キズナ  〜カイナ2〜


 

※専門用語・隠語などは各ページの最後に解説しています※

 
         
 

傷にキスをしながら高耶の手が直江の股間を這う。撫で回して大きくなったそれをスラックスの上から形を確かめるように軽く握った。

「……高耶さん……?」
「黙ってろ」

唇に、傷に、キスをしながら直江のものを刺激していく。ベルトを外しファスナーを開けて高耶の手が潜り込む。
一枚の布の上から高耶の手が強く擦る。

「すごいな、直江。こんなに大きくして」
「……た……」
「黙ってろって言っただろ」

今までとは違う高耶がそこにいた。
高耶の中にあった自尊心を倒壊させたのは直江だ。身体を差し出させて高耶を壊した。そこに残ったのは大きな不安と懐疑心。それと自分を支えておくだけの気力しかなかった。
誰よりも不安だったのは高耶で、左腕が動かない自分ではなかった。直江と対等に渡り合おうとして強がって、不安を攻撃に替えて自分に当たったのだと直江は気付いた。

「自分よりもオレを一番に考えろ」
「……当然です」
「オレは必要とされたいんじゃない。おまえに愛してもらいたかったんだ」

直江の左腕の代わりに必要とされているのではないだろうか、本当に心から愛されているのか、高耶はずっと不安に思っていたのだとわかった。
そして直江に本当に愛されているのがわかって、不安しかなかった心の中に自尊心よりも大事なものが入り込んだ。
そういうことかと直江は改めて高耶が孤独と戦っていたのかを知った。

高耶の手が下着の中に入り込んでじかに直江を触り、愛しそうにゆっくり撫で回した。

「そんなことをされたら我慢できませんよ?」
「なんで我慢する必要があんの?」
「……ないのなら」

触っている高耶の手の上に自分の手をやり少し強めに握らせ、上下に扱かせる。
表情を伺って見たらほんの少し笑みが見えた。直江を魅了している自分に気付いたようだ。

「オレ以外、見るな」
「はい」
「オレ以外、抱くな」
「……はい」

今度は高耶の手が直江の手を掴んでジーンズの上から高耶のものを触らせた。
すでに完全に立ち上がっていて、高耶が直江のものを触っただけで勃起したのを知らせ、さらにフロントを開けて下着の中に直江の手を入れた。

「扱いて」
「……はい……」

お互いに手で刺激し合った。若い高耶のものは臍に付きそうなほど立ち上がり、先から雫を垂らして直江の手を汚した。

「んっ……」

息を飲んだ高耶のジーンズを直江が片手だけで脱がそうとしたが、硬い生地のジーンズはなかなか下りない。
それに気が付いて高耶が自分から引き下げ、下に組み敷かれた直江の上に跨って下半身を晒した。
それから直江のスラックスに両手をかけて脱がし、雄々しく立ち上がったものを咥えた。

「これも、オレのだ」
「ええ……」

高耶のしたいようにさせた。少しでも咎めればきっとまた高耶の心の何かが崩れてしまう。
それは直江に対する愛だろう。

愛しそうに咥える顔を見ながら直江の心が熱くなる。高耶に愛されるということがどれだけ自分を満たせるのか、そしてどれだけ圧倒されるのかがわかった。

直江のものを口からゆっくり出して、高耶もベッドに膝をつく。
しっかりと立ち上がっているそれを手で支え、自分の中に埋めようとした。腰を落として直江を迎え入れると顔が苦痛で歪んだ。

「痛い?」
「ん……でも、大丈夫」

直江の上で高耶が踊る。腰を振って、全身で直江を味わい尽くそうとして。
高耶が自分のものではなく、自分が高耶のものになったのはいつだろうと直江は考える。最初に抱いた日か、それとももっと前なのか。
しかし今はそんなことでこの快楽を邪魔されるわけにいかない。

「直江……っ、おまえも……動け……」
「はい……」

熱で冒されて二人でこのまま昇天してもかまわない。直江が突き上げると高耶の悲鳴が聞こえた。甘い悲鳴。
淫靡に蠢く高耶の中が、直江を締め付けて離さない。今まで関係を持った女よりも高耶が一番卑猥だ。

「もう、いく……」
「ええ……私も、です」

一際大きな声を出し腰を上下しながら自分のものを扱く。眉間にシワをよせて甘い表情を作って、高耶がいった。
白い液体が直江の腹部に落ちた。熱い高耶の心のようだった。
締め付けが強まって直江もたまらず高耶の中で出した。

