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高耶さんは17歳


第7話  試験勉強とオレ 
 
         
 

そろそろ期末テストだ。別居の季節がやってくる。
中間テストの時もそうだったけどオレは実家に帰り、直江は新居でひとり寂しく暮らすようになる。

せっかくの新婚生活なのになんで別居しなくちゃなんねーわけ?
オレは別に家事やりながらだってテスト勉強するし、直江の作るテスト問題を盗むわけでもないのにさ!

「そうじゃなくて、家事の負担を少なくしてそのぶん勉強できるようにっていうご両親の優しさでしょう。それに私だって高耶さんの成績が下がるのはイヤですよ。結婚したから成績が下がったなんて、ご両親にどうお詫びしたらいいのかわかりませんよ」
「そんなのオレの責任じゃんか。直江は関係ないだろ」
「ありますよ。仮にも教師と結婚してるんですから、あなたの成績にはうるさく言わせてもらいます。いいですね?ご実家に帰ってもらいますからね」
「うーい」

生返事をして拗ねて、その晩は直江にたくさん甘えた。
明日からは実家だ。

 

 

一週間の別居生活が始まって、オレは実家の自分の部屋に戻ってきた。
結婚前と何も変わらない自分の部屋だけど、直江がそばにいないってだけで全然ダメな感じ。

「かーさん」
「あら、勉強してたんじゃなかったの?」
「ちょっと気晴らし。夕飯作るの手伝おうかと思って」
「そう?じゃあ少しだけお願いね」

母さんの作ってる脇に立って4月からの料理部で鍛えた技と、直江との結婚生活で鍛えた愛情料理を披露した。
我ながら上達してると思うんだけど。

「がー!もうつまんねえ!」

最後に湯豆腐の薬味になるネギをみじん切りに。まな板の上に乗せて包丁でガンガン叩いた。

「ど、どうしたの?!」
「勉強ばっかでつまんねえよ!なあ、オレ新婚なんだぜ?!なんで実家でメシなんか作ってんだよ!」
「学生だからねえ」
「つまんねー!つーか寂しい!!」
「だったら義明くんを呼べばいいじゃない」
「はっ!」

そうか。直江を呼んで一緒にメシを食えばいいんだ。どうせあいつはインスタントで済ますんだし、実家と新居は徒歩15分足らずの距離だもんな。

「電話してみる!」

台所を飛び出して電話のある玄関そばまで行った。そこで電話をかけようとしたら美弥が彼氏と長電話中だった。

「どけ!直江に電話すんだから!」
「なによ、いいじゃない。お兄ちゃんは携帯持ってるんだからそっちでかけてよ」
「そうだった!」

直江と結婚する前は携帯を持ってなかったんだけど、結婚後は何かと使うだろうってことで直江に持たされてる。しかもラブ定額とかいうやつでオレの携帯と直江の携帯はいくら話したってメールしたって定額料金で済むんだ。良くね?コレ。
さっそくラブ定額相手の直江に電話をしてみた。

「直江?」
『どうしたんですか?何かあった?』
「あのさ、今日ウチにメシ食いに来ない?」
『ああ、すいません。今日は社会科の教師で飲み会がありまして……今から学校を出るところなんですよ』
「ええ~?!」
『高耶さんはお勉強しててください。成績が上がったらご褒美に温泉旅行連れてってあげますから』

そんなんで今のオレの寂しさが癒されるわけないのに~!!

『じゃあもう切りますよ。ちゃんと勉強するんですよ』

そう言って電話が切れた。くっそー。

「離婚してやる~!」
「高耶?!」
「お兄ちゃん?!」
「高耶!!」

リビングで叫んだオレに家族全員で反応しやがった。母さんは料理を放り出して、父さんは白熱してたクイズ番組の問題を放棄して、美弥は彼氏との電話を切ってまで。

「ダメだよ、離婚なんかしたら!」
「そうだぞ、高耶!おまえなんかを貰ってくれる物好きは義明くんしかいないだろう!」
「お父さんの言う通りよ!あんないい人いないわよ!」

