高耶さんは17歳


第21話  長期出張とオレ

 
         
 

もうダメだ!!
オレと直江の夫婦生活はおしまいだ!!
さようなら、直江〜〜〜!!!

 

 

「大袈裟すぎます」
「だって〜」

さっきオレが聞いたのは直江がこの家から出てくって話だ。

「出て行くわけじゃないでしょう。ただの出張でしょう」
「だって!超ロングなんだろ!」
「たったの二週間です」
「超ロングじゃんか〜!!」

そうなのだ。直江は教育委員会の研修とやらで二週間の長期出張へ行く。
研修の中身なんか知らないけど、どっかのホテルで教師数十人が集まって毎日毎日ドンチャン騒ぎ。
んでそこで即席カップルなんてのも出来ちまうわけで!!

「できませんよ、そんなの」
「だってこの前テレビの報道特集でやってたもん!!研修とは名ばかりの慰安旅行だって!!」
「本当に研修です」
「……研修はしてもドンチャン騒ぎはあるんだろうが」
「そりゃ宴会は二回ほどありますが」

ほらみろ!!そんでそこで直江はモッテモテでエロい女教師から言い寄られてうっかり……なんてことに!
酒の勢いに任せてそんなことになったりするんだ〜〜!!

「私は高耶さんの旦那さんですよ?そんな不埒は真似はしません」
「でもさ……美人でエロい女教師がいたら……浮気するかもしれないじゃん」

ソファの端っこでクッションを抱えながら半べそになって直江を睨む。
直江は反対側の端っこにもたれて呆れたみたいにジトーっと見てる。

「そんなに私は信用ないんですか」
「信用してるけどさ……魔が差すってこともあるし」

言っておくけどオレは純情高校生だ。
旦那さんに浮気されて許せるほど大人じゃない。
もしも直江が間違いでも浮気しちゃったら……たぶん校舎から飛び降り自殺だ。

「魔も差しませんし、ハメも外しません」

そうは言うけど直江はオレと結婚する前はさんざん遊んでたプレイボーイで、オレとデートしてたくせに山本先生ともデートするようなちょっと優柔不断なやつでもある。
言い寄られたら断れるのかどうか……。

「いくら高耶さんがヤダって言っても、仕事なんですから行きますよ。仕方ないでしょう」
「わかってるけどさ……」
「私は絶対に浮気はしません。それよりあなたですよ」
「オレ?」
「私がいない間に勉強も家事もしないでだらけた生活をするんじゃないですか?実家に戻って欲しいぐらいです」
「なんだと!!」

しばらくにらみ合って、直江が先に怒り出した。
フンてそっぽ向いて2階に行っちゃった。

「あー、もう!!直江のバカ!!」

こうなったら出張までの間で浮気できないようにしてやる!!覚えてろ!!

 

 

 

そこでオレが考えたのは橘学級のエース、譲の知恵を借りること。
ああ?いつもと同じじゃないかって?うっさい、オレの頭でそんなこと思いつくわけねえだろ!!

「……いい加減にしてよ、高耶。毎回毎回」
「そう冷たくしなさんな、譲さんよ〜」
「橘先生が浮気するわけないじゃん」
「もしかしてもしかしたらってことも有り得るだろうが」

譲は大きな大きなそりゃもう月まで届きそうな溜息をついて、いつものように知恵を貸してくれた。

「前に使った手でいいんじゃない?高耶が女の子からモテて、それが心配で浮気どころじゃないって感じにしちゃえば」
「そうか!そんでそんで?」
「………………その先は自分で考えたら……?」
「ゆ・ず・る〜」

今度は銀河系を突っ切りそうなほど盛大に溜息をついた。

「じゃあね、こうして」

ヒソヒソヒソ。

 

 

「どうしよう!直江!」
「どうしたんですか?」

学校から帰ってきた直江を玄関で迎えて抱きついた。

「こんなものが!」

オレが直江に見せたのは一通の白い封筒。中には譲がパソコンで作った手紙と写真が入ってる。
内容は……。

「仰木先輩へ。どうしてもガマンができなくなり、手紙を書いてしまいました。私は同じ学校の2年生です。入学した時から仰木先輩に憧れています。私なんかがお付き合いできる人ではないと知っているので告白はしませんけれど、私はいつもあなたを見守っています。先日、学校で盗み撮りしてしまったのですが、申し訳ないと思い、先輩にお渡ししたくて同封しました」

