高耶さんは17歳 |
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先月のバレンタインに直江は50個以上のチョコをもらって帰ってきた。 そりゃ旦那さんがモテるのは誇らしい。 そんなわけで『高耶のホワイトデー作戦』は始まったのだった!
ホワイトデーの約一週間前の日曜日。 「どうしたんですか?」 どうもこうもオレには作戦があるのだ。それにはまずは直江に気分良くいてもらわないといけない。 「どうもしないよ。直江が好きで好きでどーしょもないだけ」 う、するどい。 「なんですか?買ってあげますよ」 ジャスコならオレが欲しいもの全部揃う。 「ジャスコ?」 さっそく直江の愛車ウィンダムでジャスコへゴーだ。 「ジャスコで買えるものが欲しいなんて珍しいですね。いつもはわざわざ原宿に服買いに行ったりしてるのに」 直江に何が欲しいのかって何度も聞かれたけど、教えてやらなかった。 ジャスコに着いてオレたちはさっそく食料品コーナーへ。 「これこれ〜。たくさんあるな〜。よしよし」 ドサドサとカートに放り込んだいくつもの袋は小麦粉だった。薄力粉も。 「どうするんです、こんなに」 直江の頭の中は今頃????ってマークでいっぱいだろう。 「部活で使うんですか?」 それから行ったのは……。 「お菓子を作るんですか?」 お菓子の用品コーナーだった。 「お菓子を作るにしてもこんなにたくさん……いったい何人分作るんですか?部活じゃないんでしょう?」 直江の顔色が少し変わって血の気が引いた。 「フ。いい勘してるじゃねーか。そうだ。オレがおまえのバレンタインのお返しを作るんだ」 ヨロッとなった直江は棚にぶつかってラッピング用の袋をいくつか落とした。 「……本当に作るんですか?」 なんだか諦めたみたいな旦那さんはカートの中のものを改めて見てから、オレの顔をまじまじと見た。 「無理じゃねえ。絶対作る。作るったら作る」 よし!直江の了解も得たことだ!
とりあえず、家に帰ってからすぐに練習してみた。 「おいしい?」 そーだろ、そーだろ! 「なあ、これなら誰に渡しても恥ずかしくないかな?」 直江はニッコリ笑ってオレの頭を撫でた。 「高耶さん、このクッキーでオヤツにしましょうか。コーヒー作ってくださいな」 オレが慎重にコーヒーを作ってる間、直江は書斎でやることがあるから済ませるつって出て行った。コーヒーを作ってリビングのテーブルに置いたら、電話台の上にあった親機のランプが赤く光ってた。 「なんだろ……?」 だけど待っても待っても直江は来ない。 「そうですか……やっぱりキャンセル出来ませんか……」 直江が誰かと喋ってるのがドア越しに聞こえた。 「いえ、そういうことではなく……高耶さんが」 何?オレが? 「それで困ってるんですよ。正直に?そんなこと正直に言ったら怒られます。やはりコッソリやるしか……」 コッソリ何するんだ!誰とコッソリ話してるんだ! 「バレたら怖いですから学校に持ってきてもらえますかね?すいません、お願いします」 こ、こ、怖いって、オレが?! 「直江っ!」 驚いた直江は子機の通話ボタンを慌てて切って、おでこに汗を浮かべて誤魔化し笑いをした。 「何がコッソリなんだ!オレに何を隠してるんだ!夫婦なんだから隠し事はなしだぞ!」 アワアワしながら直江は違うんです、そうじゃないんです、聞いてくださいってオレの肩を揺さぶった。 「……言え」 くくくく、くっきいだ〜?! 「でもあの高耶さん!それは生徒へのお返しには含まれてませんから!生徒の分は返さないことにしたんで、その分のクッキーを作ってもらえれば!」 オレはバレンタインのチョコの数を数えておいた。言っておくけどいじめようとか、嫌がらせしようとかじゃなくて、奥さんとして旦那さんのお返しのことを考えてだ。 「その22人には奥さんお手製のクッキーは渡らないってことか……さては生徒以外の女には奥さんはいませんよってアピールするつもりなんだな……」 直江は優しい旦那さんなんだけど、ちょっとムカつくんだ。 「わかったな?セットについてくるクッキーはそのままでもいい。だけど直江。『橘先生の奥さん』からのクッキーもしっかり渡せ」 そーゆーわけで直江はホワイトデーには奥さんお手製クッキーを持って学校に行くことになった。
そのホワイトデー当日。オレは職員室に行った。 「山本先生〜」 直江を狙ってる女教師の代表、山本先生のとこへ。用事はないけど授業でわからないことがあるからって名目で。 「あ、このクッキーうまそうじゃん。どしたの?」 落胆しながら答えてくれた。 「そっかー。橘先生の婚約者か〜。って、ことは奥さんみたいなもんだよな?」 遠い目をしてなんとなく「振られたのね、あたし」みたいな表情をしてる。
ちょっと遅めに帰ってきた旦那さんが開口一発言ったのはこれだった。 「職員室にまで来なくていいじゃないですか〜!」 直江はオレが山本先生と話してる間じゅうずっと気が気じゃなかったらしい。 「山本先生だけじゃないから。他の生徒や先生のとこにもな。それに喫茶店にも行ったし、商店街の肉屋とパン屋と八百屋と花屋とケーキ屋にも行った。あとバス停のそばのコンビニにも行った」 大きな溜息をついて直江がオレの目の前に立った。 「心配しなくても私はあなただけのものですから」 う、ヤバイ。ちょー嬉しい。しかもちょーかっこいい。 「とにかくこれでホワイトデーの話は終わりにしてください。高耶さんだけ、愛してますよ」 チューされてギュウって抱かれていい気分。 「あ!!」 本物のバレンタインチョコは自分で食ったけど、部活で作ったチョコケーキを直江にあげたんだ、オレは。 「もしかして……」 ビクっとしたけどすぐに持ち直して待っててくださいねってつってリビングから出て行った。 「お待たせしました。どうぞ」 もらったのは小さな箱。リボンを解いて開けてみるとちょっと大人っぽい高価なシャープペンが入ってた。 「うわ、かっこいい!」 でも嬉しかったのは確かで、オレはさっそく翌日からそのシャープペンを使い出した。 ところが、直江の部屋を掃除してた日に発見したのだ。アレとアレを。机の引き出しに入ってた。 「直江〜!!」 オレは黙ってその2品を突き出した。 「……きっ、気のせいですよ!気のせい!」 どうだ!エロ教師にはつらい罰だろうが! 「そんなにガマンできません!」 だけどオレは結果的に1週間で許してやった。 直江。これからも恐妻家……じゃなくて愛妻家の橘先生でいてくれよ!
END
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あとがき |
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