同じ世界で一緒に歩こう それから |
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で、ここからが本題だ。 「なんでウチのデザイン室で作ることになったかというと、社長がフォーマルドレスをモトハルでも作れるんだぞって宣伝するためです。それで来年度の立ち上げを盛大にやりたいそうです」 フォーマルデザイン室の室長をやってるのはそろそろ40歳かなってぐらいの感じの真田さんて女の人だ。 「それでぇ……まだ立ち上げができてないうちにそんな仕事は無理だと思いますって社長に意見はしたんだけど、『大丈夫大丈夫、ははははは』って言われて強行することになりました……」 真田さんも苦労が耐えないな〜。社長はいつも真田さんを頼ってばかりに見える。 「でも私としては縫製工場との契約の仕事だとか、フォーマルに関しての勉強をみんなと一緒にやっていく予定だったので、この仕事がこのデザイン室全体にどんな影響を与えるか想像がつきません」 だよな。オレだって毎日毎日デザイン画を描いてるけど、商品化になるメドだってついてない。 「と、いうわけで、広告代理店のプレゼンに全員で行きます」 全員というとデザイナー7人だ。オレや室長も含めて。フォーマルのパタンナーは現在プレタで修行中だ。 「そう、全員で。それでプレゼンを見てもらったら自分なりのデザインを提出してもらいます。CM用のドレスなんて衣装会社じゃないんだから普通はうちのような会社ではやらないんだけどね……社長がね……」 なんかのツテで強引に取ってきた仕事らしい。 「なんのCMなんですか?」 そんなわけでそのプレゼンを見にいくことになった。これからさっそく。
「ただいま〜、直江〜」 今日は直江が仕事早く終わるから、カレーを作っておけとメールしておいた。 「あ、チューしなきゃ」 恒例のチューをしてからリビングに行くとカレーのいい匂いがした。 「うわ〜、匂い嗅いだら腹減ってきた〜」 もしかして……ご飯なくてどーすんだ! 「たっ、高耶さんは先にお風呂に入ってみたらどうでしょう?風呂上りに食べる夕飯は格別でしょうし!」 寝室で服を着替えて部屋着になった。Tシャツとユニクロの綿ズボン。部屋着だからこんなもんだ。 「たまには一緒に入るか?」 米を研いでからスイッチ入れて風呂場にゴーだ。出てきた時にはホカホカご飯にカレーでまったりご飯だ〜。
とりあえず直江は本当にエッチなことしてこなかった。オレは別にいいのに、アレでかくして我慢しちゃってんの。 「カレー!ご飯!…………これ何?」 ぐちゃっとしたものが皿に乗せてあって、その上にカツオブシがハラハラと振り掛けられ…… 「ま。食えないわけじゃなさそうだし食うか。でもまずかったら直江が完食するんだぞ」 んで、食べながらデザイン室の話をした。直江がオレの仕事の機密なんかを知ってるのはオレが喋っちゃうからだ。 「へえ、なんのCMなんですか?」 へ??? 「何か言ったか?」 空耳じゃなかったのか!直江が?!出演?! 「相手はアイドル女優さんですよね。長秀も出ますよ。女優を真ん中にしてドレスが生かされる座り方をして、私と長秀でウェイターをやります。CG一切ないという監督が作るCMだそうですから、たぶんCGよりも幻想的か、またはハッキリした芝居でやるか、どっちかでしょう」 そうなんだ?長秀も出るし、直江も出るし、アイドル女優からしたら緊張するんじゃないかな〜。
「ミーティングするよ〜!集まって〜!」 真田さんの号令でオレたちが立ち上がる。真田さんの手には何枚かのデザイン用紙。もしかしてこれって。 「女優さんはやっと二十歳になったばかりの女の子で、設定はお酒がちょっと苦手。でもこれなら飲めるロゼワインてこの前のプレゼンで聞いたわね。そのロゼワインをウェイターが持ってくる。こんな感じなのはOK?」 あり得る。あの社長ならあり得る。世間には知らされてないが、この会社の人間ならあのアクティブさを知らない者はない。 「で、仰木くんに白羽の矢が刺さりました〜!おめでとう!」 誰も声に出さないけど、明らかに自分じゃなくて良かった、と思ってんだろうな。 「白羽の矢かあ」 そうか……白羽の矢の人ってのは、要するにイケニエってわけか。 「明日から色々回ってもらうから頑張って♪」 室長に渡されたのは分厚いファイルに入った資料と、その他諸々を渡された。 あ〜!めんどくせえ!!
