高耶さんは17歳


第9話  クリスマスとオレ 
 
         
 

直江に謝らないといけないことがある。
クリスマス……実は学校の友達と約束しちゃったんだ……。

 

 

それは期末テストが終わって試験休みに入ってすぐに。
試験の打ち上げをやるってのがオレや譲がいるグループに毎回あって、今回は試験の打ち上げとクリスマスを同時にやるってことになっちまった。
オレは彼女いないことになってるし、いたとしてもその打ち上げを友情放り出して行かない、なんてわけにはいかなくてさ。
会場はいつものとーりオレんちだ。あ、実家の方な。
なんでかっていうとオレんちの親は騒いでもアルコール飲んでもタバコ吸っても何も言わないから。
で、毎回そうなんだけどみんなうちに泊まる。今回は24日から25日にかけて、だ。

それを直江に言わなきゃいけないんだけど……。

「あのさ〜」
「はい?なんですか?」

目の前でクリスマスツリーを飾ってるのはオレの担任教師であり、旦那さんでもある橘先生だ。
結婚して初めてのクリスマスだからって張り切って大きなツリーを買ってきて、白い綿をちぎってツリーに乗っけてる。
冷蔵庫にはドンペリと、お子様用ノンアルコールシャンパンと、でかい丸ごとチキンが入ってて、冷蔵庫の表面には有名なケーキ屋のクリスマスケーキ予約票がマグネットで貼ってある。

こんなに楽しみにしてるってことは、もし24日はお泊りでいません、なんて言おうもんなら何をされるか……。

「その……」
「ああ、高耶さんも一緒に飾りたいんですね。どうぞどうぞ」
「じゃなくて」
「じゃなくて?」

ええい、オレも男だ、ハッキリさせねば!

「24日と25日は友達と遊びます!!」
「はあああ?!」
「ごめんなさい!!」

直江は綿を握り締めたまま床に頭を打って倒れた。

「直江!大丈夫か?!」
「……そ、そんな……新婚クリスマスですよ……?」
「ごめん……」
「友達と私とどっちが大切なんですか?!」
「それは直江がお義母さんとオレとどっちが大事か決められないのと同じでだなぁ」

そうですね、と言いながら直江は俯いた。
可哀想なんだけど今回ばかりは友達が優先なんだよな〜。

「25日の夜からクリスマスすればいいじゃん。本来クリスマスってのは25日なんだしさ。な?」
「そうですけど……でも24日から二人きりでクリスマス気分を過ごしたいじゃないですか〜ぁ」
「オレだってそうしたいのは山々なんだよ。だけど友達との交流ってのが結婚してから少なくなったってのもあるから、ここらで参加しておかないと友情にヒビが入るだろーが」

譲だけはわかってくれるような気はするけど、いくら譲がかばってくれても限界っつーものがある。
事実、最近のオレは付き合いが悪いって言われてるわけだしさ。
そういうことを全部話して、会場はオレんちで、名目はクリスマス&試験打ち上げで、一泊で、って教えた。
アルコールとタバコのことは内緒で。

「じゃあ、妥協します……ところで」
「ん?」
「そのクリスマス会には女子は参加するんですか?」
「3人来る」
「高耶さんのお家へ?」
「けど夜は8時か9時には帰すから」

誰と誰と誰が来るのかって聞かれたから、クラスメイトの彼女が1人と、あとは同じクラスの女子2人だって言った。

「その2人には……彼氏とかいるんですか?」
「さあ?知らない」
「もしやあなたを狙ってるとかじゃないでしょうね?」
「まさか」
「警戒するって約束してください。それと絶対に25日は夜6時までには戻ってください」
「はーい」

その後もブツブツと文句を言いながらツリーの飾り付けをしてた。
申し訳なくて可哀想で、寂しそうな背中にくっついて甘てやった。

「先生、大好き」
「高耶さんも一緒に飾りましょうか。ほら」

綿を手渡されたけどそれよりも甘えてる方が好きだから、ホワホワの綿で直江の顔をくすぐってみた。
くすぐったいですよ、って笑ってくれたと思ったら、手首を掴まれて引き寄せられてチューされた。

