同じ世界で一緒に歩こう


ニンニク禁止


その2

 
   

 

 

まだ夕飯を食べていないと言った高耶さんのために、遠回りして白山駅のそばのスパゲティの店に寄った。
前々から噂に聞いていたが、行ったことはなかった。高耶さんの家からはそう遠くない場所なので何度か来ていたそうだ。
昼時にはいつも行列で、夕飯時も同じらしいが、今は時間帯が少し遅いようで空いていた。

「バナナジュースとタラコスパゲティにしようかな。直江は?」
「そうですね…たくさんあって迷いますね。ぺペロンチーノか、アラビアータか…」
「それってニンニク?」
「ええ、入ってますよ」
「ニンニクは駄目」
「どうしてですか?」
「臭いから。チューするとき」

吸っていたタバコで思わずむせてしまった。
高耶さんがこんな場所でそんな事を言い出すなんて!

「オッサンみたいな咳すんなよ。おまえもタラコスパにしとけ」
「は…はい」

注文の品が来て驚いた。
どれもこれも量が多い。バナナジュースしかり、アイスコーヒーしかり、スパゲティしかり。

「ここって値段のわりに量が多いからさ、たまに譲と一緒に来るんだよ。バナナジュースがうまいって近所のオバサンの娘さんに教えてもらったんだ」
「そ、そうですか…」

食べてみたら美味かった。タラコスパゲティは若者が好きになりそうな味で、レモンとマヨネーズが効いている。だがしつこくなくて飽きない。
正面で嬉しそうに食べる高耶さんを見ていても飽きなかった。





どうやら譲という親友さんは金持ちのお坊ちゃまらしい。高耶さんが譲さんに貰ったというシャツはエディ・バウアーだった。
高耶さんが風呂に入っている間にコッソリ見てしまった。
決してやましい理由ではない。彼がパジャマを用意する前に風呂に入ってしまったから持っていったまでで、決して脱いだ服に頬ずりしたかったとかではない!

取り乱したな…服の話に戻そう。
エディはそんなに高価な店ではないが、それを似合わなかったからといってポンと高耶さんにあげてしまうところを見ると太っ腹な性格の上に、たくさん服を持っているに違いない。

風呂から上がった高耶さんは脱いだ服をキチンと畳んでいつも使っている客間に持って行った。
先日、高耶さん用に置いていたパジャマを着て、寒いだろうからと渡したフリースを上から羽織っている。自分のだから高耶さんには少し大きかったが、大変可愛らしくて良い。

「こっちへいらっしゃい」
「ん?」

ソファに座らせて、タオルでまだ濡れた髪を拭いた。

「いつもどうしてちゃんと髪を拭かないんです。雫が残ってますよ」
「だって面倒なんだもん。すぐ乾くからいいんだよ」
「風邪を引きます」
「そーだよなー。でもさー、拭いてくれるヤツがいると楽でいいな」
「毎日、やりましょうか?」
「毎日、髪を拭くだけでオレんち来るのか?」
「それもいいですね」
「アホか」

タオルを外して高耶さんは立ち上がった。

「もう寝ないと寝坊しそうだな。直江?」
「ええ、じゃあ、おやすみなさい」
「そーじゃなくて」
「はい?」
「…おまえはさ、いいのか?」
「何がですか?」
「千秋が…直江だってそーゆーことしたいんじゃないかって…言うから」

ああ、来たか。
そんなに怯えたような顔をしながら言われたらどう返していいものか考えるじゃないですか。

「高耶さんがイヤならしませんよ。平気です。さっきたくさんキスしてくれましたし」
「本当に?」
「ええ。そんなことを気にする必要はありません。あなたがそばにいてくれれば、私はそれでいいんです」

