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げいのかっぷる


その2

 
   

 

 

あれからオレはアルバイトを探しているが、全然ない。
時給はそんなに良くなくてもかまわないんだけど、できれば勉強に活かせるような所がいい。でも洋服屋だと時間が合わないところばっかりで困る。条件が合ったと思うと接客ばっかだ。

なんだか心細くなってきて、直江に会いたいなって思うんだけど、直江は今、雑誌の仕事であったかい沖縄に行っている。
日焼けしてたら面白いんだけどなー。直江は色素が薄いから日焼けしたら赤くなるのかな。そしたら突っついてやろう。
ああ、また会いたくなってきた!

「なおえー!」

アパートで喚いていたらメールが来た。直江からかと思いきや、千秋だった。

『今ってヒマ?退屈だからどっか遊びに行かねえ?』

今って、もう夜10時だぞ。まあ今日は金曜だから大丈夫だけどさ。それにちょっとパーっと遊びたいのも確かだ。

『ヒマ。どっか行きたい』

そしたら電話がかかってきた。

『おまえノリいいなー!じゃあさ、今から迎えに行ってやっから飲みにでも行くか!』
「わかった。待ってるから早く来いよ」
『いちおー、オシャレして来いよな。夜遊びなんだからさ』
「うん」
『おまえんちの近所に着いたら電話するから、わかるとこまで出てきてくれや』
「ああ、根津駅の赤札堂のとこから電話してくれ。じゃああとで」

オシャレねえ…そんなの持ってないなあ。
いつものジーンズに譲がくれたTシャツ、その上に白に水色のラインが入った皮ジャンを着た。スニーカーはもったいなくて履いてないニューバランスのMT580。色はオレンジ。
こんなもんかな。

千秋から電話が来て、赤札堂の前に行くと、相変わらず派手な男が立っていた。

「よう!なあ、どこ行く?クラブに踊りに行くか?俺様の顔でタダで入れるとこあるからさ〜」
「どこでもいいぜ」
「じゃあ、三宿だな」

“みしゅく”ってどこだろう?
とりあえずタクシーを拾って渋谷を通過、三宿に着いた。
交差点のすぐそばにクラブがあって、そこだそうだ。閑静な街並みの中に、たまに深夜でもやってる店があって大人の町って感じだった。

「ここ、ここー。ダチがDJやってる日なんだよな」
「ふーん」

クラブなんて初めてだ。それにしてもゴミゴミしてるとこだなー。めまいがする…。音はでかいし。

「バーテンも知り合いだからタダで飲めるぞ。何がいい?」
「わかんねーからビールでいいや」
「じゃ、おまえも来い。紹介してやっからさ。そしたらおまえも今日はタダで酒出してもらえるから」

なんか、何でもタダになるって、モデルってのは得できんだなー。
紹介されて笑顔で挨拶されてしまった。千秋が「こいつ愛想ないけどいいヤツだから」とかテキトーなこと言ってフォローしてた。ビールをもらうとダンスフロアから離れたボックス席みたいなとこで飲み始めた。

「クラブって初めてだ」
「そうなんか。今時珍しいヤツだな。ま、付き合ってるのがあのオッサンじゃ当たり前か」
「オッサンねえ…確かにそうだよなー。直江とだったらこんなとこ来ないしな」
「デートってしてるわけ?」
「まあ、少しは。デートってよりも観光案内に近い。でもここ最近は出かけてない」
「あのエスコート好きの直江が?」
「うん。出かけたくないみたいでさ。なんでかな?」

千秋は少し考えていた。直江との付き合いが長いのは千秋だから何かわかるかな?

「そりゃあれだ。おまえも直江も男だろ?友達には見えねえし、だからって家族にも見えねえ。それを気にしてるんじゃないか?あいつはあれで視線に敏感だからな。ジロジロとおまえを見られるのがイヤなんじゃねーかな」
「なんで?」
「ゲイのカップルだって」

げ、げいのかっぷる???

