絆
※専門用語・隠語などは各ページの最後に解説しています※ |
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千秋が事務所に入ってからすぐに白石が応対し、懐かしい友人に会った2人は笑顔で挨拶をした。 赤司組にいた頃はスナッフをやっているのは上杉には内密にしていた。上納金を何で捻出しているかは上杉は問わなかったが、残虐なシーンの記録が残るタイプの物は『証拠』として不利になるためいい顔をしない。 「今は都内じゃ白石んとこしかやってないのか?」 ドラッグなら倍以上稼げるが仕入れを考えると青木会に回ってくるドラッグは質も悪いし量が少ない。それだとドラッグの売買だけでは上納金が稼げない。だからスナッフにまで手を染めなければいけないのだと白石が言う。 だが千秋は白石の性志向を思い出していた。 「ビデオに出てる人間てのは、この闇金事務所で金を返せなかったやつ?」 聞きなれない言葉に千秋が目を丸くした。 「ショー?」 少し青ざめた千秋を見て、面白くなった白石が後を続ける。 「俺は好きじゃないんだからやめてくれ。これは知り合いに頼まれただけなんだよ。おまえ、相変わらず鬼畜だよな」 白石にとっては鬼畜という言葉は賞賛でもある。 「摘発されたらヤバいんじゃねえの?」 笑いながら残酷な話をしている白石を見て、千秋はもう自分がヤクザではないことに気付いた。 「まあ、無茶すんなよ」 その場がやけに居づらくなって千秋は立ち上がろうとした。 「帰るのか?もうちょっといたっていいだろ?あとで飲みにでも行こうぜ」 その時、千秋の携帯に電話がかかってきた。それを取って通話ボタンを押すと、高耶の声が聞こえた。 『そのまま聞け。おまえがどこにいるかわかってるから、驚かないで聞いてくれ。奥にドアがあるだろ。その中に加藤って男がいる。借金抱え込んで監禁されてるはずだ』 マンションに匿われている由比子の男が借金で監禁されている。白石に金を返せないから由比子が身代わりになる。 『白石に悟られないようにして外に出ろ』 白石の目の前で話せる内容ではないらしく、ちょっと待っててくれという仕草をして部屋の外へ出て非常階段に行った。利用されていたのだと腹を立てたが、由比子が犠牲になるよりはいいと腹の中に抱え込んだ。 『千秋の考えで言えば青木会を押さえ込める名前は誰だと思う?』 元赤司組構成員は柿崎と青木に入っている。 上杉と最上はいわずもがなで、規模が大きすぎる。そうなると一人しかいない。 「じゃあ、景虎……しかない」 高耶に利用されていることに気が付いて腹を立てたのも今の言葉で氷解した。あの高耶が自分を頼っているとはなんだかくすぐったい。 「頼み、聞いてやる。どうしたらいい?」 通話を切って白石の元に戻り、仕事には行かなくて済みそうだと言ってもう少しこの事務所に残ることになった。 千秋が時間稼ぎのためにとりとめもない雑談をしていると、そこに由比子がやってきた。 「なんだよ!由比子じゃねえか!どうしてたんだよ!」 大袈裟に驚いてみた千秋に白石も驚いた。 「千秋、おまえこの女知ってんのか?!」 蚊の鳴くような小さな声で由比子が下を向いたまま言った。この声は芝居ではなく、本当に恐ろしくて出ている声だとわかった千秋が由比子の肩を抱いた。 「返済?白石に借りてんのか?」 慌てて白石が割って入った。返済額はもう10万程度しかないが、期日までに返さなかったからという理由で加藤が監禁されている。それを千秋に聞かれるのはまずい。 「いや!あと10万ぐらいだから!今日はその金を持ってきたんだろ?」 千秋が財布から10万を出して白石に渡した。 「これで完済だろ?由比子、おまえ金がないなら俺に言えばよかったのに。別れた女だからって俺が冷たく追い返すわけねーじゃん。闇金なんか二度と手出すな」 あとは加藤だ。加藤の安全を確保しなければならない。由比子に危険が及ばないように高耶が配慮しているだろうということは想像できたが、加藤をどうやって助ければいいかがわからない。 「白石、由比子の借用書返してやってくんねえかな?」 借用書などあってないようなものだ。どうせ加藤の身柄はこちらのものだし、千秋に知られないようにまた別の日に由比子を呼び出せばいい。 「それ持って帰んな。今度は俺を頼れよ?」 千秋からすすんで由比子をドアまで行かせて部屋から出した。白石の舎弟2人が由比子を追わないように、目で威嚇しながら。 「じゃあもうちっと暗くなったら俺の知り合いの店が開くからそこ行こうぜ、いいだろ?」 千秋の余裕の表情が白石に疑念を抱かせる。俺の背後には気をつけろ、そんなふうな表情だ。 「そこの2人もさ、俺がおごってやっから一緒に来いよ」 舎弟2人は目を見合わせながらどうしようかと迷っていたが、白石の「そうしろ」という警戒をはらんだ声で行かなくてはまずいことを悟った。 「すいません、ごちそうになります、兄さん」 あとは直江と高耶でどうにかしてくれるだろう。まだほんの少し背中から冷や汗が出ているが、自分がへまさえしなければ加藤は助かる。 「白石」 視線を泳がせる白石を見て、これ以上は何かのきっかけでキレてしまうかもしれないと思い、白石の体面を保つためにも聞かないことにした。 その後は他愛もない話をして、高耶が由比子を安全な場所に避難させる時間稼ぎをしてから白石らとでかけた。
つづく |
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千秋がかっこいい感じで。 |
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