冬休みに入ったオレと直江は橘家へ日本酒を手土産に顔を出しに行った。
直江のお母さんはいまだにオレと末息子が結婚したことを納得できないらしくて、よく愚痴を垂れてるらしい。
だから『高耶くんの人となりを知ってもらいなさい』ってゆー照弘お兄さんの助言で夫婦揃って橘家に一泊することにした。
「ただいま、お母さん」
「お帰りなさい、義明〜〜〜!!」
「お邪魔します、お義母さん」
「あら……高耶くんも一緒なの?いらっしゃい」
オレの顔を見てから爪先までを舐めるようにして見て、それからまた顔に視線を戻した。
まるで嫁と姑の対決みたいだ。こりゃ並大抵のことじゃ気に入ってもらえねーかも。
そんなお義母さんは末息子にベタベタしながら座敷に通してくれた。そこには照弘お兄さんとお義父さんが待っていた。
「おー!来たか、高耶くん!まあ座れ!」
「いつも済まんね、高耶くん。義明が世話ばかりかけて」
「とんでもないですっ」
照弘お兄さんとお義父さんは歓迎してくれるんだけどな。
結婚当初は複雑だったお義父さんの心境も、直江が何度か橘家に連れてきてくれて、たくさん話すようになったおかげでずいぶん理解してくれて、仲良くなれた。
だけどお義母さんだけはいまだにオレが直江の嫁だってのを受け入れられないらしい。当たり前だよな。
「まあゆっくりしてってくれ。今夜は家事だの義明の面倒だの見なくてもいいからな」
「お父さん、私が高耶さんに迷惑ばかりかけてるような口ぶりはやめてくださいよ」
「迷惑かけてるだろう。家事は洗濯物を干すのを手伝うだけだって、照弘から聞いたぞ」
確かにな。でも迷惑かけてるわけじゃないから。結婚してるんだから当然てゆーか。
「あの、全然迷惑かけてないですから。ええっと、義明さんには、その、逆にオレが迷惑かけてるようなとこもあるし。それにすっごいいい旦那さんだし」
「高耶さん……」
「もちろんよ。義明が迷惑なんかかけてるわけないじゃないですか。優しくていい子なんだから」
突然直江を擁護し始めたお義母さんにその場の全員ビックリだ。
棘のある言い方するんだよな〜。お義母さんはいっつも。
「お母さん。そういう言い方をしないでください。高耶さんに失礼ですよ」
気まずい空気が流れまくりだ。好かれてないのは知ってるけど、こういう言い方はまだ高校生のオレはショックだったりする。
チラッと横目でお義母さんを見るとまるで警戒してる犬のような目でオレを見てた。直江が犬属性なのはお義母さん似なんだろうか。
「あの、お母さん。そろそろ夕飯の準備をしないといけないんじゃないですか?」
「ええ、そうね。じゃあ義明、一緒に買い物に付き合ってちょうだい」
「買い物してないんですか?じゃあ、車を出しますね」
「ええ、ええ、行きましょう、義明」
ヤバイと思ったのか直江がお義母さんを連れ出してくれた。
お義母さんは直江にそう言われて、オレから直江を取り戻したような感じで嬉しそうにして出て行った。
なんか負けた気分がしないでもない。
「まったくお母さんは……買い物なんか昨日のうちに済ましてあるのに。今日はすき焼きにしようって張り切って100グラム2千円の牛肉を買ったってのに、忘れてるんでしょうかね」
ひゃ……ひゃくぐらむにせんえん……。
そんな肉、使ったことねえぞ……。
「母さんは義明と出かけたかったんだろう。悪いな、高耶くんの旦那さんを取り上げてしまって」
「いや、いいんです」
「じゃあ邪魔者の義明と母さんがいないうちに、新婚家庭の話を聞かせてもらおうか!」
「ですね、お父さん!」
そんなわけでオレはお兄さんたちの猛烈な質問攻めに合い、洗いざらい白状させられた。
試験勉強で離れ離れになったときは寂しかったとか、夜は手をつないでもらって寝るとか、チューは1日最低10回はしてくれないと
つまらないとか、その他。
「そうかそうか、高耶くんは甘ったれなんだなあ!」
「まったく義明はいたいけな高校生になんて不埒な真似をしてるんだか」
チュー10回のことを言ってるらしい。それはオレがして欲しいんであって、不埒なわけじゃないんだけど……。
「だけど高校生とはいえども義明の嫁さんだからなあ。そういうこともありきだろうしなあ」
うーん、ちょっと話しすぎたかな?