「またおまえはそうやってすぐ」
「大事な日に一緒にいてくれないからですよ。そのぶんずーっとくっついててください」
「……わかった」

イチャイチャしながらツリーを飾って(飾りながらチューしたり手を繋いだから倍の時間がかかった!)それから一緒にちょっと遠くのジャスコに買い物へ。
近いスーパーじゃ誰に見つかるかわかんねーからな。

ジャスコでクリスマスセールをやってたからついでに見てたら、直江にクリスマスプレゼントを買うのを忘れてたってのに気付いた。
やっぱこーゆーのって本人に聞いたらいけないのかな?
驚かせるのが一番いいのかな?
けど今のオレは全財産2000円だ。

「高耶さん、お正月は一緒にいてくれるんですよね?」
「へ?ああ、うん。正月は大丈夫」
「良かった」

カートを押しながら歩く直江の後姿を見て、ごめんな、って心の中だけで謝った。

 

 

んで、とうとうクリスマスイブだ。
24日は朝から実家に戻って掃除して、みんなに出す料理を母さんと作ってた。
来るのは譲も含めて全部で6人。

「プレゼントの交換とかするの?」
「しないってば。そんな年じゃないんだから」
「違うわよ。あんたたちガキどもの話じゃなくて、義明くんとよ」

ガキどもって……母さん……。

「ちゃんと買ったの?」
「それがさー、何を買っていいやらわかんなくってさー。マフラーとか手袋はあいつすっげーいいやつ持ってるし、高いのは小遣いが少ないから買えないしさ〜」
「あんたが無駄遣いばっかりするからでしょ!」

頭を叩かれてしまった。そりゃオレは貯金がヘタさ。今だって生活費は直江がガッチリ管理してるし。

「な〜、お年玉の前借りできない?お願い!若くて可愛いお母さん!」
「もう一声!」
「優しくて料理上手なお母さん!!」
「よし!」

そんなわけで1万円確保。
みんなが来る前しか時間がないってことで父さんに車を出してもらって美弥と3人でプレゼントを買いに出た。

「何がいいのかな〜?予算1万つったらけっこういいもの買えると思うんだけど」
「しかしなあ、義明くんは高級品ばっかり身につけてるだろう?1万円じゃなあ」
「いいんだよ、お兄ちゃんから貰えるなら何だって。義明さんてそーゆー感じじゃない?」
「お、鋭いな、美弥。さすがお父さんの娘だ!」
「だってお兄ちゃんにメロメロじゃ〜ん?」

またこいつらの暴走が始まったよ。
美弥のやつ、どこでメロメロなんて言葉を覚えてきやがったんだ。
つーかオレたちってそんなに観察されてるわけ?どうかと思うぞ。

「ラブラブ新婚生活だもんなあ、高耶!美弥の言うとおり何でも喜んでもらえるかもな!」
「かもじゃなくて確実に喜ばれるから大丈夫!義明さんだったらドッグフードだって道端に落ちてるタオルだって喜んでくれるって!」

美弥……それは絶対にないから…………。

「着いたぞ!父さんオススメの何でも揃う店だ!」
「……ドン・キ・ホーテ……?」
「安くて何でも揃うんだ。いいだろう!」

ここで直江に何を買えって言うんだ……。

「ブランド物だってあるんだぞ!どうだ、高耶!」
「そらまあ……ブランド物もあるだろうけど」

1万円で買えるブランド物なんかたいしたものじゃないじゃんかよ!!

「ささ、入ろう!」

中に入るとゴチャゴチャした店内と例のテーマソングが流れてて欲しくないものまで買ってしまいそうになる。
父さんは勝手にブランド物を買うって決めてるらしくて、そのコーナーにずんずん進んで行く。

「香水なんかいいんじゃないか?」
「先生なんだぞ?いつつけるんだよ」
「じゃあこのお財布!」
「5万円て書いてあるぞ」
「ピアス!」
「女物じゃねーかよ!」
「いちいち文句の多いやつだな」
「なんなんだよ、もう!!」

しかたなく目の前にある3個のパスケースの中から1個選ぶことにした。早く買わないと友達が来ちまうからな。
美弥と選んでると父さんが「俺も買い物があったんだ」って言いながら消えてしまった。
まったく何をしに来たんだ、あのオヤジは!!