なんでかウチの家族は全員直江贔屓だ。あいつ、家族の前じゃすっげー好青年ぶってるからな。中身はただのエロ教師のくせにさ。

「おまえみたいな能天気なヤツが、普通に結婚しようとしたら大変じゃないか。嫁さんなんか絶対に来ない。来たとしてもおまえに輪をかけて能天気な嫁しか来ないんだぞ」
「いや……そんなわけないと……」
「いいえ、高耶は昔から何をするにも奥手だから高校生になるまで彼女すら出来なかったじゃないの。美弥を見習って欲しかったわよ」
「そうだよ。美弥なんか幼稚園のころから彼氏がいなかった時なんかないんだからね!」

ちょっと待ってくれ、我が家族よ。オレのどこが奥手なんだ?高校生で結婚して、あまつさえその旦那に色んなことされてますけど。
それに美弥がマセすぎてるだけじゃねーのか?そんなのと比べるなっつーの。

「試験勉強でちょっと実家に戻って、旦那さんが自分の言うことを聞かないだけでそんな癇癪起こすもんじゃないわよ」
「だったら母さんと父さんはとっくに離婚だ。なあ、母さん」
「そうね~。私たちも試験勉強の時は別居したわね~。今じゃいい思い出だわ♪」
「父さんたちが越えてきた試練をおまえが越えられないわけがない!耐えろ、高耶!」

そう言って父さんたちは目の前でチューしはじめた。あんたたちの息子が寂しがってるってのに!!
見せ付けてどーすんだ!!

「もういい……」

オレはこのアホ家族の中で一番まともなんだ。そう言い聞かせて夕飯を食って、また勉強に戻った。

 

 

翌日、直江のいる歴史準備室に行った。

「入っていい?」
「ええ、どうぞ」

他の先生はいないし、テスト問題は職員室に置くことになってるからここでならゆっくり話ができる。

「昨日、何時に帰ったんだ?」
「10時には帰りましたよ。試験前ですから忙しいのでね」
「忙しいのに飲みに行くのか?」
「軽いミーティングですよ」

先生にも色んな付き合いがあるんだな、ってことがわかった。

「そういえば」
「ん?」
「昨日、他の先生方に橘先生の指輪はなんなんだって聞かれました」
「あ、結婚指輪?」

直江は前回の話『ラブレターとオレ』の中で出てきた教頭先生とタイマン張って威勢よく啖呵切ってから、結婚指輪を学校にしてくるようになった。女生徒や女教師へのカモフラってのが名目上だけど、実際はオレとの本物の結婚指輪だったりする。
その指輪について聞かれて、何て答えたんだろ。

「教頭との話を正直に話すのはちょっとアレだと思ったので、カモフラージュだけど恋人とお揃いだってだけ答えておきました」
「恋人?嫁さんじゃなくて?オレって嫁さんなのに?」
「仕方ないでしょう?そこまでは話せないんですから。だけど私に素敵な奥さんがいることは確かですからね」

もう直江にチューしたくてチューしたくてたまらなくって、ちょっとだけって頼んでみた。
そしたら直江は準備室のカーテンを閉めてチューしてくれた。嬉しい……。

「今日は?ウチでメシ食える?」
「もちろんですよ。一週間、ご両親に頼んで私もお呼ばれさせてらいます。高耶さんがいない我が家は灯火がなくなったようで寂しくて、やっぱり別居なんかするもんじゃないって思いました」
「だろ~?」
「でも卒業するまではテスト期間中は別居ですからね」

チ。堅物め。アレも堅いけど頭の中も堅いんだな。って、オレ何考えてんだ!!

