高耶さんは17歳 |
||||
ある日、オレと直江は並んで座ってテレビを見ていた。 『結婚相手の男性に求めるものは?』 こんな質問だ。 「上位三位って全部直江に当てはまるな〜」 そんでチューしてイチャイチャして。 「ところで」 直江は真剣な顔をしてオレを見た。 「それはオレの方が男らしいじゃん」 確かにそうだろ?成績悪くったって悩まないし、言いたいことは言うし、直江よりずーっと男らしいと思うわけ。 「甘ったれで泣き虫なのに?」 ケンカになりそうになったけど、バカバカしいからしなかった。
ところが翌日、これを蒸し返すものが各教室に貼り出された。校内新聞だ。 その人気投票が今回の問題だ。 「うわ〜、高耶が男らしい生徒ナンバーワンになってる〜」 誰も読まないその新聞を真面目に見てた譲がオレに言った。 「マジで?!」 そうなのか?まあ確かにそのへんのヘナチョコ男子生徒とは違うと思うけど。 「すごいね、高耶!」 そんな話をしてたら帰りのホームルームのために橘先生がやってきた。 「ホームルームを始めます」 ちょっと目が据わってる。もしかして校内新聞、見たのかな……?昨日、意地になってたもんな。 「校内新聞、読みましたか?」 ヒソヒソヒソ。 「じゃあ後で」 まったく。本当は根に持ってたんだな。小さい男だぜ。
で、帰ってから夕飯の買い物をして、さてそろそろ作るかって時に直江が帰ってきた。 「ただいま、高耶さん」 ほら、こうゆうとこが男らしくないっての!言いたいことあんなら言えよ!! 直江は着替えに2階へ行ったから、オレは夕飯の支度を始めた。 「……今日もおいしそうですね」 待て。 「おい」 直江はしらばっくれてエビを口に放り込んだ。プリプリのエビは直江のためにわざわざブラックタイガーを奮発したやつなんだぞ! 「だって高耶さん、すぐにいじけるじゃないですか。弱音なんかしょっちゅう言ってますよ?」 睨み合いが続いた。今回はどうやら直江から折れるつもりはないみたいだ。 「じゃあどちらがより男らしいか勝負しましょう」 そーゆーことか。ふん、男らしさに関してはオレも直江に負けるつもりはねえぞ! そんなわけで周りの迷惑省みず、オレと直江の勝負が始まった。
「……バカらしい」 夕飯が終わってから遠くの親戚近くの他人である千秋を呼びつけて審査員を頼んだ。 「どっちとかどうでもいいじゃねえか。夫婦なんだろ?お互いに妥協しあってだなあ」 ノロケ?そんなふうに聞こえたのか? 「違うってば。マジで直江よりオレの方が男らしいって言ってんの」 千秋はハアアアアアと溜息をついてオレを見た。 「高耶だな」 深々とソファに体を預けながら、千秋は疲れた顔をどうにか正常に戻して言った。 「高耶に引越しを頼んだときのことだ。文句を言うわりにはテキパキやって頼りになった。それに俺が副顧問やってる料理部でも仰木先輩の信頼度はすげー高い。危ないことや重いものを持つこと、そういうのを一手に引き受けるのが仰木先輩のス☆テ☆キ☆なとこだって女子生徒からは大評判。以上!」 だろだろ?オレってやっぱ男らしいじゃんか! 「まずは一勝!」 喜びにひたるオレと落胆する直江を呆れて見ながら、千秋が言った。 「生まれてきて今まで、こんなにアホくさい審査をしたのは初めてだ」
「……そんなアホらしいことで俺を呼んだの?……高耶?」 学校帰りの譲を拉致して家に連れ帰った。 「決まった。先生が帰ってきたら発表して、すぐ帰る」 直江が帰ってきてリビングに来ると譲は立ち上がった。 「先生」 がーん!親友だと思ってたのに〜!! 「せめて理由を聞かせてくれ〜!!」 唖然とするオレを振り切って、親友・譲はダッシュで帰ってしまった。予備校のために。 「ふ……見てる人はちゃんと見てるってことですね」
その次は日曜日、オレの実家へ行くことになった。 そんな冷戦状態のさなか、夕飯の支度をほとんど終えたオレがリビングで休憩してた時のこと。 「ん?」 窓を閉め忘れてたかな?と思って行ってみてカーテンを開けると、そこに知らないオッサンが立ってた。 「うわ!誰だてめえ!」 ちょービックリしたけど、逃げたオッサンを追いかけようと庭用のサンダルを履いて走り出した。 「直江!そいつ覗きだ!捕まえてくれ!」 慌てて立ち上がって逃げようとしたオッサンの服を、直江が掴んで引き寄せて、一本背負いした。 ところがオッサンは寝技に持ち込んだ直江の腕からスルリと抜けて逃げて行ってしまった。 「あ!逃げた!追え!」 庭先でギュギュギューっと抱きしめられて、オレは改めて優しい旦那さんと結婚できて良かったな〜と思ったんだ。 「逃がしたのは残念でしたけど、あなたに何もなくて良かったです」 それから。 「うん。オレもやっぱ怖かったし。そーしよう?」 いつものように夕飯を食べて、さっきの話をしながらリビングでお茶を飲んでた。 「さっきの高耶さん、とっても男らしかったですよ。校内新聞で出ていたように、本当に勇ましくて」 もうオレは直江に軍配を上げようと思ってた。やっぱ直江の方が男らしいって気がしたから。 「そんなことありませんよ。やはり私なんかよりも高耶さんの方がずっと男らしいです。私の負けです」 睨み合いが続いた。
「……んで?今度は俺に何を審査させる気なんだ?」 千秋をまた呼び出して男らしさコンテストの再開だ。 「う〜、やっぱ千秋はオレか……負けた……」 千秋がキレた。 「おまえらはそうやって毎回毎回ただノロケたいがために俺様を呼び出してんのか?!こっちだって忙しいんだよ!おまえらのアホくせえコントに付き合ってるヒマはねえの!帰るぞ!!」 帰っちゃった。すっげー怒って。 「なんで怒ったんだろ?」 直江に仲直りのチューをされてご満悦。
「で?決着はついたのか?」 料理部の帰り、千秋と一緒に歩きながら校門のとこまで歩いた。 「なんの?」 そこに旦那さんが現れた。走って。きっと準備室からオレが帰るのを待ってたんだろう。 「一緒に帰りましょう」 3人で並んで通学路を歩いて帰った。途中、バス停になると千秋と直江はそっちに行ったけど。 「じゃあまたあとで。高耶さん」 そこまで黙ってた千秋が叫んだ。 「おまえらウゼえ〜〜〜〜!!!毎日毎日ケンカしてた方がマシだ〜〜〜!!!」 もうケンカなんかしないもん。
END
|
||||
あとがき |
||||
ブラウザでお戻りください |
||||