絆
※専門用語・隠語などは各ページの最後に解説しています※ |
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その日の深夜、直江の携帯に高耶から電話が入った。 「何か進展があったんですか?」 確かにそれが一番安全な場所なのはわかる。 「今は二人でそこに?」 千秋に後を任せたと言って、ボディガードの男と車で店を出た。 「早かったな」 高耶が手伝う着替えは千秋と違ってスムーズで、負担も少ない。これまで高耶がどれだけ自分の世話をしてきたのかが改めてわかった。 「リビングに行きましょうか」 リビングで高耶が直江に出す酒の支度をした。ヘネシーの瓶を取り出して、氷と水を用意する。 「こちらでも少し調べたんですが、どうやら相手は最上組系青木会の白石という男だそうです」 消すと聞かされて、高耶が身を強張らせた。 「白石は上杉から最上に行ってのし上がってきた男で、今の地位やプライドを奪われるとなれば何をしだすかわからないでしょう。最悪、私たちと青木会との抗争になるでしょうね。スナッフはいい稼ぎになりますからそれを取り上げられた時の白石の怒りは半端ではない。青木会は新しい組織で、最上への上納金は白石のシノギがないと上げられないそうですから」 それは高耶にも理解できた。借金のカタに女を使ってスナッフビデオを撮るなど、金にならなければやらないだろう。 「どっちにしろ、オレたちはその青木会の稼ぎを一個潰そうとしてるわけだよな?抗争なんかしたくなくてもそれなりの報復は免れないわけだ?」 しかし綾子にも色々と思惑はあるだろう。高耶が上杉を名乗っているのを本音では快くは思っていないだろうし、ここで柿崎の名前を出したところで、最上からの反感を柿崎が買う可能性もあるのだ。 「綾子姐さんに頼むのは保留だな。オレたちだけでできるんだったらそうしたい」 その話は中断して、由比子の同居について高耶が直江に話しだした。 「保護するのはかまいませんが……個人的にはとても不愉快です」 苦いと感じるヘネシーを高耶は飲み下して直江と供にバスルームへ向かった。
翌日の朝、直江が起きると高耶はベッドの中からいなくなっていた。あたりまえのことだが少し腹がたつ。 「どうして起こしてくれないんですか」 高耶の言葉は本心だろうが、由比子との朝食を邪魔されたくないからじゃないかと疑った。 「由比子、この人が直江」 高耶が女の名前を呼び捨てる。それですら気分が悪い。 「ありがとうございます、直江さん。ご迷惑をおかけしてしまって」 直江の言いように由比子も高耶も驚いていた。マンションのスペースを一時的に貸すだけであって、それ以外は一切関知しないと宣言したようなものだ。 「直江っ!」 高耶に睨まれる。客扱いをしろという条件を承諾させるために直江に体を差し出したのに、という目をしている。 「わかりましたよ。高耶さんの言う通りにします」 居心地の悪いリビングから出てダイニングに向かった。千秋が朝食を用意しているはずだ。 「女が一人増えるとなんだかバランス悪くなった気がする」 どうでもいいという顔ではないが、千秋がそれを指摘したら直江を怒らせてしまうに決まっているので頷くだけにしておいた。 食べ終わった直江がリビングで新聞を読む。普段の習慣だから普段の直江のままのはずなのだが、先ほど由比子への態度が悪かったせいか、リビングには高耶しかいなかった。 「まだ混乱中なんだから少しは労わってやれよ」 直江を立ち上がらせて寝室へ。千秋にも由比子にも聞かれたくない話だ。 「オレは……おまえに体を売ってるとは思ってない……直江に抱かれるのはいろんなことを思い出すから怖い。でもオレが何も思い出さないほど夢中になるセックスをするのならオレは直江の性奴隷だろうがなんだろうがなるよ」 ようやくお互いの本心が見えてきたところだろう。確実ではないがここからが二人で土台を築いていかなければならない。 「それでいいんですか?覚悟は?」 高耶の顔を見ればその覚悟はついているようだった。さすがに上杉会長から直々にスカウトがあって、さらに名前までも使わせてもらっている高耶の自信なのだろう。 「では次の指示は?」 千秋と白石を接触させて情報が欲しい。 「下手したら千秋は白石に吸収されてしまうかもしれませんよ?私と千秋の関係は上下関係ですが、白石とは横関係でしょう?もし私たちが白石を殺せば千秋はどちらに付くと思いますか?」 今の時点では千秋は直江の部下だ。 「今の所は徹底的に千秋を蚊帳の外にしてしまいましょう。ここしばらくは白石とは会っていないようですが、何か起これば聞きつける可能性は高いでしょう」 白石が快く金を受け取るかどうかはわからない。その場合は白石より上の人間に押さえつけさせるか、300万にあと2〜300万の色をつけて返すかのどちらかだ。 「直江はどう思う?」 残酷で残虐な性格という意味だ。青木会は白石のような若者の集まりだと思った方がいい。 「とにかく300万を加藤に返済させる」 話が決まって直江の寝室から出ようとしたら腕を引っ張られてキスをされた。 「なんの意味があるんだ?」 直江の右手が高耶の肩を抱いた。疑ってかかった高耶は直江の真意を探るために目を覗き込んだ。 「……嘘じゃないみたいだな」 部屋から出て行こうとした高耶を右腕だけで捕まえて背後から強く抱いた。驚いた高耶が体を捩ってその腕から逃れようとしたら直江が首筋に顔を埋めた。 「両腕で抱けないことがこんなに辛いとは思いませんでした」 首筋に埋めている直江の顔をそっと触った。そして首を回して直江の方に向けた。 「……おまえはオレのために死ねるか?」 体を反転させて高耶が自ら直江の腕の中に入った。さっき直江がしていたように、高耶も直江の首筋に顔を埋める。 「両腕で抱かれたい」 何度も繰り返しキスをしながら高耶が直江に迫る。数歩下がらせたところで直江をベッドに押し倒した。 「どうしたんですか?」 静かに囁いたその言葉で直江は自分が高耶に愛されているのを感じた。愛されていて、必要とされていて。 「頼むから、安心させてくれ」 希われるように高耶がキスの間に呟いた。 「安心……ですか?」 自分を警戒しているのはそれなのかと直江は納得する。高耶が直江を避けたのも、強く拒否をしたのも、これを恐れていたのだと知る。 「あなたしか愛しません……もし、私があなたを捨てるなんて言い出したら、殺してください」 ベッドに倒れたまま高耶が直江のシャツの釦を外して、直江の心臓そばの傷痕にキスをした。直江の腰がゾクリと疼く。 「この傷だって今はオレのものだ。直江全部がオレのものだ」
つづく |
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最後まで鬼畜な直江がよかったのに・・・ |
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