「……高耶さん……」

右腕で高耶の肩を掴んで引き寄せてキスをした。
高耶の中に放たれた液体が滑って二人の繋がりを解いた。

「もっと……したい……おまえをオレだけのものにしたい」
「とっくの昔に私はあなたのものですよ。もっと欲しがってください」
「……当然だ」

今度は高耶が下になって足を広げた。右手を直江の動かない左手に絡ませて強く握る。

「いつか絶対に両腕で抱け」
「……わかりました」

キスをして直江を迎え入れて、高耶と直江の恍惚は続いた。

 

 

千秋や由比子に覚られても構わないからと高耶が直江を浴室に誘った。
いつも直江の入浴は高耶か千秋が付き添って不自由な腕の代わりに身体を洗っているが、今は意味が違う。
セックスの後の余韻を残して二人で浴室に行く。キスをしながら探りながらシャワーを浴びる。

「由比子にもバレたかもな」
「あれだけ大きな声を出せば誰だって気付きますよ」
「まあな」

熱いシャワーでようやく現実に戻り、高耶が直江の介助をしながら体を洗う。

「今日はどこの店に行くんだ?」
「渋谷と赤坂へ。金の回収をしないと」

直江の稼ぎは今のところ池袋のカジノバーのみ、と表面上はなっている。あくまでも池袋店はバーであって、カジノではない。このバーの売り上げを税務署に収めている社長は直江ではなく、名義だけを他人のものにして、売り上げの中から謝礼を渡している。
その人物は直江がヤクザだったころの知り合いで、働かずに大金が入るならと名義を差し出した。
それ以外の赤坂と渋谷は納税どころか店舗としての認可すらされていない。当然ながら闇賭博だ。
その金は銀行にも預けるわけには行かず、セキュリティのしっかりしたマンションの一室を金庫のように使っている。

「じゃあ回収したら金庫か」
「……由比子さんは千秋に任せて1日ぐらい金庫で過ごしましょうか」
「それもいいけど、今はいろんなところに目を光らせてないといけないからな。由比子の件がうまくいったらだ」
「はい」

バスローブを着て浴室を出た。直江を部屋に返し、高耶は直江と自分のためのミネラルウォーターを準備しにダイニングへ向かった。その途中にあるリビングで千秋と由比子が話していた。
千秋はいつもと変わらず表情に言葉らしきものはない。しかし由比子の顔は何か物言いたげだった。

ミネラルウォーターのペットボトルとタンブラーをふたつ持って直江の寝室に持っていった。
由比子からみた高耶は自分と付き合っている時と違って人間らしい目をしていた。

 

 

高耶が直江に抱かれている間、千秋がリビングで新聞を読んでいると由比子が戻ってきた。

「高耶は?」
「直江と話があるって部屋に篭ってる」
「千秋さん、高耶はいったい何をしてるの?ヤクザになったの?」
「ヤクザじゃねえけど、似たようなもんかな。由比子ちゃんも知ってると思うけど、博打打ちってのは裏側の人間だ。まっとうな仕事もできねえ、家族も作れねえ、だから裏側にしかいられない。あんたの働いてたスナックに来る博打打ちにも2種類あるだろ?普通の仕事をして博打をする男と、博打でしか生きられない男とさ。それとおんなじ。高耶は博打しかできないヤツなんだよ」

千秋の表現は由比子にはわかりにくい。由比子は一応表側の人間だ。
スナックで働いていると2種類の人間がいるのだとよくわかる。しかしそれは堅気か堅気ではないかの2種類で、博打打ちの2種類ではない。

「だからさ……高耶はヤクザじゃないけどどっぷりと裏側に浸かって、もう表側に行けなくなってんだ」
「そうなの……」

いくら別れた男とはいえ、由比子にとってはまだ愛情の欠片が残っている。
自分の愛した男が抜けられない世界で暮らしているなど、もう由比子とは違う世界にいて、話も通じないような人間になったのが信じられない。

