牡丹燈籠 2 |
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そこにいたのは紛れもなくお船だった。直江との破談が決まって、どこかへ消えてしまった女だ。 「そちらにいらっしゃいますのは、若様ではありませぬか。どうなされたのです?」 渋る高耶を背負い、牡丹燈籠の後を追う。 「どうぞ。こちらにお布団を用意いたしますので、若様はお休みになってください。すぐに温かい粥をお持ちいたします。直江様は座敷にいらしてくださいませ。少々ならお酒もございますので、少し温まれた方がよろしいですよ」 高耶を寝かせた直江はお船の申し出通りに座敷へ行こうとした。 「直江!」 座敷へ行った直江を酒でもてなしたお船である。高耶の元には侍女が粥を持って行った。 「直江様は、もうどなたかを娶られたのですか?」 お船の手が、直江の腿に伸びる。女人特有の甘い匂いがする。ゴクリと喉が鳴った。 「あなたが誰を想っていても、私はあなたをいつも…」 座敷の行灯の明かりが消えた。
直江が夜明け前に高耶を起こしに寝所へ入った。 「高耶さん、帰りましょう」 寝ぼけていた高耶に強く言う。真剣な面持ちで。 「さあ、行きますよ」 名残惜しそうでいて、どこか緊迫した顔をしている直江に疑念を持ちながら、高耶は手を引かれて門を出る。その時、直江の肩から何か靄のようなものが出ているのを見た。寝ぼけたままの眼のせいか。それとも朝靄が直江にかかっていただけか。 「すいません…」 直江に背負われて山道を登り、下り、そしてようやく我が家へ着いた。門の前でお晴と長秀が心配顔で待っていた。 「どうしたのよ!もう心配してたんだから!!」 お晴が急いで寝所に布団を敷く。そこに直江が高耶を寝かせた。 「お晴、悪いが下がってくれ」 高耶の服を脱がす。その行為に自分の汚さを感じた。 「なおえ?」 高耶が着替えるのを目を伏せて待っていると、高耶から声がかかった。 「直江」 そこを見ると、高耶の肢体があらわになっていた。 「昨夜、何かあったんだな?あんなふうに突然帰るなんて。お礼も言わないで帰るなんて」 裸のまま、高耶が直江に抱きついた。 「…どうしたんですか?…」 直江の袴の上から、高耶の手が男根あたりをまさぐる。 「おたわむれはおやめください」 袴の紐を解き、腰を緩めて高耶の手が滑り入り、着物の裾を割る。そして褌の上から男根の形を確かめるように握った。 「高耶さん!」 高耶の手が直江を脱がせ、褌まで取り払ってしまった。 「おまえはオレのものだ。全部。心も、体も、頭も、摩羅もだ。誰であろうが、おまえを自由になんかできない。おまえ自身ですらな」 高耶が猛った男根を咥える。搾り取るように吸い、扱き、舐める。 高耶の褌に手を伸ばす。結び目を緩め、取り払う。高耶の男根もすでに大きく立ち上がっていた。それをゆるりと撫で、腰をなぞって菊門を触る。 菊に指を入れた。 「あう!」 男根から口を外し高耶が叫ぶ。 「申し訳ございません!主人である景虎様にこのようなことを!」 高耶が直江の肩を押し上げて、目を覗き込んだ。鳶色の、美しい目を。 「おまえはじっとしておれ」 直江が果てるまで、高耶は男根を咥えていた。背筋がわななき、ただ男根を晒し、呆けている直江の股間に顔を埋めて。
後悔の念が押し寄せる。高耶から施してきた行為とはいえ、主人に口淫をさせてしまった。 目を逸らし、己の衣と高耶の衣を抱え、立ち上がった。 「すみません!」 高耶を振り返ることもないまま、障子を開け、全裸のままで廊下を走り去る。この姿を長秀やお晴に見られはしないかとの思いが頭を掠めたが、一刻でも早く高耶の寝所から遠ざからねばならぬと急いで走り、自室にこもった。 「なんてことを…」 しかし一度でも高耶の淫猥な行為に触れてしまったからには、その精を抑えることなどできはせぬ。 「高耶さんッ…」 今は彼も己の手で摩羅を弄くっておるのだろうか。あの張り詰めた、腹に付くほど反り上がった摩羅を。 精が泉から果てるまで、直江の手は赤黒く充血した男根を握っていた。
その夜、直江が精も根も尽き果て、疲れ眠っていると障子の向こうから橙色の明かりが近づいてきた。人の気配に目を覚まし、脇差を持って起き上がる。 「誰ぞ、そこにおるのか」 その声は昨夜抱いたお船である。 「お船どの…」 障子を開けると牡丹燈籠に照らされたお船がいた。一人でこの屋敷に入ってきたのだろうか。門の閂をし忘れたのか。 「いかがなされた、このような夜更けに。曲者と間違われても致し方ないのだぞ」 夜更けに庭で話し声がしては誰に見られるかわからない。長秀やお晴なら見逃してもくれようが、景虎であったならばあの気性だ。真剣で斬り殺されるかもしれぬ。 「とにかく、こちらへお入りください。景虎様に見つかりでもしたら大変だ」 お船を寝所に入れ、燈籠から火をもらって行灯の明かりをともす。その直江の背に、お船が抱きついてきた。 「あなた様を、もう一度、味わいとうございます。忘れろと言われても、忘れられませぬ。どうか、直江様。お船の願いを聞き入れてくださいまし。直江様!」 すでにお船の手は直江の寝間着の中に滑り込み、男根を握っている。手弱かな手で、ゆるゆると扱き、オスを育てる。 「駄目です、お船どの」 その手を振り払う。そして向き直り、寝間着を正し、見つめる。 「私にはすでに心に決めている方がいらっしゃるのだ。昨夜のことは間違いであった。そなたには申し訳ないことをしたと猛省して 直江に圧し掛かるようにして、お船が接吻をする。床に倒れた直江の口に舌を入れ、蕩けるような口付けをした。 あの人の菊門に、己の摩羅をぶち込んで、恣、擦って、扱いて、突き上げたら、どうなるだろう。 許されない行為をお船に向かって吐き散らす。 果てる刹那、呟いた。 「高耶さん…」
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つづく |
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