「王子様を守るナイト役のつもりなんだろうよ。古臭えよな。今時ゲイなんざ珍しくも…高耶?」
「そう見えるのか?!」
「見えるのかって…うーん、まあ、そりゃ俺が知ってるからってだけで」
「じゃあ、この状態は?!おまえとオレだったら?!」
「友達、じゃねーのかなー?」

がーん。直江とだったらカップルにしか見えないってことじゃんか!

「あんまり気にすんなよ。な?いいじゃねーか、好きならそれでさ。悪いことしてるわけじゃねーし」
「でも…」

ウジウジしながら飲んでたらいつの間にか酔っ払ってしまった。千秋はしばらくは慰めてくれたけど、とうとう呆れてナンパしにフラフラ歩いてる。
モデルの長秀だってわかると周りに女の子が何人かいるハーレムになった。さすがだ。
憂さ晴らしにオレもダンスフロアへ行ったら女の子に声をかけられた。美弥みたいなタイプでキャーキャーと笑うから、オレも一緒になって笑っていた。
しばらく遊んで疲れたから、出口のそばの床に座ってビールをもらって飲んだ。

座ったとたんに眠くなってきて、女の子に寄りかかるようにしていたら千秋がすっ飛んできた。

「帰ろうぜ、高耶!」
「えー?なんでー?まだいいじゃん」
「いいから帰るぞ!」

わけもわからず腕を引かれて外に出た。せっかく楽しくなってきたのにー!

「なんだよ、急に〜」
「おまえな、あんな姿を直江に見られたらどうすんだ?俺が殺されるんだぞ!」
「なんで?別に何もしてないし」
「してなくてもだ!俺はここからおまえを届けに千石に行って帰る。わかったな?!」
「千石?オレは根津だけど」
「直江が帰ってきてるんだよ!さっきメールが来たんだ。高耶さんと連絡が取れないってな。電話したら俺が連れ回してるっつってすっげー怒ってるんだよ。だから帰る!な?!」

直江が帰ってきてる…

「おまえの携帯にもメールしたり電話したりしてたらしいぞ。あの大音量で気付かなかったんだよ」

そっか。バイブレーションにするの忘れてた。
直江が帰ってきてるって思ったら急に会いたくてたまらなくなった。

「なおえー!」
「ほら!叫んでないでタクシー乗るぞ!」
「ちあきぃ…」
「んだよ」
「やっぱオレ、直江が好きだ。ゲイのカップルって思われても直江がいい」
「ああ、そうかよ。帰ってそう言ってやんな。この酔っ払い!」

タクシーの中で千秋に寄りかかって寝ていた。着いたぞってゆう千秋の声で目が覚めたら、直江がオレの腕を引いてタクシーから出してくれた。千秋に「なんで高耶さんを寄りかからせてるんだ」って怒りながら。

千秋の家は直江んちから車で10分ぐらいの池袋にあるそうだ。
運転手に行き先を告げるとオレに手を振ってこう言った。

「さっきの、直江に言ってやれよ」

なんだっけ?さっきのって。
フラフラになって直江に支えられてエレベーターに乗った。
直江は怒ってるみたいだ。酔っ払ったから?女の子とベタベタしたから?千秋に寄りかかって寝てたから?

「なおえ?」
「まったくあなたはどうして長秀なんかの誘いに乗るんですか」

千秋と出かけたから怒ってるのか?

