ラブ☆コメ


直江家庭内不和



これは2006年発行の個人誌「ラブ☆コメ」の続編です。
お持ちでない方は細かい設定がわからないと思いますが、それなりに楽しめると思います。

 
         
 

今日は金曜。
オレは仕事が終わってすぐに家に帰った。いつもよりも派手な服装の女子社員や、やたらと携帯電話のメールを気にしてる男どもを尻目にまっすぐ家に帰った。

なんでかって?今日はお母さんがスキヤキだって言ったから。
親父の働いてるスーパーで和牛の特売があって、それの中に特上スキヤキ肉も含まれるってことでお母さんが「絶対に買ってきて!」と親父に訴えていた。
だからきっと今日はスキヤキ。

早く帰ってお母さんに頼まないと、鍋奉行の親父が仕切りだしたらせっかくの特上肉の配分が決められちまう。

「まっ、待ってください、たか……仰木くん!」

会社からの帰り、オレの部署の橘課長がビルの前で呼び止めた。息せき切って走ってきたみたいだ。

「なんだよ、早く帰らないと親父が……」
「一緒に帰りましょうよ」
「……いいけど」

あんまり橘課長と一緒に帰るシーンを見られたくないんだよな。だって同居してるなんてこと会社には内緒だし。
しかもオレの義理のお兄さんだなんて。

「会社の行き帰りは別々の方がいいんじゃねえの?」
「大丈夫ですよ。毎日というわけではありませんから」
「そりゃそうだけど。直江は週の半分以上は残業だもんな。オレは半分以上は定時で帰るし」

会社の連中には家が近いって嘘をついてある。実際は同じ家だ。
でもそのことは人事部と総務部の一部の人間しか知らない。兄弟で同じ部署で働いてるなんて周りが知ったらあとで面倒くさいからな。
人事部の言うことにゃ、オレと直江を別の部署にすると部署内機密ってものが保たれないかもしれないからってことで、同じ部署にいるようにしてあるんだそうだ。

取引とか買い付けとか、ちょっと色々と面倒な情報とか、そーゆーのを扱ってる部署なだけに、社外で(家のことな)偶然にしろ他部署の機密が漏れたら大変なんだって。
だからオレと直江は同じ部署で働くのを強制されてるわけ。

「だけどおまえ、オレと二人でいたがりすぎ」
「そうですか?」
「そーだよ。何かあるとオレと資料室行ったり、昼飯だってそうだし、オレがトイレに行くとおまえもついてくるじゃん」
「偶然ですよ」
「よくいう。毎日オレとコンビニ弁当食っておいて偶然も何もあるか」
「コンビニ弁当は節約してるからって言ってありますから大丈夫」

そう。直江は最近貯金に目覚めたらしい。今までも貯金はしてたらしいけど、今は節約までして貯金してる。
今現在のオレの給料を基準にして直江の給料を予想してみたが、ハッキリ言ってけっこうな額だ。
34歳、本社課長、独身。残業代は出ないけどそのぶん役職手当てがちゃんとついてる。そしてボーナス。
……オレの倍額ぐらいの年収はある。

その直江が貯金。
そりゃたまにはオレと出かけてメシ食ったり、何か買ってくれたり、旅行も奮発してくれるけど。

「なあ、なんで貯金してんの?」
「内緒です」
「新しい車買うとか?」
「だから内緒ですよ」

オレにも家族にも教えてくれないんだよな。怪しいよな。

会社の最寄駅から地下鉄で4駅。たった4駅で家に着くメチャクチャいい立地条件の我が家に帰ると、お母さんが台所でスキヤキの支度をしてた。

「お母さん、ただいま帰りました」
「ただいま。親父は?」

お母さん。今はオレと直江のお母さんだ。オレの親父と直江のお母さんが再婚してオレたちは家族になった。
直江とお母さんは血が繋がってないけど、本当の親子みたいにお互いを思いやってるいい関係だ。
今じゃ親父も直江を本当の息子だと思って大事にしてるし、再婚同士とはいえ家族間の絆は良好。

