高耶さんは17歳 |
||||
初夏と言えば新緑。新緑と言えば山。山と言えばザ☆遠足だ!! ダッサいイモジャーに身を包んでゼーゼー言いながら登山でも、オレの手作り弁当を持った橘先生が「大丈夫ですか、高耶さん」なんつって手を引いてくれちゃうわけだろ!
「せんせー。バナナはオヤツに入りますか〜?」 オレの旦那さんである橘先生は今日は夕飯前にしっかり帰ってきた。明日の遠足のために早めの帰宅が許されたんだそうだ。 「弁当はオレと同じでいいよな?」 朝早くに起きて支度をするから、下ごしらえはさっきやっておいたんだ。 「お弁当、一緒に食べるんだとしたら同じメニューなのは……見られたらまずいですよね?」 困った!直江と一緒に弁当食いたい!だけど同じメニューにもしたい! 「なんでしたら私はオニギリだけでいいですよ」 話し合いの結果、直江にはオニギリ3個だけを作ることにした。 「練習しなきゃ!いや〜、母さんが多めに持たせるから〜」 そっか。それだけでいいのか。 「どうせあなたは成田くんと二人でしか行動しないんですし」 でも他の生徒や先生に直江の弁当を覗かれて、オレと同じだってのがバレるのはヤバイから、最初の計画どーり多めにおかずを持って行ったってことにするに決定した。 「あ、明日の服を出さないと。ポロシャツとカーゴパンツでいいですよね?」 直江はかっこいい服装で、ちょっとお値段お高めのトレッキングシューズを履いて行く。片や、オレはと言えば学校指定の青ジャージ。靴は普段体育で履いてる学校指定運動靴。 「高耶さん」
予想以上に登山はきつかった。ハンパじゃねえよ、山!! 「高耶、大丈夫……?」 オレが指差した方向にいたのは直江、じゃなくて橘先生に手を引かれて歩いてる女子生徒だった!! 「そりゃ女子にはこの山道はちょっときついよね」 ひーん!悔しいよー!! 「もうオレ、下山したい……」 ザクザク進む譲の後を、ヨボヨボの爺さんみたいに歩いてたオレに気付いた直江は声をかけてきた。 「仰木くん、大丈夫ですか?」 だけど手は女子生徒に繋がれたまま……ああ、オレの奥さん人生でこんなに悔しいことはない!
頂上に全員集合してから写真を撮って、それから各自お弁当タイム。大きな木の下、根っこを椅子にして座ったオレたち。もちろん直江はオレと譲を探し出して一緒に食おうと言ってきた。 「……一緒に?」 プンスカ怒ったオレは譲の前だってのに意地悪をした。苦笑いの譲と直江。 「仕方ないでしょう?体力のない女の子にはああしてやらないと登れませんよ」 自分が持ってきた弁当を開けると直江のぶんも当然入ってる。 「……オレの、食う?」 近くに女子が座り始めたからわざとらしく聞いてみた。 「母さんが、多めに、持たせちゃって!食いきれないから!」 いつもの爽やかカッコイイラブモードの笑顔で言われて、オレはついうっかり見蕩れてしまった。 「おいしいです」 直江のオトコマエさ加減にマゴマゴするだけのオレ。正反対に直江は上手に言葉を選んで奥さんの料理を誉める。 「ええっと!もっと食っていいから!」 膝の上に乗っけたちょっと大きめの弁当箱から直江がたまに唐揚げやきんぴらやきゅうりを摘む。 『直江、あーんして?』 なんつってな!!うひー!!恥ずかしいぜ、こりゃ!! 「……仰木……くん?」 おっと、いけねえ。妄想しちまった。エヘヘヘ。 直江が3個目の唐揚げを食って、オニギリも全部食い終わったところに女子が来た。うちのクラスじゃない、知らない女どもだ。 「橘先生、もうお昼ご飯終わった〜?」 直江の腕を引っ張って、連れて行こうとする女ども。オレの旦那さんに触るな〜!! 「せ、先生!」 あああああ!直江が行っちまう!!女子に連れ去られちまう!!拉致だ、拉致!! 「……あとで写真、撮ってやるから泣くな」 集合時間まで直江は戻ってこなかった。なんでかっつーと今がチャンスとばかりに直江と写真を撮ったり喋ったりしたい女子が殺到したからだ。 「たか……仰木くん、そろそろ集合時間ですよ」 直江のデジカメを譲に渡して一枚だけ撮った。山の頂上の木の下、みんなが集合場所に移動してる時、こっそりと肩を抱かれてたった1枚。
下山は直江がクラスの列の一番後ろにいたからわざとノロノロ歩いて一緒に歩いた。 「下りは女子と一緒じゃなくてもいいんだ?」 先生と手ェ繋いで歩きたいな〜。いいな〜、女子は〜。男って損だな〜。 「疲れましたか?」 耳元で囁かれてウヒャーってなって、慌てたオレは躓いて転んでしまった。 「イテテテ」 先を歩くオレのクラスの奴らも、追い越していく隣りのクラスの奴らも、みんな転んだオレをクスクス笑って通り過ぎていく。 「膝?見せてください」 ジャージを捲り上げたら膝が擦り剥けてた。しかも打ったみたいで痛かった。 「救護の先生が最後尾にいますから、待ってましょう。消毒しないと」 きつめに言われて頷いた。後から来た隣りのクラスの先生に「うちのクラスをお願いします」つって直江が残ってくれた。 「立てますか?」 立って歩くぐらいは全然平気だった。救護の先生は他にも怪我人が出るかもしれないからって先に行っちゃって、オレと直江が取り残された感じだ。 「肩、貸しますよ」 ………………そうか!!これはチャンスなのか!! 「んじゃ、手!手がいい!手ェ繋ぐ!!」 わざとジャージの膝を片方だけ撒くって、怪我をしましたアピールして直江と手を繋いだ。 「そこ、気をつけて」 このままずーっと下りが続けばいいのにな〜。富士山ぐらい高い山だったら良かったんだけどな〜。
「おう、おかえり!遠足ご苦労!」 玄関で直江を迎えて、抱きついてチューした。 「怪我はどうですか?」 ホラ、と傷がある膝を見せた。もう乾いてきてるし、消毒もしたし大丈夫だ。 「もうすぐピザ来るから、直江も風呂入って来い」 ふふふ。オレにはこの遠足の締めくくりがあるのだ!!直江に甘え足りなかった今日の遠足のシメを!! 「高耶さん、膝。絆創膏を貼りなさいって言ったでしょう?」 ハーフパンツのポケットに入れてあった絆創膏ビッグサイズを手渡した。 「橘先生は今日、ずっと女子に引っ張りまわされてたから。甘えるヒマが下山だけじゃ足りないよ」 直江の腿の上に足を投げ出して置いて、傷のある右足膝に絆創膏を貼って貰った。 「はい、終わりです。また明日も貼ってあげますね」 初夏の風が入る気持ちいいリビングで、直江とオレはテレビを見ながら喋って、ピザを食って、チューをした。 「あとで撮った写真を見ましょうね」 遠足サイコー!!毎月あればいいのに!
END
|
||||
あとがき |
||||
ブラウザでお戻りください |
||||