、うん……」
「僕と付き合って」
「へあ?!」

ぼぼぼぼ僕と付き合ってってててて……!!!

「仰木くんのこと好きだったんだ。きみと初めて話した日からずっと。一目惚れだったんだよ。でもきみは普通の男の子だし、僕なんかと付き合えるわけないって思ったんだけど、卒業したら二度と会えないのかと考えたらどうしても告白したくなって」

こここ告白したくなってっててててて……!!
告白?!今オレ、愛の告白とかゆーやつを受けてるのか?!

「驚いたよね。きみが嫌な気持ちになるならもう話しかけないから、しばらく考えて返事をくれないかな?」
「う……」

ジェントルマンだ!!順を追って告白して返事待ちしてくれるなんて!!
直江なんか告白と同時にエロいことしてきやがったのに、こんなにまともな人が告白してくれてる!!
オレの人生で唯一のまともな状況だ!!

「じゃあ、これ、僕の携帯番号。もし受けてくれるなら電話をして。いつでもいいよ」
「は……はい……」

手渡された紙には電話番号とメアドが書いてあった。そこらへんのメモに書いたんじゃなく、ちゃんとした厚めの名刺サイズのメッセージカード。
気が利く!カッコイイ!優しい!

「じゃあね」
「……はい」

この寒空の下、爽やかな笑顔と身のこなしで去って行った。さすが生徒会長なだけはある。
つーかオトナっぽーい。

「ふは〜」

告白。しかも生徒会長から。ついでに言うと成績優秀、容姿端麗の生徒会長から。
オレなんかのどこがいいのかわかんないけど、あんな人と付き合えたら幸せかもな〜。
今付き合ってる男はエロいし、変態だし、半ストーカーだし、ワガママだし、この際あんな男は捨てて生徒会長と付き合ってもいいような気がしてきたぞ。

「オレも捨てたもんじゃないな♪」
「何がです?」
「ひっ!!」

背後からひくーい声がしたと思ったら用務員さんが立っていた。
手にはバールがある。こええ……。バールなんてジェイソン以外の人間が持ってるとこあんま見たことない。

「何をしてたんですか、生徒会長と」
「な、なんでもないよ!」
「私に隠れてコソコソと……もしかして浮気してたんじゃないでしょうね?」

ギクーリ。そうとも言えないけど言えるような気が。

「あの男に狙われているのは自分でも知ってたでしょう?それを警戒もしないで話し込んでたんですか?」
「バカ言うな!小太郎先輩は常識人だぞ!優しいしジェントルマンだ!警戒なんかしなくても平気だ!」
「いいえ、警戒は必要です!あなたはどこの誰よりも魅力的なんですよ。たまたまあの男がそれに気が付いただけで、もし普通に学園生活を送っていたら男だろうが女だろうがあなたの虜になるのはわかりきってるんです。そうなったらいつどこで襲われてもおかしくないんです。絶対に警戒心は必要です!」

どこをどう見たらオレがそんなふうになるんだ?地味な高校生じゃねえか。アホくさい。

「直江がどう言おうが思おうが、オレにも自由があるんだよ!話すぐらいどってことねーだろが!」
「……まだわかってないようですね……」
「わかりたくもねーよ!」
「じゃあ体でわかってもらいましょうか」

キーンコーンと始業の鐘が鳴ったのに気を取られて、直江の言葉が一瞬遅く頭に入ってきた。
理解した時にはもう遅く、階段室の裏で股間をモミモミされてた。

「あ!」
「無用心でいるとこんなことされちゃうんですよ?快楽に弱いあなたがここを揉まれて平気でいられるんですか?」
「ん……!ダメ……!!」
「ほら、もう大きくなってる」
「授業が……始まっちゃう……」
「股間を大きくしたまま授業を受けるつもりですか?もっこりさせたまま教室に戻って、みんなに見られて、仰木くんはエッチな体をしてるってバラすつもり?」
「や……だ」

直江の言うとーり、オレの体は快感に超弱い。ちょっとモミモミされただけでガッチガチになる。
こんなんでチューされようもんなら、気持ちもヘロヘロになってつい体を許してしまう。

「キスして、高耶さん」
「あ……」

直江が顔を近づけてきたから思わずチューした。舌を自分から差し込んで吸い付いた。
もうダメだ〜。

「手でしてあげるから、出していいですよ」
「じゅ、授業……」
「いいから」

屋上はいきなりピンク色になった。

 

