トラブルシューター |
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ヤクザのアジトでコートを翻してキックやパンチを入れ、オレはその場を粛清した。 「あ、あの、助けて下さってありがとうございました」 拉致されていたOL風の女がオレを呼び止めた。 「気にしなくていい。これも仕事だ」 そこで遮るように直江がオレの肩を叩いた。 「行きましょう。報告が先です」 これがオレの男の美学だ。
「高耶さん、起きてください。学校に遅刻しますよ」 あれ〜、なんだ〜。 「今日は始業式でしょう?トーストとコーヒーを用意してありますから早く」 昨夜は始業式だから寝坊しちゃいけません、ってゆった直江を泊めて、合体させられて…… 直江とトーストを食べて学校へ。もちろん一緒になんか行かない。 「えーと、クラス替えの掲示板は、と」 3年生になった今日、クラス替えで自分のクラスを確認すると、そこには前も同じクラスだった田中くんと宮本くん、それに譲がいた。さらに宮本くんの親友である佐々木くんも一緒だ。 兵頭や長宗我部や草間は別のクラスだった。 「高耶ー!同じクラスだね!良かった!」 譲と同じクラスなのは理事長の画策だろう。 「でもさ……」 ヒソヒソヒソ。 「田中と宮本と佐々木も一緒なんて、高耶、大丈夫なの?」 本物優等生の譲と、バカで地味なニセ優等生のオレが二人でいるのを見た宮本くんが寄ってきた。 「仰木チャン、じゃなくて仰木さん、今年もよろしくお願いします!」 逃げるようにして校舎に入って、自分たちの席に座った。 「よっす!」 しかし隣りの席は佐々木くんだった。まあ佐々木くんは宮本くんと違って冷静なヤツだから普通に接してくれる。 「仰木チャンと隣りか。席替えがあるまではよろしくな」 二人で喋ってたら教室内がザワザワした。 「気にしたらダメだよ。総大将ってバレないようにしなきゃいけねーんだからさ。単に隣りだから喋ってるって感じにしないとヤバいっしょ」 うー、佐々木くんてかっこいいなあ。男って感じだなあ。 「総大将っ」 背後から小さくそんな声が聞こえた。総長から総大将になったのはストリート系もオレの傘下になったからだ。 「んだよ」 睨みつけたらちょっとビビッたらしく、慎重に小声で言った。 「今日って総召集はないんすか?」 ヤンキー系とストリート系の両方をオレが締めてるわけだけど、このふたつのグループは仲が悪い。 「おまえが代理でやっとけ」 兵頭は帰りに体育館裏で召集をかけるそうだ。 「じゃあ俺たちは俺と宮本でやっとこうか?」 気が利く佐々木くんがいて良かった。もしこれが宮本くんだったら……想像するだで怖い。 「一応、学年末に総大将が仰木チャンだってゆーのはみんなに話してあるから。けど仰木チャンは都合があって影で仕切ることになってるから正体は誰にも言うなって口止めしてある。バラしたらとことん追い詰めて俺と宮本でシメるって言ってあるから大丈夫だと思うけど」 総大将なんか超やりたくないけど、理事長からの命令で警察沙汰になるような不良どもの監視をしろって言われてるから辞めるに辞められない。
始業式の日は授業がないからとっとと帰ろうとしたら理事長からの呼び出しメールが。 『来到理事長室』 たぶん中国語だ。読めないけど理事長室に来いってゆー意味しかねえ。 「学年度はじめっから何やらせる気だよ」 シューターの仕事じゃないらしい。よかった〜。 「譲は東京大学志望でいいんだな?」 ニヤリと理事長が笑った。もしかして何かまた画策してんのか? 「おまえの大学は上杉グループが経営している上杉国際大学に決定されてるんだな、これが」 上杉国際大学といえば規模の小さい大学とはいえ、東京6大学に匹敵するほどの偏差値が高い大学だ。 「オレが今からすっげー勉強しても入学は難しいと思うぞ?!」 ……とてつもなく嫌な予感が……。 「……もしかしてそれって……直江?」 それはヤダ!!!合体の日々が続く!!そんでオレは指定された大学を落ちて、美弥へのバックアップも失ってキャバクラだのイメクラだのに就職させちまうかもしんない!! 「直江が住むのは反対!!絶対イヤだ!!週に3日とかならカテキョでも何でもいいけど、住むのはイヤだ!!」 ……おまえはオレの心配じゃなくて直江の心配をしてたのか……。 「じゃあ同居は無理にしてもシューターやりながら直江が家庭教師を出来る範囲でやることにしよう。直江もたまには本社にいないといけない日があるから、そういう日だけは休みってことで。これならどうだ?」 直江がカテキョってのがすでにイヤだけど、美弥のためだ、仕方がない。 「それでいいよ。こうなったら学力ガンガン上げてやろうじゃねえか!!」 待ってろ、美弥!!お兄ちゃんはおまえを立派な大人にしてやるからな〜!!