「7時ぐらいに行けばいいですかね?」
「へ?!ああ、うん。7時ぐらいな。じゃあ待ってるから。夕飯作って待ってる」
「はい」

そんで直江は夕飯だけ食いにウチに来るようになった。
でもやっぱりオレたちは新婚さんなわけで。ラブラブなわけで。夕飯だけじゃつまんなくて。物足りなくて。

 

 

別居してから本当に直江は毎日夕飯を食いに来た。そして明日からテストだって日に親父は直江に風呂をすすめて夕飯前にサッパリして一緒に晩酌でもしようと誘った。直江は二つ返事でOKした。

「義明くん、明日からのテストのために少し高耶の勉強を見てやってくれないか?」
「あ、はい。お義父さん」
「よろしくね。高耶ったら本当にちゃんと勉強してるかわからないのよ」
「してるっつーの!」

で、夕飯が終わってから直江はオレの部屋に来た。親父から何かを受け取ってから。

「直江って歴史の他にも教えられるんだろ?」
「ええ、学生の頃は家庭教師をしてましたからね。一通りは」
「んじゃ数学から。なんで初日に数学のテストがあるんだろうな」
「数学は自分でやってください」
「え~?」
「まずは」
「まずは?」
「キスしましょう」
「は?」

なんでチューすんだ?まあいいか。したかったし。
チューしてたら直江が触ってきた。

「なんで!試験勉強すんだろ!」
「しませんよ。お義父さんからいいものを貰ったんです」

あ、さっき直江に渡してたのがいいものなのか。

「何貰ったんだ?」
「コレです」

直江の手の中にあったのはコンドーム。

「はあ?!」
「高耶さんがイライラしてるから解消させてやってくれって。このままじゃ明日からのテストに悪影響なだけだろうから、ちゃんと愛情表現をしておきなさいって言われました。いつもご両親には驚かされますが、こういう気の使い方は見事ですね。尊敬に値します」
「な!なんでウチでそんなことしなきゃなんねーんだよ!」
「せっかくのお気遣いですから」

その時、玄関のドアが閉まった音がした。そして外から声が。

「お兄ちゃん、行って来ま~す。ごゆっくり~」
「たまには親子3人でガストで茶するか~」
「いいわね、お父さん、最高!」

……出てった……仕組まれてたんか……。

「な、直江……ちょっと待て……そーゆーんじゃなくてだな」
「じゃあどういうんですか?」
「えっと、その、直江と一緒じゃないのが寂しいだけで、欲求不満とかじゃないからさ」
「私はとっくに欲求不満ですよ?しましょう?」
「いいのかよ!明日からテストだってのに!このエロ教師!」
「今はあなたの旦那さんですから」
「屁理屈だ~!!」

そんでオレは直江にオイシク頂かれてしまった。
明日のテストはどうなるんだろう……?成績が落ちたら家族と旦那さんのせいじゃねーかよ!!

 

 

「あら、高耶。成績上がったじゃない」
「お、すごいな。平均点が10点も上がってるぞ」
「10点て微妙だね。でも上がってるのは確かだね」

戻ってきた答案用紙を見せに実家に戻ってきたオレは以外にも成績が上がってたことで誉められた。

「やりゃ出来るんだよ」
「そうか、そうか。やりゃ上がるってか!こりゃ父さん一本取られたな!」
「や~ね~!高耶ったら!いつの間にそんな大人になったのかしら!お母さん恥ずかしいわ!」
「お兄ちゃん、エッチ~!」

はあ?!このアホ家族は何を言ってるんだ?!

「やりゃ出来る、だって~!」
「うぇ?!ちょっと待て!なんか勘違いしてねーか?!」

オレが言ったのはだな!勉強なんかやりさえすればオレだってバカじゃねーんだぞってことを言いたかったわけでだな!
断じて直江とエッチしたから成績が上がったわけじゃなくてだな!

「勝手に盛り上がるな~!!」
「きゃー!お兄ちゃん、さすが新婚さん~!!」

ダメだ……オレが嫁に行ってからなんでか知らんがアホに拍車が掛かってる!いったいどこまでアホになれば気が済むんだ、オレの家族は!

