同じ世界で一緒に歩こう それから |
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「なんだろ?」 好奇心の強い女の同僚がドアを開けて通路を歩いてた社員に声をかけて聞き出したところ…… 「タチバナが来てるって!」 どうやらカタログだかショーだかの契約か打ち合わせに来たらしい。 「仰木くんと知り合いなんでしょ?」 研修のための合宿でオレと直江が知り合いだってゆーことが新入社員全員にバレた。 「プレスルームにいるみたいだよ。ちょっと見たいな〜。行こうかな〜」 同僚はその言葉が笑いのツボに入ったのか、ちょっと笑ってから出てった。
帰り際にチーフにデザインを提出してたら、珍しくモトハルさんがデザインルームに入ってきた。 「まだインパクトが弱いなあ。ディテールはいいんだからもう少し遊んでみるとか、そういう工夫してごらん」 モトハルさんは見た目のイメージと違って物事をあんまりカチカチに考えない人で、誰とでも世間話をしてコミュニケーションを図るところがある。 「キミのこと心配してたぞ」 余計なこと言わなくていいんだよ、あいつはまったく〜! 「直江が他人を心配するなんて珍しいから驚いたよ」 直江ってオレ以外にはどんな態度取ってるんだろ? 「あ」 それでオレの今日の仕事は終わり。珍しくデザイン画が早く片付いたから今日は定時に帰れそうだ。
直江が帰ってくる前に夕飯の準備が終わった。 「ただいま」 同居してからおかえりのチュー&ギューがオレの時間の都合で減ってたけど、今日はちゃんとしてやれる。 「珍しく高耶さんの方が早く帰れたんですね」 すっごく嬉しそうに直江が笑った。たかが夕飯、されど夕飯だからな。 直江が着替えてる間に煮付けと煮物の温め直しが終わった。味噌汁もあっためたしこれで完璧。 まあ帰ってきてすぐにパジャマ着るようなヤツになって欲しくないからいいんだけど。 「おいしそうですね」 直江とのんびり夕飯を食べられるのは土日ぐらい。でもやっぱ直江は土日も仕事に行くから月の半分はこうやって二人揃ってってわけにはいかないんだな。 「そーいや今日は契約かなんかで来たんだってな」 嘘だ!忘れてない! 「……嘘つくんだ〜?へ〜?」 行くって言ったら緊張して仕事が手につかないんじゃないかと思ったそうだ。 「今度はちゃんと言いますよ。これでいいでしょう?」 食事が終わってからはイチャイチャした。最近こういう時間が減ってて正直つまらない。 「仕事は大変ですか?」 しばらくベタベタ甘えてるうちに眠くなってきて、先に風呂に入らせてもらってベッドへ。
そんな日々を送っていた毎日、会社に行ってモトハルさんに会うとなんか視線が痛い。 別にオレ、何かしたわけじゃないし、仕事も真面目にやってるつもりだし、変なデザイン作ってないし。 エレベーターで一緒になった時、また視線が突き刺さったから思い切って聞いてみることにした。 「あの、オレのデザインって……もしかしてダメ……ですか?」 やっぱビクついてるよな。変だなあ。 「オレの悪いところ直しますから言ってください。もっとちゃんと仕事できるようになりたいんです」 そこでエレベーターが開いてオレの降りる階に。 「ほら、着いたよ。仰木くん」 追い出されるようにしてエレベーターを降りてから振り返ると、モトハルさんは引きつった笑みを浮かべて手を振った。 「失礼します」 ドアが閉まったけど疑問は残る。いったい何だろう??
次の日、店舗の閉店時間が8時だから直江と待ち合わせて外食した。 待ち合わせ場所の丸ビル1階に行ったらバカみたいに目立つ男が立ってて、ダウ平均株価の電光掲示板を見てた。 「直江」 そんでオレに向かってこれまたきれいな笑顔を見せるもんだから、目を丸くしてホッペ赤くして見てるOLさんまで出る始末。 「もう予約時間まですぐですから、早く行きましょう」 直江が今回選んだのは個室のあるフレンチ。店の前に立っただけでオレみたいな薄給人間が入れない雰囲気醸し出してたけど、どうせ直江の財布から出るんだから気にしない。 個室に通されて直江がメニューを選んだ。オレじゃ難しくてさっぱりわかんないからな。 「個室なんだ?」 前菜はスズキの刺身でエゾネギやらニンジンやらハーブやらを巻いたやつ。バルサミコ酢と醤油、隠し味に果物のソースを使って作ったドレッシングみたいのがかかってる。 「うまそう!いただきま〜す」 直江はこういう気遣いがうまく出来る大人の男だ。気楽に食べられるようにしてくれる。個室ってのもそういう意味合いもあるんだろうな。 「んで、人に聞かれたくない話って?」 モトハルさんが撮影に顔を出すのはいつものことだ。直江がモデルをやってる日はだいたい参加するって聞いたことあるし。 「撮影の合間に昼食の時間があって、一緒に食事をしたんですよ」
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食べてばっかり |
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