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驟雨 しゅうう 17 |
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ゆっくりと鍵を開けてドアをほんの少し開けた。 ワンルームの部屋はドアからそのまま部屋の奥が見えるが、高耶さんの姿が見えないということは、死角にあるベッドにいるのだろう。 誰の靴かわかったとたん、激しい怒りがこみ上げてきた。 「直江!!」 それがどんなものであろうが。 床に転がった男に馬乗りになって何度もその顔を殴った。拳に傷がついて血が滲んでも、指の関節が挫けても、男の手が顔に引っ掻き傷を作っても、殴るのをやめなかった。 捕まえようとしたらかわされ、男はそのまま玄関ドアを開けて逃げて行った。 「直江!!」 高耶さんの呼び声で我に返った。 「大丈夫ですか?」 両腕を差し出すと縋りついてきた。ずっと泣いていたのか目が真っ赤になっている。 「怪我してませんか?」 高耶さんが目線をうろつかせたので何かを探しているのかと視線を追ったら床にナイフが落ちていた。 「あれで脅されて……動けなかった……」 犯されたのかどうかは今は関係ない。高耶さんが私のものでいてくれるのかが大事だった。 服を着替えさせて外に出た。男が尾行してこないかを用心深く見回しながら私のマンションへ。 「先週の練習帰りにオレたちをつけてたみたい……」 練習日はいつも日曜日だ。そういえばあの男も普段は働いているのか日曜しか現れなかった。 「直江んちに行くので浮かれてて、鍵をかけるの忘れてたみたいで、いきなり入ってきて……なんとか説得して出てってもらおうとしたんだけど逆効果で……ナイフ出して……」 そこまで言うとまた泣き出した。無理して話す必要はないと言って抱いてやったが、高耶さんの話は続いた。 「セックスしながら心中しようって言うんだ……オレにはもう好きな人がいて付き合ってるって言っても全然信じてくれないんだよ……」 高耶さんがあの男と駆け落ちしようなんてしたから信じてもらえなかったそうだ。 「怖かったでしょう?今日は私がずっと付いていますからね」 それから数時間は高耶さんのそばを離れずに落ち着かせることに専念した。 今日、あの男が高耶さんの部屋に押し入ったこと、高耶さんを犯そうとしたこと、ナイフで脅して心中しようとしたことを話した。 「まだ近くに潜んでいるかもしれませんので、周囲に気をつけて来てください。あとをつけられてこの場所に高耶さんがいることがわかったら意味がありませんから」 2時間ばかりしてお父さんが来た。高耶さんのアパートに荷物を取りに行ってから、いったん家に帰ってタクシーを呼んで20分ほど遠回りをしてから来たらしい。 「高耶はどうしてます?」 お父さんに破れたシャツとあの男の持っていたナイフを見せた。 「これで脅されたそうです。もしかしたら犯されているかもしれませんが、本人にそれを聞き出すのは今はやめておきました。お父さんが警察に訴えるなら私が証言しますし、ナイフもシャツも持って行きます」 せっかく高耶さんとお母さんのカウンセリングが進んでいるのに、警察沙汰になったらすべてが泡になって消える。 「直江さんの手や顔の怪我も、もしかしてやられたんですか?」 私のその言葉でお父さんの意思は決まったようだった。 「高耶さんの携帯にあの男の連絡先があるはずです。電話をして二度目はないと脅しておきましょう」 高耶さんの携帯をカバンから取り出して男の電話番号を呼び出した。 「どうしましょうか……」 高耶さんを大事にしている父親らしい声と顔で言い切った。 「ではそろそろ帰ります。高耶には私がどうにかするから安心しろと伝えておいてください」 お父さんは厳しい顔つきのまま帰って行った。
つづく |
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次回が最終話です |
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