これは正直な気持ちだ。したくないと言えば嘘になるが、だからって高耶さんが無理をするならしなくていい。
怖いなら、一生できなくてもかまわない。

「そっか。なんか、オレ、バカみたいだったな。そんなの気にして、直江といるのが怖くなって会わないでいたなんてさ。まだ男同士で付き合ってる覚悟ができてなくって、どうするのかを千秋に聞いたら怖くて…直江はいつも優しいのにさ」
「あなたのためなら何でもしますし、何でもガマンできますよ。考えないでいいんです。自然にそうなれば一番だと思いませんか?」
「かもな。やっぱそうなったら怖いとは思うけど、直江がオレにひどいことしないのはわかった」
「いつも大事にしますから」
「うん」

ようやく気がかりを告白できて安心したのか大きな欠伸をした。

「私は戸締りを確認してから寝ますから、どうぞお先にお休みになっていてください」
「直江、あの、えーとさ」
「はい?」
「なんもしなくていいなら、一緒に寝たいんだけど」

……………はあ?

「あ、駄目、か。いいや。じゃあ、おやすみ」

明らかにしょんぼりしていた。
ああ、そうだったな。今日は高耶さんをだいぶ驚かせてしまったんだった。
それに泣かせてしまった。

「高耶さん」
「なんだよ」
「…待ってください。高耶さんさえ大丈夫なら一緒に寝ますか?もちろん何もしませんよ」
「ホントにいいのか?」

それはこっちのセリフですってば。

「ええ。あなたがそんな顔をしているのに一人で寂しく寝かせるわけにいきませんよ」
「どんな顔してた?!」
「泣きそうでした」
「うーん…そうかも」

今日の高耶さんはいつもと違って素直で甘えん坊で可愛い。それもこれも俺が泣かせたからか。

「じゃあ、一緒に戸締り確認しよう。な?」
「はい」

家の中で手を繋いで歩いた。玄関、リビング、洗面所、風呂場、書斎、客室、和室。
そして最後に寝室。
ベッドの上の羽根布団を上げて、高耶さんが入りやすいようにした。そうすると子供のように上がって入って、俺の手を引い
た。
自分も入ってから羽根布団を二人にかける。

「なんかさ、小さい頃にオヤジと一緒に寝た時みたいだ」
「お父さん、ですか…」
「いや!直江はオヤジじゃないけど!でも、なんとなくそんな気がしたんだ」

高耶さんは小学生のころから誰かの愛情を欲しがっていた。
妹の美弥さんのような『頼られる愛情』ではなく、『守られる愛情』が欲しかったんだと思う。
複雑な高耶さんの経験は、私には到底思いつかないが、もし今、高耶さんがそんな愛情を私から受けていると感じてくれるのならそれでいい。

「もっと寄れよ」
「ですが、それじゃ狭くて眠れないんじゃないですか?」
「いいんだ。寒いから湯たんぽ代わりにする」
「湯たんぽですか。なんだか懐かしい響きですね。小さい頃は祖母が毎晩私に作ってくれました」
「オレはお袋が作ってくれた」
「高耶さんもあったかくて湯たんぽみたいですよ?」
「じゃあオアイコだ。寝るぞ」
「おやすみなさい」
「うん、おやすみ」

どう表現したらいいのか。
今までは女が隣りに寝れば手を出さないなんてことはなかった。
でも今日はそういう気分もなれない。
ただ高耶さんがここにいるだけで、満たされて、安心して、ぐっすり眠れそうだ。
もしこれで、そういう関係になったらどうなるんだろうか。
考えたら怖くなってしまった。高耶さんに飽きることはないだろうが、こんな安らぎは二度と来ないのかもしれない。

「直江、もう寝た?」
「いえ、まだ。でも眠くなってますよ」
「あのさ、おやすみのチューしていい?」
「え?あ、はい」

キスは高耶さんからしてくれた。

「もうちょっとしたら、覚悟も出来るから待ってろよ?」
「無理しなくていいですから」
「そうそう。自然にだろ?たぶん自然にそうゆう気持ちになるから」

おやすみなさい。

 

END

 

 

あとがき

イマイチすっきりしない終わり方ですが、ここは基本的に
乙女&ギャグサイトですから。
直江は大人ですから余裕があります。
高耶さんはどんどん甘ったれになります。


   
         
   


   
   

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