「まだ帰ってこないわよ。8時ぐらいになるって。帰ったらすぐに食べられるように支度しておくから部屋で待っててね」
「は〜い。あ、親父をさ、鍋奉行にならないよーにさせてよ?」
「わかってますって」

本物の母と子みたいに話すオレとお母さんを見て直江が笑う。本当の兄弟みたいなオレと直江を見てお母さんが笑う。
そんな感じでオレたち家族はうまくやってる。

部屋に戻って着替えると直江がやってきた。

「いいですねえ、家族で鍋」
「そーだな。鍋なんて去年までやんなかったからな」
「しかも愛しい高耶さんとですから」

暢気で恥ずかしいお兄さんはオレの隣りに座ってキスしてきた。
そうなんだ。直江はオレの課長でお兄さんで恋人だ。家でも会社でもどこでも一緒。

「あ、そうだ。高耶さん、今日、浅岡さんと何を話してたんですか?」
「浅岡さんと?ああ、今度みんなで飲みに行こうって話」

浅岡さんてのはオレの先輩社員で、美人で可愛い、オレが昔好きだった人。
せっかく浅岡さんがオレのこと好きになってくれて告白までしてくれたんだけど、その時にはオレはもう直江が好きで断った相手。
だから直江は浅岡さんのことライバル視してる節がある。

「二人でじゃないですよね?」
「千秋だとか武田さんだとか高坂だとかも一緒だよ」
「浮気したら泣きますからね」
「しねーっつーの」

大の大人が泣くわけないって思うだろ?だけど直江は本当に泣くかもしれないぐらいオレのこと好きなんだ。
でも直江ってやつは容姿も性格もいいから会社中の女子社員や派遣社員の憧れの的で、毎日のように誰かしら誘いをかけてるのをオレは知ってる。
女が集まって直江を話題にしてるとこに何度も遭遇したし、課長に可愛がられてる部下ってことになってるから飲み会のセッティングを頼まれたりしたことも一度や二度じゃない。
今日だって別の部署の女に誘われてたんだぜ。断ってたからいいけどさ。

「おまえこそ、モテモテだからっていい気になって出かけたりすんなよな」
「しませんよ。私は高耶さんと過ごせる時間が一番大事なんですから。毎日まっすぐ家に帰るのが何よりも楽しみなんです」
「半引き篭もりみたいな言い方だな」
「高耶さんと二人でずっと引き篭もっていたいぐらいです」

そんでまたキスしてきた。
毎日直江はこの部屋か隣りの部屋でオレにキスをする。残業をしなかった日は夕飯前と後と寝る前に。
残業があった日はほんの少しのヒマを見つけてキスしに来る。
深夜に帰ってきた日にだって、寝てるオレを起こしてまでキスするんだ。
しなきゃ生きていけないんだってさ。

「愛してます」
「うん、オレも」
「もっとキスしていい?」
「いいよ」

直江の腕の中でキスするのが好きだ。優しくてあったかくて何でもかんでも包んでくれる。
お母さんもオフクロも優しいけど、直江が一番優しくて好きだ。

ずっとキスしてたらお母さんが階段の下からオレたちを呼んだ。親父が帰ってきたらしい。
階下に行くと和牛のパックがなんと4段重ねされてた。いったい何グラム買ったんだ……。オレと二人で暮らしてた
頃は親父こんなもの買ってこなかったくせに。

「豪勢ですね、お父さん」
「たまにはな。しかも特売だ。店の売り上げにも貢献できるし一石二鳥だろう?」

親父は大手スーパーマーケットの店長をしてる。売り上げもそこそこ良くて全国の店長の中でもトップクラス。
そのスーパーにパートに来てたお母さんを射止めて結婚したってわけ。
今じゃお母さんはスーパーを辞めて専業主婦だ。