で、茶色い皮のブランド物パスケース1万円を買って、車の前で父さんを待った。
すぐに戻ってきた父さんは嬉々として黄色いビニール袋をトランクに入れて、楽しそうに「じゃあ帰ろう!」つって車に乗った。

 

 

打ち上げ&クリスマス会は盛況に終わり(そんなもの詳しく聞きたくないだろ、お姉様たちは)夜9時に父さんとオレで女子を車に乗っけて家まで送ってやった。
帰ったら母さんと美弥がオレの小さい頃の写真をみんなに見せて大笑いしてた。
だっておもらしして泣いてるやつとか、初めておまるに座ったやつとか、なんでかわかんないけどタマネギの箱の脇で寝てるやつとか、そんなのばっかしなんだもん。

つーかね、オレの写真はそんなのしかないわけ。
可愛い写真てのは1割あればいいほう。よく考えてもみろよ。この両親がまともな写真を撮って喜ぶわけがない!
「笑いを取れる写真しか認めない!」って公言するよーな親なんだ。

「あはははは!高耶ってバカだな〜!!」
「うるせえな!」
「可哀想になぁ、高耶!おまえ、彼女が家に遊びに来たらこの写真隠せよな!」

もう遅いよ。直江が見ちまってんだよ。
直江は笑いを堪えてた。そりゃもういつ噴出しても可笑しくないぐらい肩を震わせて、だ!!

その後は父さんが出してきたビールやら缶チューハイやらを飲まされて(飲まされたんだぞ)みんな酔っ払って12時前には寝た。

 

 

翌日。
友達は午後になってからもしばらくいたけど、みんな3時には帰った。
で、オレは直江にご馳走を作るために午後4時には家に戻ることに。
父さんに車で送ってもらって帰宅だ。

「高耶。これを義明くんに渡しておいてくれ。父さんからのクリスマスプレゼントだってな」
「へ〜。気が利くじゃん」

ドン・キ・ホーテの袋に入ったそれを持たされて家に入った。

「ただいま〜」
「おかえりなさい!!」

直江は飼い主が帰ってきた犬みたいに喜び勇んで玄関に出てきて、迫力にビビるオレを抱きしめてチューをした。

「待ってたんですよ!寂しいクリスマスイブでした!」
「ごめん、ごめん」

昨日はメールも電話も一切するなって言っておいたから、そのぶんも寂しかったんだろう。
顔中に喜びの色を湛えてギューギューに抱きしめる。

「今からクリスマスのご馳走を作るんだけど、直江も一緒にやる?」
「もちろんです!ケーキは午前中に取りに行きましたし、シャンパンも冷えてますし、あとはお料理だけですね!」

うーん、やっぱ直江が喜んでくれるのがオレにとっては一番嬉しいことかも。

「じゃ、作ろうか」

料理本を見ながらチキンの丸焼きの下ごしらえ。
塩と胡椒で味付けをしてから香草を腹に詰め、紐で縛って温めたオーブンへ。以外に簡単だ。
それからサラダとスープを作った。フランスパンを直江に切ってもらってそっちはトースターへ。

完成したのは午後7時。ちょうどオレも直江も腹減ってるころだった。
ドンペリとお子様用シャンパンを出した直江にお願いを。

「オレもドンペリ飲みたい」
「あなた未成年でしょう?」
「じゃあ直江は一人でドンペリかよ。ずるい……夫婦なのに……」

この「夫婦」って言葉に直江は弱い。それをわかってて言ってみる。

「夫婦はいつも同じものを食うんじゃないのか?」
「う……そうですね……じゃあ、内緒ですよ?高耶さんにお酒を飲ませたなんて学校やご両親にバレたら退学で免職ですから」
「やった♪」

ベネチアングラスで出来たシャンパングラスに注いで乾杯だ。
結婚して初めてのクリスマス。キャンドルを灯して、テーブルを花で飾って、やっぱ新婚はこうでなきゃな!