「義明のヤツは自分に有利な話ばかりするもんでなあ。ここらへんは奥さんである高耶くんから聞かないと、あいつがどんな生活してるのかこっちも気になって仕方ないんだ」
「そうだな。義明の悪口だったら今のうちに言っておきなさい。何か困ってることがあったらいくらでも助けになるぞ」
なんでか知らんがお兄さんもお義父さんもオレから話を聞きたくてしょうがないらしい。
「いえ、困ってることなんかないです」
「本当のところ義明はいい旦那さんをやってるかい?」
「……はい」
本当は困ってることはたくさんある。
起こす時にチューしないと駄々こねて起きないとか、部活がある日はほとんど待ってるとか、友達と遊ぶ時はどこで誰と何をするかを言わないと怒るとか、歴史研究会の日曜研究会を生徒だけで行かせるようになったとか、ちょっと隙を見せるとお尻を触ってくるとか、最近じゃ学校内でもエッチなことしたがるとか、色々。
でもコレはちょっと言えないだろ?直江の尊厳てのもあるんだし。
「しかし義明もいい嫁さんを貰ったもんですね、お父さん。これなら安心して老後の生活が送れますね」
「何だと?まだまだ老後とは言わさんぞ。高耶くん、義明に無体なことをされたらいつでも言いなさい」
オレを無視して盛り上がったお兄さんたちは夕飯前だってのにオレと直江の手土産の日本酒で晩酌を始めた。
帰ってきてそれを見たお義母さんと直江は呆れてしまったんだが……。
「高耶くん、あなたがお父さんたちにお酒を勧めたんですか?」
「いえ……」
「お父さんたちは私がいない間に晩酌をするような人ではないのですよ。まったくこれだから最近の若い子は」
違うのに〜!!オレじゃないっつーの!!
「お母さん、高耶さんはそんな人じゃありませんよ。それにお父さんたちが勝手に酒を飲んでるなら、高耶さんじゃなくてお父さんたちを責めるべきでしょう。私の奥さんにおかしな言いがかりはつけないでください」
「まあ、義明……」
ナイスだ、直江!さすがオレが見込んだ旦那さんなだけはある!!
「お父さんも兄さんも高耶さんが勧めたのではないと、どうしてお母さんに言わないんですか。高耶さんのせいにされて私が黙ってるとでも思ったんですか?」
「いや……母さんの気迫に負けてな……」
「それに高耶さんはまだ高校生なんですよ。そんなお酒を勧めるなんてことしないってどうしてわからないんです、お母さん」
直江が奥さんであるオレを庇ったのがショックだったみたいで、お義母さんは黙り込んでしまった。
これはこれで可哀想だ。
「あの、お義母さん……いいんです、オレ、気にしてないから」
寂しそうな背中に声をかけてみたら、すっごく意外な反応が返ってきた。どう意外かってゆーと……
「ごめんなさいね、高耶くん。そうね、お客様なのにね、ひどいこと言っちゃったわね」
今の今までオレを目の敵にしてたのに、急に優しくなったんだ。不気味だろ?
「あら、失敗したわ。義明の部屋の掃除をしてなかったわ。お夕飯前にやらなくちゃ」
「掃除?いいですよ、私がしますから」
「義明はお父さんたちの相手をしてて。じゃあ、ちょっと失礼するわね」
どうしてお義母さんがそんなことを言い出したのかオレは不安になった。直江を見たら「反省したんですよ」って言ってるけど。
なんか違う気がすんだよな〜。
お義母さんの手作りの夕飯はうまかった。直江んちの味付けはオレんちよりも薄味で、上品な感じがした。今度からこのぐらいの塩加減にした方がいいのかな?
