同じ世界で一緒に歩こう 7
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高耶の冬休みのある日。 高耶はまだ新しいアルバイトを見つけていない。この際、えり好みせずにコンビニでもいいのだが直江がどうしても許してくれない。 「アルバイト、見つけなくてはなりませんね」 希望のバイト先にいくつか面接はしてみたが、毎回敢え無く失敗している。 「どんな所がいいんです?本当に紹介しますよ?」 高耶と過ごす時間が減るからとは口が裂けても言えなかったが、本気で高耶がアパートから追い出されるとなったら話は別。 「私の事務所です。社員の女性が急に辞めてしまったので、その代役を見つかるまでの間、探してたんです」 千秋の〜?! 「だから言わなかったんですよ。どうしますか?背に腹は変えられないなら紹介しますけど」 8万円もあれば光熱費を払ってもまだ余裕がある。長期のバイトを見つけるまでにどうにかなるだろう。 「ラッキー」 イヤなわけではないが、もし自分たちの関係を千秋以外の人間が知ってたら、と思うと怖い。 「どうします?私の付き人だと時給は200円上がりますって。募集が殺到する前に決めてくれと言ってますけど」 受話器を保留にしたままで直江が急かす。 「わかった!やる!」 そうしないと関係を探られそうで直江も面倒だったのだ。 「直江の明日のスケジュールって?」 一応、面接を形だけでもやるそうなので、午前中は打ち合わせの前に行かなくてはならない。 「じゃあ泊まって行きますか?」 「高耶さん?客間で何をしてるんですか?」 直江が風呂に入っている間に、客間に布団を敷いていた。今日はここで寝るらしい。 「うん。明日から働くならさ、直江と一緒じゃない方がいいかな、と思って。仕事とプライベートを一緒にしないように練習」 高耶が強情なことを知っている直江はすぐに諦めて、その夜は別々の部屋に寝た。 しかし深夜、別の部屋に入って2時間も経たないころ、直江の寝室のドアがそっと開いた。 「直江?」 物音で目が覚めてドアを見てみると、高耶が枕を抱えて立っていた。 「どうしたんですか?何かありましたか?」 羽布団をめくって高耶を入れてやった。直江の体温で温まっていたベッドの中はポカポカして気持ちいいらしく、高耶はすぐに目を閉じた。 「寂しくなった?」 体を丸くしている高耶の髪にキスをしてから、直江も布団に入り直した。 「チューは?」 ふくよかな唇に軽くキスをして、直江も目を閉じた。 六本木の一角にある事務所に入って一番先に高耶を見つけたのは千秋だった。今日は付き人との初顔合わせらしい。 「今日から学校が始まるまで俺の付き人をやることになったんだ」 千秋から守るようにして直江が高耶を背中に庇う。 「へー、そりゃ旦那も嬉しいこったな。ま、ヘマしねーよーにしろよ」 千秋の意外な言葉を聞いてしまったようだ。ああ見えて案外、仕事には情熱を持って接しているらしい。 「長秀はこの事務所の中でも一番厳しいんですよ。甘えた行動を取るスタッフはすぐにクビにしてしまうんです。ですがそれも長秀が一生懸命やってるってことですから、気にしないでくださいね」 直江と千秋の会話について行くのがウザいと思っていた高耶の背後から若い女の声がした。 「長秀〜?!どこにいるの〜?!」 ちょっと怒っているような感じだ。 「ああ、いたいた!すぐに来なさいって言ったでしょ!顔合わせしてちょうだい!」 モデルの人かな?と高耶が思ったほどの美人が目の前に立った。フワフワした髪をうるさそうにかき上げて千秋に詰め寄る。 「わりぃ、わりぃ。すぐ行くって」 綾子は見た目と違ってハキハキしていて頼りがいのある女性らしい。高耶が心配するような女性ではなさそうだった。 「では高耶さん、サブに会ってください。こちらです。サブは男性で、高耶さんとも年齢が近いですから、かしこまることもないですからね」 応接室と言っても木製のパーティションで仕切っただけのスペースだった。直江の所属事務所なだけにインテリアは洗練されていて、そのスペースも開放的で雰囲気が良い。白を基調にしていて、外の光が入ってくるとまるで屋外のような気分になる事務所は高耶も好きになっていた。 「一蔵、いるか?」 直江はその場で去ってしまったが、一蔵と呼ばれたサブマネージャーは特に気負うこともなく高耶に話しかけた。 「よろしく。一蔵って呼んでくれていいから。仰木くんって、タチバナさんの従兄弟なのか。似てないな」 フレンドリーな一蔵に好感を覚えた高耶は安心してにっこりと笑った。 「んじゃ、説明すっからな。今日から仰木くんがやる仕事は、俺がいつもやってることなんだけど…」 一蔵の説明を30分ばかり聞いた高耶は直江の人気に呆気に取られた。 「前はさ、タチバナさんも名刺とか電話番号とかけっこう受け取ってたんだけど、先々月かなあ。いきなり全部断れって言われて、それからは断るようになったんだ。本命の彼女でも出来たんじゃないかって噂だよ。従兄弟なら知ってるんじゃない?」 オレのことだ… 「いや、知らない。あんまそうゆうこと話さないし」 て、ことにしておこう。 「じゃあ、そろろろカタログの打ち合わせに行く時間だから。基本的にうちのモデルってショーは付き添いナシで出かけるんだけど、今日は打ち合わせもあるから一緒に行って。まー、長秀の場合は半分タレントみたいな仕事してるからショーでもマネージャー付けたりしてるけどさ」 ファイルが入ったカバンとプリントアウトされた地図を渡され、直江の座っている大きなテーブルに行った。 「何見てんだ?」 覗き込んで見るとプリントされた写真とは違う鮮明な画像が見えた。被写体を下から撮ったもので、青空の下にコートをたなびかせた直江がいた。 「これは広告に使う写真です。今から行くモトハルの宣伝用で、駅の掲示板や雑誌に出ますよ」 モトハル、と聞いて高耶が顔を上げた。 「そうだ!もう行かなくちゃ!間に合わねーぞ!」 高耶の運転も乗ってみたいが、普段から乗り慣れていない人間の運転は信用できない。それを言えば烈火のごとく怒るのが目に見えているので黙っておく。 「行くぞ!」
つづく
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やっと綾子ねーさんを出せました。 |
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