人生最大の失敗をした。
それは何かと言うと、財布を落としたんだ!!
大事な大事なオゼゼが入ってる財布を!!
しかも今月分の生活費3万円のうちの残り1万円が入ってる状態で!!
なんで貧乏なオレが1万円も持ってたかってゆーと、なんと激安スーパーでお米がタイムセールに出るからだった。
お米のセールなんてほとんどないから今日のうちに10キロ買って節約するつもりで。
しかも梅干もセールに出るっつーからさ。
お米と梅干の分だけの3000円を持って出ればよかったんだけど1万円札しかなくて、財布に入れてチャリに乗って出かけたんだ。
チャリの荷台にお米が載せられるように荷台用の紐まで用意してったのに。
財布を落としたのに気が付いたのはお米10キロと梅干を入れたカートをレジに持っていった時。
会計しようとしたのに財布がない!
それでオレは一目散に交番に向かい、財布が届いてないかを聞いたら届いてたんだけど、中身がなくなってた。
その日に使う気でいたスーパーのポイントカードまでなくなってた。
オレのショックは計り知れないほどだった。
「こんばんは」
「……なんだ、直江か……警察じゃないのか……」
「警察?!何か悪いことでもしたんですか?!」
オレの1万円札が戻ってきましたよって警察が来てくれる奇跡を待ってたんだが。
「高耶さん?!」
「なんでもねーよ。入れよ」
今月の残りはあと0円。生活費をもらえる日までまだ15日もあるのに0円て……。
どうやって生活したらいいんだ。今日だって夕飯抜きだ。
でも直江が夕飯を持ってきてくれた。今日の夕飯はデパ地下のデミグラスハンバーグ弁当だった。
「直江、えらい!!」
「え?何がですか?」
「ううん、なんでもない。早く食べようぜ〜」
直江のぶんとオレのぶんをレンジでチンして食べた。
電気代は上杉理事長が出してくれるから電子レンジは使い放題なんだ。
「うわ!これ超うまい!」
「私が食べてみたかったので買ってきたんですけど、高耶さんが気に入ってくれてよかったです」
「いくらぐらいすんの?こうゆう弁当って」
「一人前で2000円です」
にににににせんえん!!
オレが買おうとしてたお米は5キロで1300円だ!!
それより高いとは……デミグラスハンバーグ弁当恐るべし……!!
もったいないからチビチビ食って、最後の一口を泣きながら口に放り込んでじっくり噛み締めた。
「どうしたんですか、食べながら泣いたりして。子供みたいですよ?」
「財布……落として……」
財布を落とした話から始まって、あと0円じゃ半月も暮らせないよって話して、また泣いた。
お金がないってホントに悲しくなるよな。
「貸しましょうか?」
「返せるアテがないから借りない」
孤児院の院長先生からお金の貸し借りはしちゃダメって言われてるから借金は絶対しない。
借りるぐらいなら恵んで貰えって言われた。
「じゃああげますよ」
「いらない」
直江にお金を貰ったら何をさせられるかわからない。おっかねえ。
「……とりあえず毎日の夕飯は私が用意します」
「うん、夕飯頼む」
「でもお昼ご飯やその他の必要なものはどうするんですか?」
「……どうしよっか……」
困った。お昼は水道水でどうにかするとかは?でもシャンプーとか石鹸がなくなったらどうしよう。
そーゆー時に直江に電話して買って来てもらう……ってやると、シャンプーにかこつけてエッチなことされちゃう。
「うーん」
「まあ考えても仕方ないですよ。私がちゃんと面倒見ますから」
「それが問題なんだろ」
「何か勘違いされているようですが……」
どこが勘違いなんだ。そのつもりのくせにさあ。
「私たちは恋人同士なんですから、助け合うのが当たり前でしょう」
そうだ。恋人同士だった。
てことは、やることやってるんだから面倒みてもらっても同じことってゆー?
じゃあ……そうか!!
「キスしていい?高耶さん」
「1回10円」
「は?」
「チューは1回10円。体に触るのは1回500円。エッチは……1回1000円」
「………………そんな関係は嫌です」
エンコーみたいだから嫌だって。頭の固い男だ。エンコーはこんなに格安じゃねえぞ。これは恋人価格だ。
オレのこと心配してくれるんだったらお金を払ってチューすべきだ。
「じゃあ今月中はチューもなしでいいのか?」
「……それは……」
「したいならお金を払え。さあどーすんだ」
「わかりました。払います」
なーんだ。結局直江はしたいんじゃん。お金を払うのは嫌だとか言ってやがったくせに。
まあ最初からわかってたけど。だってこいつはただのエロ用務員だからな。
「じゃあこれを先に」
「ん?」
5000円札を渡された。先払いだなんて言ってないけど?