「義明、今日はお客さんなんだから一番風呂入っていいわよ」
「お母さん、義明よりも高耶くんが先でしょう」
「あ、あら、そうだったわね。ホホホ」
……なんかやっぱり疎ましく思ってるっぽいな……どうしてお義母さん、急に優しくなったんだろ?
用心しなきゃ!
「じゃあ、先にお風呂に入ってください。着替えは私の浴衣がありますからそれでいいですか?」
「うん」
「行きましょうか」
直江に連れられて部屋に行った。実家の部屋に入るのは二度目かな?前に結婚の挨拶に来た時に。
直江が一人暮らししてる時もお義母さんは部屋をちゃんと管理してたそうで、押入れに直江の着替えなんかが入ってるんだって。
一人暮らしに持って行かなかったものなんかはレイアウトもそのままにしてあった。
「お風呂に入ってる間に客間から高耶さんの布団を持ってきますね」
「うん、頼む。なあ、オレ、お義母さんから嫌われてんのかな?」
「嫌われてはいませんよ。戸惑ってるだけでしょうね」
「ならいいんだけど……」
浴衣を用意して風呂場まで連れてってもらった。浴衣をひとりじゃ着られないって言ったら、あとで直してあげるから適当に着ておきなさいって。優しい旦那さんだ。
お言葉に甘えて一番風呂に浸かり、部屋に戻って直江に浴衣を直してもらう。ついでにチューもしてもらう。
「あとで脱がせるのが楽しみですね」
「しないぞ!」
「……スリルを楽しみたかったのに……」
そんで直江が風呂に入ってる間、オレはお兄さんとお義父さんとお義母さんと話した。ただお義母さんは気が乗らない感じで途中でいなくなっちゃったけどさ。
直江が風呂からあがってちょっとだけお兄さんたちの晩酌に付き合って、それから10時ぐらいに部屋に戻った。
そこにはさっきはなかったアルバムが出てた。
「アルバム?」
「どうしてこんなところに」
「見せて?」
「いいですよ」
それを開くと詰襟姿の直江が写ってた。中学生ぐらいかな?可愛い……。
「うわ〜。直江も中学生だったんだ〜」
「そりゃそうでしょう」
2ページぐらい見てからオレが固まった。そこには直江が女の子と腕を組んでる写真があったからだ。
「これって……」
「あ!」
「誰?」
「……当時の彼女です……」
「……ふぅん……」
ちょー妬いた。こんなのどうしてとっておくんだよ!!
そんでまた次のページにも別の女の子と写ってる写真が。その次も、その次のページも。
「これは高校ん時の彼女か……?」
「……はい……」
「美人だな」
「はあ……」
それから直江が女と写ってる写真のオンパレード。中学から大学まで。どいつもこいつも超美人だ。
しかもゴージャス。合計20人以上。
「直江……」
「はい……」
「なんでこんなもの、オレに見せた?わざとか?」
「いえ、このアルバムは中学生時代のものを集めたやつだったんですが……どうしてこんな女の写真ばかり……」
やったな。お義母さんめ。アルバムの中身を替えたんだ。女と写ってるのばっかりを集めたに違いない。
くそー、これじゃ嫁VS姑バトルじゃねーか!
「あの、高耶さん?」
いつもだったらここで「直江ムカつく!」とか言ってるオレだけど、そんな罠に嵌まってたまるか。
「直江!」
「はい!」
「チューしよう!オレはこの女どもに勝ったんだな?!だったらチューしろ!」
「はいっ」
直江とずーっとずーっとチューした。どこかでお義母さんが聞いてるかもしれないからな!
「高耶さん……」
「ん?」
「やっぱりエッチはダメですか?」
うーん、どうしようかな。ここでエッチするのは恥ずかしいし、なんかイケナイような気がするけど。
でもいいや!しちゃえ!お義母さんや昔の女になんかに負けてたまるか〜!!
「する!」
「本当に?!」
「するったらする!」
「ありがとうございます!」
勝つぞ!女どもにもお義母さんにも、だ!!