「帰る!!」
「義明くんによろしくね、高耶♪ありがとって言っておいてね!」
「言うか!」
「今夜は義明くんにサービスしてやれよ!」
「ぜってーしねー!!」
「明日から休みなんでしょ?!いいなあ、お兄ちゃんは先生と結婚してて~!毎日お休みじゃん!毎日ラブラブじゃ~ん!」
「うるせー!!」

真っ赤になって実家を出るってどうなんだ?!なんで実家でこんなに恥ずかしい思いをしなきゃなんねーんだ?!

「おかえりなさい、高耶さん」
「直江のアホ!エロ教師!」
「はい?」
「もう試験勉強ん時は直江に会わないからな!」
「高耶さん?」
「おまえのせいだー!!」

持ってた学生カバンと脱いだダッフルコートを直江に投げつけた。
それをキッチリとキャッチした直江は丁寧にソファの上に置いた。

「何が私のせいなんですか。そんな癇癪起こして」
「ウチの家族はおまえとエッチしたから成績が上がったって言いやがったんだよ!くそ、二度と帰るか、あんな家!」
「……ああ、試験の前日の……」

大人な直江はまったく気にしてないらしい。そりゃ大人だからな。エッチも日常生活だっただろうさ!
だけどオレはまだそーゆーのに慣れてないんだ!

「まあまあ、とりあえず座って」

ポンポンとソファを叩いて隣に座れと言ってきた。まだちょっと怒ってたけど、やっぱり直江が好きだから座る。
座ると肩を抱いてくれて、なんだか久しぶりだな~って思った。

「確かに高耶さんのご家族はオープンですからね、そういうことも言うでしょう。別に悪気があって言ったわけじゃなくて、あなたが幸せそうだから言ったんですよ。安心してる証拠じゃないですか?」
「そりゃ幸せだし、安心してもらえるんだったらいいけど、ああいうことはだな……」
「新婚家庭なんて冷やかされても仕方ないんですよ。私の兄もさんざん冷やかしたでしょう?」

そーだけど。直江のお兄さんに言われるのと家族に言われるのじゃ違うんだよな~。

「とにかく」
「ん?」
「高耶さんが帰ってきてくれたんですから、それでヨシとしましょうよ」
「うん……」

で、チューしてたら無性に直江に甘えたくなってきて、いつもよりずっと子供っぽくスリスリしたり鼻を鳴らして甘え声を出した。
そしたら何を勘違いしたのか直江はオレのワイシャツの中に手を突っ込んできた。

「だから、おまえは!」
「たまには私にも甘えさせてくださいよ。寂しかったのはお互い様なんですから」
「う……」

潤んだ、とゆーか、寂しそうな、かつ欲情してる目で言われるとどうも断れない。
学校の橘先生はこんな顔したことないのにな、ってちょっと思っただけでオレの導火線にも火がついた。
どうもオレたちは禁断の恋ってのが好きみたい。

「しょうがないな……っ」
「じゃあこのまま頂きます。初めてですね、学生服のままエッチ突入なんて」
「……さてはずっとしたかったんだろ、学生服のオレと」
「はい」

まあいいか。学生服は明日クリーニングに出すんだし、少しぐらい汚れても平気かな。
オレもやってみたかったしな。

「あ」
「ん?どした?」
「私もスーツ着ないと」

……オレ、もうアホには付き合いきれないかも。

「……なんか……おまえもどんどんアホになってくな。する気なくした。やーめたっ」
「そんなぁ!」
「アホになったおまえが悪いんだ。メシ作ろーっと」

ソファでむせび泣く直江を無視して夕飯作りに取り掛かる。
直江はアホな新婚男だけど、橘先生はいつもかっこいいからあとで許してやろう。そんでスーツに着替えさせて、オレも学生服を着て、ふたりだけのテストの打ち上げをすりゃいいか。
あ~あ、オレ、結局家族にも直江にも毒されてんな。けど楽しい新婚生活だから、なんでもいいや!

 

 

 

END

 

 
   

あとがき

ただのギャグを書きたかった
だけなんです。
甘いのを期待されていた皆様、
すいませんでした。
高耶さんの両親が出てくると
引き締まる感じがしますね。


   
         
       
         
   
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