 

 

午後の授業は結局サボり。一回出してから用務員室に連れ込まれて夕方までお仕置きタイムだった。
でも直江にはどうにかバレずに小太郎先輩の携帯番号の紙を持って帰れた。
屋上で強引にエッチなことした直江と、待ってるから焦らないでって言った小太郎先輩。
これはもう決定だろ。

「もしもし、仰木ですけど……」
『仰木くん!どうしたの?!焦らなくても……あ、もしかして……断りの電話、かな?』
「あ、ち、違います。その、オレ、小太郎先輩のことあんまりよく知らないから……えっと、一回デートとかしといた方がいいかと思って……」
『本当に?デートしてくれるの?』
「はい」

そんなこんなでオレは今度の日曜に小太郎先輩とデートすることになった。
直江がうちに来たいって言ってたけど、そっちは約束したわけじゃないから何か聞かれたら断ればいいや。

「金かかるかな……。んー、小太郎先輩の動向を探るとかって言って理事長に経費もらおう」

メールでお金をくれって言ったら、明日渡すって返事が来た。
前に学園内のホモカップルを数えろって任務があったから、その続きだと思ってくれたみたい。
理事長の扱い方もわかってきたじゃんか、オレ。
直江のサポートも別にいらないってことで、今後は別行動にしてもらおっと。

 

 

 

翌日、理事長室にお金をもらいにいった。

「小太郎くんは真面目でいい生徒だから問題ないとは思うが、とりあえずどんな感じなのか探ってこい。もしデート初日からおまえに手を出してくるようなら、学園内に捨てられた被害者もいるかもしれないしな」
「オレも大丈夫だと思うけどね」
「直江か誰かを尾行させた方がいいか?」
「あ、いや!尾行はいらない!それと直江には黙っててくんない?あいつ最近色々と口うるさいから」
「そうか、わかった」

理事長に口止めしたし、譲には黙っておくことにしたし、あとは直江が疑ってくるのを誤魔化せばいいだけだ。
たぶん今日あたりウチに来るだろうからな。

と、予想してたらマジで来た。

「明後日の日曜なんですけど、空いてますか?」
「ああ、その日は仕事」
「シューターの?何か指令が出てますか?」
「理事長から直接指令を受けたんだ。内々に進めたいみたいだから譲にも直江にも内緒ってことになってるんだけど、おまえなら言わなくてもわかってくれるよな?」
「え、ええ……」
「話せる時が来たらちゃんと話すから大丈夫だ」

なんだか寂しそうだったけど、ここで仏心を出したらオレは一生直江にエッチなことをされ続ける。
直江のことは好きだよ。でもウザいってゆーか、非常識なところについていけないってゆーか。
そろそろ別れ時だと思うわけ。

「高耶さん……」
「ん?」
「最近、なんだか私のことを避けてませんか?」

う!勘いいじゃねえか!
顔にも行動にも出さないようにしてるのに!

「避けてないよ。ほら、テストがあったりしたから忙しくて、それでそう思うだけじゃん?」
「そうですか?」
「そうだよ!オレ、直江のこと好きだもん」

好きは好きだ。嘘じゃないからいいよな。好きだけどもう別れて新しい人生を送りたいだけだもん。
それの何が悪いってんだ。

「今日、泊まっていってもいいですか?」
「あ、ダメ。今日は疲れてて眠いから」
「じゃあ合体しませんから、そばにいるだけでも」
「ダメ。ちゃんと気兼ねなく布団で寝たいんだ」
「……隣りの部屋で寝ますから……」

なんかおかしいな。こんなふうに食い下がってくるの初めてかも。
何か企んでやがんのか?

「うちには余分な布団ないだろ。風邪引くから帰って寝ろよ」
「……わかりました……」

疑われないようにいつもと同じくうちの玄関まで送った。靴を履く後姿がなんだか寒々しい。

「じゃあ、また」
「うん、またな」
「……高耶さん……」

チューされた。いつものことだから気にしないでチューしたんだけど、離れたときに直江の顔を見たら今にも泣き出しそうな顔をしてた。
そんなにエッチできないの悔しいのか?