「エッチ2回、触るのはどういう基準かわからないのでとりあえず2000円分、あとはキスを100回で1000円です。今夜のぶんはまとめてこれでいいですか?」
「おう、まあこのぐらい貰えればいいや。サービスはしないけど」
「じゃあ」
「追加や延長はお金がかかるけどいい?」
「もういくらだって払いますよ。だからいつもみたいに愛し合いましょう」
そんでその夜はエッチしたんだけど、してるうちに直江のペースに巻き込まれてしまった。
「なおえぇ……もっとぉ……もっとしてぇ……」
「もっとしたら追加料金なんでしょう?私はもう終わりでもいいんですけど……高耶さんがしたいならそのぶんは無料にしてもらわないと」
「無料でいいからして……あん、そこ、噛んだらダメ……」
「ここ?痛い?」
「きもちいい……」
本当だったら乳首を噛むのも有料だけど、今はオレがしたくてたまらないから無料にしといてやる。
明日からはキッチリお金をいただくことにしよう。
翌日、理事長に呼び出されて譲と二人で理事長室に行った。そこには用務員の格好の直江もいた。
「重大な問題が発生した」
「なに?」
「どうやら学園の生徒で援助交際をしている女子がいるらしいんだ」
げげ。ビックリした。オレのことかと思っちゃった。
直江も一気に青ざめたから二人同時に同じことを考えたらしい。
「警察沙汰には絶対にしたくない。それでだ、女生徒をどうにか改心させるために作戦を考えた」
嫌な予感が……
「直江が彼女に接近する」
やっぱり!!直江にしかできないもんな!でもそんなのヤダ!!たとえ直江がエッチしないとしたって、女子高生とラブホに行くなんて絶対嫌だ!!
「反対!!絶対反対!!」
「なんでだ?」
「直江が犯罪者になっちまうかもしれないだろ!!」
「実際に援助交際をするわけではないから犯罪にはならんが」
「ラブホに連れてった時点で現行犯逮捕されちゃったらどうすんだ!!」
理事長はそこを考えてなかったらしく、うーんと唸って困った顔をした。
「直江が逮捕されたらウチの社名に傷がつくか……じゃあどうしたらいいと思う?」
「他に人材いないの?逮捕されてもいいような」
譲がいきなりサクッと鬼のような発言をした。こいつは可愛い顔して本物の悪魔だから気をつけないと。
てゆうかさ……。
「そもそも逮捕されるような計画なんかしなきゃいいんじゃね?エンコーは怖い事件になる可能性もあるってゆーところを見せればいいんだから、高校生と大人を雇ってエンコー絡みの事件を演出して、そいつに見せる、みたいな」
「高耶、おまえたまにはまともなこと言うんだな」
「……たまにはじゃねえ。いつも言ってる」
「そうか?言ってないと思うがな」
そう言われると自分自身さえ疑わしくなってくる。
いや、オレはいつもまともなはずだが。
「じゃあそれは高耶と直江でやってもらうとするか。高耶なら変装用メガネを取れば他人に見えなくもないからな」
「オレと直江?!」
「別に男子じゃダメなわけじゃない。エンコーしてるのが女子だけとは限らんだろう?」
「……つーか、オレと直江?」
「何度も同じことを言うな」
だってオレと直江はエンコーモドキ真っ最中だぞ?
それがエンコーはおっかないものだって教えるってことは……?あれ?丁度いいのか?
「では私と高耶さんで計画を練りますから、計画書が出来ましたら理事長室に持ってきます」
「そうしてくれ」
そんなわけでオレと直江はエンコーすることになった。じゃなくて、女生徒のエンコーを阻止することになった。
計画はまず、オレが別の高校の制服を着て女生徒を尾行する。
そんで女生徒がエンコー相手を見つけたところで直江が出てきて、オレを脅すようなことを言う。
例えば「学校と親に密告するぞ」とか「あんな写真をばら撒かれてもいいのか」とか。最悪「ぶっ殺すぞ」でもいい。
そしたら女生徒もエンコー相手もビビるってなもんだ。
オレと直江だけじゃちょっと心もとないから譲にも尾行を頼んで、女子のケアを頼むことにした。
「相変わらず……高耶さんの計画は穴だらけというか、穴しかないというか、ずさんですね……」
「バカだなあ。綿密に考えたってオレがついていけないんだから、そんな細かい計画作るのは無駄だっつーの」
「……そうでしたね」
そんなこんなでエンコーしてるって噂の女子を尾行して繁華街へ。
オレはメガネを外して別の学校の制服を着て、直江はスーツで。譲は私服で離れたところから見張り。
ほんの10分ぐらいで女子はエンコー相手のサラリーマンを捕まえてホテル街に向かった。
「追いかけるぞ!」
「はい!」
ホテル街とはいえレストランやライブハウスもあるところだから、オレと直江が離れて歩いてれば別に問題はない。
あいつらみたいに腕を組んで歩いてたらモロエンコーだけど。
ラブホに入ったところを見計らって直江と合流して、同じホテルに踏み込んだ。
そこで芝居の始まりだ。よーし、頑張るぞ!
「離せよ!!」
「今更になって怖くなったとでもいうのか?もう金は払ったんだ。早く来い!」
「やめろー!」
直江に腕を掴まれて引きずりこまれた。そこを二人も目撃中だ。
オレの迫真の演技を見るがいい!