あ、エッチのシーンはそのうち直江が裏側で白状すると思うからここではまだ内緒だ。
「ん〜、直江、チューする〜」
「はいはい」
真夜中にエッチが終わってたくさん甘えてみた。
お義母さん。直江はこんな男子高校生でもちゃんと愛してくれて、優しくしてくれてんだぞ?だからそろそろわかってよ。
そりゃお義母さんには申し訳ないって思ってるよ。だから旦那さんを不自由させないためにも料理を覚えたり、早起きして弁当作ったり、洗濯だって掃除だって面倒だけど真面目にやってるんだ。
それに先生と生徒だからさ、学校じゃすごい神経使って「直江!」って呼ばないようにしてるし、生徒って立場もわきまえて女どもが直江にベタベタしたってガマンしてる。
「どうしたの?そんな眉毛を寄せて。私が何かしてしまいましたか?」
「オレのこと、愛してるよな?」
「ええ。もう一生かかっても愛しきれないぐらい」
「……オレも」
直江に台所からサイダーを持ってきてもらって(お兄さんが今日来るオレのために用意したそうだ)ガブガブ飲んでから寝た。
もちろん、直江に甘えながらな。
「高耶くん、ちょっとこれ運んでちょうだい」
「はーい」
翌朝、オレはお義母さんを手伝って台所にいた。早起きして朝ご飯を一緒に作ることにしたんだ。
そしたらお義母さんはすっごく優しくしてくれた上に、オレが作った味噌汁を味見して「義明もいいお嫁さんを貰ったわね」と言ってくれた。
わかってくれたのかな〜?なんて思ってみたんだけど……。
しかし!!さすがというか何というか、お義母さんはわかってくれたわけではなかったらしい。
「高耶くん」
「はい?」
「義明は体も大きいけどアレも大きいから大変ね」
……な、なにを言い出すんだ〜!!
ビックリしたオレは運んでって言われた煮物の器を落っことしてしまった。だってビックリしすぎて!!
「あらあら〜。せっかく作ったのに」
「どうしたんですか、大きい音がしましたけど」
「あ、義明。高耶くんが煮物を落としてしまったのよ。これじゃおかずが足りないわ」
そう来たか!!
昨日のエッチを聞いてやがったな!
オレが一番触れて欲しくない性生活の話を平常時に持ち出して、オレをビビらせて失敗させて、ダメ嫁の烙印を
押すつもりなんだな〜!!
「すいません、お母さん」
「義明が謝ることじゃないでしょう?それに高耶くんだって悪気があったわけじゃないのよね?」
んで理解者のふりして直江にオレのダメな部分をたくさん見せるつもりだ〜!!
「義明は居間に戻ってなさい」
「ですが……落としたものを片付けないと」
「いいのよ、私がやっておくから」
「はあ……」
でもお義母さんはオレに片付けを命じた。典型的な嫁イビリじゃねーか!!
「あなたが義明のお嫁さんだってことは認めました。それを踏まえてこれからは接しますよ。でも覚えておいてね。認めましたけどあなたを好きになったわけじゃないのよ。これからよろしくね、高耶くん?」
負けるもんか!!負けるもんか!!負けるもんか〜〜〜〜!!
「どうしたんですか、元気ないですね」
あの後、直江の実家でずーっと悔しさを噛み締め続けていたオレ。
家に帰って直江にそう言われたら、とたんに涙が出てきた。
「高耶さん?!」
「うわーん!直江のバカー!!」
ドアを閉めた玄関で直江に抱きついてワンワン泣いた。
だってお義母さんがあれから直江にベッタリで、大昔の直江との話ばっかりして仲間はずれにしようってゆーのがミエミエで、奥さんであるオレがするような「はい、お醤油v」みたいな細かいことも全部お義母さんがして、オレがちょっとうっかりすると「今の若い子はねぇ」なんて言いやがって、しかもしかもみんなに聞こえないようにオレだけに「女の奥さんだったらもうちょっとマシなのかしら?」って言ったんだ〜!
これで言い返せないって当然なんじゃねえの?!
そこを旦那さんがうまく察してくれてフォローとかすんじゃねえの?!