「幸せですねぇ」
「幸せだなぁ」

オレが作った完璧じゃないご馳走に、最高級のピンクのドンペリ。
だけど直江は美味しいですって言ってたくさん食ってくれた。ちょー幸せだ。

「あ!そうだ!直江にクリスマスプレゼントがあったんだ!」
「本当に?そんなことまで?」
「待ってろ!」

カバンからプレゼントを取り出した時に、父さんからのもあったんだっけな、と思って一緒に持った。

「はい、直江!メリークリスマス!」
「ありがとうございます!!」

さっそく包みを開けた直江。
パスケースを見て嬉しそうにしてる。

「毎日使えますね。いつも高耶さんに触れていられるようで……。ありがとう」
「だろ?」
「じゃあ私からも」

直江が出してきたのはなんとも嬉しくないプレゼント。さすが先生だ。
重くてでかいから何かと思って開けたら参考書セットだった。

「これって……」
「もう少し成績が上がるようにね。2と3ばっかりでしたからね」
「ぐ……」

ひどい!奥さんに渡すプレゼントがこんなものだとは!!
泣きそうになったとたんにフォローが入った。

「冗談ですよ、冗談!外にあります!」
「外?」

庭を指差してカーテンを開けた直江の向こうにあったのは自転車だった。

「通学のためにね。前に欲しいって言ってたでしょう?」

今まで使ってたママチャリじゃなくて、ブリジストンのスポーツタイプ。オレが欲しがってたやつ!

「直江〜〜!!」
「気に入りましたか?」
「うん!!ありがとう!やっぱ大好き!」

直江に飛びついてチューしてから庭に出て自転車を触った。
この細めのタイヤ!クネンとしたハンドル!小さいサドル!銀色のボディ!そしてこの機能性を重視したフォルム!!

「すっげー!!最高!!」
「でも事故にはじゅうぶん気をつけてくださいよ?」
「わかってる!直江って最高の旦那さんだな!」
「……高耶さん!」

庭でチューされそうになったからハッと気付いて拒否。

「庭じゃダメだってば」
「あ、そうですね。じゃあ早く!」

リビングに戻ってソッコーでチューされた。まだ食ってる途中なのにお尻を撫でてきたからメッ!てしてまた食卓に。

「おまえはすぐそれだ」
「すいません……」

本当はいいんだけど、まだ満腹してないからダメなだけ。今夜は解禁にしてやらなきゃな。

「それで高耶さん、そっちの袋はなんですか?」
「あ、これは父さんから直江にだって」

その袋を開けた直江はニヤリと笑ってすぐに袋をまた閉じた。

「なんだったの?」
「あとで見せてあげますよ。さあ、早く食べてケーキを出しましょう。今夜は多少酔ってもいいですからね。ドンペリも全部開けちゃいましょう」

急に直江の態度が変わった。なんだろう?父さん、何をあげたんだろう?
ま、いいか。あとで見せてくれるってことだったし。

「直江、ありがとう。プレゼントもそうだけど、オレとこうして過ごしてくれて、ありがとう」
「こちらこそ。あなたと結婚できて良かったですよ。こんなにたくさんしてくれて」
「これからは毎年、直江のためにクリスマスは空けておくから」
「はい」

 

 

そんなわけで楽しいクリスマスを過ごしたオレと直江。
ところが、この夜に待っていたのは直江の本能だったのだ。
つーわけで裏に続くぞ!!実はそっちが本編だ!!ここまでは序章だ!!待ってろ!!

 

END

 

 
   

あとがき

本当に裏に続きます。
裏の入り口を探して
読んでください。
つまらないクリスマスノベルですね、
コレ。


   
         
       
         
   
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