高耶さんは17歳 |
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受験生のオレたちは3学年になってすぐに修学旅行がある。 「二冊配ったものの一冊は保護者の方に渡してください。一冊はみなさんのぶんです。ではこれから説明を始めますのでよく聞いてくださいね」 担任教師の橘先生でもあり、オレの旦那さんの直江が修学旅行についての説明を始めた。 「ではみなさんで部屋決めと、新幹線およびバスの席決めをしてください」 部屋は最初に作った班と合わせて決めなきゃいけないから、オレは同じ班の譲と一緒に2人部屋になった。 「高耶、早く決めちゃおうよ」 オレがチラッと先生の方を見たら。 「……そーゆーことか……わかったよ……」 これで気付いてくれたらしい。友達の中じゃ譲だけがオレと先生の関係を知ってるんだ。
日曜日。オレと直江は実家に寄ってしおりを渡して、父さんから修学旅行用の小遣いを貰い、保険証のコピーを受け取ってからジャスコに買い物しに行った。 自由行動は直江と一緒に観光できたらいいな〜。 「高耶さん?」 一通りの買い物を済ましてウッキウキ。 「こんなものですね。あとは夕飯の買い物ですね」 準備は万端、あとは修学旅行へレッツラゴーするだけだ!
修学旅行前日は「しばらくできませんからね」つって直江と夕方からエッチした。 移動のバスは残念ながら通路を隔てた席だったけど、ずっと見つめさせてもらった。譲が呆れるほどに。 「高耶っ、あんまり先生のこと見てたらバレちゃうよっ」 ヒソヒソやってたら直江が身を乗り出してオレに話しかけた。 「浮かれすぎです」 がーん!優しい旦那様の直江がそんなこと言うなんて〜! 「ちょっとは自制してくださいよ?」 そら見たことかと譲は鼻で溜息をつく。直江も眉間にシワを寄せてオレを睨む。 「わかりましたか、仰木くん?」 膨れっ面して黙り込んだら携帯にメールが来た。 『あとでたくさんキスしてあげますから、みんなの前ではいつも通りにしていてください』 「マジかよ!やった!」 修学旅行でチュー! 「むは〜!」 さっそく直江にメール返信! 『絶対チューしろよな!愛してるぞ、直江!』 送信したらすぐに直江の携帯にメールが入ったらしくて、それを読んだ直江はチラッとオレを見た。
京都の寺なんぞに興味ないオレは引率の直江の歴史ウンチクなんか全然聞いてなかった。 どこでチューをしてもらえるのか!そればっかり考えてた。 ところがその日は一回もナシ! 「消灯時間です。点呼しますから開けてください」 直江が来た。だけど点呼だ。 「譲、出て」 譲がドアを開けると何やらボソボソ喋ってる。どうせオレが愚痴ばっか言ってるのを言いつけてるに違いない。 「高耶さん」 なんで点呼なのに「仰木くん」て言わないのかなって思ったら、譲がいなかった。 「あれ?譲は?」 ゆっくりとオレの座ってるベッドまで来ると、かがんでキスしてきた。 「ん」 う〜、やっぱ最高の旦那さんだ〜!
それで翌日。 だけどオレは見てしまった。 けど!けど〜ぉ!! 「なっ……!橘先生!!」 オレの顔は笑ってるけど、目は怒りの炎が燃えてる。ついでに鬼のツノも出てる。 「うん、そーしよう!先生!」 助け舟が出たがこれに関してもオレは歓迎できない。だってその助け舟には女子高生が乗ってるんだから! 「そーしよ、先生。みんなこう言ってるんだしさ」 新しい助け舟は航空母艦なみに頼りがいのある橘学級のエース、空母・譲。 「そうですね……じゃあ、そうしましょうか。山本先生」 なんだ?ちょー不服そーじゃねえか、山本。 「行きましょうか。仰木くんの班はこれからどこへ行くんでしたっけ?」 行き先にもまったく興味がないオレに直江はしかめっ面。だって本当に興味ないし! 「たっぷりと本能寺について講釈しますから、みなさんそのつもりで。特に仰木くんはね」 そーきたか。 本能寺では橘先生の歴史講釈が20分も続いた。 このうららかな春の日に、直江と寄り添いながら京都の石畳を歩くオレ……。 『高耶さん、この街は不思議ですね……あなたがとても大人っぽく見える……』 なんつってなんつってなんつってー!! 「聞いてましたか、仰木くん」 え?!もう終わり?! 「集合に遅れないように」 そんなあ!どうしてそんなに冷たいんだよ!
夕方にホテルに戻って、部屋でテレビを見てたら譲がオヤツを買いに行くつって売店へ行った。 オレは直江といたいけど、それは今日わかったとおり無理な話で、譲と二人で市内を散策することにしたんだ。 「高耶」 そりゃそうだ。 「忙しいに決まってるだろ。修学旅行なんだぞ?これだけの人数を引率してるんだから忙しいってことぐらいわかるよな?」 パーッとオヤツねえ……。 その日は夕飯と点呼で直江の姿を見ただけで、メールも電話も会話もなく終わった。
ところが自由行動の日、直江とばったり鉢合わせした。 「直江……」 どこへ?とも言わせないイキオイでなんでか譲も一緒に連れて行かれたのはレンタカーショップ。 「へ?なに?なんでレンタカー?」 昨日、譲がオヤツを買いに行った時、直江のとこに行って明日の自由行動は一緒にって言ってくれたそうだ。 「どこに行くんだ?」 かわらけってのは簡単な素焼きの皿みたいなもんで、それを神護寺の谷に投げると厄除けになるってことだ。 「私とあなたの間に災厄がないように」 嬉しくて車の中で抱きついたら頭を撫でてくれた。すっかり譲の存在を忘れて。 「先生、あんまり時間ないんだから、早く行こうよ」 でも直江はニッコニコだ。オレも。 「ついでって言ったらなんだけど、今夜オレ、男子の大部屋に泊まりに行くことになってるんだ。だから二人でテキトーにやってていいからね」 んで、その夜12時過ぎ。 「大丈夫なのか?」 チューして抱き合ってたくさん甘えて、そのうち直江もオレもムラムラモンモンしてきたからエッチもして、明け方に直江の携帯のアラームが鳴り出すまで腕枕で眠って、修学旅行の最終日になった。 新幹線は行きと同じ3人席に譲、オレ、直江の順番で座ってたから、駅に着くまでずっと直江に寄りかかって寝てた。直江もオレに寄りかかって、仲良し夫婦みたいに(いや、実際仲良し夫婦なんだけど)寝た。 駅で解散してから電車で譲と家に帰った。直江はまだ学校で反省会があるそうだ。
修学旅行が終わってから数日後。女子どもがオレを見てクスクス笑ってるからなんだろうと思って、聞いてみた。 「なんだこりゃ!」 その写真は帰りの新幹線でオレと直江が寄りかかり合いながら寝てる写真だった。 ……オレも欲しい!! 「あんたって意外にモテるのよ。半分は先生目当て、半分は仰木くん目当てで欲しいっていう子なんだって」 直江の寝姿を他人に見られるのは不本意だけど、この写真は新婚さん風味盛りだくさんでいい感じだ!
そんな涙(?)と笑い(?)の修学旅行。 「次の京都は二人きりで行きましょうね。もっといいホテルを予約して、もっと美味しい食事をして、もっとロマンチックなキスをして……ね?」 旦那さんは先生だけど、オレと二人きりの時はオレだけの旦那さんだ。
END
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あとがき |
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