驟雨 しゅうう 9 |
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それから、私は別れるつもりでいた亜沙子さんとそのまま付き合い続けた。 橋の下での出来事から1ヶ月。 それを払拭したくて亜沙子さんの体を触った。抵抗なく受け入れてくれる肌は滑らかで、女性特有の柔らかさがある。 「あなたを抱いてもいいですか?」 小さく呟いた可憐な唇は、彼の色香に飢えていた私を諦めと寂しさの淵に追い詰めた。
その日から3週間、亜沙子さんとは週に数回会い、私の部屋の高耶さんを抱いたベッドでセックスをし、愛と言う名の嘘を育んだ。 それでももう終わったのだ。彼は私を愛していない。 心の痛みが極まって、私は笑顔しか作れなくなった。 「結婚してください」 亜沙子さんは涙を浮かべて返事をした。出会った日から好きだったと、運命で結ばれるような気がしていたと、そういって喜びからの涙を流した。 「2ヶ月間しか交際期間はありませんけど、私は本気ですから」 その話はその週の草野球の練習の際に山縣さんから発表された。 「ホントに結婚すんのか?」 ずっと私を避けていた高耶さんが聞いてきたのは、あの夕立の日のような帰り道だった。今度は私の後ろを高耶さんが歩いてついてきていた。 「ええ。結婚しますよ」 もうこれ以上、高耶さんと関わってはいけない。私の隠れた思いが噴き出さないように。 「草野球ももう辞めます。最初から地域の交流のために入ったようなものだし、これからは結婚準備で忙しくなるでしょうから。辞めないまでも長く休むことになるのは間違いないですから、とりあえずは長期欠席ってことで色部さんとは話がついています」 私を追い越して背中を丸めて早足で過ぎ去って行く。 「高耶さんも、あの男とうまく続けてください。せっかく私がお母さんに嘘までついて取り持ったんですから」 自分の言葉に深く傷つく。一番愛している人が他人と幸せになってしまう。 「じゃあ、私はこれで」 マンションの前まで来て、こちらを見ない高耶さんに笑顔で言った。たぶん今の私は幸せそうな声を出している。 「うん、じゃあな」 そっけない声が返ってきて、私はもうこれが最後の最後だと諦めてマンションのエントランスに入った。 「直江!!」 高耶さんが、もう諦めた高耶さんがまだ後ろにいる。 「なおえ……」 突然、背後から抱きしめられた。予想もしていなかった。 「どうしたんですか?」 違う。勘違いだ。私の勘違いでしかない。これは私が想像していたような意味のものではないはずだ。 「直江……」 でももう、限界だった。勘違いで嫌われてもいい。愛せないなら嫌われてしまいたい。 勢いよく振り向いて体勢を変え、彼の後頭部を押さえ込み、思いの丈を注ぎ込んでキスをした。 「高耶さん……!!」 開いた自動ドアに、拉致するように連れ込んでほとんど抱えたままエレベーターに乗った。 「入ったら出られませんよ。いいんですか?」 部屋に入り、ユニフォームのままバスルームに入って熱いシャワーを出した。 「あなたは俺を愛していないんでしょう?」 言葉とは裏腹に狂おしいほどの愛を込めてキスをした。 「あの男と駆け落ちして幸せになるんでしょう?」 そんな言葉ばかりが出るのに私の腕は高耶さんをきつく抱きすくめる。 「俺を困らせて楽しんでいるんでしょう?」 熱いシャワーは雷雨のように、私と高耶さんの体温を同じにする。
何度目かわからない。 「電話……ッ」 彼の足を持ち上げて、繋がった部分を見ながら今自分は愛する人とセックスをしているのだと実感する。 「出る……っ」 このまま死んでもかまわない。繋がったまま死ねるなら。繋がったまま死にたい。 「愛しています……!あなたを……あなたしか……!!」 高耶さんの性器からほとんど透明に近い精液が飛び、誰よりも淫乱な絶頂の姿を見た私も彼の中で射精して果てた。 「抜いて……痛い……」 彼の生理的な涙を吸ってから抜き、さっきから何度も鳴るインターフォンに向かった。 「はい……」 返事を待たずに受話器を置いて、まだベッドで四肢を投げ出して恍惚に浸っている高耶さんのもとに戻った。 「まだ……するの?」 二人分の大量の精液で汚れた彼の体を抱きしめて、腰を押し付けた。 「ウチに電話しなきゃ……」 高耶さんの携帯電話をリビングに置いてあったバッグから出して寝室に持っていった。 「セックスしながらだったら、電話してもいいですよ」 足を開いた高耶さんの中に入り、静かに腰を動かした。胸や首にキスをしながら電話をするように促すと、高耶さんは素直に家に電話をした。 「今、直江んちにいる。さっきコーチを見かけたから避難させてもらったんだ。今日はこのまま直江んちにいていい?学校も明日は休む。なんか怖いし」 よくもそんな嘘が平気で出るものだ。しかも感じているくせにまったく普通に話している。 「うん。朝になったら直江に家まで送ってもらうから大丈夫。じゃあね」 通話を切るなり切ない声を出して喘いだ。 「泊まるよ」 私は愛されていると思ってもいいのだろうか。
つづく |
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まだまだトラブル続きます |
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