「あ、あ、あっ……」

リビングに響いてきた声に気付く。男性の喘ぎ声だ。高耶の。

「…………これ、なんの声?」
「直江と高耶がセックスしてる声だよ。あいつらそういう関係なんだ。由比子ちゃんには刺激が強すぎるか」
「高耶が……直江さんと?」
「由比子ちゃんには理解できない……俺にも理解できないな……あの二人はそういう関係で、高耶には精神的に直江が必要だし、直江には自分の動かない左腕の代わりに高耶の助けが必要なんだよ。ま、これは建て前ってゆうか、分かりやすくしただけなんだけどな。深層深部でのあの二人の繋がりは俺にもわからないよ」

たまに漏れてくる声を聞くが、高耶が直江に甘えるような声を出したり、直江が高耶に何かを願っているような声をしたり、それは由比子にとっては何一つわからない声だった。

気晴らしに千秋と喋っているが、たまに聞こえる細い悲鳴が由比子の心を少しずつ傷つけている。
きっと由比子は高耶に未練があるのだろうと千秋は思う。しかしその未練の男は冷たい態度を由比子にとる男とセックスをしている。たぶんそこには由比子では理解できない愛がある。

「一応防音なんだけどな〜。ドアから漏れるんだろうな〜。今度ドアも防音にしよう」
「千秋さんは、二人のことどう思ってるの?」
「俺は……直江の秘書兼世話人だから、高耶がああして直江を宥めてくれるのは有難い。高耶のせいで変わっていく直江を俺は嬉しく思ってんだ」
「どうして?」
「あいつと会う前の直江はまさに冷徹で血が青いんじゃないかと思うぐらいの男だったんだ。俺も直江には緊張しながらでしか付き合えなかったな。でも高耶が来たら、俺も直江も変わったんだ。なんてゆーのかな……あいつはいい意味でも悪い意味でも人の心の中を抉るんだよ。そしたらもう、俺も直江も手放せなくなったんだ。俺は直江の秘書だけど、高耶と話したり見てたりする方が充実する。直江は……俺とは違って恋愛だから、高耶がいなくなったら潰れるだろうな……」

そんな話をしていたら、直江の部屋のドアが開いて二人がバスルームに行く音が聞こえた。

「高耶も直江も本気なんだ。どっちも依存しないと生きていけない。だから、由比子ちゃん。高耶を直江から奪うようなマネだけはすんなよ?」
「……しないよ。高耶はもう昔の男だもん」
「それならいいけど。高耶がもしあんたに未練があって戻ったとしたら、高耶か、直江か、どっちかが死ぬことになると思う。最悪の場合は2人とも死ぬな」

千秋の言葉で由比子の肌に鳥肌が立つ。彼らはそれほどまでに愛し合っているのなら、自分が入って何かをしたとしたら殺人犯は由比子になるのだから。

「風呂からでてきたら普通の顔しててよ?由比子ちゃん」
「やってみるけど……」

そこにミネラルウォーターを取りに来た高耶が現れた。千秋はいつもの如く平静だったが由比子は緊張した。
緊張している由比子を見て高耶は気付かれたのを悟ったが、元々それでいいと思って直江と寝室にいたのだ。
ミネラルウォーターを持って寝室に戻り、まだ汗の引かない直江に飲ませた。

「いつもすみません」
「別にいいよ。たいしたことじゃないし」
「いえ、たいしたことだと思っています。片腕が使えない不便さは身に沁みています。それの介助をする人の大変さもわかりますよ」

そして自分の世話をしている間、高耶がイラついていたのも知っている。それでも高耶に依存していれば高耶の性格からいって自分から離れることはないだろうと卑しい考えを持っていた。
実際にそうだった。高耶はイラつきながらも直江の世話をしていたし、直江から逃げようとも思わなかった。
ただ直江が自分を頼りきりだったのが精神の消耗を激しくしていただけだ。

「あと1時間してからでかける支度するからな」
「はい」
「……由比子のこと、千秋に任せて大丈夫だよな?」

もし千秋がすでに白石と通じていたら危険どころの騒ぎではない。

「今は大丈夫でしょう。高耶さんが心配ならボディガード付きのマンションを提供しますよ」
「……いや、大丈夫だ。千秋がそんなことをするわけがないんだ」

しかし直江も高耶も一抹の不安がある。千秋を全面的に信頼しているのは本当だが、人間の心はすぐに変わる。
それが千秋に起これば全面的に信頼していたぶん、由比子の身も危険だし、精神的に立ち直るのに時間がかかる。

「千秋のことは私に任せてください」
「頼む……」

つづく

 
         
 

積極的な高耶さんが好きです。

 
         
 


 
         
   

9へススム