「話は聞きました」 その日の夜、直江がマンションにやってきてそう言った。 「カテキョ、マジで頼むぞ」 このオレのキュートな発言に直江はそれはそれは嬉しそ〜〜〜に笑った。 「したいの?」 一緒に風呂入ってエッチなことをちょっとして、寝室に布団を敷いて本番の合体。 「あっ、あっ、そこ……いいっ……もっとしてっ」 いつもと同じお花畑が広がった。
真面目に勉強しなきゃいけないなんてな〜と思いながら鬱々と授業を受けてたら、となりの席の佐々木くんがなんだか心配そうにオレを見てた。 「なに?」 佐々木くんは宮本くんと違って勉強もできる。なぜ勉強ができるのかというと、そういうふうに生まれついたからだ。 オレみたいなバカに生まれついた子はいつまでもバカなんだろうな〜。 「実はカテキョがついたんだ……」 佐々木くんはすこーし考えてからオレに言った。 「でも仰木チャンの格闘家としてのセンスはすげーものがあると思うんだ。あれってバカじゃ絶対できないだろ。だからやれば出来る子なんじゃねえの?」 直江は確かに優秀だけど、カテキョとしてはどうなのか。不安だ。
そして今日からカテキョの開始。 「……もっと覚えやすいやり方ない?」 というわけで数学をみっちり教えてもらった。学校の先生よりはわかりやすい指導だったからオレ対応の指導だ。 直江に教わったとおりに問題集をやってみたら68点取れた。 「一回だけなのに68点だって!すげーよ、直江!」 添削の結果、問題の意味を全然わかってない問題が1問。途中の計算でミスったところが2問。方程式を覚えてないから間違った答えに行き着いたのが2問。 「……この結果ですと、まず高耶さんは問題の意味を理解することと、方程式を覚えるところが苦手なんでしょう。計算ミスはやっていくうちになおりますからいいとして……。今回の評価は10段階で6ってところですね」 6ポイントで出てくる夕飯はなんだろう? 「ではこれです」 白いご飯、お味噌汁、キュウリ3センチの漬物。アポロチョコ1個。 「これだけ?!」 オレはその夕飯を味わってゆっくり食べた。でも腹5分目にもならない。 「頑張ればステーキが出るようになりますから」 がーん…………!!12月っつったら今が4月だから8ヵ月後?!それまでキュウリだけでご飯を食えと?! 「まあ頑張り次第ではすぐに煮物ぐらいは追加できますよ。他の教科もこの方法でいきましょう」 するしかないか、勉強……。は〜あ。
それでオレの本格的な受験勉強が始まった。 「なあ」 今日の成果は7ポイント。白いご飯に味噌汁に、漬物とメザシが付いた。デザートはやっぱりアポロチョコ1個。 「最近全然合体しないけど、なんかあったのか?」 なんだそりゃ!!オレのことバカにしてんだな!! 「もう直江の家庭教師はいらねえ!!自分で勉強してみせる!!理事長にもそう言っとけ!!てゆうか直江はもう帰れ!!そんで受験が終わるまで来るな!!」 なんでダメなのか聞いたら佐々木くんは大人っぽい上にハンサムで、オレがポヤンてするからだって。 「受験が終わるまでこの部屋に来るなってことは、私とは個人的に会いたくないってことですよね?!」 オレも結構嫉妬深いけど、直江もすっげー嫉妬深いからな。佐々木くんとオレがどうにかなるって考えても仕方ないけどさ。 「だって直江は勉強だけしてるオレで満足するんだろ!!チューも合体もしたくないんだろ!!」 そうだったのか。直江は毎日オレをオカズにして自分で処理してたのか。 「……わかった。じゃあ佐々木くんに教えてもらうのは学校内だけにする。その代わり直江は普通にオレに家庭教師して、ご飯も普通のを食って、たまに合体しろ。それならいいだろ」 直江とイチャイチャできないのはオレにとっては寂しいだけなんだ。 「それなら大学も受かるかもしれないし、直江はモニターでオレと佐々木くんを監視できるし、直江のカテキョもあるし、合体もあるだろ。どうだ?」 そういうわけでオレは直江との合体もできるし、佐々木くんに勉強も教えてもらえるし、ご飯も普通に戻る。 「…………と、いうことは、高耶さんは私と週に1回ぐらいは合体したいってことですか?」 直江とイチャイチャしたり合体したりはしたいけど、毎日直江がチューしかないで帰っちゃうのが不満なんだ。 「直江はさ……なんかさ……いつもオレより仕事優先だからさ……」 だって恥ずかしくて悔しくて声が出ないんだもん。 「……そうだったんですか……寂しくさせてすみませんでした……」 優しく抱かれて頭をナデナデされて、みなしごのさびしんぼうなオレは直江にしがみついた。 「キスさせて?」 チューしてもっと甘えて、直江の膝の上に乗って合体もしたいって腰を動かした。 「一緒にお風呂入りましょうか」 直江はやっぱりオレのこと大好きで、優しくて、エロくて、布団の中でオレは半分泣きそうになった。 「ん、そこっ……もうちょっと……強く……」 こんなこと言ったら直江がもう大興奮で、腰をハンパなくぶつけてきた。
「え〜、俺、教えるのは苦手なんだけど〜。いいじゃん、仰木ちゃんはカテキョいるんだから」 佐々木くんに勉強教えて?って直江にやったら一発で股間が熱くなる萌え顔で頼んだけど一蹴された。 「いいじゃんか!オレは一応総大将だぞ!」 そんなわけで直江のカテキョはほぼ毎日になった。でも今度からは少し違う。
END
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あとがき |
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