読み終わった直江は写真を見てビックリした。なんとオレが体育の授業でハミパンしてる写真だからだ。
言っておくけどこれは譲が今日の体育の授業中に携帯で撮ったヤラセ写真だ。
普段のオレは短パンなんか穿かないでジャージだも〜ん。

「……こんなもの、いつ……」
「さあ?たぶんほら、球技大会の練習があった日だと思うけど……」
「高耶さん!どうしてあれほど言ったのに短パンなんか穿いたんですか!あなたの足は私にしか見せない約束になってるじゃないですか!!」

そんな約束はした覚えない。でも直江の中ではそーゆー約束がされたことになってるんだろう。
話を合わせてやっか。

「だって……動きやすいから……」
「そ、それで、この手紙は誰に貰ったんですか?」
「うーん、わかんないんだよな。教室の机の中に入ってたから」
「許せん……」

直江はさりげなく写真を内ポケットに入れた。どうやらコレクションするつもりらしい。
が!こんなオレのパンツはみ出し写真なんかをコレクションされてたまるか!!

「ダメ!返せ!」

取り返すとあからさまにガッカリしやがった。このエロ教師め。

「なあ、こんなふうに怪しいショットを狙われてるなんて、すげー怖いんだけど」
「そうですね……2年生ですか……探りを入れてみなければ……うかうかしてる場合じゃありませんね……」

心配させる作戦大成功!!だけどまだまだ安心できない!!明日は千秋だ!!

 

 

「……で?俺様に何をしろと?」
「ウチに来てオレとイチャイチャしてくれ」
「はああああああ?!やだね!なんで男と、しかも生徒と!!」
「大家さんの離婚の危機なんだぞ!協力しねえってんならおまえのズル就職も、シスコンもバラす。ついでに家賃も値上げしてやる……」

シスコンをバラされるのが一番嫌だったらしくて、快く(?)承諾してくれた。

「直江が帰ってくるのを見計らって、オレにちょっかい出してるふうにしてくんねえ?」
「……やってやるけどよ〜……それって俺が橘センセに殺されるんじゃねえの?」
「大丈夫!ちゃんと庇うから!」

そんなわけで千秋がオレんちに待機。直江が帰ってきたと同時に千秋はソファでオレの頭を抱えてチョップした。
じゃれてるっぽくしてるわけだけど、そのチョップは本気で痛かった。

「うりゃ!参ったか、高耶!降参しろ!」
「やめろってば〜」

そこに入って来た旦那さん。ショックからカバンを落としてドカドカ足音を立てながら乱入だ。

「私の高耶さんに何をする!」
「ちょっとじゃれてただけだって。な?高耶」
「お、おう。遊んでただけだよ」

直江は力任せにオレと千秋を引き剥がしてギュウウっと抱きしめた。

「ちょっとじゃれてるだけには見えなかったぞ!高耶さんは私のものだ!」
「ホントにじゃれてただけだっての。そんなに心配ならずーっと高耶を離さなきゃいいだろが」
「ああ、言われなくてもそうする!」

やった♪直江ってばそんなにオレが大事なのか〜。

「なおえ?」
「はい」
「オレがそばにいないと心配?」
「心配しすぎて胃に穴が開きそうですよ!」

さらにギュウウっとした直江。オレは千秋にブイサインを出して帰ってもらった。
成功!!

 

 

成功したはいいんだけど、なんとオレは新しい危機を発見してしまったのだ。
それは今日の理科の時間。

「来週から研修で2週間いないので、理科の授業は自習になります」

周りからは「やったー!!」って声が聞こえた。だけどオレは違ったんだ。

「そんなあ!!」

だってそしたら山本先生は直江と一緒に研修に行くってことなんだろ?!
この橘先生大好き教師と直江が同じホテルに2週間……直江の貞操の危機じゃんか!!