そんでオレは毎日慣れない仕事をたった一人でして、ドレスのだいたいのイメージが掴めてきた。オレ努力家。 「じゃあ仰木さん、しばらくここでお待ちください」 代理店の応接室にはオレと、お茶と、数枚のデザイン画。小さな会議室みたいなところでボーッとしたり、デザイン画に訂正を加えたりしてた。 「よろしくおねがいしまぁす」 ううう、超かわいい!!テレビで見るより断然細くて小さい顔!!こんなに可愛いんじゃ学校じゃ1番可愛かったんだろうな〜!! 「彼女が今回の主役でドレスを着る武田ユイコちゃん。で、彼がユイコちゃんのドレスを作るデザイナーさんだよ」 たまらん。すげー可愛い。美弥と比べちゃいけないけど、美弥の数倍は可愛いぞ。 「仰木くん、デザイン画をユイコちゃんに見せてくれないかな」 こんな感じ、って描いたから、全部で4枚デザイン画がある。ユイコちゃんは全部をじっくり見て言った。 「ユイコのイメージカラーはピンクだったんだけど、20歳になったらちょっと違うぞ、ってゆうのを出したいの。だからこの薄い水色のか、白に赤いポイントのやつかどっちかがいいな〜」 水色のドレスはソフトオーガンジーとソフトチュールを重ねて作ったやつ。首から右肩、お腹にかけてチュールとオーガンジーで出来たフワフワの花みたいなイメージで包んである。スカートは真ん中にスリットを入れて、裾には全部花っぽいギャザーにしたフワフワってゆうかモコモコの飾りが。飾りに重量があるように見せるため、スカートは真下に落ちる細身のデザインになってる。袖はなくして少しセクシーな感じに。 もうひとつの白に赤ポイントのやつは、基本的には水色のと同じ形なんだけど、袖がパフスリーブになってて首から肩までの飾りがなくて、普通の丸首。スカートの方はペチコートでふわっとさせて膝下まで。大きな飾りがない代わりに、首や袖には細い赤リボンで巾着みたいに絞れるような形になってて、少し幼いイメージではあるけどロゼを引き立てるにはちょうどいい白だ。 そこで代理店の人がメーカーさんにどっちがお酒のイメージに合うかを聞いた。 「ロゼだから本当はピンクがいいんだけどね……下手したらお酒の色を引き立たせないドレスになる可能性があるよね?」 ユイコちゃんが選んだドレスのどっちかに決まるのかな? 「仰木くん」 それって、生地から作るってやつだよな……。学生んときに先輩がどうしても使いたいチェックがあったからって生地工場に行って一反だけ作らせてたよな……。 「ええと、時間があれば出来ると思います。でも予算がどの程度使えるかによります」 その場で水色のドレスのデザイン画を消しゴムと色鉛筆を使って白っぽい水色に直した。 「こんな感じですか?」 思い切って自分なりのアイデアを伝えてみると、全員から褒められた。それで行こう!と。 「すごいね。頭の中にちゃんとイメージがあるんだ〜?」 ユイコちゃんは大きな眼をオレに向けてしっかりと覗き込んできた。 それから採寸をするんでオレがユイコちゃんのサイズを測った。女の子のサイズを測るのは学校でもやってたけど、有名な女優さんの採寸なんて……手が震える。 「仰木さんはなんでデザイナーになったんですか?」 採寸の間にユイコちゃんと話した。年齢が近いだけに代理店の人や酒造会社の人よりもオレの方が話しやすいんだろうな。 「じゃあこれで終わりです。採寸そのまま作りますから、太ったり痩せたりしないでくださいね」 緊張したけど採寸は完璧だと思う。でもなぜかユイコちゃんの目が不安そうなんだけど。 「どうかしましたか?」 二人でハハハと笑ったら、少し打ち解けてきた。話し方も普通に友達っぽくなった。 「他にはまだやることある?」 オレたちが採寸してる間にマネージャーさんたちは企画についての資金の話をしてた。 「仰木さんはタチバナさんて当然知ってますよね。モトハルのモデルをよくやってるし」 へえ〜、そうなんだ。千秋と直江が先に決まってたのか。じゃあどっちが主役かわかんないな。 「モトハルさんの交友関係で酒造メーカーさんと話をつけて、それからモトハルの服を全面協力で出すからタチバナさんをまず使おうってことになって」 直江がモトハルのモデルやってるから?じゃあこれ出来レースみたいなものだとか? 「長秀さんとタチバナさんてどんな人かな〜。怖いかな〜」 つい出ちゃった。でも別にデザイナーとモデルなんだから交流あってもおかしくないか……な? 「だから仰木さんがデザイナーなの?」 って、もしかしてこのCMの仕事ってオレと直江で一緒にやる初めての仕事だよな?! 「どうしたの?」 ちょっと色々妄想してたらユイコちゃんが携帯電話を出してきた。番号とアドレス交換しようって。
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ワタクシも途中まで書いて仕事で一緒だと気が付きました |
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