鍋奉行になりかけた親父をお母さんがうまく宥めて、お母さん指揮でスキヤキが始まった。

「明日はデートなんで留守番頼むぞ」
「今度はどこ行くの?」
「マツタケ狩りだ!」

親父とお母さんは毎月二回、必ずデートをする。目標はディズニーランド。デートの定番。
前に直江とオレで新婚旅行をプレゼントした時は二泊で出かけたけど、それ以外は全部日帰り。
だからオレと直江は二人が出かける日は絶対に留守番して堂々とイチャイチャしてる。

「朝5時半には起きないとバスに乗れないなあ」
「じゃあ今日は早めに寝ないとダメじゃん」
「そうだな。せめて11時には寝ないと」

直江がニヤリと笑った気がしたけど無視しよう、無視。

 

 

 

早めに寝室に入った親父とお母さん。11時前に二人で居間から消えた。
オレと直江は交代で風呂に入ってビールを飲みながらテレビを見てた。

「12時ぐらいになったら寝ましょうか」
「そうだな」
「準備が出来たら私の部屋に来て?」
「……おう」

やっぱそのつもりだったのか。
オレと直江は恋人同士だから、そりゃまあやることはやってる。キスだけなんて関係じゃないのは当然だ。
だけどその場所ってのが問題なんだよ。
わざわざ泊まりに行ってまでするのは家族に怪しまれる。だから家でするしかない。会社でもしたことあるけど。

そーすると親父たちが寝静まった後にするわけで。場所は両親の寝室から一番遠い直江の部屋。
遠いつってもウチは普通の一軒家だから大きな声を出せば聞こえるかもしれない。
ちょっとスリリングでエロティックで、そしてメチャクチャデンジャラス。

「高耶さん……」
「ん……」

居間のソファと座椅子のハーフみたいな一応ソファでキスをした。
普段はここでキスしたりイチャイチャしたりすんのは禁止なんだけど、ビール飲んでたせいで下半身の感覚がいい感じで、キスを許した。

「そろそろ、行きますか?」
「うん……直江、先に行ってて」
「はい」

オレには準備が必要だから、直江には先に行っててもらう。
準備が出来るといったん自分の部屋に入ってから、窓を開けてベランダ続きになってる直江の部屋に入る。
直江の部屋に入る姿を両親に見られるわけにいかないからな。

「いらっしゃい」
「うん」

すでに半裸になってベッドに入ってる直江。そこにオレも入る。
すかさず直江がオレを組み敷いてキスしてくる。まったくエロいことになると暢気さのカケラもなくなるんだもんな。

「もうちょっと余裕持てないのかよ」
「あなたを前にして余裕なんかあるわけないでしょう」

そこらへんがちょっと困ってるとこだったりする。
会社でも家でも旅行先でも、二人きりになると直江は余裕をなくしてすぐに発情するんだ。
かろうじて家だと両親が寝てからだから大丈夫なんだけど、会社の資料室とか給湯室とか二人きりになるとヤバイ。
ん〜、まあ、オレも楽しんじゃう時もあるけどさ。

「今日も静かに頼むぞ」
「了解です。じゃあ高耶さん、そろそろ黙って」
「ん……」

気持ちよくてつい声を上げそうになるけど、両親に聞かれたらもっっっのすごいことになるからガマンだ。

「ん……んん」
「今日もいいですね……ガマンするあなたの声」
「この……エロ兄貴……!」
「じゃあいやらしい声で『お兄さん』て呼んでみて」
「ヤダッ」

そーはいくか。毎度毎度、声が小さい代わりにってエロいこと言わせやがって。
今夜は『お兄さん』かよ。冗談じゃねえ。

「ケチ」
「バカ」

クスクス笑いながらこっそりエッチ。
いつもだったらエッチが終わったら部屋に戻るんだけど、明日は早朝から親が出かけるから直江と一緒に眠れる。
甘えて大事にしてもらってたくさん好きだって言ってもらおうっと。

 

 

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直江め・・・


 
         
   
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