同じ世界で一緒に歩こう それから |
||||
「ブログやって欲しいんだと。芸能人や有名人のブログを扱ってる会社なんだが、そこにここのモデルたち数人のブログを立ち上げませんか?って話だ」 ブログを書くことでギャラは発生しないがいい宣伝になる。IT企業はスポンサーがついて収益になる。 「今はどこもやってるからな。ブログからファンが増えたり、企画内容が浮かんできたりするもんなぁ」 鮎川はこういった広報活動をするのが好きだ。モデルに付加価値をあたえて仕事を取るのも必要なことだから、と。 「長秀は絶対やらせよう。あいつ今が大事な時だから。あとは寧波と……直江、だな」 鮎川は仕事のデキる男なのだが、性格がイケイケで先々のことや細かいところは考えられない。それを綾子がフォローすることで成り立っている。 「ま、気楽にな」 そんなわけで直江はブログを書くことになった。
マンションに帰ってからその話を高耶にすると。 「直江、小指出して」 直江の小指に高耶は小指を絡ませた。 「恋人のことは書いてもいい。でもそれがオレだとわかるようなことは書くな。指きりげんまんだ。嘘ついたら 直江たちのブログが出来るのはあと1週間ぐらいかかる。 「どんなのが出来るかな〜」 千秋と寧波のブログは若いぶん楽しい話題も多いが、直江の楽しい話題と言えば高耶の話しかない。
そして完成したモデル3人のブログ。 寧波は女性らしく、美容と健康、スタイル、ファッションを中心に書くそうなので『寧波のビューティー計画書』というタイトルになった。デザインも女性向けの温かなイメージのサイトデザインだった。 「なにこれ。『カフェタチバナ』?」 タチバナが普段どんなことをしているのかを読みたいファンのためのブログという設定で、コメント欄はあるにはあるが、ここはファンのみの一方通行で返事を出したりはしなくていい。 リビングにノートPCを持ち出して二人でブログを見てみると、千秋も寧波もすでに何かを書いている。 「直江も書けよ」 仕事中の面白いこと?特になかった場合は?仕事は好きだが楽しいことはほとんどない。 「覚えてません……」 ちょっと考える素振りをしてから高耶が言いにくそうに切り出した。 「あのさあ……自分で言うのもなんなんだけど、オレ宛にブログ書いてみたらどうかな」 イマイチ良くない意味で、というところが気になったがそのアイデアはありかもしれない。 「でも高耶さん宛てのメールを人に晒すのはちょっと……」 高耶は携帯電話を出してメールを直江に見せた。内容は『今日は寒いのに春物の撮影です。慣れてはいますがやっぱり寒いです。早く帰って高耶さんに心も体も温めてもらわないといけませんね』とあった。 「これをだな、『高耶さん』のところを『あなた』にするんだ。ブログを見た人が自分宛てに思えるように」 バカにされるのはどうかと思うが、世の中には人数分の感性があるわけだから何を書いてもバカにされることもあるだろう。 「携帯からも書けるんだから写真も一緒に入れたらいいよ。たぶんファンの人は写真がある方が嬉しいはず」 高耶からの返事はほとんど来ないが毎日のメールは喜ばれているということだ。 「どうですか?こんな感じで」 書かせた張本人の高耶が眉を寄せてパソコンに手を出して、書いたブログを削除してしまった。 「どうしたんですか?」 直江の顔をじっと見てからもう一度パソコンに向き直って、聞き取れないほどの小さい声で言った。 「オレが嫉妬するから」 高耶が嫉妬。それは直江が高耶以外の人間に愛を囁くような文章を書いたのが悔しかったと、そういう意味だ。 「こんな程度で嫉妬なんて呆れたか?」 久しぶりに嫉妬丸出しの高耶を抱き返して喜びを噛み締めていた。こんなところがどうしようもなく可愛い。 「この気持ちをブログに書いていいですか?!」 結局先程の文章の『今日は寒いのに春物の撮影です。慣れてはいますがやっぱり寒いです』という部分だけをブログにアップした。
|
||||
直江の楽しくないブログの巻 |
||||
ブラウザで戻ってください |
||||