高耶さんは17歳


第17話  修学旅行とオレ

 
         
 

受験生のオレたちは3学年になってすぐに修学旅行がある。
京都に3泊4日。
修学旅行を控えた4月の前半のホームルーム、教室で修学旅行のしおりが配られた。

「二冊配ったものの一冊は保護者の方に渡してください。一冊はみなさんのぶんです。ではこれから説明を始めますのでよく聞いてくださいね」

担任教師の橘先生でもあり、オレの旦那さんの直江が修学旅行についての説明を始めた。
泊まるところはホテルで、2人部屋か4人部屋か、それに男子は大部屋が加わる。
コースは一日目が新幹線移動と市内の寺見学、2日目も似たような寺見学と班でのコース行動がある。
3日目は完全な自由行動。
4日目は午前中に太秦見学をしてから午後イチで帰る。
以上だ。

「ではみなさんで部屋決めと、新幹線およびバスの席決めをしてください」

部屋は最初に作った班と合わせて決めなきゃいけないから、オレは同じ班の譲と一緒に2人部屋になった。
だけどバスや新幹線だけはそーはいかない!!

「高耶、早く決めちゃおうよ」
「あ〜、その……」
「なに?」

オレがチラッと先生の方を見たら。

「……そーゆーことか……わかったよ……」

これで気付いてくれたらしい。友達の中じゃ譲だけがオレと先生の関係を知ってるんだ。
新幹線でもバスでも、オレと譲は橘先生のすぐそばの席に決定した。
女子が狙ってた席だけど、オレが強引にそこの席にしちゃったんだ。しかも新幹線は3人席の方だから、オレの隣りに直江。
く〜、たまんねえ!楽しみすぎる!

 

 

日曜日。オレと直江は実家に寄ってしおりを渡して、父さんから修学旅行用の小遣いを貰い、保険証のコピーを受け取ってからジャスコに買い物しに行った。
買ったものはパジャマと新しい下着と歯磨きセットと入浴セット。下着以外は直江と色違いにした。
色違いだけどペアってとこが新婚風味でいいだろ?

自由行動は直江と一緒に観光できたらいいな〜。
昼飯とかも一緒に食えたらいいな〜。
縁結びの寺に行ったらペアのお守りも買うんだ〜。

「高耶さん?」
「えっへっへ〜」
「学校で行くんですからね、気を引き締めて、夫婦だってバレないようにしなきゃダメですよ?」
「うん、わかってるって!」

一通りの買い物を済ましてウッキウキ。

「こんなものですね。あとは夕飯の買い物ですね」
「だな。レッツ生鮮売り場!」

準備は万端、あとは修学旅行へレッツラゴーするだけだ!

 

 

修学旅行前日は「しばらくできませんからね」つって直江と夕方からエッチした。
そのせいで翌日の出発はダルかったけど、新幹線の中では寝て過ごせたから良かった。
しかも隣りの席の直江によりかかって、だ!どうだ、女ども!ザマアミロ!

移動のバスは残念ながら通路を隔てた席だったけど、ずっと見つめさせてもらった。譲が呆れるほどに。

「高耶っ、あんまり先生のこと見てたらバレちゃうよっ」
「大丈夫だって!誰もオレと直江がそんな関係だって知らないんだから」

ヒソヒソやってたら直江が身を乗り出してオレに話しかけた。

「浮かれすぎです」

がーん!優しい旦那様の直江がそんなこと言うなんて〜!

「ちょっとは自制してくださいよ?」
「うぐ〜」

そら見たことかと譲は鼻で溜息をつく。直江も眉間にシワを寄せてオレを睨む。

「わかりましたか、仰木くん?」
「は〜い……」

膨れっ面して黙り込んだら携帯にメールが来た。

『あとでたくさんキスしてあげますから、みんなの前ではいつも通りにしていてください』

「マジかよ!やった!」

修学旅行でチュー!
これはよく青春マンガだとかドラマとかで起こる展開じゃねーか!
しっとりした京都の夕焼けを見つめながら愛する二人はしだいに寄り添い愛の言葉を交わし、そんで、そんで……。

「むは〜!」
「た、高耶?!」
「修学旅行サイコー!」

さっそく直江にメール返信!