「なんだよ」
「いえ……なんでもないです……おやすみなさい」
「おやすみ〜」

ドアが閉まってから鍵をかけてチェーンもかけた。これで今夜は安心だ。
さてと、あとは別れるだけだ。でもどうやって?
他の人と付き合うって言えばいいのかな?けど小太郎先輩と付き合うって決めたわけじゃないしな〜。
じゃあもう直江のこと飽きたとかは?それなら自分が悪いと思って諦めて……くれなさそうだな。
うーん、そしたら仕事や勉強に支障をきたすからってのはどうだ?うん、これなら納得するだろう。試験中も大人しくしてくれてたんだから、勉強だの仕事だのって理由なら別れてくれるんじゃないか?
あったまいい〜、オレ!!

 

 

 

そんなこんなで日曜日。小太郎先輩との待ち合わせのちょっと遠くの駅へ。
駅の改札に出たらすでに小太郎先輩が来てた。

「すいません、オ……僕、遅刻しちゃいましたか?」
「いいや、遅刻じゃないよ。まだ5分前だ。僕が早く来過ぎたんだよ」
「でも待たせちゃったし……」
「気にしないで。さあ行こうか」

この駅の付近には美術館とか動物園とか活気のある安いものいっぱい売ってる商店街があって賑わってる。
今日はどこに行くのかな?

「お昼ご飯は食べた?」
「まだです」
「僕も。じゃあ先に何か食べようね」
「はーい」

手近なところにあったスパゲッティ屋に入った。小遣いっちゅーか調査費で足りるかな。高いお店じゃなきゃいいけど。
窓際のテーブルに席を取ってメニューを見た。一番安いスパゲッティでも700円もした。
こんな贅沢してもいいのか……?

「仰木くんはどれにする?」
「え、ええと、タラコスパゲッティにします……」

これなら750円だ。700円のはニンニク臭いからやめといた。

「じゃあ注文しようか」

ウェイトレスのお姉さんを呼んで注文した。タラコスパとトマトとモ、モ、モッツァレラ?のスパゲッティを飲み物とセットでって。
ええ?!飲み物?!そんな余分な金はねーのに!!

「今日はさ、せっかく来てくれたから、全部僕がお金を出すよ。お小遣い、不安なんだろう?」
「エ、エヘヘヘ、じゃあ遠慮なくご馳走になります……すいません、先輩」
「どういたしまして」

うおー!!まだ高校生のくせに超ジェントルじゃねーか!!すげーぞ、小太郎先輩!!
やっぱ直江なんか捨てて小太郎先輩と付き合うのもいいかな〜。

楽しくスパゲッティを食ってから歩いて動物園に。意外なことにオレと小太郎先輩は動物好きって共通点があった。
一番好きな動物は、オレが虎で小太郎先輩が黒ヒョウだ。どっちもネコ科の動物。
直江が好きなのは犬だったっけな。あいつとは趣味が全然合わないんだよな。

それからパンダを見たり、ふれあいコーナーでウサギやモルモットに触ったりした。
ペンギンも見たし、ゴリラも見たし、シマウマも見た。
一緒にいて楽しくて、優しくて、なんだかオレ、小太郎先輩のこと好きかも。

夕方になってから動物園脇にあった池のそばでカモにエサをやってると、小太郎先輩が肩を抱いてきた。
そーっと引き寄せられてドキドキしてたら、耳元でクスクスと笑いが聞こえた。

「な、なに?」
「いや、純情な子だと思ってさ。恋愛経験はないの?」
「ええと……」

あります。もうエッチまでしちゃってます。しかもオレから誘うことも何度かあります。
うう、こんなこと言えない……。

「先輩はあるんですか……?」
「まあ、それなりだけど」

そうか……小太郎先輩もあるのか……そりゃこんだけかっこいくて優しかったらモテモテだろうな。
直江もモテモテなんだよな……今頃何してんだろ……って、直江のことなんかどうでもいいじゃん!!

「仰木くんは真面目だから、こういうの困るよね。ごめんね」

オレの肩から離れていった手のぬくもりだとか、ちょっと後悔してる先輩の声だとか、そーゆーのよりもおかしな違和感の方が勝った。
そう、オレは真面目なんかじゃないし、エッチだってたくさんしてる、正直なところ『劣等生』で『短気』な仰木高耶だ。
小太郎先輩は本当のオレを好きなわけじゃないんだよな。ちょっと聞いてみっか。

「あの、小太郎先輩は僕のどこが好きなんですか?」
「純情なところかな。それと、よく用務員さんの手伝いでポスター貼ったり蛍光灯を替えたりしてるよね?そういう親切なところがやっぱり好きかな」

純情……?まあ純情な方ではあったけど、直江に変えられちゃったからそうとも言えない。
用務員さんの手伝いは仕事の一環であって、親切でやったわけじゃない。できればやりたくないことだ。
ちょっと申し訳ない気持ちになった時、オレたちから少し離れた所にいた男女のカップルが不良たちと口論になった。
カップルが口汚いインネンをつけられてる。

「行こう、仰木くん。関わらない方がいいよ」
「え……」

ああいうバカはやっちまった方がいいのに!!なんで見過ごしちゃうわけ?!