「あいつが遊ぶといえば女の子目当てに決まってるんです。それをのこのこと…浮気がしたかったんですか?それとも酔っ払いたかったんですか?」
「浮気なんかしないもん」
「じゃあ酔ってみっともなく長秀に支えられたかったんですか?」
「違うもん」
「ではどうし…」
「直江がいなくてつまんなかったんだ!」

キレた。
ネチネチと嫌味を言う直江は気に入らないが、オレが寂しかったのをわかってくれない直江はもっと気に入らない。

「そんなこと言うならもう直江なんか知らねー!帰る!」

エレベーターの中で暴れた。暴れても酔ってるし、直江に抱えられてるからもがく程度だけど。

「高耶さん!そんなに暴れないでください!エレベーターが止まりますよ!閉じ込められたらどうするんですか!」
「だって〜!」
「私が悪かったですから。すいません。変なことを言いました」
「もう帰る〜」
「帰らないでください。ほら、着きましたよ。部屋の中は暖かいですから、すぐに寝ましょうね」
「やだ〜」
「高耶さん…」

玄関に入ったはいいものの、オレはそこから動けなくなってしまった。酔いと、直江が言った嫌味のせいで体中が寂しいと叫んでいるから。

「座り込んだら冷えますから。高耶さん。いい子だから立ってくださいよ」
「いい子って何だよ〜」
「…いい加減にしてくださいね。ほら、立って」
「やだ」

ふん、と横を向いたら抱き上げられてリビングに連れて行かれた。
オレはそれがなんだか心地よくて暴れるのも忘れて直江の横顔を見ていた。

「なおえ?」
「はい」
「直江が好きだよ。ゲイのカップルって思われても直江がいいんだ。だからずっと一緒にいる」
「高耶さん…」

ソファに寝かされて、髪を撫でてもらっていた。
チューしたくなって腕を伸ばして直江の頭を抱えるとちゃんとリードするように降りてきてくれた。

「お酒臭いですね」
「イヤだったらするな」
「します。何度でも、高耶さんがしたくなくなってもしますよ。愛しています」
「オレも。愛してるぞ、直江」

ビックリしたように目を大きく開けた直江が勢いをつけてキスしてきた。
いつものじゃなくて、口の中に舌が入ってくるやつだ。
流れにまかせて直江とそんなキスをしてた。そしたらマズイ雰囲気になりそうになって、唇を離して直江を押しのけた。

「あ、すいません」
「今度、酔ってないときに、な」
「…はい」

直江としたい。チューも、エッチも、直江とならしたい。
今日は眠くて駄目だけど、今度は。

「なおえぇ」
「甘えん坊さんですね。ここじゃ一緒には眠れませんよ?私の寝室で寝ますか?」
「うん」

直江と一緒に寝るのは癖になる。もうオレ、直江ナシじゃ生きていけないや。





ゲイのカップルでもいいから、俺と一緒にいたいと高耶さんは言った。
確かに言った。
が。

「あんまし寄んなよ。ゲイだと思われっだろ」

高耶さんのリクエストで今日はお台場に観光だ。踊る●捜査線のグッズを買い、ショッピングモールのデッキでいい雰囲気なランチを取って、海岸を歩いて。
だけど笑いかけたり、並んで歩こうとするとこう言われた。
ゲイのカップルだって思われてもいいと言ったじゃありませんか!
先日の発言は嘘だったのか。

「おととい、あなたが何を言ったか覚えてないんですか?」
「まるっきり覚えてねえ。なんで直江んちにいたのかも、なんで直江がおととい帰って来てたのかも覚えてねえな」
「そんな…」

あれは何だったのだ?!

「なんで帰ってきてたんだ?」
「あなたに会いたい一心で飛行機のキャンセル待ちをして帰ってきたんです」
「ご苦労さんだな。で、なんの撮影だったんだ?」
「春夏コレクションパンフです。ショーの際に来場者に配るんですよ」
「そうゆうショーって、やっぱ関係者とかじゃないと入れないんだろ?いいなあ」
「事務所に届く招待状を貰っておきますよ。高耶さんも見に来てください」
「マジで?!」
「ええ、お友達といらっしゃい。末席を二人分しか用意できないと思いますが、それで良ければ」
「やったー!」