『絶対チューしろよな!愛してるぞ、直江!』

送信したらすぐに直江の携帯にメールが入ったらしくて、それを読んだ直江はチラッとオレを見た。
ああもう!どこでチューできるんだろ!どのぐらいできるんだろ!早くしたい〜!!

 

 

京都の寺なんぞに興味ないオレは引率の直江の歴史ウンチクなんか全然聞いてなかった。
顔さえ見ていられれば幸せ〜、みたいな感じで?
だけどそんな小さな幸せよりも、もっと大きな幸せが欲しいわけ。

どこでチューをしてもらえるのか!そればっかり考えてた。

ところがその日は一回もナシ!
しかも直江はいつもよりオレを生徒扱いでまったく相手にしてくれない。
ふて腐れてお揃いのパジャマに着替えて、部屋の中で譲に愚痴ってたらドアがノックされた。

「消灯時間です。点呼しますから開けてください」

直江が来た。だけど点呼だ。

「譲、出て」
「まったくもう。先生だって都合ってもんがあるんだからしょうがないだろ。それに修学旅行中はあくまでも学校の課外授業なんだから、生徒と先生の枠は超えたらいけないの」
「ふん」

譲がドアを開けると何やらボソボソ喋ってる。どうせオレが愚痴ばっか言ってるのを言いつけてるに違いない。

「高耶さん」
「はーい……って、あれ?」

なんで点呼なのに「仰木くん」て言わないのかなって思ったら、譲がいなかった。

「あれ?譲は?」
「他の生徒の部屋に行くって言ってましたよ」
「おまえ、先生なのにそーゆーの見逃していいのかよ!」
「いいんですよ。あなたとキスするためなら」
「え」

ゆっくりとオレの座ってるベッドまで来ると、かがんでキスしてきた。

「ん」
「この後10時半から就寝前のミーティングがあるんです。それまでキスしましょう?」
「うん……」

う〜、やっぱ最高の旦那さんだ〜!

 

 

それで翌日。
班でのコース行動の前に譲が直江のとこにコース確認をしに行った。
コース行動だから直江との接触はほとんどなし。先生たちは3時間の行動中、生徒を見守るために巡回する。

だけどオレは見てしまった。
直江が山本先生と歩いてるとこを!
そりゃ巡回だから山本先生と二人組みを組まされてもしょうがない。事前に聞かされてもいたし。

けど!けど〜ぉ!!

「なっ……!橘先生!!」
「お、仰木くん……」
「先生、これからどこ行くの?!オレたちのコースにちょっとだけ参加しねえ?」
「いえその……」

オレの顔は笑ってるけど、目は怒りの炎が燃えてる。ついでに鬼のツノも出てる。
くっそー。山本のババア!直江よりも年上のくせにデレデレとくっついて歩きやがって〜!
直江が愛してるのはラブリーでキュートでシャワーの水を肌が弾くほどピッチピチな男子高校生のこの高耶さんだ!
許すまじ……。

「うん、そーしよう!先生!」

助け舟が出たがこれに関してもオレは歓迎できない。だってその助け舟には女子高生が乗ってるんだから!

「そーしよ、先生。みんなこう言ってるんだしさ」

新しい助け舟は航空母艦なみに頼りがいのある橘学級のエース、空母・譲。

「そうですね……じゃあ、そうしましょうか。山本先生」
「え、ええ」

なんだ?ちょー不服そーじゃねえか、山本。
オレの直江を独り占めしよーってのが間違ってんだよ。
一回直江とデートしたからっていい気になるんじゃねえ。
オレなんか数え切れないほどデートしてるし、チューもしてるし、エッチもしてるんだぞ。
しかもオレは直江の奥さんなんだぞ。

「行きましょうか。仰木くんの班はこれからどこへ行くんでしたっけ?」
「えーと、えーと」
「本能寺だろ、高耶」
「そうそう、ほんのーじ!」

行き先にもまったく興味がないオレに直江はしかめっ面。だって本当に興味ないし!