「でも困ってますよ?!」
「僕たちまで巻き込まれるよ」
「でも……」

動物園の警備員さんが来たからその場は収まってよかったけど、納得いかない。

「僕は不良と言われる人たちが嫌いなんだ。ああいう不良のリーダーになるような男は信用できない。学生なのに鑑別所に入ったりするなんて最低な人間だと思うね」

おおう!耳が痛いぜ!!
オレは今の所不良のリーダーで学園の総大将だ。しかも中学生で(誤解とはいえ)鑑別所に入った札付きだ。
だよな〜。小太郎先輩みたいな人がオレなんかと合うわけがない。
動物好きって面では合っても、その他の根本的な部分がまったく違う。さっきのだって不良に注意するぐらいはできるだろーにさ。

「そろそろ帰ろうか。送っていくよ」
「はい」

電車に乗ってオレんちまで。マンションの前まで送ってもらった。

「今日のデートは楽しかったかな?」
「はい。楽しかったです」
「僕と付き合うかの返事はまだ先でいいからね。今日はありがとう」
「こちらこそご馳走さまでした」

頭を下げてお礼を言って、顔を上げたら小太郎先輩の背後に直江がいた。
ヤバッ!!これって修羅場ってヤツになるんじゃねえの?!

「高耶さん……?」
「う……」
「仰木くん、知り合い?」
「はい……その、い、いとこで……」

小太郎先輩は直江が用務員だなんて知らないから礼儀正しく挨拶をしてから帰ってった。
残されたオレと直江はしばらく無言で突っ立ってた。気まずい……!

「えーと、部屋、入る?」
「え、ええ」

ギクシャクしながら部屋に入った。普段の直江だったら超怒って襲ってくるはずなんだけど、今日は黙って座ってるだけだ。小太郎先輩のことを聞こうともしない。
しかもお茶すら入れないからオレがやってやった。あとで30円もらわないと。
心なしか青ざめてる直江にお茶を出すと、チラッと見ただけで手をつけようともしない。

「ええと……小太郎先輩と会ってたのは……し、仕事だから」
「あ、はい……わかってます……」
「そっか」

騙してるみたいでオレも気分が良くない。けど直江の方がずっと気分悪そうだ。

「大丈夫か?具合悪いのか?」
「……もう別れましょう……」
「え?!」
「私と別れたかったんでしょう?顔を見ていればわかります。迷惑だったから、別れたいんでしょう?」
「いや、そんなことは……」

思ったけど、でも、やっぱ直江じゃなきゃダメだってことにさっき気が付いた。
だって本当のオレを知ってるのは直江だけだし、それでも好きだって言ってくれるし、誰よりも優しくしてくれるし、きっとさっきの池での揉め事だって直江なら絶対止めてた。オレが止めに入ったとしてもサポートしてくれたはずだ。
オレ、直江のそうゆうとこ好きなんだってさっきわかったんだ。
今は別れる気持ちなんかちっともないのに。

「今まですいませんでした。仕事は……後任が見つかるまではちゃんとやります。あなたにもう迷惑はかけません」
「直江、違うんだよ」
「無理しないでください。わかってますから、もう何も言わないで」

無理して笑った直江を見たらオレも泣きそうになった。
立ち上がって出て行く直江の背中に貼り付いて離さなかった。

「帰るな!!」
「離れてください。もう決めたんです」
「いつもの脅しだよな?!オレが冷たいことした時の!」
「違います。あなたからの愛情が感じられないのは、それはきっと迷惑をかけたからだと気付いたんです」
「愛情だったらたくさんあるから!てんこ盛りだから!」
「小太郎くんと幸せになってください」

オレを、このオレを振り払って本当に帰った。
1時間ぐらいボーッとして座り込んでたんだけど、涙が出てきてものすごい後悔した。
でも後悔してるオレなんてオレらしくない。ここはガツンと行くしかない!!