「助けて!」
「逃がすと思うのか?」
「殺されちゃう!助けてくれ!」
サラリーマンはアワアワしてて、女子はボーゼン。
これはちょっと効果ありかな?もう少し演技した方がいいかも。
「こいつすげーサドなんだ!オレ、もうエンコーやめるから助けてくれ!殺される!!」
「ここで逃げたら私とのプレイを写真に撮って学校中にばら撒くぞ。いいのか?」
「う……」
「そういうわけですから、関係のないあなたたちは黙秘してください。そちらのお嬢さん、なんなら私が買ってあげましょうか?その男よりいい金額を払いますよ。その代わり彼のように傷だらけになっても知りませんが」
「助けて〜!!」
女子は走って逃げてった。あとは譲に任せておけば大丈夫だろう。あいつは説得係としては超一流だ。
残りは目の前のサラリーマンだけど……。
「おじさん、助けて!」
「何を言ってるんだ。彼もエンコーの買い手なんだぞ。それとも3Pをするつもりか?」
「やだ!!」
アワアワしてたサラリーマンはオレが必死の形相で助けを求めたら逃げてった。
自分も犯罪者ってことに気が付いたっぽい。今になって気付くなんてアホだな。
「終わりましたね」
「まあな。後はあの女生徒が本当に改心するかどうかだな。譲が説得に成功してくれればいいんだけど」
「成田くんなら大丈夫でしょう。さあ、じゃあ行きますか」
「うん、帰ろう」
「帰りませんよ」
直江はさっきの演技の続きとばかりに腕を掴んでオレをラブホのエレベーターに乗せた。
手には部屋のキーが。さっきモメてる間に取ったやつだ。
「ななななんで!?」
「キー取ってしまいましたから。もったいないし2時間ばかり楽しみましょう」
「ひー!」
部屋の中はテレビで見たことのあるベッドやら、ガラス張りの風呂だとか、なんかわからないけどカラオケセットだとかがあった。
「カラオケやんの?!」
「わかってるくせに」
「わかってないよ!全っ然わかってない!」
「じゃあ今日も5000円で。お米を買わないといけないんでしょう?」
でもでもだからって!!
「ここならシーツを洗濯する洗剤代も、お風呂の石鹸代も節約できますよ?ホテル代は理事長の経費ですし」
「……そうか」
「たまには気分を変えてどうです?」
「そーだな!そうしよう!」
2時間しか楽しめないのが残念だけど、思いっきりエッチしようっと♪
「んん!直江、もっと奥まで……!」
「いつもより激しいですね……どうしたの?」
「だって……ラブホ、初めてだもん……」
「それだけでエッチな気分が高まる?」
だってベッドも照明もお風呂もぜーんぶエッチのためにあるんだもん。これじゃ嫌でも気分は高まるっつーの。
「いいから早く、奥まで入れて……!!」
「わかりました」
「ああん!」
ありがとう、ラブホ。オレはいい体験をしたよ!!
譲は逃げてきた女子に声をかけて、約1時間ほど話を聞いてやったそうだ。
見た目は派手な子ギャルだけど、話してみたらすごく寂しがりな子で、譲の優しさ(表面上だけかもしれないが)に絆されて改心したそうだ。
エンコーは危ないからもうやめるんだって。大成功じゃん。
「それで高耶と直江さんはあれからどこにいたの?!何度電話しても出ないし!あの子がなかなか帰りたがらないから大変だったんだからね!」
「いや、ごめんごめん。電源入れ忘れてて〜」
「まったくもう」
お昼休みに譲と教室で話してたら、あの時のエンコー女子が来た。
「成田く〜ん」
しかもラブラブピンクな声を出して。
「来た……」
「なに、譲。惚れられた?」
「そうみたい……適当に相手してくる……」
んでオレは用務員室に行った。用務員さんはコンビニ弁当を食ってた。
「譲が惚れられちゃったみたいだよ」
「あの女生徒にですか?」
「うん。直江が説得係じゃなくて良かった〜」
もし直江だったら譲が惚れられた以上に惚れられちゃうかもしれないもんな〜。
「じゃあ私はもう一人のエンコーしてる子を説得することにしましょう。それで惚れてもらいます」
「……もう一人って誰?」
「あなたですよ」
モニター室に連れ込まれて休み時間ギリギリまでエロい説得をされた。
なんで直江はすぐこうなんだ!ってゆってもオレも流されちゃうから同じか〜。
「もう……直江のエッチ……」
「いいじゃないですか。これでエンコー少年が立ち直ってくれるんですから」
「バカ……ん、ああ……そこ、もっと舐めて……」
そしてエンコー少年は立ち直り、今月の生活費もどうにかなり、直江にますます惚れて一件落着。
いや、そうじゃなくてエンコー女生徒が立ち直って一件落着だ。
「家に帰ったらまた説得してあげますよ」
「うん……待ってる……」
直江にだったら何度も説得されたいかも。
END |