「たっぷりと本能寺について講釈しますから、みなさんそのつもりで。特に仰木くんはね」
「……はーい」

そーきたか。

本能寺では橘先生の歴史講釈が20分も続いた。
直江の話だから楽しいとは思うんだけど、二人っきりだったらもっと楽しかったのにな〜とも思う。

このうららかな春の日に、直江と寄り添いながら京都の石畳を歩くオレ……。

『高耶さん、この街は不思議ですね……あなたがとても大人っぽく見える……』
『直江だって街並みに溶け合ってて大人の男って感じで……かっこいい』
『おだてだって何もでませんよ?』
『何もいらないよ。オレはこうして直江の隣りにいたいだけ……』

なんつってなんつってなんつってー!!

「聞いてましたか、仰木くん」
「へ?あ、えっへっへ〜」
「では私と山本先生は巡回に戻りますね。みなさん気をつけて行動してくださいね」

え?!もう終わり?!

「集合に遅れないように」
「は〜い」

そんなあ!どうしてそんなに冷たいんだよ!
昨日はチューしに来てくれたじゃんか!ギュウって抱きしめてくれたじゃんか〜!
なのにぃ!
うわ〜ん、どうして直江は先生なんだー!!

 

 

夕方にホテルに戻って、部屋でテレビを見てたら譲がオヤツを買いに行くつって売店へ行った。
時間がかかっただけにたくさん買ってきた譲はそのオヤツをオレに食わせながら、明日の自由行動はどうしようかと話を持ちかけてきた。

オレは直江といたいけど、それは今日わかったとおり無理な話で、譲と二人で市内を散策することにしたんだ。
その行き先は全部譲が決めた。譲は橘学級のエースなだけあって歴史も大好きな優等生だからだ。
それにオレは今日の直江の冷たさに半分、自分が高校生で直江が先生って壁のせい半分あって落ち込んでたからどこに行きたいとか考えられずにいた。

「高耶」
「んん?」
「橘先生だって大変なんだからさ、わかってあげなよ」
「わかってるけどさ〜。だからってどうしてよりにもよって山本先生と一緒なんだよ〜」
「しょうがないじゃん、先生なんだもん」

そりゃそうだ。
だけど直江は冷たかったし、メールもくれないし。

「忙しいに決まってるだろ。修学旅行なんだぞ?これだけの人数を引率してるんだから忙しいってことぐらいわかるよな?」
「うん……」
「じゃあもうそんないじけてないで、パーッとオヤツ食って忘れろ!」

パーッとオヤツねえ……。

その日は夕飯と点呼で直江の姿を見ただけで、メールも電話も会話もなく終わった。
なんか寂しくて眠れなかった。

 

 

ところが自由行動の日、直江とばったり鉢合わせした。
お昼ご飯を食べてからフラフラしてたら大通りでバッタリと。直江は一人で歩いてた。

「直江……」
「行きましょうか」
「へ?」
「行きましょう」

どこへ?とも言わせないイキオイでなんでか譲も一緒に連れて行かれたのはレンタカーショップ。

「へ?なに?なんでレンタカー?」
「見学ですよ。ね、成田くん?」
「そう!」

昨日、譲がオヤツを買いに行った時、直江のとこに行って明日の自由行動は一緒にって言ってくれたそうだ。
それで直江は一人で巡回の先生と交代してもらって、譲と示し合わせてオレと会えるような算段を組んだ。

「どこに行くんだ?」
「神護寺です。ふたりでかわらけを投げたいんですよ」

かわらけってのは簡単な素焼きの皿みたいなもんで、それを神護寺の谷に投げると厄除けになるってことだ。
それを、オレと?