「とっかーん!!」

うろ覚えの直江の家に向かって電車に乗って難しい道を歩いて………………迷子になった。
どうしよう。なんて考えてる場合じゃない。とっととケータイに電話して迎えに来させないと。

「もしもし直江?今直江んちのそば。迷子になったから迎えに来い。来なかったらこのまま迷い続けて明日の学校も休むしご飯も食べないし寝ないでホームレスになる」
『……そこから何が見えますか?』
「茶色のレンガのマンションと7がつくコンビニ」
『そのマンションです』

これか!!なーんだ、ちゃんと迷わず来てたんじゃん!!

「迎えに来い」
『そのマンションのエレベーターに乗って……』
「迎えに来いって言ってるんだ」
『わかりました』

マンションから出てきたのは泣き腫らした目をした直江だった。そんなに悲しかったのか。
って、オレも同じく目は真っ赤だけど。

「こっちへ」

連れて行かれたのは駐車場で、直江はこのまま車でオレを送り返す気でいた。話をするつもりもないみたいだ。

「帰らないから乗らない」
「これ以上何を話せばいいんですか。いい加減にしてください。もう私に関わらないでください!」
「ヤダ!!」
「…………ああもう!!」

駐車場で直江にギューッと抱きしめられた。これこれ。これじゃないと落ち着かない。
やっぱオレ直江が好きだ。

「二度と離しませんよ!せっかく別れてあげるって言ったのに追いかけてくるなんて、あなたから蜘蛛の巣に飛び込んだんですからね!」
「うん!!」

肩を抱かれて脇目もふらず部屋に連れて行かれた。何度か来た直江のマンションは相変わらずきれいで広くてオシャレでオレの家とは大違い。
ただ今回はリビングがグチャグチャだったけど。

「高耶さんッ」

ベッドに押し倒されてキスの嵐に巻き込まれた。直江は小太郎先輩と違って紳士的じゃないところもあるけどオレには直江じゃないとダメなんだ。

「なあ……さっき……あっ……リビングがメチャクチャだったけど……んん……なんで?」
「リビング?ああ……暴れたんですよ……」

キスしながら話した。エッチくさい音がする中で話すのは親密感があっていいもんだ。

「暴れた?」
「あなたに振られて絶望的になって……ん、手当たり次第にぶちまけて……泣いてました……」
「バカだ……」
「そう思うなら、ずっと私を高耶さんのものにしておいてください」
「うん……」

直江ってエッチで変態でバカだけど、オレを好きでいることにかけては超一流だ。
みなしごハッチのハートを鷲掴みだよ。

「あ、あ、ああん!ダメ、そこ、気持ちいい……!」
「ここ?ダメなの?じゃあやめますか?」
「意地悪……っ、もっと、してくんなきゃ……あっ……ヤダァ……!!」
「じゃあ、してあげるから……たくさん出して……?」
「んん!直江……も、ダメ……!!」

明日の学校は二人して休みだな。これじゃ足腰立たないよ。

 

 

 

「で、結局、小太郎くんとはどうなったんですか?」
「別に。二人でスパゲッティ食べて動物園に行っただけ。あ、ちょっとだけ肩を抱かれたけど」
「……私とも動物園に行ってくれますか?」

ヤキモチやいてら。そーいえば直江とは純情なデートってほとんどしてないからやってみたいかも。
いつも買い物とかで金使わせてばっかだもんな。

「いいよ。一緒に行こう。直江だったら動物園だけじゃなくてオマケもつけてやるよ」
「オマケ?」
「帰りは家まで送るだけじゃなくて、家に入れてお茶出して、エッチもつけてやる」
「それは最高のデートコースですね」
「だろ?」

直江との仲は元の鞘に戻ったけど、オレの財布は元に戻らなかった。
結局、小太郎先輩の詳しい調査結果が出せなくて、経費でもらった金を返金させられたどころか、使ったぶんまで返すはめになったから。ついでに直江んちに行った電車賃も自己負担だ。
財布はブリザードが吹いている。

「大丈夫ですよ。高耶さんには私がいるでしょう?毎日夕飯の買い物して高耶さんの家に行きますから」
「マジ?!直江、大好き!!」
「その代わり、夕飯の買い物一回につきエッチも一回つけてもらいますから♪」

…………こいつこそ体目当てな気がしてきたぞ……。

 

END

 

 
   

あとがき

小太郎先輩との話は
これで一件落着です。
次は兵頭か?

   
         
   
   
         
   
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