たぶん、これは高耶さんが見る最初の俺のステージになるだろう。いい所を見せなければ!
自然に気合が入るものだな。

「今日はこれからどうします?夕飯を食べて帰ってもいいですし、もう少し遊んでもいいですね。高耶さんのしたいようにしてください」
「じゃあ、観覧車」

お台場には大きな観覧車がある。横浜よりも大きくて雰囲気もいい。

「観覧車が好きなんですか?」
「だって、直江との初めてのデートが観覧車だろ?だから」

思わず鼻の下が伸びてしまうような発言をされて、俺は慌てて顔を抑えた。こんな顔をした時に何度か高耶さんに注意されてしまったことがあったのだ。鏡で見てみろ、と言われて一回見たが、とんでもなくだらしない顔だった。

「暗くなってからな?」
「夕焼けじゃなくていいんですか?」
「今日は夜」

なぜ高耶さんがそう言い出したのかは、観覧車に乗ってからわかった。
東京タワーが窓の外に大きく見える夜景を眺めていたら、向かいに座った高耶さんが隣りに移動してきた。
さっきまでカップルだと思われるからくっつくな、と言っていたくせに。このために夜に乗りたいと言ったのだろうか。

「手、つないで」
「はい」

甘えたがるのはいつものことだが、今はいつにも増して子供っぽい。

「もうすぐだな」

前後を見て、今だとばかりにキスされた。しかも、ちょっと長めのキスだった。

「…てっぺんだったから」

てっぺん?ああ、観覧車の頂点か。

「てっぺんだったら周りから見えないだろ?いつも家でしかチューできないからたまには…」
「高耶さん…!」
「本当はゲイのカップルって見られてもいいんだけどさ、やっぱな、世間的にはナシだろ。こんなことしかできなくてごめんな」
「いえ、いいんです!高耶さんがそう思ってくれてるだけで!」
「これ降りたら帰ろうな。今日も直江んちに泊まるからたくさんチューしてくれよ」
「はい!」

俺は幸せ者だ!こんなに可愛い高耶さんに愛されているなんて!!

観覧車を降りてすぐに駐車場へ向かった。なんとなく高耶さんもソワソワしているようで、急ぎ足になっている。
車に乗り込んで周りに誰もいないのを確認してから短いキスをした。
無言で首都高速に乗り、竹橋インターで降りて白山通りを走る。ずっと無言だった高耶さんが声を出したのは後楽園遊園地だった。

「今度はコレに乗ろうな?」

それは後楽園遊園地(今は名前が変わって東京ドームアトラクションズというらしい)に新しく出来た軸がない観覧車。

「ええ、また乗りましょう」

マンションに着くと、高耶さんも俺も待ちきれないとばかりに玄関でキスをして、その場で抱きしめた。

「愛しています。ずっと、俺を愛してください」
「うん。ずっとだ」
「高耶さんも言ってくれますか?」
「おととい言ったぞ」
「忘れてたんじゃないんですか?」
「そこだけ覚えてたんだ」
「酒が入ってない今、言って欲しいんです」
「愛してるよ、直江。ずっとな」

俺は世界一の幸せ者だ。


あれから直江はまた観光地やオシャレスポットに連れていってくれるようになった。
いつもオレと少しだけ距離をとりながら、カップルに見られないよう努力をしてるみたいだ。
でもその後、オレのアパートに寄ったり、直江のマンションに寄ったら必ずキスされる。しかもオレが愛してるって言わないと帰らないし、帰らせてくれない。
言ったら気持ちが減るような気がして今まで言えなかったんだけど、一回言ってしまうともっと直江を好きになっていくような気がする。
でも、日本男児がそんなんじゃ良くない。
だからこれからは言わないようにしよう。

なるべく、だけど。

 

END

 

 

あとがき

ようやく高耶さんも直江に素直に愛してると言えました。
良かったね、直江…(泣)
ここの高耶さんは妙に子供なので
直江はこれからも苦労しそうです。

乙女な高耶さんなので今回は
エッチはしてませんが
これからもお付き合いくださいませ。


   
         
   


   
   

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