「私とあなたの間に災厄がないように」
「……う〜!直江〜!!」

嬉しくて車の中で抱きついたら頭を撫でてくれた。すっかり譲の存在を忘れて。

「先生、あんまり時間ないんだから、早く行こうよ」
「ああ、そうですね」
「それといくら新婚でも俺の前でそーいうことしないでよね」
「すいません」

でも直江はニッコニコだ。オレも。
そんで神護寺へ行って二人とも同じ願いをこめてかわらけを投げた。
直江がいつも元気でオレを愛してくれますように。

「ついでって言ったらなんだけど、今夜オレ、男子の大部屋に泊まりに行くことになってるんだ。だから二人でテキトーにやってていいからね」
「成田くん……」
「いい生徒でしょ?」
「……いい生徒と言うか、なんというか……」
「サンキュー!譲!テキトーにやっとく!」
「もう高耶の長ったらしい愚痴を聞きたくないだけだよ」

んで、その夜12時過ぎ。
直江はコッソリとオレの部屋に来た。
同室の先生にお酒をたくさん飲ませて酔わせて、ガーガーいびきをかいて眠り出すまで待ってから来たんだって。

「大丈夫なのか?」
「ええ。あれなら朝まで起きません。明け方に戻りますから、それまで一緒にいましょうね」
「うん!」

チューして抱き合ってたくさん甘えて、そのうち直江もオレもムラムラモンモンしてきたからエッチもして、明け方に直江の携帯のアラームが鳴り出すまで腕枕で眠って、修学旅行の最終日になった。
すんごく眠かったけど、オレも直江も帰りの新幹線まで頑張って起きてた。
たくさんアクビは出たけどな。

新幹線は行きと同じ3人席に譲、オレ、直江の順番で座ってたから、駅に着くまでずっと直江に寄りかかって寝てた。直江もオレに寄りかかって、仲良し夫婦みたいに(いや、実際仲良し夫婦なんだけど)寝た。

駅で解散してから電車で譲と家に帰った。直江はまだ学校で反省会があるそうだ。
今日の夕飯は疲れたから作りたくないってメールしたら、帰りにお寿司を買ってきてくれるって。
オレの大好物の寿司!バンザイ!

 

 

 

修学旅行が終わってから数日後。女子どもがオレを見てクスクス笑ってるからなんだろうと思って、聞いてみた。
最初は内緒よ〜なんて言われたけど、森野が教えてくれた。
譲と3人で日曜日に遊園地のセッティングしてくれるならって交換条件で。
そんでマックに寄り道した際に森野が出したものは、一枚の写真だった。

「なんだこりゃ!」
「成田くんが焼き増ししてくれたの。ね?先生の珍しい寝姿、いいでしょ?あんたも可愛いとこあんのね〜」

その写真は帰りの新幹線でオレと直江が寄りかかり合いながら寝てる写真だった。
これを譲が女子に頼まれまくって数十枚ほど焼き増ししたらしい。
デジカメで撮ってプリントアウトするだけだから何十枚も配れたそうだが……。

……オレも欲しい!!

「あんたって意外にモテるのよ。半分は先生目当て、半分は仰木くん目当てで欲しいっていう子なんだって」

直江の寝姿を他人に見られるのは不本意だけど、この写真は新婚さん風味盛りだくさんでいい感じだ!
欲しい欲しい欲しい欲しい〜!!
修学旅行で直江と写真撮ったのは集合写真だけだもん!
これが欲しい〜!!
譲にデータごと貰わなきゃ〜!!

 

そんな涙(?)と笑い(?)の修学旅行。
リビングに一個増えたフォトスタンド。

「次の京都は二人きりで行きましょうね。もっといいホテルを予約して、もっと美味しい食事をして、もっとロマンチックなキスをして……ね?」
「うん!直江、大好き!!」

旦那さんは先生だけど、オレと二人きりの時はオレだけの旦那さんだ。
直江と結婚してマジで良かった!!

 

 

END

 

 
   

あとがき

今になってから行きたくなる
修学旅行。
ああ、楽しかった修学旅行。
直江、そんなことして
いいのか。

   
         
       
         
   
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