直江はノロケはするんだけど、フォローしてくれなかったんだ!!
「どうしたんです?!」
「もう直江の実家なんか行かない!」
「ええ?!」
シクシク泣きながら直江にリビングまで連れて行ってもらって、ソファに座らされてまたシクシク。
だってまだオレ、高校生なんだぞ!
あんな嫁イビリに対抗できるわけないじゃん!しかも相手は老練な直江のお母さんだ!
「実家に行かないって、どうしたのか話してくださいよ」
「話したら直江、怒るもん」
「怒りませんよ」
自分の母親の悪口なんか聞かされたくないだろ?だから黙ってよーとしたんだけど、直江は優しくチューしてオレをフニャフニャにしてから聞き出した。
「……母がそんなことを?あなたに?まさか。気のせいですよ」
それ聞いてもっっっのすごくムカついた。
奥さんよりも自分の母親を信じるのは当たり前なのかもしれないけど、オレが言ったのをまるっきり信じてないことだろ?!
煮物を落とした時の話も信じてないってことだろ?!
アルバムだってお義母さんがわざとやったんだってのもわかってないんだろ?!
「直江なんか大っ嫌いだ〜〜〜!!」
「高耶さん!」
「帰る!実家に帰る!離婚する!直江なんかと結婚するんじゃなかった!このマザコン野郎!」
走って自分の部屋に行って閉じこもって、とりあえず勉強道具だとか大事なものをカバンに詰めた。
部屋の外で直江がなんか色々言ってるけど、そんなの聞いてやらん!
勢い良くドアを開けたら、そのドアで直江が鼻を打ってうずくまった。ザマアミロ!今のうちに出てってやる!
「待ってください!」
「待たない!」
階段を走って下りて、玄関で靴を引っ掛けた。ちゃんと履いてたら直江にとっ捕まっちまう!
けどドアを開けて一歩でたら転んじゃって、結局捕まって、リビングまで戻された。米袋みたく持ち上げられて。
「はーなーせー!」
「ダメです。離婚なんかしませんよ。取り消してください。それにマザコン野郎っていうのも。私はマザコンじゃありません」
「マザコンだ!」
「じゃあ百歩譲ってマザコンでもいいです。でも離婚は絶対にしません」
ソファに座らされて、直江に手首を押し付けられて動けなくされた。
歴史の先生のくせに力が体育教師よりも強いってなんなんだ?
「あなたがそんなに怒るなら、母が言ったことは本当なんですね。私からきつく言っておきますから、しばらく様子を見てください。それで母の態度が改善されないのであれば、もう高耶さんを実家に連れて行くのはやめます。これでいい?」
「……うん……」
「正直に言いますとね、あなたと母を比べることは出来ないんです。どっちも大事です。あなたと仕事とどっちが大事だって聞かれたらあなただって答えますけどね。でも母とあなたは同じくらい大切です。だけど私は母と暮らすんじゃなく、あなたと暮らすことを選んで、無茶を承知で結婚して、一生、あなたといるって決めたんですよ。だから高耶さんが困ってるなら味方になります。安心して何でも言ってください。もう疑ったりしませんから」
やっぱ優しいんだな、直江って。いい旦那さんなのに困らせたのはオレか。
だけどオレは謝ったりしないぞ。
「ね?」
「うん。わかった」
たくさんチューして甘えて、とりあえず一件落着だ。
しかし数日後、直江の実家のお義母さんからこんなものが送られてきた。
「なに、それ?」
「さあ?開けてみますね」
普通の茶色いA4サイズの封筒を開けるとそこには料理の本が。
タイトルは『健康にいいお惣菜・塩分控えめで作れる簡単レシピ』。
…………オレの味噌汁がしょっぱかったってことかよ!
陰険だな、おい!
直江も普段からオレの味付けがしょっぱいと思ってたのか、すぐに察知して冷や汗を出した。
「あの、これはたぶん!」
「かばうな。キレるぞ」
「はい……」
オレとお義母さんの嫁姑バトルは始まったばかりだった。
くそ、ぜってー負けねえ!!
END
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