「なんだよ、仰木!山本先生がいないのがそんなに寂しいのかよ!」

近くの席の男子生徒がオレをからかった。
普段だったら言い返すとこだけど、オレはもうそんな余裕もなくて直江と山本先生がイチャイチャしてるシーンの妄想をするばっかりだ。

そんで休み時間になってからダッシュで直江のいる職員室へ行った。

「た!橘先生!!」
「どうしたんですか、仰木くん」
「ちょっと来て!」

職員室から引っ張り出して、人が少ない廊下へ。

「山本先生も研修なんだって?!」
「ええ。言ってませんでした?」
「知らねえよ、そんなの!なあ、大丈夫なのか?絶対に誘惑されないか?」
「されませんよ。それよりも私がいない間にあなたが誰かに誘惑されそうで……心配です」
「う〜」

泣きそうになったオレを慌てて宥めて、直江は頭を撫でてから職員室に戻った。

そりゃさ、オレだって直江が浮気するなんて思ってないよ。だけど山本先生は直江を諦めてないみたいだし、もしも酔ったところで寝込みを襲われたら直江だって男なんだし……。
オレがモテるのはハッタリだけど、直江は本当にモテるから現実的に浮気は有り得るわけで。
教師の研修制度なんかなくなっちまえ!!

 

 

そんでオレは考えた。ない知恵絞って考えた。週を越えてそりゃもう夜中まで考えた。
で、結論は。

……ソレは裏で話すからまあここはあえてスルーってことで。
いい解決方法だったのは確かだから。

で、出かける朝。日曜日だ。
ダルい体に鞭打って早めに起きて、美味しくて愛情たっぷりの朝食を作った。
旦那さんはそれを食ったら飛行機に乗って九州のとある県の高校と教育委員会に研修に行っちまう。

「早かったんですね。ゆっくり寝てても良かったのに」
「そーはいかねーだろ。旦那さんのお見送りすんだから」

とは言っても駅や飛行場まで行けるわけじゃない。玄関でお見送りだ。
朝っぱらから駅まで行ったら誰に見つかるかわかんねーからな。

旦那さんと熱々具だくさんスープを食べながら、熱々のラブラブタイムを過ごす。
いや〜、昨夜は燃えたな〜。
しばらく離れて暮らすってのと、オレが超甘えたのと、直江が不安だったのとを合わせるとあんなにラブい夜になるとはな。

「さっき洗面所で見ましたけど、あれじゃ浴衣で人前にも出られませんね」
「浴衣姿なんかにならなきゃいいだろ。なったとしても首んトコしっかり閉めてな」
「わかりました」

直江はなんだか嬉しそうに返事をした。嬉しくて当たり前か。
昨夜はあんなに……あ、もうこれ以上は直江から聞いてくれ。

「直江?」
「はい」
「一応毎日電話しろよ?」
「しますよ」
「こまめにメールもな」
「授業中はメール禁止ですからね。休み時間に」
「あと……」
「あとは?」
「山本先生とかエロ女教師に迫られたら、可愛い奥さんが待ってるからって言ってちゃんと断れよ?」
「もちろんです」

朝食を全部食い終わって、旦那さんはネクタイをキッチリ締めてスーツケースを持った。

「では行ってきます」
「ん〜」

長い間のお別れに、長いチューをしてちょっとお尻を触られて。

「高耶さんも。私がいない間は成田くんとご家族以外の人間は入れないでくださいね」
「うん」
「特に千秋はダメですからね」

この前のアレを気にしてるみたいだ。帰ったら本当のことを話そう。今はナイショだ。

「あ、高耶さん」
「どした?」
「二週間分、愛してるって言ってください」
「……バーカ」

だけどオレはちゃんと二週間分の愛してるを言って、ついでに辛子明太子をたくさんお土産に買って来いって言って送りだした。
寂しかったけど、オレも直江も大丈夫。
なんでかって?
そりゃあ……寂しくなったら体中についてる赤いチューの跡を見ればいいんだから。
それに直江がいい提案してくれたしな!

「じゃあ2日に一回……夜、電話しますね」
「……うん」
「楽しみにしててください」
「……うん、先生」

行ったばっかだけど早く帰ってこないかな〜。
直江〜!!!

 

 

END

 

 
   

あとがき

読み終わった方はぜひ
裏も読んでください。
仰木くんと橘先生が
いいことしてますんで。

   
         
       
         
   
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